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武術の訓練と癒し

 魔法の勉強と訓練があった翌日、今日は武術の体験をするために、賢司は再び訓練場に来ていた。


「おはようございます。殿下」

「おはようございます。本日もよろしくお願いします。殿下」


 山村子爵と山本伯爵が既に訓練場で待機していて、賢司に挨拶をしてくる。


「おはよう、2人とも。今日もよろしくお願いします」

「はい、勿論でございます。それでは早速ですが、柔軟体操を行いましょうか」


 今日は普通モードの山村子爵に面白さを感じながらも、賢司は頷いて柔軟をし始める。


(魔法の話ではなくなると、こんな感じでまともなのか?)


 そんなことを考えた賢司であったが、普通に接してくれるのならば、特に弊害はないとしてスルーする。


「さて、殿下。体操も終わったところで、お聞きしたいのですが、殿下は何かやってみたい武器などはございますか?」

「武器?」


 賢司は言われてみれば、そんなことを考えたことはなかったなと思い、急いで考えてみる。武術とは別に体を使って相手を戦闘不能にするものだけではない。と言うより戦場においては、武器を持つことが一般的なのだから、武器を用いた武術の習得を考えるのは当然のこと。


 素早く思案した結果、出てきた答えは……


「刀と薙刀(なぎなた)の二つを習うことってできるかな?」


 賢司がそう言うと、2人少し驚いた顔をする。


「二つ同時に習得、ですか」

「駄目、かな?」


 賢司の不安げな質問に2人はとんでもないとばかりに首を振る。


「そんなことはございませんよ。ただ、今までそういう習得の仕方を目指される方は少なかったもので、驚いてしまっただけです」

「そうですね、私も山本伯爵と同意見です。別に悪いことではございません。私は魔法の方が得意なので、基本は暗器を使い、どうしても接近されてしまった場合は体術で対処するか転移で距離を取るという方法を取っておりますが、やはり常々思います。武器は扱えるに越したことはない、と」


 2人の意見を聞き、別に2種類の武器を習うことがおかしいわけではないと知り、賢司はひとまず胸を撫で下ろす。


「それじゃあ、お願いできるかな?」

「承知いたしました」


 


 それから賢司は、基本的な体の使い方を教わった。そしてその体の動きの中で、自然に武器を持った時の動きができるように特訓をしていく。


 そして分かってきたことが、


「殿下は運動もお得意なのですか……」

「え?」


 賢司は山本伯爵にいきなり褒められて、驚きに手を止めてしまう。


「いえ、あまりにも順調に技の一つ一つを覚えていかれるので、少々、いやかなり驚いております」

「そう?」

「えぇ、普通ならば今の技は半日か、ゆっくりであれば1日かけてじっくりと物にしていくものです。そこから日々の鍛錬でより鋭さを洗練していく、そういう流れなのですが……殿下は既に洗練という最終工程に入ってらっしゃる。たったの数時間で……。もはや驚きますまい。はははは」


 今は体をどう動かせば、効率的に敵を戦闘不能に陥らせられるか、つまり体術を学んでいる最中の賢司。しかしあまりにも筋が良いので、早い段階から動きに武器を追加する段階に入れそうで、山本伯爵は驚いているのだ。


 しかし賢司としては疑問なのだ。なぜかと言うと、


(私は前世ではそれほど運動は得意ではなかったのだがな……。おそらくだが賢司としての肉体が運動神経や反射神経がいい方なのだろう)


「まぁ、あれじゃないかな? 筋が良いのは悪いことじゃないし、むしろ何かを学ぶのには都合がいいじゃない」

「確かに、そうですね。それでは、続きを頑張りましょうか」

「うん、そうだね」


 こうして賢司と山本伯爵が会話している間、特にやることがなかった山村子爵は賢司のために用意された刀と薙刀を手入れしてくれていた。


 2人でそれぞれ役割を把握して、的確にこなしてくれている。



 

 そこから約30分程、型の確認などを丁寧にしていって、今日は終わりとなった。朝美が布を持ってきてくれたので、それで体を拭いた後、賢司は流石に疲れたので訓練場の隅っこで水分補給をしながら休んでいた。

 すると訓練場の入り口の影から何かが見えた。それも3つ縦に並んで見えている。扉の低い位置から見えるそれら三つの物体が何なのかは、賢司にはすぐに見当がついた。なので声を掛ける。



「おーい、三人とも。そんなところで隠れてないでこっちにおいで」


 賢司がそう声を掛けると、恐る恐る出てくる聡を先頭に、結衣と真衣が後に続いて出てくる。


 トボトボと可愛らしい歩き方で賢司の方へ一直線に歩いてくる彼らは、その勢いのまま賢司の胸に飛び込んだ。


「兄様ー!」

「「お兄様!」」


 賢司はいきなり三人に飛びつかれ、少しよろめいてしまったが、しっかりと受け止め切って再び元の体勢に戻った。

 

