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吃驚

佑花がちょっと頑張ってます(笑)

 第二騎士団、第四騎士団と討伐についての話と顔合わせに行って、ようやく話が纏まったから帰ろうかという所でツァーリ様が急に立ち止まった。



「…ユーカ様、クライス殿の勤務はご存知ですか?」

「え? アルバート様? 確か早番だったと思いますが」

「ではこの後お会いする予定が?」

「あ、は、はい」

「…………それならそろそろ戻らなくてはなりませんね」


 ツァーリ様が何を言いたいのかよくわからない。

 ちょうどもう帰ろうって話だったはずだよね…?

 よくわからないけど、いつもの笑顔を貼り付けられてしまったのできっと聞いても答えてくれないだろうと察して私は曖昧な返事で濁す。


 アルバート様、もう王宮に行っちゃったかな?

 入れ違いにならないといいんだけど。

 思ったより遅くなっちゃったから、伝言もしてないしなぁ。

 第一騎士団の前を通った時に騎士さんに伝言お願いしておけばよかったかも。

 私的すぎて頼むのも恥ずかしいけどね。



 マリオス様………違った、アイザック様とは団長室で別れたので、私はツァーリ様の後ろに着いていきながら考えていた。


 っていうか、第一騎士団の団長さんのことは団長さんとしか呼ばないんだから、アイザック様もマリオス様のままでいいんじゃ…?

 ふとそんな疑問が脳裏に生まれたけど、まぁいいか。

 いつか団長さんが自己紹介してくれた時にはお名前で呼ぶことになるんだし。


 ……そんな日、来るのかしら。

 これだけ時間経った後で今更自己紹介とか無くない?

 もしかしたら団長さんは、周りから聞いて自分の名前は知っていると思っているかもしれない。

 知ったのはさっきですけどね。



 しばらく歩いて入口の扉前まで来た時、ツァーリ様は再び立ち止まると「お先にどうぞ」と恭しく扉を開けてくれた。


 基本的にこの国の男性は紳士だから当たり前にレディファーストしてくれるし、それはツァーリ様も例外じゃないけど、何だか楽しそうなのが少し気になる。

 この短時間に何か良いことでもあったのかな?


「ありがとうございます………ッ!?」


 けど、ここで躊躇うのは淑女としてマナー違反。

 私はお礼を言って先に扉をくぐり、脇に待ち構えていた影に捕まった。


 え、何!?


 誰かの腕の中に引っ張りこまれたのはわかったけど、これってよくテレビで見た誘拐みたいな…!?

 わ、私を攫ってどうする…………あ、聖女って立場が目的か…!


 ど、どうしよう…体格的に抜けられそうにないし、下手に動いたら身の危険だってある。


 そもそも、騎士団の近くでこんな真似……!……………ん…?



「御戯れも程々になさって下さいね」

「ツァーリ殿こそ、わかっていて先に出したのでしょう」

「私はレディファーストをしたまでですよ」


 あれ、この声………?


 しかも、そうだよ!

 ツァーリ様がいながら私が簡単に捕まるっておかしいよね!?

 ツァーリ様、絶対わかってたよね!?

 あー……だから楽しそうだったのかぁ……



「………アルバート様」

「おや、バレましたか」

「急に驚かせるのはやめて下さい」

「ふふっ、慌てるユーカも可愛かったよ」

「かわっ…!?」


 やっぱりアルバート様だった。


 何この人、実は悪戯好きだったの…?

 今までこんなことなかったし、どちらかというと大人の男って感じのスマートな立ち振る舞いばかりだったのに。

 小さい頃に剣にばかり夢中でそういう悪戯みたいな遊びをしてこなかったから、今になって興味でも出てきたの?


 ちょっとおどけたように、楽しそうに笑うアルバート様はカッコイイはずなのに可愛くも見えてしまって強く怒れないのが辛い。

 だって、悪戯が成功した子どもみたいな顔してたんだもん。

 こんなアルバート様、レアすぎるでしょ。



 未だに私を離してくれないアルバート様を見上げると、とっても素敵な微笑みを返されて反射的に俯いてしまう。


 そんなことをしていたものだからすっかりツァーリ様の存在を忘れてしまっていて、小さく聞こえた咳払いにハッと思い出して赤面するしかなかった。



「仲がよろしいのは結構ですが、あとはお二人の時になさって下さいね」

「あ、あ、あの、す、すみません……」

「ええ、そうさせていただきます」


 俯いたまま顔が上げられない私と、対照的にサラリと笑顔で流すアルバート様。


 そして私は解放されないまま。


 ど、どうしろと………!




