勝利の為に!!
「反撃開始だ、行くぞ!!」
暁香先輩は拳に炎を纏って伊集院に突撃した。伊集院も腕を硬化させて対抗する。互いの拳がぶつかり合う。拳の威力は硬化の強度によって伊集院が勝っている。伊集院はそれが分かっているらしく余裕の顔だ。しかし、暁香先輩はさらに余裕の笑みを浮かべている。
「伊集院、炭素はよく燃えるよなぁ!!」
暁香先輩は拳の炎を一気に大きくした。伊集院は直ぐに拳を引いたが間に合わず、自分の体に着火し、体が日に包まれた。・・・成程、炭素効果でダイヤモンドと一緒の強度になったとしても、ダイヤモンドも元は炭素だ。火を着ければ当然燃えるって訳か。
「ぬう・・・盲点だったぞ・・・」
伊集院は硬化を解いて、何とか自分に燃え移った炎を消した。そのまま腰の鞘から忍刀を抜き、構えた。硬化して戦うには分が悪いと判断したのだろう。両者、睨み合いが続く。一触即発の空気、それを破ったのは・・・久城先輩だった。両手を地面に当てている。
「伊集院君、危ないから退いてなさい!!氷床!!」
技名を言うのと同時に久城先輩の周りが氷始め、凄まじい速さでその範囲は拡大していく。どうやら辺り一面氷らせる気だ。伊集院は跳び上がり、とばっちりを受けないようにしている。冷気が触れたものを全て氷らせるって、完璧に敵も味方もあったもんじゃないのな。・・・かといって、俺だって黙ってやられる気はない。刀を地面に突き刺し、それを足場にして跳び上がる。更に空中で雷を右の拳に集め、それを三又の槍の形に束ね、刀に向かって投げる。
「雷神槍!!」
雷の槍が刀に落ち、その衝撃で冷気と氷を吹き飛ばし、俺はその吹き飛ばした場所に着地した。どうやら御久間先輩は俺と同じく跳び上がって回避していた様で、俺の近くに着地した。暁香先輩は・・・氷のオプジェになってる!?嘘!?まさかの暁香先輩が逃げられなかったのか!?・・・と思ったのは間違いだったらしい。暁香先輩のオプジェが炎に包まれ、炎の中から先輩が出てきた。どうやら効かないから避けなかったらしい、再び伊集院と睨み合う。流石は爆炎の使い手だ。
「昂ちゃんに通用しない事は分かってたけど、歩君が咄嗟にあんな風に回避する何て思って無かったよ」
ニッコリと笑いながらそんな事を言う久城先輩。・・・鬼だ。
「神沢ぁ!!」
「はい!?」
先輩がいきなり俺を呼んだ。表情から察するに、あんまりいい状況じゃあなさそうだ。
「この戦闘、俺と聖子に任せてくれねぇか?」
「ふぇっ!?」
いきなりの暁香先輩の言葉に、俺は素っ頓狂な声を出してしまった。つか、何でだ?俺はてっきりこの戦闘をどうやって勝つかの指示だと思ったんだが・・・
「優姫のさっきの攻撃でハッキリした。あいつ等の狙いは俺達の足止めだ。」
「足止め?何のためにそんな事を?第一、メリットは?」
訳が分からない。俺と暁香先輩、更には御久間先輩をたった二人で足止めにする・・・一歩間違えれば自分っちがやられるのに・・・何故だ?
「最初に先生がアナウンスで言った事を思い出してみろ。どんな風にチームを分けたって言ってた?」
・・・どんな風にって・・・俺は考えてみる。《平等になる様に分けた》・・・って・・・平等に・・・?・・・まさか・・・そういう事か!!
「まだこっちにも相手にも仲間がいるんだ!!・・・けど、それが俺達の足止めと何の関係があるんですか?」
やっぱ何のメリットも無い様な気がするんだが・・・
「一年で一番強いお前、クラスの現参謀役である聖子、そして俺・・・一部でとびきり秀でた奴らとある程度の奴らで構成されたのが赤チームだとしたら・・・青チームはどうなる?」
えーと、それはつまり・・・
「・・・青チームは主力メンバーの集まりって事ですか?」
「正解だ。ならお前が青チームだったとしたら勝つ為にどんな策を立てる?」
「相手チームの主戦力を孤立させ、消耗したところを一気に叩きます・・・って、まさか!?」
俺は考えついてハッとなった。そう、これは相手チームの勝利への下準備だ。主戦力を孤立させるにはまず周りを消すのが手っ取り早い。それを確実にやり遂げる為には・・・他のメンバーに主戦力と合流する前に奇襲を仕掛けるのが一番だろう。そして、主戦力は助けに行けない様に最低限の足止めをする・・・今俺達が陥っている状況こそが正にその足止めだ。先輩はそれに気付いて俺を助けに向かわせる気なのだろう。なら、さっさとここを離れよう・・・
「・・・ってぇ、おわぁ!?」
久城先輩が薙刀で斬りかかって来た。ギリギリで刀で防ぐが、ヤバい、力負けしてる!?くそっ、何で三年生はこうも動きが早いんだよ!?