「こらこら、3人とも。元気がいいのは良いことだけど、山村子爵と山本伯爵の2人にご挨拶が無いのはいけないな〜」


 賢司がそう言うと、3人とも直ぐに起き上がって山本伯爵たちに向き直った。

 そして、


「やまもとはくしゃく、やまむらししゃく、おはようございます!」

「「おはようございます!!」」


 聡の拙くとも必死で元気一杯な挨拶の後、結衣と真衣が続く。その様子に、山本伯爵、山村子爵両名は、


「聡殿下、結衣殿下、真衣殿下、おはようございます」

「皆様、おはようございます」


 一見挨拶はまともそうに見えるが、その顔は目に見えるほど緩んでいる。デレッデレである。3人の可愛らしい幼児に一生懸命挨拶なんてされたら、誰でもノックアウトというものである。

 

 そして賢司はと言うと、


「うん! 3人とも良くできました! 偉いねぇ。弟と妹がお利口さんで兄様は嬉しいよ!」


 完全にタガが外れている状態である……。


「賢司殿下がここまで感情を露わにされるところを、私は未だかつて見たことがない……」

「私もです、山本伯爵……。殿下が兄妹思いであるというのは伺っておりましたが、まさかこれほどとは……」


 2人は普段、絶対に見れない賢司の姿に完全に気圧されている。


 

 そんなこんなで、いきなり賑やかになった訓練場でワイワイやっていると、聡が急にモジモジとし始めた。賢司は何事だ? と思い、本人に聞くと、


「あ、あの、ね……兄様」

「うん、どうしたんだい?」

「その……」


 なかなか言葉を続けない聡に疑問を覚えた賢司は、再度続きを促す。


「遠慮しなくて良いんだよ? ほら、言ってごらん?」

「うん……。あのね! その、お菓子を、一緒に食べたい、なって思って……」


 上目遣いでお菓子を一緒に食べるおねだりをしてくる弟に、賢司は完全にノックアウトされた。


(私の弟が反則的に可愛いすぎる……)


 そして聡が勇気を出して言葉にしたのを見たからか、結衣と真衣も口を開いた。


「お兄様、ダメ、ですか?」

「わたしもお兄様とたべたいです!」


 聡に続き、妹2人にも上目遣いで頼まれた賢司。最早この男に、ここで断るという選択肢はなかった。


「ねぇ、山村子爵、山本伯爵」

「……はい」

「……なんでございましょう?」


 さっきまでデレデレでだらしない顔をしていた賢司が急に声のトーンを落として声をかけてきた。それに対して些かの恐怖心を覚える歴戦の猛将2人。他の者が見れば、異様に映る光景であることだろう。


「ウチの弟と妹は可愛いよね?」

「はい、勿論でございます!」

「正直、賢司殿下が羨ましくなりますぞ」


 2人が言ったことは勿論本音だ。しかし即答したのは、そうしなければならない圧力に晒されているような気がしたからだ。

 

「そうだよね! そうでしょうとも!」


 その答えが気に入ったのか、再びテンションが元に戻る賢司。その様子にホッと胸を撫で下ろす両武将。


「そういうわけだから、この後1時間ほど休憩をいただいても良いかな?」

「勿論でございます」

「家族と過ごされるのも大事な時間ですからね」


 2人のその返事に賢司はニコッと微笑むと、両手で兄妹たちと手を繋いで訓練場を出ていった。


 そして2人は思っていたことをほぼ同時に話し出す。


「正直、今日はもう終わりにしよう、と言われるかと思いました」

「私もだ、山村子爵。賢司殿下の予想以上の兄妹愛に驚いたが、それ以上に家族を大事にしながらも、学びを疎かにはしない。その姿勢に私は感銘を受けた」

「えぇ、私も同意見でございます」

「絶対に殿下の頑張りを実りあるものにして差し上げるぞ。共にな」


 山本伯爵のその言葉に、


「はい、必ずや!」


 山村子爵は力強く答えるのであった。




 山本伯爵、山村子爵両名が決意を新たにしていたのとほぼ同じタイミング。皇宮のとある一室では。


「はい! 兄様、このお菓子どうぞ!」

「わぁ、ありがとう聡! 君は本当に優しい弟だね」

「あ〜! 聡お兄様ズルいです! わたしも賢司お兄様にお菓子あげるの!」

「あげるの!」


 聡が嬉しそうに賢司にお菓子を渡している様子を見て、結衣と真衣もお菓子をあげるんだと張り合う。


 賢司にとっては、彼らと遊ぶといつも目にする光景ではあるのだが、いつ見ても微笑ましく、幸せだと思う。

 兄や姉たちは自分よりも大人でしっかりしているので、守ってあげようとか、面倒を見てあげようとか、そういうのは必要ない。


 しかし自分より下の子達はまだまだ幼く、面倒を見てくれる人間が必要である。なのでこうして定期的に一緒に遊んであげているのである。だからこそ賢司は強く思う。


 "守ろう。この小さい笑顔を" と。


 賢司はその強い覚悟を胸の奥に仕舞った後、再び聡たちとのお茶会を楽しむのであった。

 

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