第一章完 最後の一線
長い白髪と髭が特徴的で、鷹のような形をした目から赤い瞳を輝かせる、七十歳ほどの老人が震えていた。
「例の聖騎士達ですが恐らく……出奔したものと思われます……」
「……ふー」
恐怖を感じている枢機卿が、怒りを押し殺している老人に報告する。
奇跡的に怒鳴り散らしていない老人。リーア聖国の頂点である教皇アーデルヘルム五世は、どうも聖騎士から脱走者が出ているかもしれないと報告を受けた時、何かの冗談かと思ってしまった。
聖騎士とは教皇が振るう刃であり、神罰の代行者といっても過言ではない者達だ。
そんな聖騎士が五名も行方を晦ましたなら、アーデルヘルムに唾を吐くような行いとしか言いようがなく、他国の大衆には馬鹿にされ侮られてしまうだろう。
ただアーデルヘルムの面子は別にすると、聖騎士たちが出奔したのは非常に危険だった。
「聖騎士達の不満は想定以上か」
「はっ……」
なんとか自分を律したアーデルヘルムが呟くと枢機卿が同意した。
彼らも聖騎士の不満を理解していたが、では実際に運用するとこれくらいの費用が掛かります。と、文官達に試算を見せられたら、これは厳しい……と思わざるを得ないのだ。
勿論、予算を切り詰めることもできるにはできるが、リーア聖国が誇る聖騎士の行軍や運用がみすぼらしいと、それはそれで問題が大きく、アーデルヘルムたちはその時が来るまでの辛抱だと言って、聖騎士たちを宥めていた。
全て無意味だったが。
「流石に反乱は起こさんはずだが……」
アーデルヘルムの語尾が弱くなる。
脱走事件や聖騎士が政治的な動きを見せるのもまだマシ。最悪の場合、操りやすい神輿を担いで反乱を起こすことだって想定しなければならないのが、アーデルヘルムの立場だ。
(気持ちは分かる……痛い程分かるが、聖騎士ならば国家の視点を持て……)
とは言えアーデルヘルムも立派な妄信者だ。
彼だって立場がなければ異端者を炙り出し、この世にいることを後悔させてやりたいと常日頃から思っていた。
それ故に聖騎士たちの気持ちは十分理解しているが、馬鹿な離脱者に比べてきちんと計画を立てて行動する必要があった。
(少数でも聖騎士を異端狩りに使うと、周辺各国を刺激する可能性がある。しかし聖騎士を解体すると聖なる使命を果たす時に戦力が不足する……)
八方塞がり。もしくは自業自得。
神の意志に従い異端と異教を殺し尽くすことを使命にしている聖騎士は、アーデルヘルムの意向がかなり反映されている。
だが聖騎士はタカ派であるアーデルヘルムのコントロールすら外れかけ、宥めても解体しても明確なデメリットを発生させるのだから、それこそ周辺各国からの嘲笑を受けるだろう。
「……仕方ない。時期は少々早いが聖騎士の不満をこれ以上溜めるのはマズい。国内の異端狩りに使うとしよう」
「はい」
アーデルヘルムの決断に枢機卿が頷いた。
今までは軍備を整える期間が必要だったため、周辺各国との決定的な決裂を避けるように動いてきた。
だが国内とは言え、最精鋭だと散々宣伝してきた聖騎士を異端狩りに使うと、各国はいよいよリーア聖国が軍事行動を起こすのだと身構えるだろう。
「だが監視は怠るな。やり過ぎると本来の聖務に支障をきたす」
「はっ!」
アーデルヘルムも枢機卿も、うっぷんを溜めていた聖騎士が異端狩りに動員されると、暴走といっていいレベルで行動することを見抜いていた。
それため監視の保険は思いついて当然だった。国外が聖騎士の動員で警戒することも分かっていた。
しかしながら、大衆がどう捉えるかの認識はかなり薄かった。
「聖騎士様が異端狩りをしてるだって?」
「きっとどこかに隠れ潜んでるんだ……!」
「そう言えば隣の村に……」
「いや多分、あいつなんじゃないか?」
「怖いわねえ……」
「間違いない! アイツは異端だ!」
「魔女を殺せ!」
「異端を浄化しろ!」
聖騎士が異端狩りをしている。それだけでパニックになった大衆が、聖騎士達すらこれは大丈夫だと判断した者を勝手に異端認定し始めたのだ。
そしてこの統制が取れていないリーア聖国の動きは瞬く間に世界へ広がり……最後の一線を踏み越えさせた。
異端狩り
神への信仰を大幅に増加する。
資産が増加する。
戦闘ユニットの戦闘力が増加する。
維持費不要な労働力が増加する。
国内の敵勢力活動を大きく妨害する。
カルマ悪のヒーローユニットが登場する。
カルマ悪のヒーローユニットが強化される。
カルマが極端に悪に傾く。
警告! カルマ善のヒーローユニットが離反する可能性があります!
ヒーローユニットのカルマが反転しました!
盲目の聖女アンネリースが妄信の聖女アンネリースににににに。
戦乙女ブリュンヒルトが腐り落ちしブリュンヒルトににににに。
-貴方の民が信奉しているのは神ではありません。単なる妄想です-
…………。
………。
……。
…。
警告! 大幅な方針転換はヒーローユニットの離脱を招く可能性があります!
エルフ文明が種族至上主義を選択しました!
ダークエルフ文明が鎖国政策を選択しました!
ドワーフ文明が失地回復運動を選択しました!
サキュバス文明が食料保存方針を選択しました!
蛮勇文明が積極外交政策を選択しました!
東方文明が弱者淘汰令を選択しました!
貴種ヴァンパイア文明が殲滅思想を選択しました!
亜種ヴァンパイア文明が貴種への降伏を選択しました!
‐‐文明が!
‐‐文明が!
‐‐文明が!
--文明のカルマが極端に悪に傾きます!
--文明のカルマが極端に善に傾きます!
--文明のカルマが--!
--文明のカルマが--!
警告! 警告! 警告!
世界には悍ましき文明、指導者・醜悪王が存在します!
指導者特性、【父祖なる大渦】が発動!
盲目の聖女アンネリースが妄信の聖女アンネリースににににに。
戦乙女ブリュンヒルトが腐り落ちしブリュンヒルトににににに。
蒙真のアンネリースが悍ましき文明に所属しました!
神の女ブリュンヒルトが悍ましき文明に所属しました!
--が悍ましき文明に所属しました!
--が悍ましき文明に所属しました!
--が悍ましき文明に所属しました!
--が悍ましき文明に所属しました!
--が。
--が。
--が。
--が。
--。
--。
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離脱した全ヒーローが悍ましき文明に所属しました!
世界が騒乱に突き進めば突き進むほどに戦神は力を増し、そして平和を求めるほどに平和の神も力を増す。
人々が平和を心の底から望むのは平時よりも、争っている時の方だろう。
つまり戦争と平和の神がいるならば、乱世では両方の信仰が流れ込むことになる。
隅で。暗がりで。廃墟で。城で。沼で。川で。ゴミの中で。
救われる者に。
掬われぬ者に。
まだ引き返せる者に。
ありとあらゆる場所で肉の手が差し伸べられ、悍ましき文明は混沌とする世界と同じように、加速度的に力を増していった。
第一章終了!
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