新兵器の試験投入
この度は大幅な投稿遅延、誠に申し訳ございませんでした。これからも更新頻度については不明瞭なところはございますが、投稿は続けられるようにするつもりです!
よろしくお願いいたします!
方針が決まった賢司たちは直ぐに皇族派陣営の貴族を召集した。大貴族たちは基本的に領地に代官を派遣し、自らは皇宮で仕事をしている者ばかりであるため、招集にはそれほど時間がかからなかった。
しかし、先ほどの会議で彼らを招集しなかったのには理由がある。
「全公会談?」
「うむ。公爵以上の全ての大貴族が集結し、近況報告とそれぞれの領地の課題などを話し、それについて解決案がありそうな者が助言をしたりするような場だ。非常に重要な会議であるのと、もう終わりかけであったことから邪魔せずに先に話を進めたのだ。勿論、先ほど決めた方針に修正案がある者がいた場合はしっかりと耳を傾けるつもりだ」
「そんなものがあったのですね。勉強になりました。修正案に耳を傾けると言うお話もとても良いと思います! やはり貴族の協力あっての国ですからね」
「うむ。そう言うことだ。さ、そろそろ皆が集まるぞ」
そう言いながら奉文が賢司に着席を促したので、賢司もそれに従い、着席した。普段賢司たちが使用している聖皇の執務室とはまた別の大会議室に皇族派全員が集められた。そして続々と入室してくる大貴族たちを出迎えて全員が揃った頃、奉文が静かに口を開いた。
「皆、これほど早く招集に応じてくれたこと、嬉しく思う」
「何を仰いますか陛下。我らは皇宮で仕事をしているのです。元常道派の貴族たちと比べても、集まりやすいのですから素早く駆けつけるのは当然のこと。むしろ先ほどお聞きした今後の方針の会議に出席できなかった事を心よりお詫び申し上げます」
「いや、全公会談は非常に重要な会議だ。それに終わりかけであったのも把握しておった。それならば無理に焦らせる必要もなかろうよ」
「心より、感謝を」
そこからは早かった。事前に決めていた事を大公を始めとする貴族たちに共有していったが、一切反対意見が出なかった。ここにいる人間たちもまた、一気に貴族の数を減らすことには前向きにはなれないのだろう。故に権力者はなるべくとらえると言う方針に異議を唱えなかったのだ。
「しかしまさか、この案をお考えになられたのがまだ幼き第三皇子殿下だとは……我らもそれなりの貴族である自負を持っていましたが、これは……」
「えぇ、我らの存在が霞んでしまいそうだな北条卿。しかし泣き言を言っている暇もない。そうであろう?」
「そうだな南条卿」
「ひとまず、優先すべきことは国賊に対してどのような作戦で戦うかを決めることであろうな」
北条大公の言葉に皆が頷き、続いて聖皇奉文が口を開く。
「敵を倒した後の方針は決まったからな。あとは作戦を考え、敵を撃滅するのみ。皆の者、何か案は無いか? 賢司も遠慮することなく見解を述べると良い」
「ありがとうございます」
賢司は正直驚いた。国の命運を決める戦いで自分の策も検討材料に入れてくれるだなんて、普通はありえないことだ。
(いくら私が周囲から異質だと見られていても、所詮は9歳の少年なのだからな)
賢司がそんなことを考えていた時、奉文の言葉に対して、挙手する人間が現れた。それは公爵の1人。島田堅吉公爵だ。少し茶色がかった短髪を綺麗に切りそろえており、体は見るからに鍛えていると分かるほどの筋肉質。そしてこの場にいる貴族の中で最年少というのに相応しく若々しさに溢れている。
「おぉ、島田卿。何か案があるのか?」
「は! 僭越ながらご提案したく存じます」
「うむ。聞こう」
「ありがたき幸せであります。では早速敵の戦力の確認ですが、情報によると総勢9万3千ほどとのこと。こちらの総兵力のほぼ倍です。数の暴力で攻め上がってくるとは予想しておりましたが、まさかこれほどの大軍勢とは思いもしませんでした。ここから策を考えるとなると、自然と遂行可能な作戦は絞られます」
島田公爵の言葉に皆一切口を挟まずに聞き入っている。それを確認すると、島田公爵は再度口を開く。
「まず1番有効となり得る作戦が敵の補給物資を狙う作戦です。彼らは大規模戦力を運用するにあたって食糧や装備の備蓄をかなり削っているはずです。それこそ領地の運営が回るかどうかギリギリの範囲で。ですので最初に起こすべき行動は皇族派と常道派の貴族領全てに逆賊に対して食料及び武器の支給は断固として禁じる御触れを出すのです」
(なるほど。おそらく敵は領内の軍需物質、特に食糧を可能な限り持ってきていることになるので、これ以上自領からの補給は期待出来ない。故に周囲の貴族領からもその補給路を絶てば、必然的に彼らは略奪して食糧を得るか短期決戦に出るしかなくなる。なるほど中々良い案だな。だが……)
