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試射と報告と提案

 賢司は山本伯爵と一緒に、山村子爵を追うように訓練場へと向かった。

 そして訓練場に入ると、そこには既に魔法の練習に使う的などが綺麗に並べられていた。そして、今回の魔導具は国家機密の兵器となるかもしれないからか、おそらく訓練場を使っていたであろう武士たちが一斉に山村子爵によって追い出されていた。


「流石、魔法のことになると有能ぶりが数倍になるね……」

「あの男はそういう者です。しかし魔法に対する純粋な情熱は、私も常々見習わねばと思う次第であります」

「確かに、僕も見習わなきゃと思うよ。ほんと、魔法への愛で彼に勝てる人間なんているのかな?」

「おそらく探すほうが至難でしょうな」

「だよね……」


 苦笑いを浮かべる賢司を横目に山本伯爵はこう思う。


(数年も経てば、貴方様も山村子爵ど同類になってらっしゃる気もしますがね……)


 賢司の魔法へ真摯に取り組む態度は山村子爵のそれに似ている、と山本伯爵は思っている。しかし、この考えは余計なことと分かっているので、流石に口には出さない。


「それでは殿下、早速ですが試射を始めてまいりましょう」

「うん、そうだね」


 賢司と山本伯爵は山村子爵のいる場所に向かうため、再び歩き出す。

 




 賢司、山村子爵、山本伯爵が揃い、的などの準備も整ったので、早速試射を始める一同。


「それじゃあ第一射目、行きますよお二人とも」

「はい! お願い致します!」

「殿下、お怪我だけは無きようお願い致します」


 忠臣2人の返事を聞いた賢司は、弾を銃本体の引き金がある部分の上部から装填し、装填口をしっかりと閉めて止金で確実に固定する。

 そして、体内魔力を徐々に流し込むと、空気中の魔力も吸い取りながら中の魔晶石が起動する。


 そして、賢司が引き金にに指をかけ、それを一気に引き切ると、



 ズバーーーンッ!!


 

 凄まじい破裂音と共に、金属の弾が的に向かって撃ち出された。そして着弾したであろう的を確認すると、


「す、凄い……当たった場所だけ貫通している……」

「金属鎧よりも硬く作られているあの的を貫通、ですと……」


 山本伯爵と山村子爵の驚き様を見て、満足する賢司。しかし2人の驚きはこれだけでは終わらない。


「ははは、驚いてもらえたようで何よりだよ。僕としても、成功してホッと一息つけたと言ったところかな」


 賢司がそう言うと、忠臣2人は口々に、"そうでしょうな" "本当に素晴らしい発明でございます"などと言っている。しかし、賢司としてはまだ満足のいく物となってはいない。


「ただね、今撃ってみて気づいたことがあるんだけど、この武器は欠点や改善点も多くある」

「欠点、でございますか?」

「はて、私にはそのようには見えませぬが……ッ!?」


 山村子爵は自身の見解を述べようとして、そこでハッと気がついたようだ。


「どうやら気付いたみたいだね。そう、この魔導具の致命的な欠点。それは、大気中から魔力を集めること」


 賢司がそう言うと、山本伯爵は訳がわからないと言いたげな顔になった。それはそうだろう。何せ、先ほどはこの魔導具の強みは大気から魔力を集めるが故に、魔法をたくさん使えない者でも強力な戦力になり得る、というものであったのだから。山本伯爵の混乱を読み取った賢司は更に説明を加える。


「山本伯爵、僕もさっき気づいたばかりなんだけど、よく考えるとね、大気から魔力を集めると言うことは一部の空間だけ魔力が薄くなるってことなんだ。それを軍隊規模で一斉に行ったとしたらどうなる?」

「!? なるほど、大気中の魔力が枯渇してしまう!」

「ご名答! つまり設計上、大気から魔力を集めるのは便利だけど、それだけじゃまだ完成形とは言えないんだ」

「魔導具とは、本当に奥深いものですね」

「でしょ?」


 賢司はニコッと笑いながらそう言うと、直ぐに代案を考え始める。その集中力は大人から見ても凄いと感じるものがある、と山本伯爵たちは思った。


 そうしてしばらく賢司が試行錯誤することおよそ十分。ある程度思考がまとまったのか、賢司が再度口を開いた。


「今さらっと考えてみて、出来そうだなって思った改良としては魔晶石に込められている魔力でも発射できるように魔法陣を組み替えてみる、もしくは魔導具本体に何か魔力伝導率の良い素材を追加して、これを魔力貯蓄機能として取り付けると言った感じかな」


 このアイデアに山本伯爵らは舌を巻いたような表情になる。一瞬でそこまで思いつく設計センスもそうだが、何より凄いのがそれら全てが無茶な発想ではないと思えてしまう点。ちゃんと手順を踏んで改良してやれば、その通りに設計・改良できそうな形にまで落とし込んだアイデアを口にするところが、道具の設計に対して深い理解があることを示している。


