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敗北と転生

 アダマンタイト。それは神によってこの世に生み出されたと言い伝えられる美しい鉱石。本当に神によって生み出されたかは不明だが、確かにこの世に実在する鉱石。


 そんな神秘的な鉱石によって加工され、光り輝く角が飾り付けられた漆黒の兜を頭に装着し、漆黒の将校軍服と黒の左肩半分にかかっているマントを着ている1人の軍将校と思しき男。


 その男は今、『魔導戦艦(まどうせんかん)』と呼ばれる巨大な船の右舷(うげん)にて、(おごそ)かな雰囲気を纏いながら自分を見守っている将兵たちを見渡している。そしてハキハキとした声で話し始める。その際、他にも隊列を組んで付いてきている船にも声を届けられるようにする魔導具を起動した。


「誇り高きヤマト皇国軍の諸君! 時は来た! 我らは今までよく耐えた! 我が国は国内情勢が不安定だったせいで常に外部からの危険に晒されていた。しかし、今やその元凶たる逆賊(ぎゃくぞく)共も討ち取り、処罰したことによって国内は安定した。国民の皆も、そして軍人である諸君らもよく頑張ってくれた! だが困難はこれで終わりでは無い! 今もこうして我が国に侵攻して来ている愚か者共がいるのだ」


 男はそこで一度言葉を切り、深呼吸をした。そして再度話し出す。


「今後もこうして危機に晒されることはたくさんあるだろう。だが案ずることは無い! 我らには偉大なる『聖皇(せいおう)陛下』がついてくださっている! そしてヤマト魂をその身に宿す、気高き皇軍(こうぐん)である君たちがいる! 故に我らは進み続けるのだ! 陛下と(おの)が魂を信じて!」



 男はそこまで言うと腰に携えていた軍刀を抜き放ち、天高く掲げ、もう一度深呼吸をするとこう述べた。


皇国(こうこく)興廃(こうはい)この一戦に有り! 各員一層奮励努力(かくいんいっそうふんれいどりょく)せよ!」



 男がそう言った瞬間、まるでその場の気温が一瞬で上昇したかのような熱気に包まれた。そして将兵たちは一人一人が目を血走らせ、腕を高く振り上げた。

 その直後に、



「「「ウォォォォーーーーッ!!!」」」



 地響きでも起きているのかと思ってしまうほどの雄叫びが響き渡った。

 男は満足げにその光景を眺め、そして高らかに宣言した。


魔艦砲(まかんほう)用意! てぇッ!!」


 ドドドドドンッ!!


 

 今後、この男の名は大陸全土に知れ渡ることとなる。

 伝説の軍人として……




 


 大東亜戦争(だいとうあせんそう)、またの名を太平洋戦争と言うこの戦いの中で、大日本帝国の極秘重要軍事基地(ごくひじゅうようぐんじきち)として指定されている場所。

 そこにとある帝国陸軍将校がいた。名を沢村郡司(さわむらぐんじ)。この男、かなり特殊な立場でここに派遣されている。具体的にどういうことかと言うと、陸軍と海軍両方に所属するという少し風変わりな人間なのだ。

 

 どうしてこのような状況になったのか、それは至って単純な理由である。この男が天才だから。 

 軍略(ぐんりゃく)航空機設計(こうくうきせっけい)軍艦設計(ぐんかんせっけい)陸上車両設計(りくじょうしゃりょうせっけい)銃器類設計(じゅうきるいせっけい)とやらせればなんでも出来てしまうのだ。例となる図面さえ見せれば、大体の構造と設計方法を理解して新たな兵器を次々と生み出す。

 数学と物理学と化学において、学生時代から右に出る者はおらず、その他の科目の成績も理系科目ほどでは無いにしろ、常に上位を保っていた。

 そんな中で軍略も学ばせれば、それも一級品の才を発揮するときたものだから、軍部がこれは100年に一度の天才だという事で彼の望み通りにしてやった結果、この異例の状況に至るという訳だ。

 

 そんな彼の階級は海軍においては大佐(たいさ)、陸軍においては中佐(ちゅうさ)である。

 このようにそこそこ大きな権限も与えられている。


 実際に彼が修めた功績としては戦艦(せんかん)重巡洋艦(じゅうじゅんようかん)軽巡洋艦(けいじゅんようかん)潜水空母艦(せんすいくうぼかん)航空母艦(こうくうぼかん)中戦車(ちゅうせんしゃ)重戦車(じゅうせんしゃ)榴弾砲(りゅうだんほう)重機関銃(じゅうきかんじゅう)小銃(しょうじゅう)航空機(こうくうき)の設計及び設計補助などなど。

 あまりに天才的で、驚異的な実績に軍部が陸海軍共同で、全会一致で彼に両方の階級を与えようということを決定した。


 

 そして今に至る……


 時は1945年7月頃。沢村陸軍中佐の朝は早い。最近では、君は優秀な軍略家でもあるが、貴重な設計士でもあるため、前線で失いたく無いと言われ、海軍将校として海上に出ることを禁じられている。そのため前線基地の中でも少し安全であり、かつ重要拠点で防衛が頑強な場所に派遣された。

