勧誘
多分、この展開は予想出来てた方も多いと思いますがあの人登場です。
セルトリア様から討伐の実態を聞き、魔道士の立ち位置で参加する私の立ち回り方等の話をしていると、急に頭に何か乗せられた。
何だろうと顔を上げると、隣に誰かいるのに気付く。
「ユーカ」
「アルバート様?」
乗せられたのはアルバート様の手だったらしい。
それより、何でここに?
そう私が疑問を口にするより早く、アルバート様は私の頭から手を離してセルトリア様に向かって騎士の礼をとっていた。
「セルトリア殿、ご無沙汰しております」
「アルバートか。久しいね。元気にしてるかい?」
「ええ。セルトリア殿もご健勝のようで何よりです」
「ふふ、ありがとう」
そういえばこの二人が話しているのは初めて見るけど、久しぶりって言ってるくらいだしあまり会う機会がないのかな。
管轄も違うから仕方ないのかもしれないけど。
でも、セルトリア様が家名じゃなくて名前で呼んでるってことは交流があったんだろうなぁ。
あと、砕けた話し方してるセルトリア様がすごく新鮮。
いつも丁寧に優雅に話されるからね。
「こんな所でどうした?」
「聖女様に用があって捜していたのですが、まさかセルトリア殿と御一緒とは」
「ああ、討伐の話を聞きたいそうでね」
私に用事って何だろうと思いながら、敢えて口を挟むことはせずにお二人の会話を見守る。
討伐の話を聞いていると知り、アルバート様の瞳が小さく揺らめいた。
アルバート様もセルトリア様の討伐の話に興味あるのかな?
先に私の用事を済ませていいとセルトリア様が言うと、アルバート様は一枚の紙切れを差し出してくる。
受け取って中を見ると、第四騎士団から明日の討伐の集合について記されていた。
「森は少し冷えるから一枚羽織るものを持ってくると良いよ」
「うん、そうする。ところで、何で第四騎士団からの伝言をアルバート様が?」
「団長に討伐への参加を頼みに行ったらちょうどアイザック殿が来ていてね」
「なるほど」
「そうそう、集合前に私が迎えに行くから部屋で待っていて」
「え? 明日来れるの?」
「ああ」
討伐初日からアルバート様が着いてきてくれるなんて思ってなかったから、すごく心強い。
頼りきってちゃいけないってわかってはいるけど、魔物を見るのも初めてだしやっぱり怖いもの。
ツァーリ様も居てくれるし、強い魔物もいないから大丈夫って皆言ってくれるけどね。
毎回は無理だけどなるべく顔を出してくれるって言ってるし、私もアルバート様やツァーリ様に頼りすぎないように頑張らなくちゃ。
そう心の中で意気込んでいると、目の前のセルトリア様が何やら驚いた顔をしていた。
「セルトリア様?」
「どうされたのですか?」
「ああ、いや、用事は済んだのかな?」
「ええ。お話中に失礼致しました」
「いや、気にしなくていい。それより、噂には聞いていたが…」
「噂?」
まるで信じられないものを見るように私達を見ているけど、何かおかしな所でもあったんだろうか。
アルバート様と顔を合わせてお互い疑問符を浮かべていると、今度はセルトリア様が笑い出す。
え、何、どうしたの…?
「変わったな、アルバート」
「そうでしょうか」
「変な言い方だが、人間らしくなった。以前のお前は剣の腕は立つが、本当にそれ以外に関心がなくて人形のように笑っていたからな」
「関心の対象が増えただけですよ」
「ああ、そうやって対象以外には人当たりよく笑顔で躱す癖は変わっていないな」
そうだった。
以前のアルバート様だったら、剣には興味があるから指導はしてくれたかもしれないけど、わざわざ勤務を調整して討伐に参加してくれたり迎えに来るなんてしなかっただろう。
近頃はそれが当たり前になっていて忘れていたけど、周囲の印象はどうしたってこれまでのアルバート様からなかなか変わらないものね。
まして、セルトリア様はしばらく会ってなかったみたいだから尚更だったのかも。
「さて、アルバート」
「はい」
「まだ時間はあるのかな?」
「本日の巡回担当分は終わってますので時間は問題ないですが」
「それなら少し私達と話をしよう。私も随分と討伐から遠ざかってしまって、現況を完全に把握出来ているわけではないからね」
「それは構いませんが、セルトリア殿はお時間宜しいのですか?」
「今日は急ぎのものもないからね」
聖女様もアルバートからの話も聞きたいでしょう? と聞かれ、迷わず首を縦に振る。
アルバート様と一緒にいる時間は多いけど、第一線で戦っていた時のこと等は聞く機会がなくてずっと気になっていた。
アルバート様も第一騎士団に入ってから長いと聞いているから、討伐に出ていたのはかなり前のことになるだろうけど、大規模討伐の話とかも聞きたかったんだ。
「という訳で、近衛騎士団長の命令だ。付き合いなさい」
「承知致しました」
「あの、何で団長命令なんですか? アルバート様、近衛騎士団じゃないですし…」
「ふふ、これは建前ですよ」
アルバート様に席を勧めながら“団長命令”なんて聞こえてきたから、つい疑問をそのまま口にしてしまった。
所属違うのに命令って出来るものなの?
