第18話:町の大事件
クレニオンの町までは、コブメイ村で馬車に乗って移動になる。先日、ゴウラ達が治療のために使ったのと同じ道順だ。
相変わらず、世界樹があった頃を感じさせる、昔は舗装されていたらしき道を馬車が行く。
揺れは大きいが、歩くよりは大分楽だ。
この前のコブメイ村のように出先で依頼を受ける可能性を考え、今回も俺達は武装している。
俺の装備は変わらず、長剣と盾だ。一応、弓矢も持っている。
対してイーファの方は少し変わった。服の上に上半身を保護する皮鎧を身につけ、背中に両刃のバトルアックス。腰には手斧といった物騒な出で立ちだ。
前回の戦いで、量産品の長剣が保たなかったことを反省して、村にある一番頑丈そうなものを身につけてこの姿になった。
冒険者らしい姿になったといえるが、ギルド職員らしさからは遠のいたな、と思う。
「先輩は久しぶりですよね、クレニオンにいくの。色々買い物できますよ」
「そうだな。日用品を買うのもいいな。イーファは欲しいものとかあるのか?」
「私は「王国貴族物語」の新刊を買うつもりです。楽しいんですよ、裏切りが裏切りを呼んで、誰が裏切ってるのかわからないくらいのドロドロで……」
「そ、そうか……」
貴族間の人間関係がドロドロが好評らしいが、そんな読むだけで人間不信になりそうな本が楽しいのだろうか。いや、本人が楽しんでるなら良いか。イーファのこの趣味、ルグナ所長に都会の話を聞く内に、ごく一部の流行に触れてしまったらしい。当人達がたまに楽しそうに剣呑な会話をしていてちょっと恐い。
「こういうの、自分が巻き込まれるのは嫌だけれど、お話として読むとハラハラするんですよね」
「……話に参加したいとか思ってなくて何よりだ」
率直な感想を返しつつ、俺は馬車の揺れに身を委ねた。
道行きは単調だが、イーファがいるおかげで退屈しなかった。代わりに貴族間のドロドロした人間関係について詳しくなってしまったが。
それから一日後、クレニオンの町に到着した俺達は、冒険者ギルドが、ある出来事で騒動になっていることを知る。
この地域に魔女が来たという、大事件だ。
○○○
クレニオンの町はこの辺りで一番大きく活気のある場所だ。
数年前に大きな街道が通った影響で、外国からの流通が増え、人と建物が増えつつある。
作りかけの新しい大通り、できたばかりの建物、行き交う人々の活気ある大声。
雑多で賑やかな地方都市。到着した俺はそんな印象を抱いた。
そんなクレニオンの冒険者ギルドはこの辺りのギルドをまとめる役割もある大きなものだった。二階建ての煉瓦造りの建築物で、王都の支部よりも立派なくらいだ。
実をいうと、建物的にはピーメイ村のギルドの方が良かったりする。あそこの素材は世界樹だ。
ギルドに入るなり、イーファの馴染みだという眼鏡のギルド職員に案内され、打ち合わせのスペースへ通された。
小さな会議室で、そのまま眼鏡の職員が対応するとのことだった。
「すいません。ピーメイ村に人を割く余裕がありません。実は魔女が現れておりまして……」
とりあえず例年通りの魔物調査討伐の依頼をお願いしたら、いきなりそう返された。
「魔女、ですか?」
「はい。三日ほど前のことです。自らを「見えざりの魔女」と名乗る魔女がギルドに現れまして」
「ほ、ほんとに現れたんですか! 魔女さんが!」
イーファの驚きは最もだ。魔女は世界でも珍しい魔法使いと呼ばれる存在で、そのなかでも特に強力と言われている。その強大な魔法で災厄や利益をばらまくとされる。
俺も孤児院時代、悪戯をして捕まった時、何度も魔女の話を聞かされたものだ。悪い儀式のために子供を使う、いきなり現れて作物を枯らす、魔物を使役する。そんな内容ばかりだった。
どこまでが本当かは、今となってはわからない。子供を脅かすためのおとぎ話も多かっただろう。
ただ、はっきりしていることもある、魔女が現れた地域は何かしらの事件が起きるということだ。それがどう転ぶかは、魔女次第。
「あの、詳しく伺っても良いですか?」
他人事じゃない。ピーメイ村にも魔女の影響があるかもしれない。
魔女は悪いことを起こすとは限らない、それが良いか悪いか、せめて見極めるのがこの地域のためになる。
「それが、白昼に正面から入ってきて、受付に話しかけたと思ったら、「私は見えざりの魔女。これから近くに住むから今後ともよろしく」と言って、すぅっと消えまして……」
「き、消えたんですか? すぅっと?」
「はい。自分も現場にいました」
驚くイーファに真剣に頷く眼鏡の職員。とても嘘を言っているようには見えない。
「先輩。「見えざりの魔女」って知ってますか?」
「いや、聞いたことないな。自称したってことは、過去にそう呼ばれてたってことだろうけど……」
一応、有名所の魔女の名前ならギルドの資料で見たことがある。「流浪の厄災」とか「気まぐれな風」とか、なんか意味深な名前をしていて、性質が良かったり悪かったりする。
残念ながら「見えざり」という魔女の記録はみたことがない。名前の通り、世の中から見えないような活動をしているのかもしれない。
「魔女が現れたということなら、ピーメイ村に人が出せないというのはわかります」
世間的に枯れたとされるダンジョンの探索よりも、何をするかわからない強大な存在を優先するのは理解できる。横のイーファもこくこく頷いて同意した。
「はい。何ぶん、この地域に魔女が現れたのは初めてでして、どんなことを引き起こすのかわかりません。その上、白昼に現れたから町の住人にも知られていますので」
「うわー、大変だ……」
イーファの言葉に俺と職員さんは同意する。町の人達も気が気じゃないだろう。近くに得体の知れない魔女が住み着いたわけだから。目的がわからないのは本当に困る。
「現在、ギルドを挙げて捜索中です。手がかりすら掴めていないのが実情ですが、魔女の噂を払拭しないと、町の交易にも影響がでますので……」
広い街道に人が行き来するのは治安が良いからこそだ。なにをするかわからない魔女がいるという噂はいかにもまずい。
「先輩……どうしましょう?」
イーファが困った顔で見てくる。このままだと、俺達は仕事を果たせない。クレニオンとピーメイ村を何度も往復することになるのは宜しくない。
「そうだな……」
俺が考えるそぶりを見せると、イーファが期待に満ちた目をした。……正直、ギルド職員よりも冒険者向きだな、彼女は。
「村のためだ、魔女捜しを手伝おう」
イーファが表情を明るくし、職員さんが驚いた。
いくら『発見者』という人捜しが得意そうな神痕を持っていても、魔女相手では自信がないのだが。力になれそうなのは確かだ。
とにかく、やる価値はある。ルグナ所長もドレン課長もクレニオンに仕事を依頼するための協力なら、許可してくれるに違いない。
「人手が多い方がいいでしょうから。手伝わせてださい」
ギルドの人になら神痕の話をしても平気だな、などと考えながら俺は改めて協力を申し出た。




