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各貴族の心中

遅くなりました! 申し訳ありません!

 時は観兵式開催の予告がなされた日に遡る。

 そしてここはとある大貴族の屋敷の一室……。


「ついにこの時が来た……。この観兵式という行事、本当に素晴らしい。聞いたところによると、第三皇子の賢司殿下の提案らしいが、このような名案を思いつかれるとは、やはり優秀な一族というのは当たり前にその血を受け継いでいるということなのだな」


 そのように独り言を呟いているのは、北条信長(ほうじょうのぶなが)大公である。帝都北方の大領地の統治を聖皇より任されている人物であり、更には軍務卿を務め、近衛抜刀隊隊長も兼任している。爵位・武力共に最強・最上の貴族の1人と言われている。故にこの男が実質的な皇族派の筆頭とも言える。

 

「しかし、これほどの軍事関連の大行事は久しく無かったというのに、いきなりの強行開催……貴族派の連中はさぞ驚いていることであろうな。数年ぶりにあの男も動くのだ、しばらく妙な真似は出来ぬであろう。なぁ……南条よ」


 北条はそう呟くと、手に持っていたおちょこに酒を注ぐ。そして窓から外の景色を眺めながらそれを一気に呷った。因みに北条の言う南条とは、北条家と対を成す存在と言われる南条大公家のことである。現当主は南条家康(なんじょういえやす)であり、特戦魔導師団隊長を務めると同時に、国立魔導具研究機関の所長という役職にも就いている。

 北条家と並ぶほどの大領地を帝都南方に持つ由緒正しき大貴族家である。


 そんな好敵手でもあり、友でもある人物の名を呟きながら、北条は独り言を続ける。


「今回は他の皇族派も全員動く。これから面白くなりそうだな」


 彼はそう言うと、静かに晩酌を楽しむのであった。




 余談ではあるが、賢司が国内政治を学ぶ際に、当然貴族らの名前も重要な人物を中心に目を通したのだが、そこで思ったことがある。それは北条家らを見れば分かる通り、賢司がかつて生まれ育った前世の母国の歴史に登場する人物たちと名前が同じ者がいるということである。

 賢司は言語も似ているし、偶然か? とも思ったが、それにしては漢字まで同じであったりと、呆れるほど名前が似ている人物が多すぎる。何か作為的なものを感じてしまうのも、仕方がないことであろう。

 だが結局は手がかりも何も無いので、いくら考えたところで答えなど出ない。故に賢司はこの事については一旦、"そういうもの"として結論付けることにしたのだ。

 いずれ何らかのキッカケでわかる時が来るかもしれないと自分に言い聞かせて。



 



 場所は変わって、ここはとある伯爵位貴族の領地、その領主の館である。


「まったく、どういうことだ!? 皇族主導の一大行事など、そんなものまったく報告が無かったぞ!! それに開催日の数日前に予告とは、いくら皇族とは言え身勝手にも程がある!!」


 そのように怒鳴っているのは、貴族派筆頭の石丸鉄二(いしまるてつじ)伯爵である。今彼が口にしたセリフを皇族の前で口にすれば、即刻斬首ものである。

 しかし実際の所、彼の言っていることは至極真っ当であり、何も間違ったことは言っていない。ただそれは自分が真面目に貴族をやっていて、国に忠誠も誓い、やるべき事をやっている場合に限る。自分が真っ当な人間でないにも関わらず、人の粗探しだけは一丁前。

 貴族派にはこのように残念な人間が集まる。そして実際にこのような輩に陥れられた罪なき貴族は数え切れないほどいると言われている。


 そんな残念集団のトップである石丸は先ほどの言葉では言い足らず、更に皇族への悪口を重ね続ける。その様子を見ている使用人たちは平静を装っているが、内心では気が気でない。自分たちは領主の側仕えとして勤務しているため、給料も高く、不満は特にない。しかし、それ以外の雑務や業務に従事している者たちは給料面や待遇面でかなりの差があるため、ひそかに不満を募らせている。そのような者たちに現状を密告されないかとヒヤヒヤしながら日々を過ごしているのだ。加えて何が恐ろしいかと言うと、皇族に敵意を持っているのはあくまでも貴族派の貴族のみであり、使用人や住民たちは皇族支持者が多い。まだまだ聖皇という存在の絶対性は健在なのである。