 

 そんなわけで、ここ数ヶ月の間の沢村は帝国陸軍中佐としての役割をこなすことが多くなっていた。

 当然、今日も例外では無く、いつも通り基地の執務室でこの基地の現状と近場の戦地の戦況報告に目を通していた。


「はぁ〜、絶望的だな。そのうちこの軍港にもB-29が爆弾の雨を降らせに来ることだろう……」


 沢村のその呟きを聞いていた帝国陸軍大尉(ていこくりくぐんたいい)である北村は密かに軍刀の(つか)を強く握りしめた。それは以前から沢村が言っていたことを思い出していたからだ。


(アメリカと戦争をするのは、日本のアジア解放のために戦うという方針と禁輸制裁を受けていて、アメリカ及びその他連合国と極度に関係が悪化している国家間情勢からおそらく避けられない。だからその本番に至るまでの前準備が大事。そうしなければ、大日本帝国は確実にいくつもの戦線を展開せねばならず、ジリ貧になって負ける、か……正に中佐の仰った通りになったな……)


 北村は悔しさをその表情から消すことはできなかった。それに気づいた沢村は、ニコッと優しく微笑みながらこう言った。


「まだ負けたわけじゃない。肩の力を抜いて、次なる作戦を共に考えよう」


 北村はこうした沢村の言葉にいつも助けられていた。特別変わったことを言っているわけでは無いのに、なぜか心が落ち着くのだ。

 肩の力を抜けと言われたのなら、自然と抜いてしまう。


「……はっ!!」


 背筋を伸ばし、最上の姿勢で敬礼をする。それに対して沢村も敬礼で応え、次の作戦展開を話し合う。

 その為、二人とも作業に取り掛かろうとした正にその時だった。


「中佐! 沢村中佐!」


 誰かが猛烈な勢いと足音で部屋に向かってくる気配がする。そして勢い良く扉が開け放たれる。

 それに対して北村は一喝する。


「無礼者! ここは沢村中佐のお部屋だぞ! 丁寧に扉を開けないか!」

「も、申し訳ございません!」

「まぁまぁ、北村大尉。彼も悪ふざけでやったわけでは無いのだから、良いじゃないか。見たところ、何かまずい状況になっているようだしね。取り敢えず話を聞こう」

「承知いたしました。では櫻井中尉(さくらいちゅうい)、ここに来て報告したまえ」

「は! 報告でございます! 北方二十海里ほど離れた地点にて、米軍の大規模な航空編隊と艦隊を確認したとのことです。後方に輸送船団も付いてきていることから上陸作戦で間違い無いでしょう」

「……なるほど、最悪の報告だね」

「も、申し訳ありません!」

「いやいや、君が悪いわけじゃないから気にしなくて良いよ」


 それにしても最悪だと沢村は思った。これからいくつか思いついた作戦を実行しようと考えていた所にこの報告だから当然と言えば当然だ。


 だが、沢村は諦めなかった。自分は天皇陛下と大日本帝国に身を捧げた一人の帝国軍人。

 お国が諦めない限り、自分が諦めることは許されないと改めて強く心に刻む。

 そして、かねてより進めていた作戦と合わせて、先ほどまで考えていた作戦を実行に移す。


 具体的には敵が向かってくると言う北方に向けて、高射砲(こうしゃほう)対空砲(たいくうほう)などをできる限り多く配置する、もしくは向きをそちらに変える。

 そしてすぐさま迎撃部隊の戦闘機が離陸出来る準備を整えさせる。それ以外の人員は地下要塞に立て篭もる。武器・弾薬の補給なども今できる範囲で最大限にやった。

 なのでこれ以上は沢村に出来ることはない。あとは接敵(せってき)の時を待つだけだ。


 


 そうして地下要塞に立て籠りながら、少ない物資と人員を最大限活用しながら沢村は戦ったが、米軍の凄まじい物量には抗えず、敗北することとなった。


 しかし、決死の作戦を敢行するという兵士一人一人の強い意志と緻密な作戦によって、2万3千人居た米軍に対し、実に3割を超える被害を出させることに成功する。基本的に軍事作戦において総兵力の3割を超える被害は作戦遂行能力の喪失を想定されるほどの被害である。


 これは後のアメリカの歴史の授業で「死神軍港戦」という名前で広く取り扱われ、多くの米国人を戦慄(せんりつ)させる記録となったのであった。

 


 そして、1945年8月6日 8月9日に広島・長崎と相次いで新型爆弾が投下され、6日後の1945年8月15日に天皇陛下より直々に、アジア最強の大帝国の栄華が終焉(しゅうえん)を迎えたことが伝えられた……。






 


 小鳥が元気よく(うた)うように鳴き声を上げる朝、彼は目が覚めた。

 豪華な仕切り布付きの寝床に、その隙間をすり抜けるように木漏れ日が進入してくる。その美しい光に導かれるように彼は窓に向かい、一気に開け放った。ものすごく気持ちのいい朝だ。