 しかし、今回は山本伯爵が手を挙げた。それに対して賢司はすぐさま発言を許可する。


「話してみて。山本伯爵」

「では、恐れながら申し上げますと、一つ目の改良案に関してなのですが、まだ少し懸念点が御座います。魔晶石の魔力を魔導具の機動維持と同時に、発射の際の魔力供給にまで使用してしまっては、魔晶石の魔力がすぐに空となってしまうのでは? 恐らくそういった用途であれば、2ヶ月も持たずに魔力切れになる気がしてなりません」


 山本伯爵の指摘はすごく的確である、と賢司は思った。実際その通りだからだ。魔晶石は魔金を超える魔力伝導率を誇るため、魔力貯蓄に使えればまだ希望はあった。しかしあくまで魔晶石は魔導具の動力源となるだけなので、言ってしまえば消耗品である。

 しかしそれに対して、魔金などの素材はあくまで魔導具の素材となるだけであり、動力源として魔力を消耗するわけではないので、永久的に使用可能だ。

 なのでこれらを魔力貯蓄の機能とする二つ目の案を採用するべきであろう。そう考えた賢司は山本伯爵に向き直り、発言する。


「そうだね。山本伯爵の言う通り、この案は致命的なほどに魔晶石と言う貴重な資源を消費する。よって却下だね。二つ目の他に適した素材を探した上で魔力貯蓄をできる機能を追加する方針でいこうと思うんだけど、山村子爵はどう思う?」

「わたくしも同じ事を進言致したいと思っていたところでございます。異論は御座いません」

「よし、決まりだね! すぐに改良、とはいかないからまた後日にしよう。取り敢えず今は陛下への報告を優先すべきだね」


 賢司がそう言うと、山本伯爵らは"御意"と短く返事をして、賢司の後に続いた。




 広い宮廷を歩くこと数分。ようやく聖皇の執務室に到着した。ノックをして入札許可を待つ賢司達一行。

 数秒後、中から護衛の近衛抜刀兵が顔を出した。そして賢司の顔を見た瞬間に姿勢を正す。


「陛下! 賢司殿下が来られました!」

「む? 直接訪問とは珍しいな。何かあったのか? とにかく通してやれ」

「はは! では殿下、中へどうぞ」

「うん、ありがとう」


 賢司達一行は促されるまま中に入る。そして今日の出来事を簡潔に報告していく。初めは真面目な雰囲気で聞いていた聖皇奉文だったが、次第に賢司が作ったと言う魔導具に興味が移っていってしまう。

 そして賢司が実物を見せた時点で、とうとう我慢の限界が来たようだ。


「素晴らしい! なんという画期的な発明なのだ! これは軍事に革命を起こす兵器となり得るぞ!」


 奉文は滅多に見せない興奮した様子で、ずっと魔銃を手に持ちながらあれこれ考えているようだったので、賢司は一先ず声を掛けることにした。


「陛下、今回の私の初魔導具作りはお気に召していただけましたでしょうか?」

「うむ! 非常に素晴らしい成果であるな。よく頑張ったぞ、賢司よ」

「ありがとうございます」


 賢司がお礼を言い、顔を上げると奉文は先ほどまでとは一変した様子で深刻な表情をしながら賢司に言葉をかけてくる。


「たったの一年で本当に成長したな、賢司よ」

「ち、父上? どうされたのですか?」

「うむ、成長した我が子を見込んで少し相談があるのだが、良いか?」

「えぇ、勿論でございます。何なりと」

「では、一度そこの椅子に座ってくれ」


 

 そうして、聖皇奉文と賢司2人が席につき、護衛の武士は外に下がらせる。そして山本伯爵と山村子爵には部屋に残ってもらうように奉文が指示を出し、2人は奉文と賢司が座っている椅子の中間に立ち、待機する。

 こうして準備が整ったのを確認してから、聖皇奉文は相談とやらの内容を賢司に話し始める。


「賢司よ、お前はすでに政治もしっかりと学んでいると報告を受けている。それならば、我が国を取り巻く状況もすでに理解しているな?」

「はい、父上。大まかには近年、西のハープスブルック王国から離反工作を仕掛けられている節がある、我らの属国に離脱の空気が漂い始めていると。しかも一国ではなく複数でです。そして国内でも、主に伯爵や子爵などの中堅貴族が中心となり、聖皇の座を手にすることで得られる富と権威を狙っている不届き者が一定数集まり、派閥を形成している状態。彼らはどうやら、これからは"貴族派"である自分たちがこの国を導くなどと宣っているようですね」


 そこまで賢司が述べると、よく勉強していると感心したように奉文が表情を綻ばせる。

 しかし賢司が続きの内容を述べ始めると、再び引き締まった表情となる。


「そしてこの派閥に対抗するように台頭しているのが、"皇族派"。数は少ないですが、主に大公や公爵などの大貴族が中心となり、派閥を形成。聖皇陛下御自らの手でこの国は統治されるべきとする考え方の者達です。この者達は我らの味方とも言えるので、放置で良いですが問題は……」