賢司が懸念点を思いついたのとほぼ同時に北条大公が挙手した。島田公爵は北条大公の方を向き、発言を促した。
「どうぞ。北条閣下」
「うむ。先ずは貴重なご意見に感謝する島田卿。しかし、私には懸念点があるように思える」
「と、仰いますと?」
「うむ。大軍を起こした敵に対して補給物資を狙うのは良い作戦だ。奴らは自軍の武士の食を確保するために日々大量の食糧を必要とするのだからな。それに武器の消耗にも備えんとならん。しかし、我らのような大領は問題無いが、常道派には何も全員が全員真堂領のような強固な領地を抱えているわけでもあるまい。比較的小領と言える場所から略奪されるのでは? そして各貴族領は帝都防衛にも戦力を投じる必要がある。普段より低下した戦力かつ、自力があまり強く無い貴族領はどうするのだ? もっと言えば中立を宣言している下位貴族の領地はもっと悲惨な目にあうかもしれんぞ?」
賢司は北条大公の指摘に対し、流石は軍の一団を指揮する人間だと思った。と同時に、
(あぁ、日本にもこのような先を見る目のある将校が沢山いればあのような悲惨な状況にならなかったのだろうな)
と、自分のかつての祖国の精神論的作戦に溜息を禁じ得なかった。しかし、今はこの世界での、この国での戦についての作戦会議だ。集中しなければと今一度気を引き締め直す。そんな賢司の思考とは別に話はどんどんと先へと進んでいく。
「北条閣下のご意見は尤もです。しかし、実際にはそこまでの心配は不要です」
「ほう。その理由を聞いても?」
「はい。まず中立の下位貴族の領地を占領しても、得られる食料、武器、人材、生産性も労力に見合っているとは言えません。得られる利益といえば多少勢力図を拡大できる程度。しかしそんなものは周囲の皇族派や常道派が動けば一瞬で消え去るものです」
「ふむ。仮に全軍とまでは行かずとも、かなりの戦力を待機させられれば我らとて奪還は容易では無いが、それはその領地にそれほどの軍を養えるほどの力があればの話、か。うむ。理にかなった想定だな」
「ありがとうございます。ですので彼らがまず狙うべきなのは情報にある貴族派たちの集合地点、すなわち澤田伯爵領から帝都までの間にある皇族派と常道派の重要都市です。はじめに当たるのは常道派の杉原伯爵領ですね。彼らはここを攻略しない限り前には進めません。あの領地の軍事要塞は戦略上、重要な拠点となり得ます。こういった重要な地域を重点的に狙い、素早く帝都まで進軍するのが彼らにとって最も負担の少ない戦略です」
これほどの重鎮がいる中で堂々と持論を展開できる島田公爵に賢司は素直に凄いと思った。
(これは……想像以上に有能な人材が多そうだ。北条大公の指摘も的確だし、それに対して口を挟まないということはこの作戦会議の有意義さを皆が理解しているということ。これならば能力の無い指揮官が現場を無茶苦茶にすることもないだろう)
賢司は島田公爵の発言と会議室内の雰囲気に感心しつつ、しかし重要なことを一つ質問しなければならないために、島田公爵に対して口を開く。
賢司が手を挙げたことによって、全員の視線が賢司に向く。
「島田公爵の案は素晴らしいと思う。しかし重要な話がまだ終わっていないようで、お聞きしたい。つまりは先ほどの補給物資狙いの話を踏まえた上で、我々の反攻作戦をどうするかということだね」
「仰るとおりです殿下。早速ご説明いたします」
「よろしく頼むよ」
「それでは先ほどの話を踏まえた上で、私が考えた敵に対抗する作戦ですが、敵が狙う可能性のある領地にあらかじめ近衛抜刀隊員100名もしくは特戦魔導士団員100名をそれぞれ派遣しておきます。彼らならば数日で目的地にまで辿り着くと思いますので。対象地域は常道派の杉原伯爵領と島本侯爵領。そして皇族派の宮本公爵領ですね。そして各貴族領に支給されている魔銃もふんだんに使用し徹底的な籠城戦で敵を迎え撃ちます。おそらくこれらの地域攻略の際に敵は効率よく攻略するために軍を複数に分けるでしょう。単純計算でも各領地に3万もの軍を派遣できるのですから十分過ぎる戦力です」
島田公爵がそこまで話すと、今度は南条大公が口を開く。
「なるほどな。それらの地域が踏ん張ってそれぞれの敵軍を抑えている間に他の余力のある貴族の軍で敵を各個撃破していくということだな」
「仰るとおりです」
(なるほど。素晴らしい作戦だ。しかし、別の戦況も想定しなければな)
そう思い、賢司が手を挙げようとしたところで今度は兄貴文が手を挙げた。
「貴文殿下、どうぞ」
「ありがとう。島田公爵、貴殿の作戦は細部まで考えられていて非常に良い案だと思う。しかしだ、相手の動きをこちらの想定通りに描きすぎな気もするのだ。今の話の場合、もし敵が分散せずにそのまま進軍経路を全軍で突っ切ってきた場合はどう考えているのかな?」
