調査
騎士団の皆は気のいいおっちゃん達ばかりです。
「ステータスは見ていませんが、私は疲れにくく感じました」
「私はHPが上がっていました」
「私はどこか気分が明るくなりました」
侍女さん達の話を聞いてノートにまとめていく。
今の所、全員が何かしらの変化を感じているようです。
皆さん見知らぬお菓子だからか、変化を感じてもそういう物なんだと思っているみたい。
混乱を避けるために、今は説明せずに話を聞くだけに留めておくけどね。
「他にはどなたに渡されましたか?」
「厨房の料理人さん達と騎士さん達です」
「では料理人達から当たってみましょう」
ツァーリ様と連れ立って厨房へと歩き出す。
いつもなら移動にはラミィが連れ添って案内してくれるけど、今日はツァーリ様がいるのでラミィは侍女さん達に話を聞いた所で別れた。
そろそろ一人でも迷わないように覚えないといけないと思ってはいるんだけど、お城の中が広すぎる上に同じような造りの部屋ばかりでなかなか先は長い。
侍女さん達の待機室から厨房までは大して距離がないから、せめてこの道くらいは覚えたいなぁ。
「ユーカ様、そちらではありませんよ」
「あれ?」
そんなことを考えながら歩いていたら、右に曲がろうとするツァーリ様に気づかずまっすぐ進もうとして止められてしまった。
やっぱり覚えれる気がしない。
いっそ諦めてこれからもラミィに案内をお願いした方が安全かもしれない。
何となく諦めを覚えた頃、辿り着いた厨房ではお昼前の準備でバタバタしている様子だった。
「今は忙しいようですね」
「お昼前ですもんね」
「出直しましょうか」
「おや、ツァーリ様、ユーカ様、厨房に何か御用でいらっしいますか?」
「ハーシェード殿」
邪魔をするのも悪いから先に騎士団の方に行こうかと踵を返すと、後ろから聞き覚えのある優しい声が聞こえてきた。
振り向くとそこには料理長であるサライズ・フォン・ハーシェード様が。
忙しい中私達に気づいてわざわざ声を掛けに来てくれたらしい。
「ツァーリ様がこちらにいらっしゃるのは珍しいですね」
「ええ。少し皆さんにお伺いしたいことがあって参ったのですが、忙しい時間でしたね」
「粗方の準備は済んでおりますので、多少でしたら問題ありません。何かございましたか?」
「ありがとうございます。こちらの方々が昨日ユーカ様のくっきーを食べられたと伺っておりますが、体調の変化等はありませんか?」
ツァーリ様が尋ねると、サライズ様はすぐに思い当たることがあったようで「ああ!」と声を上げた。
「私はどうも力が漲った気がしまして。ステータスを見てみたらHPの上限が増えていました」
サライズ様もHPの上昇ね。
変化は感じたもののステータスまでは見ていないという人も多かったから確実な統計じゃないけど、HP上昇効果があった人が多いようだ。
ツァーリ様みたいに、極稀にMP上昇もあるみたい。
そうして他の料理人さん達にも手短に話を聞いていると外からガヤガヤと人の声が聞こえてきたため、私達は御礼を言って早々に厨房を後にした。
次に向かった騎士団詰所の入口。
そこで私は騎士さんたちに囲まれていた。
えっ、何で!?
