表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/22

軍事革命の恐ろしさ

 笑顔で戦場に出ると堂々の宣言をする賢司に対し、奉文は当然否を唱える。


「賢司、お前は自分の立場を分かって言っているのか? お前はこの国を統治する血族の一員なのだぞ?」

「はい父上。よく分かっております。この場において国家存亡の戦いに赴くための指揮者を務めるべきなのが私ということは十分にわかっています」

「いや、分かっていない! なぜお前が行くべきなのだ! 全くもって理解できん!」


 奉文の言葉に他の貴族たちも便乗し始める。


「そうですよ殿下! 戦いは我らにお任せください!

殿下のその知識と魔法研究への情熱は他の誰も代役を担えません!」

「北条卿の言うとおりです! 殿下は今後もご活躍されるでしょう。このような所で命を危険に晒すのは賢明とは申せません」


(父上もそうだが、皆随分と止めるのだな。まぁ、それもそうか。普通に考えればまだ初陣も経験していないヒヨっ子が国の命運を握る戦の指揮を担うべきと自分から言うなど、自惚れているにも程があるし、皇族という身分を加味すれば頭がおかしくなったのかと言われても仕方がない。だが……)


「何を言っているの? 南条卿、北条卿。貴方達の方が戦場では欠かすことのできない人材だよ。優秀な指揮官が生きて機能しないと下の幹部や武士達が困ることになる。だから貴方達を無駄に危険に晒すようなことはできない。それに父上も含め、皆さん勘違いをなさってるようですね」

「何? どういう事だ?」


 奉文を含めて皆が疑問の表情を浮かべる中、賢司は構わず話を続ける。


「僕は別に身の危険があるような戦いに赴くわけではありません。山本伯爵や山村子爵もいますし、近衛抜刀隊と特戦魔導士団の運用も許可していただけるんですよね? まだ実戦の経験はありませんが、私自身も魔法が使えます。ついこの間、炎の上級魔法も習得しましたし、よっぽど無警戒な行軍をしない限り不覚を取ることは無いでしょう」

「いや、しかしだな……て、うん? 賢司よ、今なんと申した? 余にはお前が炎の上級魔法を習得したと聞こえたのだが?」

「仰るとおりです」

「……」


 奉文は真顔で数秒停止し、その間に他の大臣達が口を開き始めた。


「なん、と……。ついこの間雷と氷の上級魔法を習得なさったと報告で聞き及んでおりましたが、まさか炎までも……天賦の才などと言う言葉を安易に使うのは嫌いですが、これは正にその言葉しか殿下の素質を形容できませんな」


 南条大公が賢司の魔法の素質に舌を巻いている様子を見て、他の貴族達も口々に賢司を褒めるようなことを言い始める。


「はぁ……お前が優秀なことは分かっていたつもりだったが、まさかこれほどとはな。確かにそれほどの魔法の腕と知恵があるならば負ける方が難しい、か……相わかった! 今回はお前の好きなように動いてみるといい。何かあればこちらから援助する。このような形で良いな?」


 奉文の許可が降りたので笑顔でお辞儀をして早速部屋を出ていく賢司。その後ろを山本伯爵と山村子爵が追従する。


「直ぐに出立の準備をしてほしい。僕も着替えを済ませたら直ぐに合流する」

「かしこまりました」

「お任せください」


 忠臣二人の返事を聞き、賢司は颯爽と自分の部屋へと戻ったのだった。




 賢司が出て行った会議室にて……



「全く……我が息子はいつもいつも余の想像のはるか上を行く……」

「ははは。陛下、それは我らとて同じです。彼の方の想像力と先を見通す目、そして何より圧倒的な努力により裏打ちされた実力。それらはもっと年齢を重ねて培われていくもの。あのお年でそれを備えてらっしゃることがもう既に常識の範疇を越えているのです」

「そうよのぉ……ハハハ……今後もあの子には頼っていくことになるかもしれん。しかしまだ子供で乗り越えることが難しい問題も沢山出てくるであろう。その時は是非とも其方らの力を貸してやってほしい」


 奉文のその言葉に臣下たちは姿勢を正して"御意"と返事をした。




 部屋に戻った賢司は直ぐに聡たちを自室に呼んだ。これから戦でしばらく家を空けるので、その間遊んであげられないことを伝えるためである。


「兄さまがせんじょうへ?」

「たたかいに行くのですか?」

「こ、わいです……兄さま、どこにも行かないですよね?」


(やはり声をかけておいて正解だったな……出陣を伝えずに留守になんてしたら大変なことになってただろう)


