表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/20

観兵式 始動!

 賢司が軍事パレードに観兵式という名前を付けてからしばらくが経過し、いよいよ4日後に開催予定となった。


 各地方貴族にも通達がなされ、皆大騒ぎで準備しているとの報告が奉文の執務室に届いていた。今この瞬間も、大和皇国中の貴族たちがこの一大行事、"観兵式"をその目に焼き付けようと、動いているのである。


「ははは、今頃各地の貴族たちは"何故前もって知らせておいてくれなかったのだ!" と文句を言いながら帝都に向かう荷造りをしている最中でしょう。まぁ、急いでも間に合わない貴族はいるかもしれませんが、そこは皇族の決定ということで、我慢してもらうしかありませんね。それにしても、完全に情報を秘匿されたまま開催までもって行かれるとは、流石父上でございます」


 真司が今回の式典を無事開催できたことについて、父奉文の手腕を褒め称える。


「ははは、確かに貴族たちは心底腰を抜かしておろうな。皇族主導で行われる、これほど大規模な行事がなんの事前連絡もなしに開催される。今まででは絶対にあり得ぬことであった。しかし、ここまで来れたのも皆のおかげだ。特に賢司、お前の数々の提案、非常に有用なものばかりで助かったぞ」


 奉文は今回の行事はほぼ全てにおいて、賢司の協力なしにはできなかったと考えている。情報は秘匿しなければならなかったが、練習はやはりしなければならなかった。

 そこで練習する日程も、部隊も、練習場所も全て事細かく決まり事を設けて行った。故に一切情報が漏れることはなかったのだが、実際に奉文がその練習風景を眺めている時に思ったことがある。それは、


 "これら全ての部隊が合わさって観兵式を行ったとしたら、鳥肌が止まらぬほど素晴らしい眺めであろうな"


 ということである。部隊を数日に分けて、練習していたにもかかわらずそう思ったのだ。奉文が本番に期待すると同時に、賢司が提案したこの対敵性勢力構想に感心を抱いてしまっても仕方なきことであった。


「ありがとうございます。これからもお国のために努力いたします」

「うむ、よろしく頼むぞ」

「はい」


 

 その後も細かい当日の動きなどを確認していき、いよいよ当日を迎えた。


「急に式典開催の宣言をしたはずだが、中央街道がもう埋め尽くされているではないか……これはしっかりと軍が行進できるように場所を空けるよう、規制をしなければいけないな」


 大和城にある自室から城下町を眺めながら、賢司は一人呟く。口調も一人でいるためか、前世のものに戻っている。


「まぁ、年に数回あるかないかの皇族主導の行事だ。こうなるのもある意味必然、か」


 今回、観兵式が行われるのは、大和皇国の帝都・王華(おうか)にある中央街道。そこは大型の馬車が4、5台並んで走っても通れるほどの広さを誇り、大和皇国の観光名所の一つとなっている。更にその中間地点には"大王門(だいおうもん)"と呼ばれる、見上げるほどの高さと大きさを誇る巨門が(そびえ)え立つ。

 これはまだ大和皇国が版図を急拡大する前に建てられた門で、名前の由来はその当時の臣民たちが君主に対して敬意を持って使っていた呼び方である"大王"から来ている。

 当時はまだ皇国も大国と呼べるほどではなく、聖皇という呼び方も浸透していなかったため、特に地方では大王呼びが当たり前であったのだ。そして、とある世代の聖皇が統治する時代に君主自らが指揮を執り、敵対関係にあった2カ国を一気に呑み込むことに成功した。その偉大なる功績を讃えるために建設されたのがこの門である。

 そして名前は当時広く浸透していた大王という呼称を取り入れて付けられた。


 この広場はそれだけの歴史・重み、そして伝統ある場所なのだ。そこで開催される大規模な式典。帝都に住む者で観に来ない者はほとんどいないと言っていい。



 そうして整えられた式典の場にて、いよいよ行進が行われる。賢司も最後列で馬に乗って行進すると決まっているので、皇族用に用意された軍服を着用していく。

 色は近衛抜刀隊と特戦魔導師団たちと同じ漆黒である。しかし抜刀隊達と区別するために、金の刺繍(ししゅう)や新たに作られた皇族用の勲章や肩章を装着する。そして式典の際に着用する軍帽を被り、会場へ向かうために部屋を出る。

 因みに、式典ではなく戦場にて被るのは、より防御力に優れた兜である。一般兵は鉄と魔銅で作られた兜、下級将校は鉄と魔銀で作られた兜、上級将校は魔銅と皇国でも僅かに採れる魔金で作られた兜、そして皇族の指揮官は魔金で作られた兜に加えて角をアダマンタイトで加工したものをそれぞれ装着する。そして今挙げた素材は全て、あくまで防御目的で加工されるため、それぞれの部隊の色に合わせて作られる。

 貴金属がその美しさを発揮するのは角の部分のみである。一般の部隊の兜はネズミ色で角のみ階級に応じて色が変わる仕組みである。近衛抜刀隊、特戦魔導師団、及び皇族は漆黒の兜で、皇族のみアダマンタイトの角が採用されている。



 この様な感じで、賢司たちは着々と準備を進めてきたわけだが、肝心の行進する軍隊はどういった編成なのかといえば、このような感じになっている。



 式典名:観兵式(かんぺいしき)

 開催場所:大和皇国帝都(やまとこうこくていと)王華(おうか)中央街道(ちゅうおうかいどう)

 行進部隊:近衛抜刀隊・特戦魔導師団・大公位及び公爵位貴族の私兵団

 総数:4万8千 内訳:近衛抜刀隊5千、特戦魔導師団5千

大公家二家1万4千 公爵家六家2万4千


 これらの軍勢で音楽も加えながら行進する予定である。賢司は予想以上の規模に満足している。


「近衛抜刀隊や特戦魔導師団の存在は知っていても、まさかこれほどの規模とは思わなかったよ。それに大貴族達の私兵団も凄い規模だ」


 着替えを行う時から側仕えである朝美を始め、何人かの使用人を伴っているため、現在は子供風な口調を意識して話す賢司。そしてその賢司の言葉に朝美は短く返す。


「これこそが、貴族派の貴族たちが迂闊に動けぬ理由でございます」

「ははは、納得したよ」


 賢司はそのように返事をしながら、朝美に対して流石だなという気持ちになった。よくよく考えれば、彼女も侯爵家の出であったのだ。この程度のことを理解するのは造作もないことであろう。



 そんなことを思いながら、賢司は奉文達が待つ部屋にまず向かう。そこで合流してから会場に向かうための馬に乗る。


 コンコン


 朝美がノックをすると、すぐに入室許可が出たので、賢司は部屋に入る。


「おぉ、来たね賢司。今回は君にとって初の公での行事だ。気を引き締めて臨んでくれよ」

「勿論です、貴文兄上」


 賢司が入室して早々に貴文が気合を入れるよう言ってきたので、賢司は力強く返事をした。


「まぁ、まだ始まってもおらんのだ。今から気負っても身が持たぬ。式典が始まるまでは、気を楽にしておくといい」


 奉文がそのように言ってきたので、賢司は頷くことで返事とする。



 


 それから10分ほどだった頃、担当の者が賢司達を呼びに来た。


「失礼致します。皆様、開会の準備が整いましたので、ご移動をお願いいたします」

「うむ、では行こうか」


 奉文の言葉に皇族メンバー全員で"はい!"と返事をすると一同はそのまま使用人の後に続いて、会場へと向かった。







 




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