 ヤマト・ケンジ8歳。ヤマト皇国皇家(こうこくおうけ)の三男。兄二人、姉一人、弟一人、妹二人の計7人兄妹。それぞれ、長男が16歳、次男が15歳、長女が13歳、ケンジが8歳、弟が6歳、双子の妹が5歳。このような感じになっている。

 

 

 この情報だけだと普通の皇族の息子のように思えるが、ケンジには一つ変わったところがある。

 それは前世での記憶があるということ。なぜだかは分からない。ただ一つ言えることは彼の前世での記憶は果てしなく悔しい感情に塗れたものだということ。


 しかもケンジは前世で自ら死を選ぶような生き方をした。今思い返しても後悔ばかりが先に立つとんでもない人生だ。今のこの穏やかな生活とはかけ離れていると言っても過言ではない。


 ケンジが窓からの眺めを楽しんでいると、


 コンコン


 誰かがケンジの部屋の扉を叩いた。おそらく普段から自分の身の回りの世話をしてくれている付き人だろう。ケンジはそんなふうに予想を立てながら、取り敢えず入室許可を出す。どうせいつもの朝の着替えだからと。


「失礼致します。殿下、おはようございます」


 入って来たのは予想通り、いつもの付き人だった。名前はサカグチ・アサミ。サカグチ侯爵家の次女で、ケンジより少し年上の少女だ。年齢としては14歳で、ケンジより6つ上。初めて彼女の名前を聞いた時、ケンジは耳を疑った。

 いや、自分の名前も含め、周りの人間たちも皆そうだったので確信はあったのだが、改めて実感したのだ。

 この世界の、この国は前世の日本と文化や文字などがかなり似通っている。特に"漢字"があることに驚いた。こんなことがあるのかと、ケンジは思わずにはいられなかった。

 

 しかしそれもすぐに慣れるもので、今では普通に日々を過ごしている。むしろケンジにとって親しみやすいくらいだ。


 因みにケンジの名前は大和賢司。このように書く。アサミは坂口朝美だ。ただ、今は朝美の挨拶への対応である。賢司は彼女の方を向き、挨拶をした。


「うん、おはよう」


 毎度のことだが、子供の言葉遣いは慣れない。今は仮にも8歳であり、昔の言葉遣いだとおかしいと思われるだろうから子どもらしく話しているが、少し疲れるというのが賢司の正直な気持ちだ。


 取り敢えず挨拶を済ませると、早速着替えが始まる。正直なところ、賢司は自分でできるから拒否したいといつも思っている。しかし、自分の今世は皇族であり、自分のことを自分でやる立場ではない。それに自分でやってしまっては彼女達の仕事を奪ってしまうことにもなる。なのでされるがままにしておく。



 そうして着替えが終わったら、次は朝食だ。いつものように皇家の皆で朝食を摂るため、賢司は食堂へ向かう。


「やっぱり、僕が最初か」

「はい、他の殿下方はまだお休みになられているか、お着替えの最中だと思われます」

「やれやれ、兄上や姉上はともかく、あの子達はお寝坊さんだね。朝美もそう思うでしょ?」

「私では畏れ多く、お答え出来かねるご質問ですが、あえて申し上げるならば、賢司殿下のご起床がかなりお早いということかと」

「そうかなぁ?」

「はい」


 早いと言っても朝6時くらいの起床だ。この世界にも時計は存在し、時間帯は確認できるのだが、そこで示されている時刻からも間違いない。

 それほど早いわけではない。全然普通であると賢司自身は思う。しかし、もしかするとこの世界ではもう少しゆっくりな起床が一般的なのかもしれない。なので賢司は素直に彼女の言葉に納得しておく。


「とにかく、席に着こうかな」

「はい、準備いたします」


 賢司は食卓で家族が来るのを静かに待つのであった。





 沢村郡司は、前世は戦争で死に、この世界に

大和賢司として転生して来た。当然この世界にも戦争はあるのだろうが、彼には決意していることが一つある。

 それは、

 

 "仮に戦争に出向くことがあっても、もう2度と自滅的な方法で死ぬことはしない" と。


 もちろん必要とあらばそれも辞さない覚悟だが、必要のない場面では、今後賢司はしっかりと生き残れる方法を、そしてその中で活躍できる方法を模索していこうと思っているのだ。

 

 それが、前世で自ら死地に飛び込んだ罪深い自分の唯一の償いの方法だと信じて。


 


 

お世話になっております。優です。今回新作を投稿させていただきました。


以前は前書きに追加の情報などを書いていたのですが、やはりスペースを取りすぎて読みづらくなっておりますので、こちらに移動させました。


今回は旧日本軍の階級についてです。

左上から順番に階級が上がっていきます。


二等兵・一等兵・上等兵・兵長・伍長・軍曹・曹長・准尉・少尉・中尉・大尉・少佐・中佐・大佐・少将・中将・大将


となります。今後もよろしくお願いいたします。

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