「3人とも落ち着いて。確かに僕はこれから戦いに行くけど、別に死にに行くわけじゃない。ちゃんと帰ってくるって約束するからいい子で待っていてくれるかな?」

「グスッ……わ、分かった! 兄さま頑張ってね!」

「また、あそんでくださいね?」

「おかしも食べましょうね?」


 賢司の問いかけに対して彼らは困惑しながらも、決意した目で賢司を見つめてそう答えた。兄を困らせまいという下の子達なりの配慮なのだろうと賢司は考えた。


「うん。約束だ。それじゃあ僕は母上と姉上に挨拶に行ってくるね」


 そう言葉を残して賢司は部屋を出た。向かう先は母咲子の部屋だ。


 コンコン


「はい。どうぞ〜」


 いつものように優しく包み込むような声で返事をする母に安心感を覚えつつ、賢司は入室した。


「失礼致します。あ、姉上もいらしてたんですね」

「そうなの〜。母上に少しお話があってね」

「そうだったのですね」


 その後、賢司は咲子と由紀にことの成り行き全てを話した。二人はとても心配していたが、最終的に"奉文が承諾したのであれば自分たちから言うことはない。気を付けなさい"とだけ言って送り出してくれた。

 賢司としてはある意味父親の奉文よりも難敵と思っていたが、思ったよりも自分の気持ちを尊重してくれた。その配慮に感謝して賢司は部屋を出た。




 全てのやるべきことを終えた賢司は、いよいよ自分を待つ武士達の元へと向かった。厳かしい顔つきで皆が出陣を待っている。その様子を確認した後、賢司は彼らに声を掛ける。


「皆、よく集まってくれたね。今回の遠征で指揮官を担当する第三皇子の賢司だ。宜しく。正直なところ、まだ初陣も経験していない子供に命を預けて戦うことに抵抗がある人もいるだろうと思う。もう正直そこは僕の実力をその目で見てもらうしか判断材料は無いと思う。だからこそ今回で証明する! 僕はこの戦いで国を守る指揮官の一人になれると言うことを! そして光栄なことに、この国家存亡の戦いの前哨戦を僕たちは陛下よりお任せ頂いた!」


 初めは不安が散見される顔をしていた武士達も"国家存亡の戦い"という言葉を聞いて、次第に眼光の鋭さを増していった。


「僕からみんなに言明することは一つ! 決して無駄死にになるような戦い方はするな! 撤退することで体勢を立て直せる局面ならば即座にそうすること! 戦とは局地的にいち部隊が粘っても勝てるものじゃない! 全部隊が大局的に状況を見て戦ってこそ初めて勝利が訪れるんだ! 僕が前進と言えば前進! 死守と言えば死守! 撤退と言えば撤退! これを肝に銘じること! 良いね!」


 賢司の演説を聞いていた武士達は皆、あまりの力説にぽかーんと口を開けて圧倒されていた。しかし言われた言葉一つ一つをしっかりと脳内で反芻することによって次第に繊維が掻き立てられていったのか、全員闘志がみなぎって手を高く掲げ、雄叫びを上げていた。


「よし! それでは出陣!」

「「うぉーーーーッ!!」」




 行軍開始から早三日ほど経った頃、ようやく賢司たち一行はその視界に杉原伯爵領を捉えていた。


「よし、杉原領が見えたということはここが目的地の街道だね。総員、準備に取り掛かるよ!」

「「はッ!!」」


 賢司のよく通る声に反応するように武士達はハキハキとした声で返事をした。



 1時間後……


「殿下、固定式魔導砲6門の準備が完了いたしました。騎兵、歩兵、魔銃兵の展開も既に完了しております。敵が到着し次第、すぐに攻撃を始められます」

「ありがとう山村子爵。あとは接敵の時を待つだけだから見張りを数十名ほど配置して残りは野営の準備に取り掛かろうか」

「ははッ!」





 2時間後……


「ついに来たね。反乱軍が」

「えぇ。あれほどの数が行軍するとやはり壮観ですね。圧倒されそうになりますが、こちらも準備を重ねております。いつでも攻撃の号令をお掛けください」

「ありがとう。山本伯爵も準備はいいかな?」

「はい。奴らを血祭りにあげる準備が整っております。いつでもご下命ください」


 賢司は軽く頷くことで返事とすると、その後はずっと反乱軍の動きを注視していた。そして、ようやく敵が森林地帯の街道に進入し、部隊の中ほどまで進んだところで遂に賢司は命令を下した。


「総員、撃てぇ!!」


 ドドドドドドン!!

 バンバンバンバン!!


 


 こうして魔導砲と魔銃の轟音によって瞬く間に開戦の火蓋が切られたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