「・・・何処に行くの、歩君?」
口調は優しいが、目が笑って無いって!!力負けしている為、徐々に押されて体制がキツくなっていく。ヤバいヤバいヤバい!!やられる!!その瞬間、久城先輩が吹っ飛んだ。そのかわりに俺の目の前には、如意棒の様な紅く、金で装飾されている棒を手にしている暁香先輩がいた。どうやらその棒で久城先輩を吹き飛ばしたらしい。ゆっくりと久城先輩が立ちあげる。
「いたた・・・昂ちゃん、容赦無いなんて酷いよ」
「神沢、分かったなら早く行け。俺も優姫が相手じゃ他に構う暇は無いんだ」
苦笑いしながら久城先輩と対峙する暁香先輩。確かに、余裕は無さそうだ。早く行くべきだな。俺は身を翻すが、そう簡単に行かせてくれない奴がいた・・・伊集院だ。
「行かせんぞ、同志神沢ぁ!!」
腕を硬化して襲いかかってくる。しかし、こっちにだってもう一人見方がいる。
「邪魔はさせんぞ、伊集院」
俺と伊集院の間に御久間先輩が割って入る。だが、伊集院は攻撃を躊躇する様子は無い。それどころか跳び上がり、一撃に更なる威力を与える気だ。それもそのはず、御久間先輩の能力が伊集院には効かない事が最初の攻防で分かっているからだ。しかし、そう何回も同じ事が御久間先輩に通用するはずが無い。御久間先輩は伊集院のその動きに合わせて右の拳を引く。真っ向から伊集院と勝負する気だ。
「ほぉう、効かないと分かっていながら再び挑むとは・・・いい度胸ではないか!!」
調子乗ってるな、伊集院の奴・・・痛い目に遭っても知らねえぞ。
「確かに、さっきの武器は効かなかったな。だがな、こいつを硬さだけで防げるか?」
そう言うと、右の拳が碧い水晶に包まれ始めた。さっきまでの武器とは具現化の仕方が違う・・・つまり刃物じゃない。あの丸い形は・・・鈍器?
「思案具現化・・・推進鉄球!!」
右の拳が西瓜大の碧い水晶の球体として具現化完了すると、右腕を伊集院に向けて突きだすと同時球体がもの凄い勢いで射出された。・・・あの球体、推進エンジン積んでやがる・・・つか、そうじゃないとあの球体の加速の仕方は説明できないだろう。空中にいる伊集院に一気に届き、そんまま思いっきり吹っ飛ばした。そのまま伊集院は地面に落ちた。見た感じかなり効いてるな、今の。目標を吹き飛ばした球体は、連結されていた鎖によって腕に戻って来た。球体には傷一つ無い・・・あの球体、ダイヤモンドよりも硬いのか?
「ぬぅ・・・油断した・・・まさかそうくるとは・・・」
苦しそうに呻きながら伊集院は立ち上がった。腕でガードし、ギリギリ直撃は避けた様だが、ダメージは大きい様だ。ガードした右腕にはヒビが入っている。
「斬るのが駄目、撃つのも駄目、薄い刃物じゃ防がれて砕かれる・・・そうきたら残る選択肢は一つだ・・・密度の高い超重量の武器で叩いて叩いて叩きまくる!!」
御久間先輩が再び球体を放つ。
「おのれ、そう何回も上手くいくと思うでないぞ!!」
伊集院は回避し、反撃の為に態勢を立て直そうとするが、その足取りは重い。どうやら御久間先輩の読みは正解だった様だ。
「これで五分だ・・・神沢、行け。行って俺達を勝利に導け!!」
俺は力強く頷いた。これなら心配はいらない。俺は再び駆け出した、相手の策を潰し、赤チームに勝利をもたらす為に、先輩達の助けを無駄にしない為に・・・
「歩君一人であの二人を何とか出来ると本気で思ってるの?昂ちゃん」
「なぁに、出来なかったらこっちが負けるだけだ。・・・俺には見届ける義務がある・・・二年後、あいつがDクラスを率いるだけの男になるか・・・俺達の勝利を賭けて、ひと勝負といこうじゃねぇか!!」
これで何度目か、炎と冷気が再び衝突を始めた。
誤字、脱字があれば教えてください。すぐに修正します。