友達ゼロに妖精ドーン!
一体、どこで間違ったんだろう。
気づけば僕――あきらには、友達が一人もいなかった。
中学二年生。昼休みはいつも一人で弁当を食べ、放課後は家でゲーム三昧。
クラスの輪の中に入る勇気もなく、話しかけてくれる人もいない。
唯一の相棒は、オンラインの仲間たち……のはずだった。
けどその夜、僕の人生は、湿度と共に爆上がりする。
――ジト……。
目を覚ますと、部屋の空気が、まるで梅雨の洗濯物みたいに重たかった。
天井がぼんやり白く霞んで見える。扇風機を回しても、ぬるい風が肌にまとわりつく。
「うわ、なんだこれ。除湿器壊れた?」
寝汗びっしょりのシャツを引っ張りながら、僕はベッドから起き上がる。
その瞬間――
「おはよう!」
「うわぁぁあ!?」
目の前に、小さい女の子が浮かんでいた。
身長は30センチくらい。半透明の羽をひらひらさせて、空中にぷかぷか浮いている。
パジャマ姿の僕を見て、ニコッと笑った。
「わたし、湿気! あなたの心から生まれた妖精よ!」
「……寝ぼけてる? もしかして夢?」
「夢じゃないもん! あなたが“笑顔”を忘れたから、わたしが出てきたの!」
「笑顔? いや、知らないしそんなサービス頼んでないけど!?」
僕が布団を掴んで後ずさると、彼女はふわりと僕の頭の上に乗っかった。
「うわっ、冷たい! やめろ、頭に乗るな!」
「だって、宿主の頭は湿りやすいって聞いたもん♪」
なにその迷信。ていうか、宿主って何。
「あなたの中の“人を笑わせたい気持ち”が、50億分の1の確率で形になったの。それが私、湿気!」
「50億分の1って宝くじかよ……」
「そう! あなたは選ばれし笑顔の乾燥地帯!」
「なんだその侮辱的称号!」
僕は頭を抱えた。
やばい。完全に幻覚かもしれない。
でも、湿気(本体)が飛ぶたびに、髪がぺたっと貼りつく。
肌もしっとり。……いや、ベタベタだ。
「なあ、お前のせいで湿度上がってるだろ!」
「うん! 私がいると、心も部屋も潤うの!」
「潤いすぎてカビ生えるわ!」
ツッコむ間に、ピピッと音がした。
リビングから煙が立ちのぼる。
「まさか……!」
僕は慌てて走る。
ゲーム機の電源ランプが、ジジジ……と赤く点滅していた。
「うそだろ!? PSが、ショートしてる!?」
「うわぁ、これが“電化製品の涙”ってやつだね!」
「笑いごとじゃねぇ!」
湿気はぴょこんと肩に乗り、「よしよし」と僕をなぐさめた。
「大丈夫だよ。ゲームより面白いこと、わたしがいっぱい教えてあげる!」
「いや、もう出ていけ! 空気読め!」
「読んでるよ、湿度でね♪」
……ダメだ。
こいつ、空気は読むけど読解はしないタイプだ。
その日以来、僕の部屋には常に曇り空がかかっている。
そして、僕の生活は、笑いと混乱と湿度で満たされていくのだった――。




