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実戦

やっと討伐に行きましたね。

 道中、ツァーリ様に今から行く森について教えてもらいながら、今日の目標について話していた。


 私は、セルトリア様やアルバート様と話した上で今日は討伐がどういうものか体感すること、騎士さんの動き方を見ることを目標にしたいと話し、ツァーリ様も頷いてくれた。



 魔道士に求められるのは攻撃よりも防御なので、敵の攻撃がくるタイミングで防御壁を展開出来るようになるとスムーズに戦える。

 負傷者が出たら、すぐに治癒する。

 その上で余力があれば攻撃する。


 ツァーリ様に散々叩き込まれたのでそれは覚えてる。

 あとは実戦で攻撃のタイミングや補助魔法のタイミングなんかを掴まないと。



 因みに、日本には“攻撃は最大の防御”とか“先手必勝”って言葉がありましたよって言うと、全員が揃って“バーダック殿のことかな?”って口にしていました。

 何なら、セルトリア様まで言ってました。

 同じ魔道士団のツァーリ様はともかく、アルバート様でさえ五年以上前の第二騎士団所属の時の記憶なのに、セルトリア様までってどういうことなの……??

 セルトリア様が討伐に出ていた十二、三年前にはすでにバーダック様はそんなだったってこと…?


 やっぱり温和なバーダック様しか見た事のない私には想像がつかないけど、見てみたいような、見るのが怖いような、複雑な気持ちで話を聞いていた。


 もちろん、私が同行するようにと言われている第二騎士団との討伐メンバーにバーダック様も入っている。


 ツァーリ様は、自分は攻撃も出来るが基本は支援タイプなので、攻撃特化で相手に反撃の隙を与えずに倒したいのならバーダック様に教えてもらうといいと言ってくれたけど、私の性格的にも攻撃特化はまず無理なので丁重にお断りさせていただきました。

 あと、私まだ攻撃魔法の威力わかってないから、力んでやりすぎちゃったら怖いし。




「さぁ、そろそろ着きますよ」

「あの森ですか?」

「ええ。王都所有のザンベルクの森です」

「ザンベルクの森…」

「広さはあまりありませんので、半日もあれば討伐も終わるでしょう」

「ツァーリ様が参加される討伐だとどのくらいかかるんですか?」

「そうですね…森の広さと魔物のLvにもよりますが、一週間程かかる事が多いでしょうか」

「一週間も!?」

「勿論、日暮れには森を出て休息を取りますから。第二騎士団との討伐も凡そその程度だと思っておいて下さいね」


 にっこり笑って言われても、そんなにかかると思ってなかったから顔が引き攣ってしまう。


 えぇ……そんなに長いのかぁ…

 討伐中にお菓子なんて作れないよねぇ……

 日持ちするお菓子作って持ってっちゃダメなのかな…

 今度第二騎士団の団長さんに相談してみよう。

 一週間もお菓子なしなんて耐えられない!




