観兵式 開会!
遅くなりました! 今回もよろしくお願いします!
賢司は奉文を含む皇族メンバーと共に式典会場を目指していた。
今回の式典には結衣と真衣、そして聡も参加する。彼らは賢司と比較してもまだ少し幼いので、初めの開会宣言の時だけ参加することとなっている。その後聡達3人は解散して自由行動という予定になっている。
「さて、いよいよ記念すべき第一回観兵式の開会式となるわけだが……皆の者、心の準備は良いか?」
「父上、皆この時の為に念入りな打ち合わせを行なってきております。準備は万全です」
奉文の問いに貴文が代表して答える。それに続いて賢司達も頷き、いつでも行けることを示す。それを確認した奉文は声を張って宣言する。
「うむ! では行くとしよう!!」
奉文のその言葉に対して、全員が "はい!" という返事をした後、揃って会場に姿を現した。
その瞬間、観兵式開催場所である中央街道から割れんばかりの歓声が響き渡った。正に"地鳴り"と表現しても良いほどの歓声に包まれながら、賢司ら一同は開会宣言の台の上に登った。
すると歓声が静まり、その後すぐに聖皇奉文の演説が始まった。
「我が皇国の親愛なる臣民達よ、今日ここに集まってくれたことを嬉しく思う! 本日は我が国にとって特別な式典を開催する日である。我が国は豊かな国である故、諸外国でその富を狙う者も多い。そんな脅威に対して立ち向かうにはどうすれば良いか? それは単純なことである! 我が国が他国からの侵略を甘んじて受け入れるような弱小国家ではないということを示すのだ! そのための重要な式典であることを今一度、皆に理解してもらいたい。それでは、始めよう! 我らの記念すべき一大行事、観兵式の開会である!」
奉文の演説が終わると、観衆は皆両手をあげて祝いの言葉を述べた。
"聖皇陛下万歳!" や、"大和皇国万歳"
と言った言葉が辺り一面から聞こえてくる。それを横目で見ながら奉文一行は台を降りた。
「後は頼むぞ。我が子らよ」
「「「はッ!!!」」」
賢司達は馬に乗って行進するために決められた配置についた。因みに貴文、真司、賢司それぞれが違う持ち場につくこととなっている。そこで各々が持ち場の部隊を激励した。
(さぁ、いよいよ開始だな……)
賢司は心の中でそう呟くと、目の前に視線を向けた。そしてそこに広がる壮大な部隊の列を見た賢司はとある事を思い出していた。
それは……かつての祖国、大日本帝国の観兵式。そして部隊に対して、恐れ多くも敬礼を下賜してくださっていた大元帥天皇陛下のお姿……そして、笑顔で自分を送り出してくれた家族のことである
(私が死んだ後、大日本帝国はどうなったのだろうか……負けたのか? やはりあの戦局で反撃は不可能だろうか?)
賢司は今の人生を全力で生きると決めはしたが、前世のことを綺麗さっぱりと忘れたわけではない。時々こうして、前世のことが気になってしまうことがある。
しかし、今の自分は聖皇陛下に身を捧げ、大和皇国のために働く人間。そのため、中途半端な忠誠は許されないと思い、今一度気を引き締め直さないといけないと賢司は考える。
故に賢司は空を見上げ、かつての祖国と家族、そして主君に向けて、決意を表明する。
(陛下、父上様、母上様、そして我が愛する祖国大日本帝国の国民の皆さま。私の実力が至らないばかりに、お国を守りきることが出来なかったことをどうかお許し下さい。そして、陛下。私はこの度、第二の人生を得ることと相成りました。そこで新たな君主に忠誠を誓うことをどうかお許し下さい……では最後に、わたくし沢村郡司は、大日本帝国の繁栄を心から願っております。大日本帝国万歳!!)
賢司が最後の挨拶はできたと気持ちを切り替え、再び前を向こうとした次の瞬間、
"しっかり励みなさい"
と、声が聞こえてきた……気がした。まさか、陛下が!? と賢司は辺りを見渡すが、どこにもその姿は見当たらない。よく考えれば当たり前のことだと賢司は思ったが、それと同時に、先程確かに天皇陛下の声が聞こえた気がしたのだ。ただ、本当にそんなことが起こるわけがないので、賢司は再び前を向き直し、式典に集中しようと気持ちを切り替える。
しかし、先ほどと違うのは、過去の自分と折り合いを付けられた。そんな顔をしている賢司がそこには居た。
最早過去に囚われ、色々と悩む必要など無い。そのように気持ちを改められた賢司の顔は物凄く活力に溢れていた。
バーンッ! バババーンッ! ダンッ! ダダダンッ!
