事実
久しぶりの近衛騎士団長の登場です。
「おや、聖女様ではありませんか」
「あ、セルトリア様」
今日も今日とてツァーリ様の魔法訓練を受け、終わって一度部屋に戻ろうと王宮の入口をラミィに案内してもらいながら歩いていたら、巡回中らしいセルトリア様と遭遇した。
セルトリア様は近衛騎士団の団長さんなんだけど、騎士団の団長さんと違って自ら巡回に出ていることが多いようで今みたいに王宮内で顔を合わせることは珍しくない。
この国で一番強いとされている近衛騎士団のトップなのに王族についてなくていいのかなってよく思うんだよね。
もちろん王族にはそれぞれに護衛が配置されていることは知ってるけれど。
前にアルバート様に聞いてみたら、強いからこそ自由に歩き回れる方が都合がいいことも多いんだよって教えてくれたけどよくわからなかった。
「どちらかからお戻りですか?」
「はい。魔道士団から帰ってきた所です」
「左様ですか。近々討伐に出られると耳にしておりますが、訓練は順調ですか?」
「セルトリア様の耳にも入ってるんですね」
「ええ。仮にも近衛騎士団団長を名乗っておりますからね」
「仮って…」
この人、私が気付くまで団長ってこと隠してたような人だからなぁ。
ちょっと根に持ってますからね。
でもやっぱり管轄が違ってもリーダーには伝達されるってことなのかしら。
「討伐経験がないので戦場で咄嗟に使えるかの問題はありますが、攻撃、防御、治癒はそれぞれ最低限習得しました」
「ほぅ、聖女様は攻撃魔法も防御魔法も治癒魔法も全て使えるのですね」
「とりあえずって感じではありますけど。今はそれをどれだけ早く発動出来るかの練習中です」
「成程。騎士としましては、魔道士のサポートが迅速な程動きやすいですから良いと思いますよ」
そうだ、この人も騎士団で討伐を経験してきた人なんだ。
近衛騎士団になるには、少なくとも第一騎士団まで上がらないとなれないんだったよね。
セルトリア様とこういう話をしたことがなかったからすっかり忘れていた。
「と言っても私はもう何年も討伐に出ておりませんから、大した助言も出来ませんが」
「いえ、すごく参考になります」
「そうでしょうか?」
「はい! セルトリア様の討伐のお話も聞いてみたいです」
色んな人の体験話を聞きたいというのもあるけど、セルトリア様がどういう戦い方をされるのか想像がつかないから気になるというのもある。
この儚げな美青年が魔物をザクザク薙ぎ倒していく様子はさっぱり浮かばない。
私がこんなことを言い出すとは思っていなかったのか、セルトリア様は一瞬キョトンとした顔を見せてからそれは楽しそうに笑い出した。
「私の話を聞きたいと。そうですね、構いませんよ」
「ありがとうございます!」
「ところで聖女様はこの後どちらに?」
「お部屋に戻ってお昼にしようかと…」
「では、昼食を共にしてもよろしいでしょうか? そこでお話致しましょう」
その内聞かせてもらえたらいいな、くらいのお願いだったんだけど、どうやら今は時間があるのか昼食のお誘いをいただいたので二つ返事で承諾する。
明日から第四騎士団の討伐に参加することになっているから、その前に話が聞けるのは嬉しい。
「それでは食堂に参りましょうか」
「はい」
セルトリア様の隣に並んで食堂までの道を歩く。
この国の貴族男性は皆さん本当に紳士で、エスコートまではされなくても絶対に歩幅を合わせて歩いてくれるんだよね。
人によってはエスコートもされるけど。
騎士さんや魔道士さん達は気楽に接してくれるから助かる。
エスコートされるのは未だに慣れなくて苦手なの。
アルバート様のエスコートが精一杯です。
それでもめちゃくちゃリードしてもらって何とかって感じだからなぁ…
もう少し何とかしないといけないとは思ってるんだけど、結局男性との距離が近いのが落ち着かないからどうにもならない。
すでに軽く開き直りつつある自分に内心で苦笑しながら、開けてもらった食堂の扉をくぐる。