休憩中の人達なのか甲冑こそ着てないけど、騎士さん達は揃って体格がいいから囲まれると圧迫感がすごくて怖いです。
「この子、前にアルバートが保護した子じゃないか?」
「おぉ! 確か聖女様だったんだよな!」
「聖女様! お元気そうで!」
「くっきー? ありがとうございました! 美味かったですよ!」
「あれ食べたら、訓練で減ったはずのHPが回復したんですよ!」
「私はHPの上限が上がりました!」
「私はMPの最大値が上がってましたよ!」
「聖女様すごいですね!」
どうやら以前食堂でお会いした人達だったらしい。
相変わらず気さくな人達で覚えていてくれたことに少し嬉しくなりながらも、答える間もなく次々に投げられる言葉の圧にあの、とかえっと、とかしか言えず困っていると、それまで黙っていたツァーリ様が口を開いた。
「聖女様が困っているでしょう。落ち着きなさい」
「「「はっ! 申し訳ありません!」」」
これが鶴の一声…
全員姿勢を正してツァーリ様に向き直る。
ものすごく統率の取れた動きに、見ていて感心してしまった。
「ツァーリ副団長殿は何かご用事でしょうか?」
「団長殿に少しね。団長室にいらっしゃるのかな?」
「はい」
「では少しお邪魔させていただきますよ」
「ご案内致します」
期せずしてここに集まっている騎士さん達からは話が聞けたし、他の人にも聞き込みをしても良いか団長さんに許可を取らないと。
私はツァーリ様の後に続き、騎士さんの案内の元、詰所に足を踏み入れた。
団長室に着くと、団長さんは変わらない態度で迎え入れてくれた。
「これはシマザキ殿。私に何か御用かな?」
「団長さん、どうぞユウカとお呼びください」
「ハハッ、そうだったなユーカ殿。それでどうしたのだ? 副団長殿も一緒に来られるなんて珍しいな」
「少々お話がありましてね」
そう言って団長さんに人払いをお願いすると、事の次第を話し出すツァーリ様。
あ、団長さんにはお話するんですね。
後で聞いてみたら、騎士団や魔道士団の人達が一番ステータスをよく確認するから今後のことを考えて情報共有しておいた方がいいんだと教えてくれました。
「…なるほど。しかし食べた者全員に何かしらの変化があるというのであれば、魔法付与と考えるのが妥当でしょうな」
「それを知って悪用される可能性も考えると、今後は不特定多数に配るよりも騎士団と魔道士団に限定して様子を見つつ、魔法付与の発動について調べていくのが良いかと」
「承知した。悪い影響が出ないのであれば騎士団としては異論ない」
「ありがとうございます。魔道士団の者達には私から説明しましょう」
団長さんとツァーリ様の間で話がまとまり、今後私がお菓子を作った時は騎士団と魔道士団に配って観察をすることになったようだ。
私としてもお菓子作りをやめろと言われなくて良かったので、お二人によろしくお願いしますと頭を下げる。
するとお二人は一瞬キョトンとした後お互い顔を見合わせると、同時に笑い出した。
「魔法付与された食べ物なんて初めてですからね。私も気になっているので喜んで協力致しますよ」
「しかも見たこともない食べ物だが美味くてステータスも上がるとなれば、頼まれずともこちらから協力を申し出たくらいだ」
実験に付き合わされるというのにそんなに快く受け入れてもらえると思わず、今度は私がキョトンとしてしまう。
でもそれもほんの束の間。
「ではまたご試食をお願いします」
「もちろんだ」
「喜んで」
おどけたように笑ってカーテシーをすると、団長さんとツァーリ様はそれぞれ笑って騎士の礼をとってくれた。
そこで団長さんとは別れ、ツァーリ様と一緒に詰所の中を散策する。
もちろん団長さんの許可は得ているし、他にもクッキーを食べた騎士さん達に話を聞くためだ。
そうやって詰所にいた騎士さん達に囲まれていると、後ろから「何を群がっているんだ」と呆れたような声が聞こえてきた。
あれ? この声どこかで…
思わず振り向くと、向こうから歩いてきたアルバート様と目が合ってしまった。
相変わらず美形さんですね。
アルバート様は甲冑を着ていたので、どうやら巡回に出ていたみたい。
「ユーカ殿にツァーリ殿?」
「クライス殿、巡回ですか?」
「ええ、今戻った所です」
ところで二人は何故ここに? と小首を傾げられたので、皆さんにクッキーを食べた後の体調の変化を聞いて回っていると話すとアルバート様もHPに変化があったことを教えてくれた。
皆さんの話をまとめると、クッキーに付与されていたのはHPまたはMPに関わるもので、それが回復効果なのか最大値上昇効果なのか、それともトータル的なものなのかは不明。
その辺りはツァーリ様がまた調べて下さるそうなのでお任せすることにした。
読んで下さってありがとうございます!
しばらくはツァーリ様と行動することになりますね。この人もひと癖ある人なのでその内書けたらと思います。