そう思って聞いたんだけど、どうやら命令ってことにしておけばアルバート様が後でとやかく言われることがないからなんだって。
第一騎士団は定期巡回以外の時間はとにかく皆訓練をしているから巡回さえ行っておけば仕事上は問題ないけれど、やっぱり訓練に出ていないと後で色々言われるらしい。
武器の修繕とかで途中で切り上げることはあるみたいだけど。
それに近衛騎士団長っていうのは騎士達の頂点に立つ人だから、所属が違っても効力が強いそうだ。
「アルバートも全くの無関係な話ではないからね。聖女様への剣の指南役を買って出たと聞いている」
「ええ」
「ならば教え子が討伐に出るに当たって助言することも仕事だろう」
そう言って笑うセルトリア様の顔は何だかいたずらっ子みたいだったけど、アルバート様は承諾の返事を、私は素直にお礼を言う。
アルバート様が私の隣に腰を下ろした所で、セルトリア様が話し出した。
「アルバートとは第一騎士団所属の時に二年程期間が被っていまして。当初は私が指導役だったのですよ」
「そうだったんですか!?」
「ええ。史上最年少で第一騎士団まで上がってきた人物ですからね。どんな者なのか気になって私から指導役を志願しました」
「それは初耳です」
「言ってないからな」
「騎士団では随分と冷めた男でしたね。笑顔で接しているのに、関心がないことを隠そうともしない。よく巡回でご令嬢に声を掛けられては“面倒だ…”と呟いていましたよ」
「アルバート様らしいですね」
「……そこは今も変わっていないかもしれません」
あ、アルバート様がバツが悪そうに視線を逸らしてる。
自覚はあるんだね……
私がついクスッと笑みを零せば、セルトリア様も同じように口元を押さえている。
二人に笑われてアルバート様は居心地が悪そうだ。
「ところで、いつになったら近衛に来るんだ?」
「近衛に入る予定はありません」
「ずっとこの調子だからな」
「お会いする度に勧誘するのはやめていただけませんか」
「無理かな」
ん? セルトリア様がアルバート様を近衛騎士団に勧誘し始めたんだけど…
近衛騎士団って、第一騎士団の中でも特に実力のある人でないと入れないんだよね?
しかもこの口振りだとすでに何度も誘われてる…?
でもアルバート様は第一騎士団のまま。
近衛騎士団は騎士なら憧れの場所だと思ってたけど違うのかな?
「何故です?」
「お前程強い者を知らないからだよ」
「ご謙遜を」
な、何か雰囲気が穏やかじゃなくなってきた気が……?
それにしても、近衛騎士団の団長さんにそんな風に言われるなんて、アルバート様って本当にすごい人だったんだね…
「近衛の何が嫌なんだ?」
「私は討伐に出る方が性にあっているだけです」
「第一騎士団には討伐は殆どないだろう」
「近衛騎士団に入れば全く無くなります」
「お前なら次期近衛騎士団長になれるよ?」
「余計にお断りします」
うわぁ…どっちも引かない……
とりあえず、アルバート様は自分の意志で第一騎士団にいることはわかったけど。
私は口出しできるところじゃないから大人しくいつも通りの菓子パンを口に運ぶ。
「近衛に入れば聖女様にいつでもお会い出来るよ?」
「………………」
「聖女様の護衛も公認だから、聖女様がご旅行に行かれる際には仕事を気にせず着いて行くこともできる」
「…………………………」
「聖女様に一番近いのは近衛だからね。一緒にいたくないのか?」
「…………………考えておきます」
「んぐっ!?」
「うん、今までで一番色良い返事だ。その気になったらいつでも言っておいで」
……って、待って、何でそこで揺らいでるの!?
思わず噎せそうになったじゃない!
セルトリア様も人を引き合いに出すのやめて!
目がちょっと本気なのが怖いから!
何故か勝手に巻き込み事故を起こされていて、私は一気に色んなものを消耗したような気分になっていた。
読んで下さってありがとうございます!
アルバートは用事があって佑花を捜していたのは本当ですが、話に割り込んだのはわざとです。
いつからそんなに嫉妬深い男になったの(笑)