「ですが、ちょうど良かったです。近い内にクライス殿の元へ伺おうとしておりましたので」

「私に何か?」

「ユーカ様に聞かれると思いますが、討伐と準備の予定をお知らせしておこうかと思いまして」

「私に報せて良いのですか?」

「ええ、心配でしょう?」

「…お心遣い、感謝致します」


 ツァーリ様が一枚の紙を手渡し、アルバートが静かに目を通すのを待つ。


 やがて読み終えたのか顔を上げたアルバート様に、ツァーリ様は言葉を重ねていった。



「私も討伐には出ておりますが、クライス殿の比にはなりません。騎士殿と聖女様では違いは大きいでしょうが、伝えられる事があればお願いしたいのです」

「それは構いませんよ」

「それから本討伐は日程的に難しいと思いますが、準備段階の討伐は御自由になさって下さい」

「え?」

「…私は止められるものと思っていましたが」

「本討伐の前にユーカ様が討伐に多大な恐怖を持ってしまうのは得策ではありませんから」

「成程、安心材料という訳ですね。この日程を全てというのは難しいですが、調整してみましょう」

「え!?」


 私のわからない所でどんどん話が進んでいくんだけど、私の討伐練習のためにアルバート様が勤務を調整までする必要はないんじゃない!?

 ツァーリ様も何で頷いてるの!?


 何が何だかわからなくて混乱した頭でお二人を交互に見るけど、どちらも気にした様子はない。


「ツァーリ様…!?」

「ユーカ様、お忘れですか? クライス殿は貴女の剣の指南役。それは宰相閣下も存じております」

「え、そうなんですか?」

「ええ。ですからクライス殿が帯同することに問題はないのですよ」

「で、でも騎士団のお仕事が…」

「ユーカ、旅行の時と同じだよ。私は仕事として出るのだから調整は当然だ」

「ついでにと第四騎士団の皆さんの指導役も任されそうですけれどもね」

「致し方ありませんね」

「では、其方の方はお任せ致します」



 相変わらず私を置いてけぼりのまま話が終わったようで、ツァーリ様はそれではと挨拶をすると去っていってしまった。


 残された私はアルバート様に抱き締められたまま……………何で抱き締められたまま!?


「そ、そろそろ離して…!」

「何故?」


 身動ぎして脱出を試みるけれど、アルバート様は離す気がないのかビクともしない。


 こんな所、人に見られでもしたら…!


 キョロキョロと辺りに視線を巡らせて誰もいないことに安堵すると共に、誰か来る前に何とかアルバート様を引き剥がさないとと藻掻く。


「ね、ここにいても邪魔になっちゃうし行こうよ!」

「…顔、真っ赤」

「も、もう! 聞いてる!?」

「聞いてるよ」


 が、聞いてもらえる気配はない。


 えぇ…これどうしたらいいの…!?

 人に見られたら恥ずかしいのはアルバート様も一緒じゃ…………ないのかもしれない。

 最近のアルバート様は人前だろうがお構い無しだもんなぁ…


 だからといってこの状態はよろしくない。

 けど、私の力では押し返すどころか抜け出すことすら出来ない。





 ………恥ずかしすぎるから最終手段にしてたんだけど、もうこれしかない気がする。


 私は大きく深呼吸をしてアルバート様を下から見つめると、ギュッと小さくしがみついた。



「あ、あの………こんな所じゃなくて、その、二人きりに、なれる所に……行きませんか…?」



 アルバート様が私を好きでいてくれてるから使える手段であって、恋愛初心者の私にはめちゃくちゃハードルが高かったんだけど背に腹はかえられない。

 さすがに恥ずかしくて何度も吃ってしまったけど、何とか言い切って上目遣いに様子を見ていたらビックリするほど強く抱きしめられて一瞬息が出来なくなった。


「くっ、くるし…!」

「あ、すまない…! けれど、今のはユーカが悪いよ」

「えぇ…?」

「そんな可愛いことを言われたら平静でいられなくなるだろう…」

「え? え? あ、あの、顔が…」

「…まだ無理」

「え?」


 そのまま私の顔を胸元に押し付けられて動けないので顔が見れないけど、この口振りからしてもしかして照れているんだろうか。

 そうだとしたらその顔を見れないのがすごく残念だなぁ。



 密着した胸元からトクン、トクンと聞こえてくる少し早い鼓動に耳を傾けて、私は小さく口元を緩めた。

読んで下さってありがとうございます!

男性側が照れてるシチュエーションが好きです!!(個人的趣味)

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