打楽器や管楽器など、様々な楽器を使って演奏される音楽はとても壮大かつ威厳のある雰囲気を醸し出す。そしてその音楽に合わせて、行進が始まった。
ダッダッダッダッダッ!!!
新しくデザインされた軍服を着て、更には新型兵器である魔銃を片手で持ち、もう片方の腕と両足を高く上げながらキビキビと行進する軍の姿は帝都民を圧倒し、そして魅了した……
加えて帝都民らと同じように、この式典に驚いている者たちが居た。
(これは……凄まじい軍容であるな。近衛抜刀隊も特戦魔導師団も健在か。皇族一派の軍隊しかいないにも関わらず、この力強さと規模は無視できるものではないな。それにしても、初めて見る装備を身につけているな。あれは一体…)
そう、他国の密偵たちである。こうした他国の密偵たちは基本的に皆同じ反応を示した。つまりは、帝都やその周辺都市を治める貴族達の軍だけでこれ程の規模を誇る軍力と、新しい装備への警戒といった反応である。
これに対し、更に別の反応を示した集団もいた。
(何だ? この軍は。鎧は近衛抜刀隊以外、装備していないし、武器も筒のような変わったものを持っている。魔導具……なのか? しかし、どう見てもまともな攻撃力と防御力を持っているとは思えない。ただ、あの軍の規模は危険だな)
貴族派の手の者である。彼らが示した反応は、ほとんどが今までの自分達が知っている軍ではない姿に対する"困惑"である。しかし、これは貴族派の中でも比較的頭のキレる者たちであり、中には自分に都合のいいようにしか考えられない者もいる。
(何なのだ、あの装備は!? 鎧も着ていないだと? あんなのでどうやって敵の攻撃を防ぐと言うのだ。全く訳がわからん。だが取り敢えず軍容は把握できた。数的にも戦えないものでもない。それにあの装備だ。まともなのは近衛抜刀隊くらいか……)
このようにかなり現実と乖離した妄想を抱いている者もいる。しかし未だ貴族派と皇族派で全面戦争にまで至っていないのは、こうした過激思考の者たちと用心深い者たちの数が半々ぐらいに分かれているからである。
貴族派はなまじ数が多い分、意見の統一という面で苦労しているのである。
そして最後にもう1人、この式典に対して反応を示している存在がいる。
(素晴らしい! 素晴らしいですね! やはり貴族派の愚か者達と勢力争いをしているところは、どうしても同調しかねますがこうしてお国のためになる行事をするというのは、とても良いですね。ただ、貴族派達を放っておくこともできないというのもまた事実。彼らは国を蝕む害虫ですからね。ならば……)
こうして、たくさんの人間の目に留まった観兵式。その後の祝宴なども盛大に執り行われ、あまりの好評価から翌日も少しだけ行進が行われることとなった。これにより、式典当日に間に合わなかった貴族も参加できる可能性があるため、反対意見は出ずに決行となった。
ただ、この突然の行事予定延長に懸念を示している者が数名いる……。
「式典が好評価に終わったのは良いが、予定が延長となるのなら少し考えるべきことがあるな」
奉文のそのセリフに、聡たち幼児組を除いた皇族一同が全員頷く。というのも、本来この式典は計画の段階から極秘に進めてきたもの。だからこそ何のトラブルもなく全ての項目を終えることができたのだ。
そこに新たに予定を加えると言うことは、計画にない動きをするということ。
(古今東西、準備を怠った軍が大敗を喫した戦は数えきれないほどある。大日本帝国だって例外ではない。その最たる例が日中戦争だ。補給線の構築を怠り、本来の日本軍の力なら十分勝てる相手に泥沼化。更に援蒋ルートの存在で状況は悪化の一途を辿った。そしてそのまま米国にも戦争を仕掛けた。あり得ないと言う他ない)
賢司は自分のかつての祖国の失態を例に挙げながら、思考を巡らせる。そして、トモユキの言葉に対して返事をする。
「仰る通りです、父上。貴族派の者たちに変な横槍を入れられないように極秘に計画を進めたにも関わらず、その予定を延長するならば、重要人物の護衛を増やすなどの警戒は必要かと」
賢司の言葉に続いて、今度は真司が言葉を発した。
「賢司の言う通りだ。父上、今できる最大の警戒と準備をなるべく明日までにしておくべきかと思います」
やはり真司も嫌な予感は覚えるようで、賢司に賛同する意見を述べた。そして今度は具体的な意見を述べ合おうと言うことで、奉文、咲子、貴文、真司、由紀、賢司の全員で夜遅くまで意見交換をするのであった。
そして、迎えた2日目の式典当日。事態は思わぬ方向へと転がっていくのであった……