 こうした状況を考えると、いつ事態が悪い方向に転ぶか分からないので、何人かの使用人は転職を考えているほどである。


「おい、お前たち! 今言った通りだ! 早く荷造りを始めろ! すぐ帝都に向かうぞ!」

「かしこまりました」


 ただ、今すぐに転職できるわけでもない故に、使用人たちはイヤイヤ主人に従うのであった。





 ここはとある上級貴族の屋敷……


「ふむ、観兵式……これは中々興味深い。この行事はおそらく、我らが皇国に対して敵対意思を持っている者共に武威を見せつけ、敵対する気をなるべく削ぐという狙いもあるのでしょう。軍務行事は国防の一環ですからね。素晴らしい! 是非ともこの目で見てみたい!」


 そう呟くのは、常道派の筆頭である、真堂正道(しんどうまさみち)辺境伯。知識・武勇共に優れた貴族であり、加えて辺境に領地を持つだけあり、治める土地も広大かつ辺境伯の地位も授けられている。故に国境地帯やその周辺で外敵と問題が発生した場合は、その問題において全権を委任されるほどの存在。そんな途轍(とてつ)もない権限を持つ辺境伯の総数は八家。貴族界では八大辺境伯家(はちだいへんきょうはくけ)と呼ばれている。

 しかし、真堂辺境伯はその中でも特に影響力のある貴族だ。その理由は明白である。貴族としてとても優秀であることに加え、武家当主としても優秀で、更に魔法使いでもある。これほど才色兼備な人物ならば、同格の貴族たちでも、彼をトップに据えることに異議を唱えない。と言うよりも、唱えられないのである。彼がトップであることに異議ありと言ったところで、


 "ならばお前が彼より優れていることを証明しろ"


 と言われれば、皆黙るしかないからである。そんなわけで、常道派のトップに君臨する真堂だが、今回の観兵式についてはかなり関心を持った様子。

 普段ならば、これも皇族派と貴族派の勢力争いなのだろうという思いから、我関せずという態度を取る真堂だが、今回は国防に関わる行事ということで、


 "貴族のお勤めを果たす"


 これを美徳としている真堂としては、無視するわけにはいかないという思いがあるのだ。それに加えて、皇族主導で行われる一大行事ということもあり、素直に興味があった。

 そんなわけで真堂は早速荷造りを始めるのである。だが、ここで使用人から問題があると指摘が入る。


「旦那様、ここからでは帝都まで1週間はかかります。しかし、式典は4日後に開催とのこと。どう考えても間に合いませぬ」

「確かに貴方の言うことは至極尤もですね。しかし忘れたのですか? 私は魔法が使えるのです。もちろん魔法陣を用いた魔法も、ね」


 真堂がそこまで言うと、察しの良い使用人はなるほどと頷いた。


「つまり、本来なら自分にかける身体強化魔法を魔法陣を使って馬車を引く馬にかけるということですね」

「ご名答。察しが良くて助かります。そんなわけで何とか間に合いそうだから行こうと思います。急で申し訳ないですが、準備してくれますか?」

「お任せ下さいませ。2時間で完璧な旅支度をしてご覧にいれます」

「流石ですね。ではお任せしますね」

「承知しました。では、失礼致します」


 使用人は真堂に挨拶を述べると、キビキビとした動きで部屋を出て旅支度をしに行った。それを見て、真堂は執務机に腰を下ろす。


「さてと、久々に楽しみができました。たまには休息も必要ですしね。せいぜい楽しませてもらうとしましょう」


 真堂はそう言うと、先ほどまで行っていた書類仕事に再度取り掛かったのだった。

 

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