「疲れていないか?」

「平気だよ」


 日持ちするお菓子って何が作れるかなと頭の中で考えていると、外から鍵が開けられた音と共に馬車の扉が開かれてアルバート様が手を差し伸べてくれていた。



「では、皆はいつも通り討伐に当たってくれ。私達は後ろからついていくが、居ないものと思ってくれていい」

「「「はっ!」」」

「何かあればすぐに呼ぶように」

「「「はっ!」」」


 アルバート様の指示に応えて陣形を組んで歩き出す第四騎士団の人達。

 その後を私とツァーリ様が。

 一番後ろをアルバート様が歩く。


「今は魔道士がいない前提のためこのような陣形ですが、本来魔道士がいる場合は真ん中で騎士に囲まれる形になります」

「はい」

「今回はクライス殿がいらっしゃるので十分でしょうが、魔道士は発動までの時間がどうしても無防備になりますからね」

「そうですね…」


 その間に攻撃されたら魔法発動どころの話じゃないもんね。

 やっぱり発動までの時間を少しでも短くするために訓練しないとだなぁ。



 周囲に警戒しながら奥へと進んでいく騎士さん達に続きながら、私も辺りを見渡していく。


 薄暗いけれど、普通の森って感じなのにこんな所に魔物なんて出るんだろうか。

 魔物を目にしたことがないから俄に信じられないんだよね。

 そのための討伐なんだから、実在することはわかってはいるんだけど…



 森の中は案外道がしっかりと形成されていて歩きやすい。

 木の根っことかに引っ掛からないように気をつけて歩いていると、先頭集団が急に足を止めた。


 何かあったのかな、と思う間もなく、辺りからガサガサと葉っぱが揺れる音。


「居ましたね」


 ツァーリ様もそっちを見て頷いていた。


「ユーカ様は動かず、魔物の攻撃がどんなものかしっかり見て下さい」

「は、はい!」

「こちらに攻撃来ることがあっても私達が防ぎますので、慌てずに」


 落ち着いたツァーリ様の口調に、焦りかけた心を何とか鎮める。

 ツァーリ様が大丈夫って言うなら大丈夫だ。

 私は私のやることに集中する。



「来たぞ! イノーケンだ!」

「三体いるぞ!」

「挟み込め!」


 騎士さん達に向かって突進してくる猪みたいな動物。

 これも魔物らしい。


 攻撃は直線的で、騎士さんは一人がまっすぐ受け止めて一人が背後に回って斬りつけている。


「貴女ならここで何の魔法を使いますか?」


 私だったら……ツァーリ様の問に考える。


 怪我人は出ていないから治癒は必要ない。

 攻撃か防御か……この状態ならどちらも有りだと思うけど、攻撃魔法を使う前に猪の突進に対して防御壁を張った方が安全に倒せそう。

 どの属性の壁がいいのかはよくわからないけど、私はMPが無駄にあるから強度の高い『ライトウォール』か『ダークウォール』かな。

 でも魔道士さん達だったらMP節約しないとこの先何があるかわからないから『アクアウォール』あたり。


「突進を受け止める騎士さんに『ライトウォール』を」

「ほう。何故ですか? 騎士全体ではなく?」

「あの魔物の動きを見ていると、まっすぐ前にしか進んでいないんです。後ろから斬られてもずっと前に向かい続けているので、受け止める騎士さんの護りを固めた方が良いかと」

「成程。何故『アクアウォール』ではなく『ライトウォール』なのですか?」

「耐久量が高いからです。突進はかなりの衝撃がありそうなので、何度も『アクアウォール』を張り直すよりも手間がかからないし、私はMPの問題もありませんし」

「ふむ。では、その後はどうされます?」

「怪我人も出ていませんし、防御壁以外にも補助が要るとは思えないので攻撃魔法ですかね…?」

「なかなかいい筋ですよ」


 ツァーリ様の中での正解とは違うかもしれないけど、私がちゃんと考えて出した答えだからか満足そうな表情で猪と戦う騎士さん達を見ている。


「クライス殿としては如何です?」

「補助に関してはユーカの判断で問題ありませんね。よく見れています。それよりも騎士の方がまだ連携が未熟で隙が多いです」

「そのようですね」

「イノーケンの特性はユーカが言った通りのなので、挟み撃ちまでは良かったのですが。単純にまだ基礎が不十分です。剣を振るう重心がズレている」

「そんなことまで少し見ただけでわかるんだ…」

「これでも剣を握って随分経つからね」

「さすがはクライス殿。ではユーカ様、先程の貴女の考えを実践してみましょう」

「は、はいっ!」



 アルバート様が私を隠すように横に立ち、ツァーリ様とアルバート様の間に挟まれる形になる。

 急なイケメンサンドに心臓が悲鳴を上げているけれど、何とか平常心を掻き集めて集中する。


 あの騎士さんの前にバリケードを作るイメージで……


 あ、これ、三人一気には出来ないのかな?

 バリケードを三人分に……いや、失敗したら怖いし、でも三回も作るのは面倒だから突進を受け止めている騎士さん三人を囲う感じで壁を作ろう。

 ついでに入る騎士さんもいるけど、まぁ問題ないよね。


 よし、いいや。

 大は小を兼ねる!!



『ライトウォール』

「なっ、何だ!?」

「壁!? 急に壁が出てきたぞ!?」

「あっ! イノーケンが入って来れないのか壁に突進してる!」

「今の内だ!」

「「おお!」」


 壁は上手く展開出来たようで、それから私も『ウィンドランス』を発動させたくらいで無事に魔物は撃退できた。


 上手くいって良かった~!














「………『ライトウォール』大きすぎませんか?」

「………ええ。騎士も魔法が飛んでくるのは初めてだったと思いますが、動揺で隙しかなかったですね」

「ユーカ様も騎士達も、色々と課題が残りそうですね」

「そのようですね…」




 初めて魔物を撃退して浮かれている私は、お二人が陰で呆れていたことを知らない。

読んで下さってありがとうございます!

佑花の初討伐でした。ここからはちょっとサクサク行きたいところ………!

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