少年と悍ましき文明
三話連続投稿の二話目になります
とある赤毛の少年がベッドで眠っていた。
十歳にも満たないリックにとって人生は苦難と同義である。
両親を含めた大人達の顔は常に暗く、聞こえてくる獣の声に怯えるのが日課だった。
過去の話だ。
「ふわ……あれ……そうだった」
寝起きのリックは一瞬だけ、自分の居場所が分からなかった。
かつてはボロボロの家に住み、ベッドとは名ばかりの粗末な寝具で寝ていた彼だが、今現在の光景は一変していた。
しっかりとした石に囲まれた家。ふわふわとした毛が詰め込まれた寝具。きちんとした服。それらは夢に見るどころか、概念すら持っていなかった物だったのに、今や全ての家に行き渡っていた。
「おはよー父ちゃん、母ちゃん」
「おう」
「はいおはよう。さあ、早く食べて仕事しな」
リックの両親はもう目覚めていたようで、芋を煮たものを食べていた。
これもまたかつてとは違う。以前なら朝起きても食べるものがないのはよくある話で、ひもじい思いをよくしたものである。
「さっきお隣さんと話したんだけど、お昼はお肉を貰えるかもだってさ」
「ほんと⁉ やったあ!」
母の言葉にリックはこれ以上なく喜ぶ。
少量の山菜と偶に狩猟できる小動物の肉で食いつないできたが、食べ盛りの少年にとって量は全く十分ではなかった。
しかし毎日ではないが、成人男性が十人がかりでようやく持ち上がる重さの動物が運び込まれるため、リックはつい最近、人生で初めてお腹がいっぱいになるほど肉を食べることが出来た。
「おおー……骨がバキバキに鳴りそう……」
「あ、シュウイチ兄ちゃんおはようございます!」
「お、リック。おはよー。今日も元気だなー」
「今日も日向ぼっこ?」
「そうそう。日光は健康に必要不可欠なんだよ。でも浴びすぎるのはよくないから、何事もバランスだね」
「へー」
大規模な畑を作っている村人たちは、食事を終えると地下都市を出て仕事に取り掛かる。
すると高確率で日向ぼっこをしているシュウイチに出くわすため、遠慮が無くなってきた子供達がへっぽこ戦神を取り囲むのが日常の光景になっていた。
「畑に行ってる感じ?」
「うん」
「そうかー。畑に携わる人は凄いよ。兄ちゃんも前の体の時に収穫の短期バイト……えーっと、携わったことあるけど、へとへとになったからなあ」
「今やったら?」
「確実に腰が死ぬね。断言できる」
「神様って凄く偉い人だと思ってた」
元気いっぱいの少年にシュウイチが情けないことを漏らすが事実でもある。
「神様がやることは絶対で間違いがない! って思われると、兄ちゃんはすっごい困るんだよね……だから変な理想像が生み出される前に、ありのままを見せてるのさ。リックは、兄ちゃんが絶対失敗することをやってる……って思ったら、それヤバくね? って兄ちゃんに言えそうでしょ?」
「言う!」
「ははははは。そうそう。兄ちゃんにはそれが大事なのさ。お陰で取り返しがつかないへまをしてないからねー」
シュウイチの言葉にあまり深く考えず答えたリックだが、へっぽこ戦神にすればかなり大事なことだ。
感性と発想が凡人で、天才などとは口が裂けても言えないシュウイチは、全てを肯定されることを非常に恐れている。
彼が単なる人間ならそこまで恐れる必要はないが、様々な惑星に影響を及ぼす立場なのに全肯定されると、しくじったときの影響が計り知れなくなるのだ。
そして演じたところでボロが出るのは分かりきっているため、普段から素のへっぽこ状態を晒して、信徒を含めた人々にすら、醜悪王がすることはなにかしらのチェックをしないとマズいかもしれない。と思わせていた。
「おっと。長話に付き合わせちゃったね。お仕事頑張るんだよー」
「うん!」
シュウイチと別れたリックは、地下都市の付近で形になり始めている畑に向かい、まだ僅かに残っている雑草や小石をどけて手伝いをする。
そこは先触れが一体は必ずいるし、他の個体も頻繁に出入りするため、村人たちは安心して仕事を続け、リックも暫く働いた。
「あ、ロザリンドさんだ」
その最中、ロザリンドが空中に浮かんだ水瓶の神器を従えて、畑のあちこちに水をまき始めた。
神器や神話。伝承などに縁がないリックは、その作用を全く分かっておらず、ただなんとなく凄いことをしているんだと思った。
「リック君。頑張ってるわね」
「うん! ロザリンドさんもお疲れ様!」
ロザリンドはそれほど多くない子供の名前を全員覚えていて、リックに柔らかく声をかける。
子供達にとってシュウイチは気のいいおじさんや兄なら、ロザリンドは優しいお姉さんだった。
「またシュウイチ兄ちゃんのお話を聞かせて!」
「ええ、勿論」
そんなロザリンドにリックが神話の物語を強請る。
蠢く者達が碌な発声機能を持たないため、信徒の中でシュウイチの神話を語れるのはロザリンドと一部のドワーフになる。
結果的にロザリンドが人を集めて神の功績を語ることになったのだが、やたらとスケールが大きい話になるため、子供達は聞き入ってしまうのだ。
ちなみに語られている本人は、そんなこともあったなーと気が抜けている上に、話が前後したり重要なところでも端折るせいで、語り部として失格だった。
「いよっし、終わり!」
日が暮れ始めると大人も子供も関係なく地下都市に帰り始める。ただ一点違うところは、帰りなら高頻度で特殊な先触れが送ってくれることだ。
「おー!」
「やっぱりすげー!」
「きゃー!」
キャッキャッと喜ぶ子供達は、刺々しさや硬い外骨格が無くなり、妙にいたるところが柔らかい先触れに背負われたり、腕にしがみ付いて移動する。
この適応には主であるシュウイチも首を傾げたが、スクールバス適応……! と斜め上の納得をして、それ以上難しいことを考えなかった。
外見は恐ろしい集団と子供達はどうやら上手くやっているようだった。
先触れ・子守り適応個体
若年層の幸福感を上昇させる。
‐なぜこんな風に適応したのか当人も分かっていないが、満更でもないらしい‐