賢司もまさにそこが気になっていたので、貴文が聞いてくれて良かったと思った。それに対しての島田公爵の意見は非常に明確だった。
「はい。その場合は対処がより楽になります。ある程度予想がつくとはいえ、敵が襲う貴族領が不明な段階では一旦全ての貴族領は防衛にも戦力を温存しなければなりません。しかし初めから帝都を目指して突っ切るのであれば周囲の貴族領から包囲するように敵軍を徐々に削り、疲弊が見えてきたところで、補給部隊に狙いを定めて精鋭部隊で敵横腹に横撃を加えれば敵はひとたまりもありません。つまり、敵がこれまで通り頭脳戦を仕掛けてきていれば我らは証拠を掴む必要があったので手は出せませんでしたが、今回敵は力技に出ました。その時点で彼らはほぼ詰んでいるのです」
(さすが、だな。欲しい答えを完璧にくれる。出来れば彼には今後私が率いるであろう軍の現場指揮官に欲しいな)
賢司がそんなことを考えていた時、これまであまり口を開かなかった奉文が再び言葉を発した。
「素晴らしい作戦だ。正直これで決まりで良いと思うのだが、他に何か意見のある者はおるか?」
おそらく確認の意味で聞いているのであろう奉文の質問に対して、賢司はすかさず挙手をする。
「お、賢司よ。何かあるのか?」
「はい陛下。別に反対意見などではないのですが、追加でお伝えしておきたいことがございまして」
「うむ。申してみよ」
「ありがとうございます。では早速、作戦に関しては私も特に異論はございません。大まかな流れは島田公爵が提示してくれたもので十分過ぎるかと存じます」
「うむ」
「ただ一つ付け加えるのであれば、敵をもう少し削る方法を考えましょう」
賢司のこの言葉に全貴族の疑問の視線が注がれた。それに対して賢司はどこ吹く風で話を続ける。
「というのも実は最近新兵器の開発に成功いたしました」
賢司のその言葉に会議室内はざわめきに包まれた。流石の奉文もこれには驚愕したようで、動揺を隠せない様子で賢司に質問する。
「け、賢司。その、新兵器を開発、と申したのか?」
「はい父上。名は固定式魔導砲というものです。原理は殆ど魔銃と同じです。発火魔法が刻印された大型の銃身に巨大な金属の弾を込めて蓋をし、刻印に魔力を込めれば発射可能です。本当はもっと早くご報告に上がるべきでしたが、時期も時期ですし、数もあまり揃えられておりませんので時期尚早かと考えました。申し訳ございません」
賢司の言葉に一同は皆固まって言葉を発せない状態でいる。そんな中でも動揺せずにいるのが、賢司の両隣に着席して静かに会議の動向を見守っていた山村子爵と山本伯爵である。彼らは口外するなという賢司の命令に従っていたので、開発内容については知っていたのである。
「い、いや驚きはしたがむしろこの場でそれがわかって良かった。賢司よ、それは兵器として使用可能なのだな?」
「はい。試射はすでに行い、稼働率は十中十でございます。運用において、全く問題はございません。ただ巨大な金属の塊なので、運搬に少し手間がかかるかと」
「その辺はなんとか手配しよう。それよりも……よくぞやってくれた。父として、国を治める者として、お前の尽力に感謝する」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます。では、陛下。次に運用についてですが、今回は敵が帝都に進軍してくる上で絶対に通らなければならない経路に両脇を固めるような形で配置して、一斉放火を浴びせるという方法をとりたいと考えております。しかし敵も攻撃されたと分かれば反撃に出るでしょう。貴重な兵器を守るためにも護衛部隊をつけたく思います。場所は杉原伯爵領の前方にある森林地帯を切り開いた街道にて行うのが良いかと」
「ふむ。そこなら敵が全軍で攻めようと分散して攻めようと、どちらにせよ大軍が必ず通ると予想される場所だからだな?」
「仰る通りでございます。そこで一斉放火を喰らわせ、護衛に殿を務めてもらいながら素早く兵器を回収。離脱したのち帝都に撤収するというのはいかがでしょうか?」
賢司の提案に皆が考え込む様子を見せた後、奉文が口を開いた。
「よし、護衛については近衛隊員と魔導士団員を10名ずつ、そして魔銃騎兵団を500騎でどうだ?」
「十分かと」
「それと、その部隊を指揮する者についてだが、誰に任命するつもりだ?」
奉文のその質問に対して、賢司は悪戯っぽく口角を上げて奉文の方を見返した。
「お、おい……まさかとは思うがお前……」
「はい陛下! 是非、私に務めさせていただけないかと!」
満面の笑みでそういう賢司に会議室内の全員が腰を抜かしたのは言うまでもない……。