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肉塊文明ストラテジー・醜悪な文明の指導者が、英雄を悪と光落ちではなく肉落ちさせて戦う模様  作者: 福郎


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古代の物語

 現代から数百年前。

 始祖的なドワーフは洞窟に住みかなり小柄だったが、地下に建設した都市に住むようになると世代を重ねるごとに長身となり、ついには違う種である人間が思い描く人体の黄金美を誇るようになった。


 その彼らの栄華は世界中央に位置する地下都市を見れば一目瞭然だ。

 美しい石材をふんだんに使った都市は高度な魔法と技術が融合し、日の光が無いのに全体が明るく、散りばめられた金銀財宝が反射している。

 ドワーフの人々は笑顔で満ち足り、言葉通りの黄金時代を築き上げていた。

 ならばあとは下るだけだ。

 更新され続ける技術と幸福の体験は立ち止まることを許さず、更なる高みへの欲求を肥大化させる悪循環を生み出した。


「反対です! 一つ間違えば周囲にどんな影響を与えるか分からない程の魔力を使うべきではありません! しかもこの街全体を利用した魔法陣など、最悪の場合は住人が全滅してしまうでしょう!」


 二十代後半だろうか。随分と美しい女が声を張り上げる。

 美形が多い古代ドワーフの中ですら黄金の如きと称えられた美貌は引き締まり、普段は慈しみの感情を宿している青い瞳は、強固な意志で輝いている。


「ロザリンド殿。もう議会で決まったことだ」


 そんな女、ロザリンドに老年のドワーフが鬱陶しそうな感情を声に乗せる。

 自然と川の管理をしている神殿を率いている立場のロザリンドは、昨今の欲に突き動かされている同族に眉をひそめていたが今回はとびっきりだった。


 最高の宝石で天体を模して魔法陣を描き、神がいる天界への階段を作り上げるなど不遜を極めているし、なにより扱う魔力の大きさが常軌を逸しているのだ。

 もし取り扱いをしくじれば即座に周囲一帯が消し飛び、被害を通り越して壊滅を齎すとなれば、誰だって反対するだろう。

 しかし成功体験しかない古代ドワーフは全能感に身を浸してしまい、理性的なロザリンドが何を言っても種として暴走を続けている。

 それに、助長する存在もいた。


「我が失敗すると?」


 口論の最中に光り輝く男が入ってきた。

 直接自分が美しいと思う造形で体を作ったような美男子は、全身が黄金だった。

 比喩ではない。本当に体、目、髪、果ては内臓までもが金で構成されている男が、定命の存在である筈がない。


「おお、使徒様」


 ロザリンド以外のドワーフが喜びを浮かべる。

 使徒と呼ばれる存在は、神代に起こった星を巡る戦いで死した神の破片から誕生した者達で、偉大なる神を復活させるため活動をしていた。

 しかしロザリンドはこの使徒にかなり懐疑的だった。


「……少なくとも安全策は必要です」

「何をいうかと思えば。偉大なる神から生まれた我は完璧なのだぞ? 失敗をする前提の話など不愉快だ」


 ロザリンドはこの地の神殿の主として使徒にも従う立場だ。

 しかし使徒は傲慢で思慮が浅い上に、目先のことしか考えていないことが多く、本当に神から生まれたのか疑問が付きまとう。

 この都市の記録が刻まれた大岩の石板のかなり上の位置に、使徒について刻まれているためドワーフの多くは信じているものの、ロザリンドを含めた一部は刻み込まれた情報が誤っているのではと思っている程だ。


「それにしても、定命にしては美しく実ったな。我が摘んでやろう」

「この身は神に捧げています」

「ちっ」


 非常に珍しいことが立て続けに起こった。

 使徒が定命のロザリンドに興味を持ったこと。更に彼女がその事実上の命令を断ったこと。

 両方共にドワーフの常識ではあり得ないことだが、自身が神のものと宣言したロザリンドを摘まめば、使徒は自身を神より上だと定義してしまうので、分はロザリンドにあった。


 ただそれはあくまで個人の話だ。


「偉大なる神の御力を授かるチャンスを捨て去るとは愚かな女だ。計画に反対すると言うなら、神殿から外に出すな」

「はっ!」

「お待ちを! 話はまだ⁉」


 神に身を捧げていると言ったロザリンドを殺すと、また自分の存在意義に関わってしまう使徒は、口答えした彼女を遠ざけることにして、意を組んだドワーフの衛兵たちがロザリンドを連行する。


