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実は実話  作者: ういどん
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それは疑念ではなく   だった。

それぞれの立場からひとつの噂話を見たとき、どう見えるのか。

誰の知っている噂話が真実なのか。

事実確認を行うすべはあるのか。平凡なサラリーマンたちの日常は色づき始める。

【長谷川 敦の場合②】

「神川くんもう確定やわ。橋本部長面白い話があるって聞いたんやけど、細井部長と赤町さん家の方向間逆やのに一緒に帰ってるらしいで。」

最高のゴシップを見つけたといわんばかりに俺は神川君に、橋本部長から聞いた話を共有した。


二人でどこに行ったかまではわからんけど、流石に俺らにこんだけ、文句いうて自分は仕事そっちのけで、女といちゃいちゃして過ごしてるのは腹立つよな。

どうにかできたらいいんやけど。

神川君が何かに悩んでいるようだった。どうしたのか聞いてみる。彼は、探偵を雇ったりGPSの設置ができないか考えていたようだった。

その日は二人で、色々調べてみた。それぞれ家庭がある身なので、費用の高額な、探偵を雇うことは現実的ではなかった。

インターネットで検索してみると、案外GPSは多く流通していることがわかった。子供も見守りという名目にはなっているが、見つからないように隠せる商品も多数存在し、人の動向を秘密裏に知りたい人間が、どれほど多く存在するのか、このサイトだけでもうかがい知れた。

その後はGPSの購入方法、種類、設置するならどこに設置するかを語り合った。久しぶりに楽しい飲み会になった。


【楠山 文彦の場合②】

神川から、長谷川とGPSを探していることの報告があった。長谷川さんと3人とあと何人か仲間に引き入れて探偵を雇わないかと聞かれた。予算を聞いてみると一週間で数十万単位の金額との事だった。仮に20万円必要だとして5人で割って一週間で4万円が必要な計算だ。僕はまったく気乗りしなかった。

神川は次にGPSの購入について打診してきた。GPSなら1~5万円ほどで手に入れられるとのことだった。

それでも気乗りしなかった。こんなことにお金をかけることがいまいち理解できなかった。それにそこまでするのか。という考えもあった。

一通り、報告と説明を聞いた後、楠山は小さな疑問を持った。

なぜ神川がここまで細井本部長の件に固執するのだろうか。自分や神川は少なくとも仕事上では細井に恩がある。自分の遠くで発生している社内不倫にここまで真剣に取り組んでいる理由が1つしか考えつかなかった。

かまをかけてみた。「まぁ正直、悪いことなのはわかってますけど、不倫別に否定派じゃないんですよね。」

「別に良くないですか?パートナーにばれさえしなければ。。」

どうだ・・・。

「まぁ確かにね。」

「・・・。」

「実は・・・。」

きた

「実は、僕もう1年くらい前から赤町さんと付き合ってるんですよね」



【神川 二郎の場合】

自分が結婚するとは思っていなかった。適当に遊んで、頑張って稼いで、いつかは結婚するのかもしれないとは思ったこともあるが、自分から結婚に向かって何かをしようと思ったことはなかった。

幸い顔には自信があった。それにおしゃれにも気を使っていた。話し方や、素振りもできるだけ気を使った。その結果、相手が途絶えることはなかった。

30歳を過ぎて入社したこの会社が年齢的にも最後の転職だと思っていた。今までは付き合っては、別れてを繰り返していた。周りの仲間たちもそんな自分の状況を笑って、ネタにしてくれていた。しばらくはこのままでいいと思っていたが、周りがどんどん結婚し、家庭を築いていく中、家族や親族からも二郎はまだ結婚しないのか。いい人はいないのか。といわれ続けるようになっていた。

