出立
討伐訓練が始まりました。
初めての討伐の日。
約束の通り、私はアルバート様がお迎えに来てくれるのを待って街の入口に来ている。
昨日はあれからお二人の討伐の話を聞いて、自分がどう立ち回るべきかを一緒に考えた。
でもそれは実際に出来るかどうかはわからなくて、そのためにも経験を重ねることが必要だという結論に至った。
だから今日はまず騎士の皆さんの動きを見る所から始めるつもり。
アルバート様もセルトリア様も、ガンガン攻撃したりひたすら回復に徹するよりも前衛の動きを見てサポート出来る魔道士が一番有難いと言っていたし。
騎士さん達の動きを見てどう動くか判断出来るようになるまで時間はかかるかもしれないけど、そこはツァーリ様もいるから相談しながらやらせてもらおう。
だってね、お二人もツァーリ様と討伐に出たことがあるみたいなんだけど、さすがとしか言えないくらい的確らしいの。
すごいな、ツァーリ様…!
「おはようございます、聖女様、クライス殿」
「おはようございます、ツァーリ様」
「おはようございます」
「昨夜はよく眠られましたか?」
「ちゃんと寝たんですが、緊張してたみたいで早く起きちゃいました」
少し早く着いたのでまだ皆揃ってないらしく、隅の方でアルバート様と並んで話していたらすぐにツァーリ様がやってきた。
挨拶を交わして少し談笑している内に徐々に人が増えてきて、そろそろ集合時間かなってくらいになると集まっていた騎士さん達が一斉に整列し始める。
第四騎士団は騎士としては見習いに当たるって聞いてたけど、訓練された動きを見ていると見習いなんて思えないなぁ。
「さて、私達も並びましょうか」
「えぇと、どこに並べばいいんですか?」
「騎士団は騎士団、魔道士団は魔道士団で列を分けて並ぶのですよ」
そう言ってツァーリ様は騎士団の列の隣に私を先導してくれた。
今日は、というか第四騎士団の討伐には魔道士団が絡むことはないから私とツァーリ様だけだけど、本討伐の第二騎士団との時は魔道士団からも何人か行くと聞いているので魔道士さん達に倣って一緒に並べば良いらしい。
一応、地位や身分の高い人から順に並ぶことにはなってるそうなんだけど、私は別枠だから気にしなくていいと言われてしまった。
「集合時間には整列していることが規則です。団長殿は時間丁度に来られますので、指示を聞いたらすぐに動きます。そのおつもりで」
「はい」
「今回が初めての討伐ですから、まずは討伐がどんなものなのか体感して下さい。必要な支援は私とクライス殿がしますので」
「ありがとうございます」
団長さんが来るのを待ちながらツァーリ様の言葉に耳を傾ける。
気負うなという言葉に甘えていいのかわからないけど、身体に力が入りすぎていることは自覚したので大きく息を吐いて意識的に力を抜く。
集中はしないといけないけど、気負いすぎて焦ったらまともな判断はできないと昨日セルトリア様にも言われたことを脳裏に思い出した。
とにかく状況を判断し、的確な行動をするための冷静さが討伐では何より大事だと。
焦りは命取り。
常に冷静に。
最初から自分に何か判断ができるなんて思ってないけど、それは忘れずにいられるように意識しないといけない。
焦らないってなかなか難しいことだけど…
でも、ツァーリ様が隣でいつも通りニコニコしているのを見て、私も少し落ち着いてきた。
そうだよ、そのためにツァーリ様もアルバート様もいてくれるんだから。
あ、因みにアルバート様は、第四騎士団でも魔道士団でもないので少し外れた所にいるよ。
結局、私について討伐に参加する際は第四騎士団の監督役も兼ねることが団長さん達から条件として出されたそうだけど、剣に関することの一環になるからかあまり嫌そうな顔はしてなかったね。
第一騎士団の団長さんとしても、アルバート様の腕をここで終わらせるのは勿体ないと思っているから、この監督役はいい経験になるのではと思っているらしい。
この間たまたますれ違った時にチラッと話してくれた。
でも、当の本人が上り詰める気がないからどうにもって感じなんだろうなぁ。
セルトリア様もそんなようなこと言ってたし。
むしろ、そこまで期待されるアルバート様ってすごくない?