 そしてドワーフたちは神の力で尽きぬ黄金と繁栄することを夢見て、自らで破滅の引き金を作り上げてしまったが、魔法陣自体は完璧でこの点のみ述べるならロザリンドの心配は杞憂だった。

 間違っていたのは前提だった。


「おかしいぞ……なぜ神々への道が開けない?」

「何度調べても間違いなどない……そっちの意見は?」

「同じだ。魔法陣の構成に欠陥も途切れもない」


 神を目覚めさせるため集った多くの使徒が首を傾げるのも無理はない。

 重ねて述べるが、大層なことを言うだけある使徒の準備は完璧なのに、なぜか神が眠る場所への通路を開けられず、困惑だけが広まっていく。


「魔力の量が足りないのか?」

「いや、計算上は十分の筈だが……むう……足りていないのか?」

「少しなら上げられる」

「宝石に予備があるのか?」

「道具を持っている女がいる。それと魔力の多いドワーフを利用すれば多少は足しになる筈だ」

「なら試して様子を見て見よう」


 疑問が溢れ続ける中、ロザリンドと口論した使徒が仲間に提案すると、地下都市の深部にある神殿に向かう。

 使徒が言う道具とは、定命の者の間では神器と呼ばれるもので、特別な才能を持つ者が神の威光を僅かながら受信できる装置を生み出せた。

 そしてロザリンドの神器は水瓶なのだが、使徒の目的は持ち主にある。


「使徒様、これはいったい?」

「どうされたのです?」


 急遽集められた男女五百人のドワーフが、巨大な神殿の中で困惑の表情を浮かべても使徒は気にしない。

 今現在始動している計画はこの使徒が中心的役割を担っていたため失敗は許されず、必要ならなんでも使い潰すつもりだった。


「なにがあったのですか?」


 訝しんでいる反抗的なロザリンドも、この時のために殺してなかったと思えば可愛いものだ。

 尤も男女を別々にしようとした辺りに、ロザリンドの清らかな体への未練を感じさせるが。


「っ⁉」


 使徒がパチリと指を鳴らした途端に一瞬で、集められた魔力の高いドワーフが一塊の肉塊になり果て、地表で展開されている魔法陣へ魔力を送る装置と化す。


「とりあえずこれで様子見だな……」


 ブツブツと呟く使徒は道具への愛着など見せず地表へ戻り、計画がどうなっているかを確認する必要があった。


「どうだ?」

「魔力は確かに送られている筈なのだが……」

「本当におかしい。どうしてこれで上手くいかない?」


 困り果てている使徒たちに不幸があるとすれば、彼らが神代や神を直接知らず、ふわりとした概念を参考にしたことだ。

 あらゆる宇宙を統べ、神同士で争わず、悠久の時を生きるに相応しいおおらかさを持ち、自分達使徒を愛してくれる……そんな偉大なる存在を夢見ている。


 まさしく定命の者が使徒に抱く幻想と全く同じ。

 もし神がいれば、ふけや垢の如き使徒に愛してくれと言われて唖然としただろう。


「なんだ?」


 それは使徒、ドワーフ問わず多くの者達にとって最後の言葉となった。

 慈悲深い神という、送る先が存在しなかった魔力が逆流して炸裂。付近一帯を広範囲に汚染し、爆心地にいたドワーフは高純度の魔力に耐えられず息絶え、不変だったはずの使徒すら核に甚大なダメージを受けて物質界から霧散する。

 なにかの陰謀があった訳ではない。悪意があった訳でもない。

 ただ、神に対する解釈の間違いによって最も栄えていたドワーフの都市が壊滅してしまったのだ。


 生き残っていたのは地下深く。使徒の術……呪いによって死ねない魔力タンクと化していたロザリンドたちだけだったが、こちらも無事とは言い難い。


(これはいったい⁉)


