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軍事革命の恐ろしさ2

 耳をつんざくような轟音と吹き飛ばされそうなほどの爆風。そして目を潰さんとするほどの眩い閃光に辺り一帯が包まれた。

 

 閃光が収まった時、眼前に広がる光景を目にして、賢司以外のすべての将兵達が戦慄した。


「こ、これは……」

「なんと言う圧倒的な破壊力……」


 山村子爵と山本伯爵はそんな言葉を発するだけで精一杯だった。それもそうだろう。そこには慈悲や容赦などというものは存在せず、在るのはただただ破壊のみ。


「いくら魔銃部隊の一斉掃射があったとは言え、たった6門ですよ?」

「うむ、この数の砲撃だけでこれほどの破壊を生み出せるのであれば、百台単位で生産を成功させた暁には他国が全く対抗できない強軍の出来上がりだな」


 忠臣二人の率直な感想を横目に賢司はすぐさま次弾装填命令を出す。


「総員、二射目用意!」


 賢司の命令にすぐさま反応し、武士たちはせっせと次弾の装填作業に入る。魔導砲は火薬を使用しないシステムなので、砲弾を込めるだけで装填完了である。故に十数秒で発射準備が整った皇国軍は賢司の発射命令を静かに待つ。そして……


「発射!」


 賢司の発射命令に反応した武士たちは、待ってましたと言わんばかりに2射目を放った。



 再び響き渡る怒号と絶叫が戦場の残酷さを物語っていた。吹き飛んだ腕を見て失神する者や膝から下が無くなっていることに気づかず這って逃げようとする者。砲撃を直に喰らって跡形も無く消し飛ぶ者。


 攻撃を受けた側が皆一様に感じたことは、"このままここにいれば確実に死ぬ"ということであった。爆炎と土煙が収まる頃には敵の中央隊列は木っ端微塵に粉砕されていた。


(おおよそ百数十名の損失と言ったところか……ふむ。奇襲作戦にしてはなかなかの出来だな。ならば次は……)


「総員撤収! 魔導砲部隊は砲の分解・収納を急ぐように! 他の部隊は近衛抜刀隊と特戦魔導士団を支援する形で敵の攻撃に備えよ! なんとしても砲兵を守り抜くんだ!」


 賢司の的確かつ迅速な指示に皆驚きつつも、直ぐに作戦行動を開始する。


 しかし敵も貴族の私兵で精鋭揃いなため、すぐに反撃態勢に移行してきた。討たれた仲間の仇を討たんとするその士気の高さは尋常ではない。


(いや……士気が高いというよりもあれは、突然窮地に追い込まれた恐怖を振り払うために己を鼓舞しているのだろうな。その気持ちは痛いほど分かる……しかし、ここは戦場だ。遠慮はしない)


 そして賢司のその思惑通り、戦場は一方的な様相を呈し始めた。まず見て分かる変化で言えば、近衛抜刀隊と特戦魔導士団の参戦である。初めは士気が高かった敵の武士達も彼らを見た瞬間、足を止めた。


 それは別に警戒といった意味合いでは無い。ではいったい何故か? それは至って単純な理由であった。


 "本能的な恐怖" である。近衛隊員や魔導士団員が放つ圧倒的な魔力の覇気によって立ちすくんでしまったのである。このまま一方的に反乱軍を倒して終わる。そう思われたが、意外にも敵はすぐに反撃を再開した。


「ほう……流石は貴族の私兵、といったところか。しかし……」

「ええ。敵の中に見覚えの無い変わった装備をしている者が一定数いますね。貴族は私兵を持てるとは言え、装備は皇国支給のものを使用しますからね。ということは傭兵、といったところでしょうか?」

「いや、彼らの蜂起理由から考えると、その可能性は薄いだろうね」


 山村子爵と山本伯爵が会話しているところに一通り指示を出し終え、撤退の準備も済ませた賢司が入ってきた。バッと音が聞こえそうなほどの勢いで跪く彼らに賢司は楽にしていいと合図を出しながら会話を続ける。


「確かに数を揃えるだけならば、傭兵は便利だし即戦力になる。しかし彼らが反乱を起こしたのは、やり方が大いに間違っていても、国を思う気持ちが強いから。ということはその一致団結した結束の中に大義の無いお金だけの連中を引き込むとは考えにくい」

「確かに……」


 山村子爵が納得したような様子を見せるのとは裏腹に、山本伯爵は腑に落ちないという表情を浮かべている。


「どうしたの? 何か意見があるなら言ってみて山本伯爵」

「……はっ。恐れながら、私としてはやはり数を揃える必要はあるかと存じます。彼らは思想は高貴なれど、国家に反旗を翻したのは事実。極刑は免れませぬ。万全を期して戦いたいはずですが……」