「うむ。やはり厄介なのがもう一つの派閥、"常道派"か」

「はい。この者達は主に、辺境伯や侯爵などの上級貴族が中心となり、組織されている派閥です。そして彼らの理念は"貴族とは、それ即ち国家から与えられた職務を全うする存在"というものです。国の頂点が誰であろうが、その時の聖皇から与えられた職務を全うするのが仕事であり、それ以外のことに注力するのは言語道断であるという考え方」

「ある意味、我らに味方しているとも言えるが、彼らが美徳としているのは聖皇からの仕事、つまり貴族として国を発展させるというのを1番に考える事。故に貴族派はもはや論外として、勢力争いにかまけていると解釈することができる皇族派の味方でもないということだな」


 そこまで話して、賢司と奉文は深いため息をつき、一度休憩するためにお茶を口に運ぶ。

 そして喉を潤した後、すぐに賢司が口を開く。


「しかし気になったのですが、この勢力図ですとどちらかと言えば、貴族派が不利ですよね? なのにどうしてこのような危険な賭けに出ているのでしょうか?」

「それは恐らく、貴族派の方は数が桁違いだからだ。中堅貴族から下は、もはや専門の教育を受けた者でないと、数も分からぬと聞く。故に数の暴力で対抗してきているのだ」

「そうなのですね。では何故実際に行動に移さないのでしょう?」


 賢司がそう疑問を口にすると、奉文は急に得意げな表情となる。


「それは、我が国最強の皇族直下武士団、近衛抜刀隊と特戦魔導師団が全てこちらについているからだな。現状、戦っても勝算が極めて低い事を理解しているのだ」

「それは非常に心強いですね!」

「あぁ、とても頼りになる者達だ」


 そうしてここまで政治の話をしてきて、ふと気づく。


「そうでした! 本題を忘れてしまうところでした。政治の話をしましたが、父上が仰っていたご相談とは一体……」

「あぁ、そうだな。率直に聞こう。今現状、皇族直下部隊と大貴族達の協力で絶妙な均衡を保っている状況だ。これをさらに形勢をこちら有利にしていくには、どうすれば良いか。お前に何か案はないか?」

「な、何故そのような重要事項を僕にお聞きになるのですか?」


 賢司としては純粋な疑問である。いくら政治を学んだとは言え、まだまだ学生のお勉強の範疇であると言わざるを得ない。そんな状況で何故自分に聞くのか? と疑問に思ってもしかたなき事である。

 しかし奉文は一切動じた様子もなく、こう述べた。


「それは賢司、お前が日々頑張っている姿をこの目で見ているからと言うのもあるが、今回の魔導具の発明で分かったことがあるというのが1番の理由だ。それは、お前はその歳にしてはかなり視野が広い。いろんな視点でモノを見ることができるお前になら、何か打開策を見つけられるような気がしてな」

「父上……」

「すまない、一国の君主たる者がこの体たらくでは、情けないという言葉以外に何も言えんかもしれん。だが、是非ともお前の考えを聞いておきたいと思ったのだ」


 尊敬する父奉文からここまで言われて、否という選択肢は賢司にはない。故に答えは決まっている。


「仰せのままに、父上。それと、情けないなどと仰らないでください。僕は父上のことを心から尊敬しております。ですからお顔を上げて、いつもの格好いい父上でいてください」

「賢司……あぁ、そうであるな! 大和皇国の君主たる私がこの程度でへこたれるわけにはいかぬ!」


 聖皇奉文の顔色が少しだが良くなった気がする、そのように思った賢司はさっそく話題を切り替えるために奉文に声を掛ける。


「父上、それでは早速ですが、僕の案をお伝えしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、勿論だ。と言うよりも、もう既に案を思いついたのか?」

「ええ、これが効力を発揮するかどうかまでは分かりませんが、試してみる価値は十分あるかと思われます」

「是非聞かせてくれ」

「はい。それは……」


 賢司としては、この案はかなり良いのではないかと考えている。前世の祖国でも行われていたことでもあり、賢司は今でもあの景色を鮮明に覚えている。

 それは、


「軍隊の行進を大規模な式典として行えばよろしいのではないでしょうか?」

「何? 軍の行進、だと?」

「はい、実は以前に軍事の勉強をした際に、他の国ではやっているところもあるが、この国ではやっていないと聞き及んでおりまして……普段ならばそこまで深刻に考える必要もないかもしれませんが……」

「軍の武威が役に立つかもしれないこの状況下では、やってみる価値がある、と」

「はい」


 

 その後もしばらく賢司と奉文は打開策の話し合いを続け、最終的に賢司の案が見事採用されることとなったのである。

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