 天体を模した魔法陣に接続されたロザリンドたちは意識を保ったまま、なにかの間違いで星の記憶に接続されてしまった。

 見たこともない光景がロザリンドの脳に浮かぶ。


『造形に失敗したな。大陸の形が思ったよりも整っていない』

『山も不格好だ』

『これは一度、洗い流した方がいい』

『いや、洗い流すより、星々も上手くいかなかったから根本からやり直したい』

『ならば始まりの火で一度焼き尽くそう』

『そうだな』


 太古の神々が星を見下ろし……もしくは見下しながら語る。

 既に人やドワーフの原型となる種がいても神々は気にも留めず、失敗した庭造りをやり直すような気軽さで、あらゆる命を根絶しようとしていた。


 場面が変わる。

 全てをやり直す始まりの火は膨れ上がり、もうそろそろ近辺の星々が焼却されてしまうだろう。

 それを邪魔する者がいた。


『もうこの星は沢山の命が溢れているんですよ。どうかそっとしてあげてくれませんか? 』


 悍ましい醜悪な存在が周囲一帯を纏めて掃除しようとする神に訴える。


 神々は本当に、心の底から理解できなかった。

 川と花壇の手入れをしようとしているだけなのに、岩の隙間にいる虫けらに配慮しろと言われても困るのだ。

 自分たちを偉大なる者と称えようが気に入らなければ根絶やしにするし、洪水を起こして更地にするのになんの感慨も湧かない。

 そもそも、至高なるこの地の神に他所の神格が意見するなど、許される筈がない。

 ついには這い蹲って懇願する醜悪な存在を蹴飛ばした神々だが、決定的な亀裂が生まれた。


『準備が完了次第、火を灯して星々を消しなさい』


 最高神。偉大なるアーリーが柔和な微笑みを浮かべたまま星々の抹消を明確にしたのだ。


『ふー……よし、やろう。醜悪王の名をもって、この地の神へ宣戦を布告する』


 それと同時に醜悪なる王が神々に宣戦を布告。


 庭の手入れをしようとした神と、星と命を守るために外から飛来した害獣が激突し、目的を達成した害獣の勝利で集結した。


 ロザリンドたちは太古の神の欺瞞を知った。

 なにが悪神から星を守って眠りについた至高なる神。これでは全くの逆ではないか。


 そして星と繋がっていた彼女たちは、星が匿った醜悪王の記憶にも繋がる。


『全艦前進!』


 有機物で構成された大船団を率いて戦った戦神の記憶だ。


 全ての生命体を破壊するために宇宙を進撃する機械と殺し合った。

 意思なき虚無の破壊エネルギーの群れを粉砕した。

 ゲラゲラけらけらと笑い踊りながら命を弄んだ菌糸の神を撲殺した。

 ただ貪ることしか出来ない貪食の化身を踏み潰した。

 時には兄弟姉妹と協力して世界の滅びを食い止めた。


 燃え盛る土地で。永久凍土で。暗黒の淵で。

 無垢なる者を庇い。罪なき者を背負い。

 戦って戦って戦い続けた。


 救われぬ者のために。

 掬われぬ者のために。


 戦神として。そして平和の神として信者たちの声に応え続け、今現在はほぼ死に体で星に眠っている男の物語。


 だがそれも終わる。

 接続が途切れたことによってロザリンドたちは長い眠りに陥り……目覚めた時は全てが一変していた。


「あ、あ、アアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! 川が、大地が毒に! アアアアア゛ア゛ア゛!」


 目覚めた途端、ロザリンドに流れてくるのは大地の悲哀だった。

 鉱毒を垂れ流し、山を丸ごと伐採し、鉄と火で世界を焼こうとしている同胞。今現在のドワーフの行いが、神器を通して流れ込んでくる。

 そして邪なる神と神器が交信してしまい、ロザリンドの魂を蝕んで変質が始まった。


 神の欺瞞を知った彼女はこれに抗えず、毒と炎をまき散らす魔女が生まれようとしていた。

 が。


「出鱈目に受信して悪神の類に繋がってましたよー」

「ふえ?」


 それを阻止した者こそが……。

 姿は微妙に違った。力は欠片もない。


「あ、ああ……まさか真の神、肉の御方……」


 だが紛れもなく、ロザリンドが知った真実の神だった。

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