 賢司はしっかりと山本伯爵の話を最後まで聞いた後、ゆっくりと口を開く。


「それこそ最も傭兵を使ってはいけない理由だよ。山本伯爵」

「な、何故でしょうか?」


 分からない、と言った様子の山本伯爵にニコッと笑いかけて賢司は話を続ける。


「反乱を一度起こしてしまったが故に後がない反乱軍は万全を期して戦いたいはずだよね?」


 賢司の問いかけに二人は神妙な様子で頷く。


「だからこそ、お金で雇われているだけで、命を落とすかもしれない状況に陥った時、逃げ出す可能性がある傭兵は絶対に雇いたくない筈だからね」

「た、確かに仰る通りですね……ご慧眼(けいがん)、流石でございます」


 山本伯爵が深く頷いて肯定するのを確認すると賢司はすぐさま視線を前へと向ける。


「そうなってくると、別の勢力の介入を疑わなければならないけど……その前にそろそろ砲兵の撤収準備が整いそうだ。考えるのは後にして二人は撤退の指揮をとってほしい」

「かしこまりました」

「御意」

 

 砲兵と魔導砲を一切失わずに撤退行動に移ることができた賢司達一行は直ぐに帝都へと引き返した。しかし、敵もそれを易々と見過ごすほど馬鹿ではないので、追撃を仕掛けてきた。


 それを近衛抜刀隊や特戦魔導士団が殿を引き受けながらなんとか受け流していく。

 賢司は今後の勉強のために抜刀隊や魔導士団員の戦いを目に焼き付けた。


「流石は貴族の私兵団。勝てないとわかっている筈なのに、命令への忠実さは尊敬に値する。だがそろそろ諦めてもらおう!」


 殿を務めている部隊の隊長らしき人物が馬の上で器用に立ち上がった。それを見て警戒態勢に入る敵兵。

 しかし、そんな警戒は無意味とばかりに抜刀隊員の部隊長は強烈な攻撃を繰り出し続ける。


爆光連閃(ばっこうれんせん)!」


 強烈な閃光と真紅の炎が三日月の形状を維持しながら敵へと殺到する。まさに雨霰(あめあられ)のように大量の斬撃を連続斬りの要領で繰り出す隊長の技に、賢司は思わず舌を巻いた。


「山村子爵。あの術式は見たところ、炎の上級魔法『爆光連球(ばっこうれんきゅう)』をいじった独自魔法だよね?」

「仰るとおりかと、殿下。この手の魔法に関してはおそらく山本卿の方がお詳しいかと存じますが、私の目から見てもあれは爆光連球の独自魔法ですね」


 確認の意味も込めて賢司は山本伯爵の方をチラリと見たが、しっかりと首肯する姿を見て自分の意見は間違っていなかったのだと安心する。すると今度は山本伯爵が口を開いた。


「基本的に抜刀隊員は近接戦闘が主な任務です。ですので遠距離魔法に関してはあまり多用することはありません。しかしそれらの魔法が強力であることに変わりはありませんので、自らが扱いやすい魔法へと独自に改良する者が多数おります」

「なるほど」


 そんな会話をしていると次は特戦魔導士団の部隊長らしき人物が魔法を使い始めた。彼が使うのは魔法陣の色から見て風魔法である。


「大いなる災禍を(もたら)す旋風よ愚かで矮小なる生き物に裁きの鉄槌を! 『大旋嵐禍(だいせんらんか)』」


 巨大な風の渦が形成され、それが徐々に地上に降りてきて、空と地面を一瞬にして繋いだ。


(なるほど。前世を知る私からすれば、世に言う竜巻ではないかと思うが、この世界では竜巻とは呼ばないのかもしれないな。それにしても凄まじい威力だな。敵の部隊がみるみる壊滅していく)


「この調子ならば敵は早々に追撃をやめるだろうね」

「えぇ、仰るとおりでございます。これ以上犠牲を出しながら深追いしてくるのは最低の愚策です。ただそれも、敵に真っ当な指揮が出来る有能な者がいればの話ですが……どう思う? 山村卿」

「石丸伯爵は短絡的な面もありますが、無能ではありません。その辺は弁えているでしょうからその内追撃も収まることでしょう」


 二人の意見を聞いて、ならばと次の行動に移る。


「よし、ここからはひたすらに全力疾走だよ! それが殿役にとって1番助かるんだからね! では総員、馬脚を早めろ!」


 そこからはただひたすらに賢司たち奇襲部隊と、敵の追手との追撃戦であった。しかしある程度の距離を追いかけると、反乱軍も流石にこれ以上はまずいと言う判断を下したのか、撤収していった。



 


 数時間後……。

 見事最小限の犠牲で抑えて反乱軍の追撃を張り切った賢司一行は夜も更けてきたため野営の準備に取り掛かった。


「よし、しばらくは僕の出番は無いわけだね」

「はい殿下。しばらくはゆっくりとお休みになられた方がよろしいかと」

「私もそう思います。殿下は今回が初陣。しかも初陣とはとても思えないほどの指揮力を発揮され、多くの戦果を出されました。殿下が思っておられるより疲労が溜まっている筈です」


 忠臣二人の心配が嬉しくてつい頬が緩む賢司。ここは大人しく二人の言うことを聞くことにする。


「分かったよ。また何か進展があったら報告してね」

「「御意」」


 二人の力強い返事を聞いた後、直ぐに強烈な眠気が襲ってきたので、賢司はそのまま眠りについた。

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