お昼時で満員かと思っていたそこは、思っていたよりも空いていてすぐに空いている席を見つけることが出来た。
「もっと混んでるかと思ってました」
「騎士も使用人も少しずつ時間をずらして休憩をとっていますからね。おかげで常に満員ということはないのですよ」
「そうなんですね」
それは厨房の皆さんも助かるだろうなぁ。
少しずつずらすってことは常に人が来るってことではあるけど、注文に追われるのは大変だもの。
「さて、何から話しましょうか」
向かい合わせに席につき、ラミィが食事を取りに行ってくれているのを待ちながらセルトリア様が口を開いた。
「私が討伐に出ていたのはもう十二…三?そのくらい前になりますね」
「そんなに前なんですか!?」
「ええ。と言いましても、討伐を主としていたのが、という意味ですが。大規模討伐等は第一騎士団に上がってからも時々ありましたから」
「そうなんですね…」
「近衛に入ってからは滅多にありませんけれども」
「近衛騎士団のお仕事は王族や王宮の警護なんですよね?」
「そうですよ。異変が無ければどこよりも平和な任務です」
あ、確かにそうか。
第二騎士団までは討伐があるし、第一騎士団も大規模討伐はあるって話だから…
でも近衛騎士団ってその平和を守るためにどこよりも責任が重いお仕事なんだよね。
それを平然と平和って言えちゃうセルトリア様はすごく強い人なんだなってふと思った。
すごいなぁ…
「私が討伐の第一線に出ていた頃は魔物もまだ今ほど活発な動きを見せていませんでした。ですので大規模討伐は数年に一度でしたし、全体の討伐数も少なかったので、討伐担当は第三騎士団だけだったのですよ」
「え? じゃあ第二騎士団は…?」
「第二騎士団は各地を定期訪問しておりましたね。今は討伐のついでに寄る形でしか出来ていないようですが」
「討伐が増えたから、第二騎士団にも討伐が…?」
「そういうことです。今でこそ第二騎士団が近隣、第三騎士団が遠方とされていますが、十年程前までは全て第三騎士団で済んでいたのですよ」
セルトリア様は十五で入団し、それから四年で第一騎士団に上がったらしい。
その間の半分くらいが第三騎士団、その後一年くらい第二騎士団にいて、それからは第一騎士団にいたため討伐期間は短いんだって。
それにしても、今までは第三騎士団だけで十分だったのが第二騎士団と分担しないと追いつかなくなったっていうのが気になるよね…
それもまだここ数年の話だって言うし。
魔物が増えてるってことは召喚されて初めて王様に会った時に聞いたけど、どのくらい増えてるとか気にしたことなかった。
こうして実際に討伐に出るってなるまでどこか他人事のように感じてたし、今よりも更に聖女って意識は薄かったと思う。
今でも自分が本当に聖女なんて大それたものなのかって思うけど、着実に力は身についてきてるし、ステータス見てもひと目でおかしいとわかるものだし、それなら聖女だとかは置いといて私にやれることをしようとは決めていた。
そうやって前向きになれた大きな理由は二つ。
一つ目はもちろんこの国にお菓子という文化を浸透させたいっていう野望のため。
二つ目はこの国で出逢ったたくさんの失いたくないご縁を守るため。
この国にいる時間が長くなるほど色んな人と出会って、仲良くなって、皆の優しさを実感する。
魔物が今より更に暴走するようなことになれば、討伐に出ている人達だけじゃなく街まで危険に晒される可能性だってあるかもしれない。
そんなことにならないよう、大好きな人達の笑顔が消えたりしないよう、私は自分が出来る限りのことをしたい。
…ここに来たばかりの時には考えられなかったのになぁ。
私も少しは変われたのかな。
そうだったらいいと願いながら、私はラミィがご飯を持ってきてくれたことにも気付かずにセルトリア様の話に集中していた。
読んで下さってありがとうございます!
セルトリアは名前だけ出ていることが多かったんですよね。この人は自分の責任の元、自由にしてる人だと思ってます。
次でセルトリアの話は終わるかな~
 