そんな時、遊びで手を出した一回り以上歳の離れた、若い女性営業マンが神川に結婚を迫っていた。

自分の彼女と上司の細井の彼女が同期入社だったことから、4人で遊ぶこともあり、別れるに別れることができなくなり、散々渋った後に、結婚することに決めた。

自分のポリシーを曲げなければよかった。すぐに神川は後悔した。

一回り以上、歳の離れた自分のパートナーが、子供にしか見えなくなっていった。元々横につれて歩く女性は、自分を飾る装飾品の一部だと思っていた。だから女性側からも一緒にいて誇れる男になるために努力をしていた。だから食事やお酒の席に付き合ってもらうだけで、そのあとのイベントには、あまり興味がなく、夜を過ごさずに解散することを神川は好んでいた。女性側も、下心がない、大切にされていると思うのか、神川に好意を寄せてくれることが多かった。

そんな神川にとって、子供を欲しがっていたパートナーと夜のスキンシップは、苦痛だった。

しばらくは神川の下半身を刺激していた、豊かな乳房の効果も薄れていた。今でもとてもさわり心地のいいものだが、それに以上に二人の関係が悪化していた。スキンシップをうまくとれないところまできていた。

さらに自分の意に沿わないことがあると、ヒステリーを起こし物を投げつけたり、家を飛び出してしまいことが多発した。

最初は探しに行くこともあったが、見つけたところで、夜中に近所迷惑も考えず大きな声で怒鳴り散らす自分のパートナーを、神川は、もう完全に女性としてみれなくなっていた。

そんなある日、本社での会議の後、近くで昼食を取ろうと散策していたときに、赤町に声をかけられた。

赤町はいつもわざわざ駆け寄って、挨拶をしてくれる。自分に気があるのだろうと思っていた。

神川は結婚したら落ち着くしかないと思っていた昔の悪い癖が再発しそうで怖かった。

必死に抑えようとも思ったが、昼食くらい構わないだろうと、赤町を誘い二人で昼食をとった。他愛のない話をし、神川は久しぶりに楽しく女性と過ごしたと実感した。

その日、事務所に帰る車の中で、すでに赤町の笑顔が頭から離れなかった。


【楠山 文彦の場合②ー②】

それから僕は神川と赤町が付き合っていたこと、赤町の亭主が不倫症で、今までも不倫の証拠を見つけて離婚を求めたが、承諾されず、しぶしぶまだ一緒に住んでいる状況であること、DVの前歴もあるが、警察が対応できるレベルでなかったこと、赤町が本当に悩んでおり、神川に相談していたことを聞かされた。

自分の知っている明るい赤町からは想像もできない内容だったが、自分の相談をしているうちに、恋愛に発展するなど良く聞く話だ。

この二人もそうなんだろうと思った。

神川に「直接、赤町さんに事実確認したら?」と聞いた。当然神川はすでにその質問を本人にぶつけていた。家庭の相談、仕事の相談をしているだけで、恋愛関係ではないと否定されたとのことだった。

なので、神川はGPSを設置して、証拠をつかもうと躍起になっていたのだ。証拠をつかんだところで、不倫関係の神川ではどうすることもできないが、女性経験豊富な神川のことだから、自分の女を細井に取られた。ということが許せなかったのだろう。


しばらく神川からの連絡はなかった。僕は自分の仕事に熱心になっていたこともあり細井本部長のことはあまり考えていなかった。

次に神川から連絡がきたとき、彼はとても嬉しそうにGPSを購入したことを語っていた。

神川が購入したGPSは、まず端末を設置し、その端末の位置を神川の携帯の地図上で確認できるというものだった。おおよそ1m四方のどこかまで確認がとれるものだ。ただし携帯に専用のアプリをダウンロードする必要がある。ダウンロードの翌日から起算して31日間はアプリの使用が無料というものだった。

