入れ忘れた話。本当にすいません! 新たな地下都市
この話を入れ忘れてました!ご連絡いただき、まことにありがとうございまあああす!
地下都市に住んでいた同胞を埋葬したドワーフたちは忙しい。
「どうですか?」
「ああ、ロザリンド様。一通りは削れました」
ロザリンドに声を掛けられたドワーフが大きな岩の壁を見上げる。
本ではなく朽ちない岩に歴史を刻む彼らは、永久に歴史と伝統を守れるという考えを持っていた。しかしそれは、記された出来事に間違いが紛れ込んでいなければの話だ。
「神の慈悲で我らが生き長らえたなど……」
ロザリンドは美しい顔を僅かに歪める。
彼らが先祖の刻んだ大岩の一部を削り取っているのは間違いを正すためだ。
通常、このような行いをするのはドワーフにとって最大の禁忌で、企みが露見しただけでも即座に死刑が言い渡される程である。
しかし慈悲ある神と使徒のお陰でドワーフは繁栄した……などと刻まれた部分は誤認に満ち、なんなら直接救われた者よりも殺されたドワーフの方がよっぽど多いのが真実だ。
なにせ、救われた者などいないのだから。
「ロザリンド様、神殿の方はどうなりました?」
「相応しい形になりました」
「それはよかったです」
地上で作業していたドワーフがロザリンドに尋ねる。地下にあった神殿は改修され新たな神が祀られていた。
「うふ」
ロザリンドは笑みを浮かべながら地下へ降りる。
薄く白い衣は垂れ下がり揺れて、女性としての起伏を強調し、歩くたびに艶めかしい脚が露わになる。
そんな彼女の輝きに満ちている青い瞳が庭園と神殿を眺めると、そこは一変していた。
枯れ果てた草木は生命力に満ち、清らかな水が水路を流れている光景はかつてと同じだが、並んでいた神々の像は排除されて、代わりに即席ながら見事な像が置かれている。
白い石材を基にして彫られた姿は荒魂と和魂の二つ。
一つは様々な動物を掛け合わせたような闘神としての醜悪王。
そしてもう一つは干からびたミイラの如き、平穏神としてのシュウイチだ。
「ああ……」
感嘆の声を漏らすロザリンドは、急造だから出来があまりよくないと恐縮していたドワーフの職人に対し、そんなことはないと強く否定していた。
力強く佇む醜悪王の姿からは猛りを感じるし、柔和な微笑みを浮かべているシュウイチの像は、ここ数日ずっと会っている姿そのものだ。
そんな醜悪な生物とミイラの像に祈りを捧げたロザリンドが神殿に足を踏み入れる。
基本的に祀る神から影響を強く受ける神殿は、アーリー神系統を祀れば汚れを許さぬ清廉かつ厳かなものになる。
では醜悪王に影響された神殿は?
当然、肉塊が蠢くものに変わり果ててしまう。
妙に綺麗で腐汁や血も流れていない、赤の肉塊が神殿内部に張り巡らされ、巨大な生物の内臓に囚われたような錯覚を人々に与えるだろうが、信者から見れば偉大なる存在の力を感じる聖地となる。
更に最奥にはdに似た形の、醜悪王のシンボルであるサムズアップした右親指の紋章が掲げられ、誇らしげに輝いていた。
「ロザリンドさーん」
「まあ、シュウイチ様」
跪き真の神に祈っていたロザリンドは、神殿の外から聞こえてきた声に反応して立ち上がり、ふわりと花が咲いたような笑みを浮かべる。
そして運動のために直接やって来たシュウイチが神殿の椅子に座ると、ロザリンドも遠慮なく座る。
本来なら神と信者の立場だが、当の神が畏まったやりとりが苦手なため、ロザリンドはそれに合わせていた。
「大体の準備は終わったかな?」
「はいシュウイチ様」
シュウイチにロザリンドが淑女ながらも恋する乙女のような顔を向ける。
彼らの言う準備とは、毒森の民を安全なこの地下都市に移住させるためのものだ。
今現在、正式に地下都市の運営に口を挟める階級の者がロザリンドただ一人となったことで、彼女はシュウイチと一緒にいる毒森の民の移住を提案。
民も全方位が木々に囲まれている元の住処より、地下都市が魅力的に感じ、移住が決定したのである。
それで、だ。
「行政のことなんて分からないんで助けてください!」
外宇宙にその名を轟かせる戦神が、心の底から信徒に助けを求めた。
戦争と平和の相反するものを司っているシュウイチは、言ってしまえば戦うことと、平時にぐうたらすることに特化した男だ。
これが他の兄弟姉妹なら、自分たちの箱庭を運営している経験があるのだが、本拠地を持たないシュウイチは政治的経験が皆無だった。
そのためこの男は、信徒になったばかりのロザリンドに恥も外聞もなく助けを求めるしかなかった。
「お任せください。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ありがとうございまあああす!」
一方、慈愛の女神の如きロザリンドは、聖職者を束ねる立場で多少なりとも政治に関わった経験があるため、シュウイチよりかなりマシだった。
そしてシュウイチに優れている点があるとすれば、努力はするが無理なら素直に打ち明けて助けを求めることだ。
外宇宙で不変の存在たちに噛みつきまくった狂神ではあるものの、見栄や面子に全く拘っていないため、自分の信徒だろうと頭を下げるのは日常茶飯事だった。
「では一緒に一汁三菜目指して頑張ろう!」
「はい」
地下深くの悍ましき神殿で神が宣言すると、信徒はパチパチと美しい手を叩く。
外部に全く知られていない一つの文明が、徐々に徐々に大きくなっていた。