「全員揃っているか?」
「はっ!」
チラリとアルバート様の方を見ようとしたところで、その奥から第四騎士団の団長さんが歩いてくるのが見えて慌ててそちらに視線を移す。
中央まで来た所で騎士さん達は騎士の礼をとり、ツァーリ様も恭しく胸に手を当てて目礼している。
私はどうしたらいいのか少し悩み、ワンテンポ遅れてツァーリ様と同じ目礼の形をとった。
騎士の礼に相当するのはカーテシーだけど、私は令嬢としてではなく魔道士団の一人としてここにいるのだからカーテシーはおかしいだろうと思ってのことで、それが合ってるのかわからない。
けれど、隣に立つツァーリ様がこっちを見て小さく微笑んでいたから間違いではなかったと思う事にした。
「本日から聖女様が訓練のため討伐に同行されるが、普段と変わりなく行うように」
「「「はっ!」」」
「また、聖女様の指導役として魔道士団のツァーリ副団長殿と、第一騎士団のクライス殿が帯同される。クライス殿は毎回の参加ではないが、第四騎士団と討伐に出る際は私の代わりに監督役を引き受けてくれているのでそのつもりで」
「「「はっ!」」」
「ではツァーリ副団長殿、クライス殿、宜しくお願い致します」
「ええ」
「承知致しました」
団長さんはそれだけ説明すると、私にも気をつけてと声を掛けて去っていってしまう。
騎士さん達も気にした様子もなく私達に「宜しくお願い致します!」と再び騎士の礼をとり、すぐに移動のための馬の準備に取り掛かっていた。
私は馬に乗れないので馬車の予定なんだけど、一人だけっていうのも何か申し訳ないなぁって思ってたらツァーリ様が一緒に乗ってくれることになったみたい。
アルバート様は監督役のせいで私に付きっきりになれないので、列を成して歩く馬に乱れがないかとか確認があるんだって。
遠征に出る時とかに必要なことなんだとか。
よくわかんないけど、見習いの騎士さんってそんなことまで教えられるんだね。
私が出来ることは特にないのでぼんやり待っていたら、すぐに馬車の用意が出来たと騎士さんが声を掛けてくれて、ツァーリ様と二人呼ばれた方へ歩いていく。
「ユーカ、危険があるような道ではないけれど、何かあったらすぐに言うんだよ?」
「うん。ツァーリ様もいるから大丈夫」
「私が隣にいてあげたいけれど仕方がない。ツァーリ殿、ユーカを宜しくお願い致します」
「承知しておりますよ。クライス殿はユーカ様に対してのみ、相変わらず過保護なのですね」
「何かすみません……」
そこで既に待機していたアルバート様にエスコートされて馬車に乗り込み、後から乗ったツァーリ様に呆れ顔をされてしまった。
他の人への態度の違いを知ってるから何も言えない……
アルバート様が外から馬車の鍵をかけ、連れて来ていたらしい自分の馬に乗り、手を振って先頭の方へと歩いていった。
騎士さんなんだから馬に乗れて当たり前だってわかってるけど、美形は馬に乗ってもやっぱり映えるのね…
あんまり優雅な動きだったからつい見惚れちゃった。
「ここから目的の森までは少し時間がかかりますので、その間に森について確認しておきましょう」
「王都近くの森と言っても結構距離があるんですね?」
「ええ。王都から隣の領地までにある森全てを指しますからね。ユーカ様もクライス領に行かれた際に幾つもの森を見たのではありませんか?」
「森……確かに…」
「クライス領は王都から程近い領地です。ですが、そこまでの森は全て“王都近くの森”なのですよ」
クライス領までの移動は大体半日程度。
途中街に寄ったからそこはどこの領地だったかわからないけど、それでもその辺までは範囲ってことなんだよね?
そう考えると確かに移動もそれなりにかかりそう。
それに、第三騎士団以上は馬で駆けて行くこともあるけど第四騎士団はまだ並列で馬を歩かせる練習をしているため、余計に移動時間がかかるんだとか。
なるほどねぇ…
なんて、ツァーリ様の話を聞いて納得していると、出立の合図が鳴り響いて馬車がゆっくりと動き出した。
「さあ、始まりますね」
「はい…!」
「また肩に力が入っていますよ」
「あっ」
出だしからこんなで大丈夫なんだろうか。
一抹の不安を覚えながらも、目の前で優雅に紅茶でも飲み出しそうなツァーリ様の余裕を見習おうと深呼吸して背もたれに身体を預けた。
読んで下さってありがとうございます!
出発するまで長いな!?きっと佑花の不安の現れですね!(言い訳)