1ヵ月後からの月額金額は言わなかったが、それなりの金額なのだろうと推測した。

ともあれそれによりこの1ヶ月間が勝負の期間となった。

細井に対する怒りがほとんど消えていた楠山と長谷川だが、こんな経験をすることはない、三人は単純に面白いおもちゃをみつけたような感覚にとらわれていた。

3人ともそうだと思っていた。


【7月20日】

早速、長谷川と神川が動いた。本社ビルに行く予定があったことから、GPSを購入した神川が長谷川を誘い取り付けを行うことにしていた。

神川は前日にGPSを充電を完了させた。連続稼動で一ヶ月程度は稼動するとのことだったので、本体にサランラップで防水加工を行い、強力両面テープを取り付けていた。

二人は早速作戦に取り掛かった。本社勤務の橋本部長にお願いをし、細井本部長が本社ビルにいることを確認してもらう。

その間に、長谷川と神川が細井本部長の駐車場へ向かう。

多くの社員は本社ビルから西側の駐車場を利用しているが、細井本部長は最近駐車場の場所を本社ビルの東側に変えていた。

こちらとしては他の社員にみつかる可能性が低いためラッキーなことだか、駐車場に向かう際に、経理部の社員とすれ違った際には少し緊張した。二人で駐車場へ向かう道のり、駐車場の場所を変えたことすら、今回の赤町さんのことがあり、ばれないようにしたのではないかと話して行った。

駐車場についた。まずは打ち合わせの通り、道の反対側を通り、車両周りに人がいないことを横目で確認する。小道沿いの駐車場なので、人通りも少ない。細井本部長は本社ビルにいるので当然車両の周りには誰もいない。

二人で車両に近づき、車体の後方を覗き込んだ。ちょうどつけやすいスペースがあったので、そこに取り付けた。

神川の携帯アプリを作動させGPSの表示と現在地が正しいことを確認した。二人はなにか大犯罪でも成し遂げたあとかのように、背後を気にしながら浮いている感覚のする足をどうにか動かしその場をあとにした。


その日の定時過ぎ、神川は長谷川と再度合流していた。

本社ビルは地下鉄の駅まで徒歩1分の好立地にある。ただ細井本部長や橋本部長はもちろん神川や長谷川といった営業社員のほとんどが、与えられれている社用車で通勤をしている。赤町を含む本社ビル、各営業所の事務スタッフは社用車が与えられていないため公共交通機関での通勤となる。

赤町は住んでいる場所の最寄り駅が本社ビル最寄の駅とは沿線が異なるため、本社ビルから東へ10分ほど歩いた先にある駅を利用している。

本社ビルの東には細井の駐車場がある。


神川、長谷川、橋本部長でグループラインを作成している。

神川と長谷川はそのグループに橋本部長からのメッセージが届くのを待っていた。

メッセージがきた。

「赤町さんが退社しました。」

二人は目を合わせ言葉を発することなくうなずく。

赤町が駅へ向かうために通るとしたら、最短距離のこの小道か、大通り沿いである。

神川は事前に赤町がこの二つのどちらかの道をその日の気分や天候、暗くなり方なので、適当に決めていることをさりげなく聞いていた。

細井の駐車場が小道を進み3分ほど行った場所を右折した箇所にある。

今の時期はまだ暑いくらいで、赤町の退勤時間でも外は十分明るい。神川は赤町が最短コースか、細井の駐車場に向かうのではないかと考え、小道のコースを自ら選んでいた。

この右折の交差点を見える場所に神川が、大通りを見える場所に長谷川が移動を開始する。

長谷川が予定していた交差点の影に、見えないようにたっていると、またグループラインに通知がきた。

神川から配置についたという内容のメッセージだ。

長谷川も同じようにメッセージを返すと、続けて橋本からメッセージが届いた。

「細井君が帰る準備してます。」

職種も定時の退勤時間も異なる二人がほぼ同じ時間に帰社する。我が社の規模から考えれば偶然そうなることも十分考えられるが、三人にはもう細井と赤町が約束をしているようにしか思えなかった。


