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婚約破棄された伯爵を預かったのだが、胃袋をつかまれていかんともしがたい  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)


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25話 婚約式の参列者

「産婆にはそのカルテをすぐに提出するように伝えている。あと、なんとしても死守せよ、と」

「産婆も驚いたでしょうな」


「なに、意気込んでいたそうだよ。『あんなによい奥様になんてことを!』と憤慨してたって。ご母堂と伯爵はそれはそれは仲睦まじかったそうだ。それなのに、奥様も旦那様も亡くなってからかようなことを言うとは、と」


 ミハエルはにこにこ笑って言った。


「ちょっと遠方の領だから、カルテの到着に時間がかかるが……君たちの婚約式が終わったごろには手に入る。安心しろ」

「そうですか。ありがとうございます」


 律儀にアイザックが頭を下げる。


「婚約式の準備は進んでいるの?」

 グラスを口に近づけながらミハエルが尋ねる。


「ええ。今日は会場として使用するシェードウィン公爵家で打ち合わせを」

「ああ。会場はあそこと書かれていたね。王城を使えばいいのに。シェードウィンの家はいまはもう無人だろう?」


 グラスを傾けながらミハエルが言う。クロエはカナッペに手を伸ばして答えた。


「管理人は置いている。無人だと建物が傷むからな。なので、当時の使用人をできるだけ集めてくれるように伝えた」

「おかげで、人数的にはなんの問題もありません。シェフとも料理の内容で打ち合わせを」

「ビュッフェ?」

「ええ。こじんまりとした内輪のものですから」


 クロエは、「あれ、あんまり好きじゃない」という言葉を飲み込んだ。

 というのも、副隊長の視線に気づいたからだ。そうだ、今日あったことを伝えねば、と口を開いた。


「そうだ、アイク。貴卿の実家のことだが……」

「ハミルトン家ですか?」


「ああ。今日、詰所にハミルトン家の使いだというものが来てな。ぜひ婚約式に出席して祝いたいとのことだが……。あちらには案内状を出していないのか?」


 アイザックは喉になにか詰まったような顔をしてしばらく黙り込む。


 ミハエルはまだ残っているチキンをつまみながら、ワインを口に運んではそんな友人の様子を眺めているし、副隊長は黙々とカナッペを食べている。そんなに連続していま食べなくてはいけないのだろうかと思うが、気まずさゆえの行為なのだろう、とクロエが小さく息を吐いて口を開いた。


「いや、婚約破棄にあったり、廃嫡騒ぎに巻き込まれたりしたのだ。別に呼ぶ必要もない」


 クロエとしてはただ、やっぱり親族だしな、と思って確認しただけだ。


「その……ハミルトン家からは除名をされていて、今はニコライアンと名乗っています。なので、ニコライアン家を……母の実家を呼ぼうと思っていますが。あの、ダメでしょうか」


「かまわん」


「隊長。ですが、両家の人数合わせがあります。隊長のご親族は何人出席されるのですか?」


 副隊長に言われ、クロエはワインを飲みながら指を折った。


「両方のおじいさまとおばあさま。それから陛下と王妃陛下にもご連絡差し上げたが、婚約式には王妃陛下が顔を見せる程度で参加されるそうだ」

「それでなんでぼくを呼ばない判断をしたんだかね⁉」


 叫んだミハエルをクロエは黙殺した。


「あとは子爵令嬢とお友達4人」

「げ。アデル来るのか。ちょっと隠れていよう」


「そうだ。むしろ来るな」

「え、クロエ様。修道院にいらっしゃるお母様は? 都合が悪いのですか?」


 アイザックに言われ、クロエは首を横に振った。


「いや。母が来ると歌って踊るからややこしい。だから母やその周辺の人数を子爵令嬢とお友達に割り振った」


「クロエ様、おかしいおかしい!」

「隊長! お母さまは必要です!」


 アイザックと副隊長はいきりたったが、クロエとミハエルは顔を見合わせて渋い顔をした。


「いやあ……。クロエの気持ち、わかるよ?」

「婚約式と結婚式。二回も呼んだら、二回もあの奇天烈踊りを見せられる」


「それ聞いたら、母上も欠席するかも」

「やっぱり」


 王族ミハエルとその親族クロエはひそひそと話し合い、結論を出した。


「母上は結婚式本番のみ」


 アイザックはため息をつき、副隊長はうなだれながらもカナッペを口に放り込んだ。


「ねぇねぇ、それでさ」

 ミハエルが手酌でワインを注ぎながら、アイザックとクロエを交互に見た。


「ちょっとは婚約者らしいこともしているの?」

「は?」

「王太子!」


 クロエはにらみ、アイザックはひたすら狼狽える。ミハエルは上機嫌でグラスを傾けた。


「デートとかさ、夜にこうやってお酒飲みながら……とかさ」

「デートなんてあれですよ! いままでぼくはほら! 身元を隠していましたし!」

「それに誰のせいで夜間警備をしていると思うんだ。酒を呑んでゆっくりする時間もない」


 アイザックはミハエルに身を乗り出して訴え、クロエは吐き捨てた。

 その様子になんとなく副隊長がほっとしている。


「なんだ、どうした。副隊長」

「いえ。娘に恋人ができたらこんな気持ちなのかと」

「貴官の娘御はまだ3才だろう」

「王太子殿下。夜間警備についてはもうしばらく我が隊で」

「あ、そう?」

「やめろ! 私は即刻やめてやるからな!」


 こうして。

 こっそりクロエの父親代わりを自認する副隊長と、クロエの未来の婿であるアイザックの初顔合わせは終わったのである。


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