しばらくすると神川の予想通り、小道のコースを赤町があるいてきた。30歳半ばの赤町だが、同年代からすればおしゃれに身なりを整えていると思う。神川もそんな赤町の魅力に抗えなかった一人だからよくわかる。神川は自分の横を通り過ぎるのを確認し、二人に赤町が通ったことをメッセージしながら、赤町のあとを追った。

後姿を眺めながら、神川は彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが、堪えた。

自分が帰りに家の近くまで送るから待ち合わせしようと行っても、最近は業務で遅くなる、子供の迎えに行くからなど、断られていた。

そんな彼女が、まさか自分の上司と何らかの関係にあるだなんて考えたくもなかった。だから神川ははっきりさせるために、後を追っているのだ。自分の行動を正当化しながら歩いていた。


神川の予感は悪いほうに的中してしまった。

赤町が利用してる駅まで後はこの横断歩道を渡るのみ。そういうところまで来ていた。彼女は交差点の信号が青になると同時に横断歩道を渡り始めた。後は駅のホームに入るだけだ。だが彼女はホームには入らずに左折してしまった。

まだわからない。左折した先はデパートなども並んでいる繁華街だ。もしかしたら彼女はそこへ向かうだけかもしれない。

神川は恐る恐る携帯画面を確認する。そして彼女が向かった先にGPSの位置情報を知らせる赤い丸が点灯していることを確認してしまった。


赤町は周りを確認することもなく、そこに止まっていた白の高級車の助手席に乗り込んだ。

中の様子は遠くて見えないが運転席にいる影の正体ははっきりしていた。白の高級車はそのまますぐに発進した。

神川はすぐに自分の携帯画面を確認し同時に長谷川に連絡をした。


赤町が神川隠れていたコースを通ったことで長谷川は車に乗り込んで細井の車両のある方角へ向かっていた。その途中で神川からGPSの表示画面のスクリーンショットが転送されてきた。

位置はわかっているのだから、目視で細井の車両を確認する必要はない、同じルートに向かってハンドルを切っていた。

細井が駅の近くに駐車していたことで、長谷川の車両はもうすぐそこにまで来ていた。ちょうど、GPSの位置に重なりそうなときに、白の高級車が動き出した。

長谷川はそのまま距離をとりながら後を追い車を走らせる。

しばらく車を走らせると川沿いの道に出た。片側二車線の比較的大通りなので、接近しない限りは長谷川の追跡に気づかないと思うが念のため5台ほど後ろを走っていた。

この道の左側は植栽もきれいに整えられている歩道になっていた。自転車の専用レーンもある。

右側にはこの地域で有名な河川が流れており、週末には多くの住人や観光客の散歩道にもなっている。夏に近いこの時期は、夕方といえどまだまだ明るい。のどかな気持ちとスリルを味わっている気持ちが半々で長谷川は感じたことのない感情になっていた。

まるで自分がスパイミッションでもこなしているかのように感じていたとき、神川からの連絡がきた。


今は細井さんはなにしてますか?

長谷川は一瞬どういう意味かわからなかった。普通に運転してるよ。

そのままを告げた後、神川が言った。

「GPS落ちたかも知れないです。画像送りますけど、少し前から止まってるんで。あれ?と思って電話したんですよ。

長谷川はあわてて画像を確認する。

確かに自分が数分前に通った道の真ん中に位置情報を示す赤いポイントが表示されている。

こうして初日の追跡はあっけなく幕を閉じた。

長谷川と神川は位置情報を頼りにポイントされている箇所に向かった。

ポイントされている箇所は植栽が整えられている歩道のあたりだった。

パッと見では機器がどこにあるかわからなかった。10m四方の範囲で位置情報が表示されているので発見まで時間はかからなかったが、二人は付近を捜しながら、本当に一緒に帰ってたことに対する驚きを口にしていた。

その日の夜は橋本部長、楠山に今日の出来事と、GPSがどうにか発見できたことを報告し、明日の機器の再設置に向けてより強力な両面テープと念のため結束バンドを用意したことを共有した。



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