治癒
スキル検証のためのお話。もう少し続きます。
属性魔法を無効化してしまうのなら、攻撃魔法に限らす治癒魔法も無効化してしまうのではないかというツァーリ様の推測は当たっていた。
『ヒール』
ツァーリ様が唱えても、私は何か魔法をかけられた感覚はないしステータスを見てもやっぱりHPは回復していない。
けど、迎撃はやっぱり攻撃魔法にしか反応しないらしく、弾かれるけど跳ね返される訳ではないようだとツァーリ様は言う。
「やっぱりいざという時は自分が回復しないといけないんですね…」
「ユーカ様のMP量は異常ですから、HPにだけ気をつけていれば何とかなると思いますよ」
「異常って……」
ツァーリ様、最近言葉を濁さなくなったよね…
まぁ確かに、アルバート様に聞いた基準と比べるとMP10000超えとかおかしいって言われるのは仕方ないと思うけど…
でもそう考えると、私は自分が治癒魔法使えればMP気にせず自分を回復出来るし、周りの回復も出来るから少しは皆が戦いやすくなるかもしれない。
攻撃魔法で援護するのも大事だけど、何より命が大事だからね!
「貴女の属性魔法無効化がどの程度の魔法まで無効化するのか、それとも一切の魔法を無効化させるのかわかりません。万が一無効化が効かなかった場合、すぐに御身に治癒魔法をかけて下さい」
「はい」
「では、治癒魔法について学び直しましょうか」
「お願いします」
治癒魔法については、HP回復、状態異常回復の二つにわかれ、HP回復は風属性魔法、状態異常回復は光属性魔法に分類されるらしい。
回復魔法にも下級、上級とあり、回復量が変わる。
それらは全て単体回復のみ。
複数人まとめて回復するには風と光の両属性を合わせる上級魔法が必要だという。
属性って合わせることもできるんだ…
でもそれを使うには、同時に二つの属性を発動出来ないといけないから使える人は魔道士団の中でも数える程しかいないんだって。
特に風と光の属性を併せ持つ人がほとんどいない上、同時に発動出来るのはツァーリ様しかいないそうだ。
だから魔道士団の中でも討伐部隊ではないツァーリ様が討伐に駆り出されることが度々あるんだとか。
さすがに今は私の指導があるからツァーリ様に要請が来ることは少なくなったけど、それでもどうしてもって時があるみたい。
「早速実践してみましょうか。まずは『ヒール』からですね」
「これもイメージでいいんですか?」
「ええ。風が優しく包み込むイメージで私にかけてみて下さい」
暖かくて柔らかい風にゆったりと包み込んで癒されるイメージ……ふんわり優しく頬を撫でるような心地良い風……
…うん、イメージ出来た。
『ヒール』
両手をツァーリ様に向けて唱えると、翠色の風がツァーリ様の身体をするりと包み込んで消えていった。
発動はしたけど、これで本当に回復出来ているんだろうか。
ツァーリ様を見上げてみれば、何やら目を見開いていた。
「え、っと、ツァーリ…様?」
「これは…」
「失敗ですか…?」
「いいえ、成功しておりますよ。回復量が桁違いですが」
「よかっ…………え?」
成功していたと聞いてホッとしたのも束の間、何か余計なことが聞こえた気がする。
今、回復量が桁違いとか言わなかった…?
「通常『ヒール』で回復するのは切り傷、擦り傷程度の程度の怪我です」
「はい」
「ですが、今の『ヒール』は体感ですと恐らく骨折が治る程度の回復量ですね」
「へ?」
切り傷や擦り傷が治る回復量と骨折が治る回復量は………さすがにおかしいよね?
同じ『ヒール』なのにそんなに違うものなの?
ツァーリ様に聞いてみるけれど、普通は誰がやっても大差ないんだって。
しかもステータスを見てみたら、ツァーリ様がいう『ヒール』のMP消費量の倍消費してたから、それは回復量増えるよねって納得された。
「これは『ヒール』として使っていいものなんでしょうか…?」
「悩む所ではありますが、回復量が多くて困ることもありませんし、ユーカ様のMP量は心配ないのですから良いのではないでしょうか」
「それは確かに…」
『ヒール』自体が下級魔法だけあってMP消費量は少ないので、倍にしたところでって感じではある。
私のMP量がそもそも異常らしいから特にね。
因みに、骨折を治すのは本来は風の上級魔法である『ウェルネス』だそうだ。
『ヒール』で骨折を治す私が『ウェルネス』を使ったらどうなるのかちょっと気になるけど、今はとりあえず単体回復が使えればいいので繰り返し『ヒール』の練習をする。
『ヒール』
今度は自分にかけてみてちゃんとかかるか確認。
うん、大丈夫だと思う。
今体力減ってないから確認出来ないけど、何となく感触でってだけだけど。
状態異常回復の『リカバー』や複数回復の『ヒーリングウィンド』『 キュアサークル』は追追教えてもらうことになった。
せめて回復くらい出来ないと討伐に出ても邪魔になるだけだし、回復出来る人が少ないというなら尚更私が回復魔法を使えるようになれば皆が安心して戦えるし、ツァーリ様の負担も減るはず。
そのためにも二属性同時発動が出来るようにならないと。
光の剣と闇の剣を順番に出すことは出来るし、完全に同時じゃなくて時間差でなら出せるんだけどなぁ。
試しに一回だけとお願いしてツァーリ様に『ヒーリングウィンド』を発動してもらったら、同時に二つの属性を練り込んで発動させてたから、これは今の私では間違いなく出来ないってわかった。
今日からまずは二つの属性を同時に発動出来るように練習しないと!
私が密かに意気込んでいると、その様子を見ていたらしいツァーリ様が何やら笑っている。
何かおかしかったかな…?
「ユーカ様、治癒魔法を今お教えしないのはスキル検証が中途半端になってしまうからというだけであって、まだユーカ様には扱えないからという意味ではありませんよ」
「え? 違うんですか?ツァーリ様みたいに同時に二つの属性魔法を発動なんて出来ないですし…」
「以前見せていただいた光の剣と闇の剣の同時発動ですが、あれ程難しいものはないのです」
「でもあれは発動のタイミング自体は同時じゃないですよ? 先に光の剣を発動してからでないと出来ないから…」
「ユーカ様、属性の中で扱いが難しいものは何でしたか?」
「え? えぇと、光と闇、です。闇は精神が引きずられてしまうこともあるから特に難しいと」
「ええ、その通りです。貴女はその扱いが難しい光と闇を同時に発動することが出来ています。他属性に比べてかなり難しいことなのですよ」
まず何より、光と闇の属性を持つ者自体おりませんしね。
ツァーリ様にそう言われて、そういえばそうだったと今更思い出した。
「治癒の上級魔法を使える者が居ないのは、片方が光属性だからです。光の属性持ちが少ない上、扱いが難しいことで上手く同時に発動することが出来ないようですね」
「じゃあ光や闇以外の二属性を同時に発動っていうのは難しい事ではないんですか?」
「そうですね、少し訓練すれば出来ると思いますよ。魔道士団の中でも大半が同時発動自体は可能なはずです」
「そうなんですね…」
「そして貴女はすでに光の属性魔法が安定しています。更に、特に難しいとされている闇魔法を同時に発動出来る。この時点で他のどの組み合わせでも確実に発動出来ることは証明されていますね」
「そっか…!」
全く同時に発動しないといけないって所に気を取られすぎていて全然気づいてなかった。
言われてみればそうだよね!?
今すぐ必要なのは『ヒール』だけだから、他はまた今度って言ってるだけだったのに変に深読みしちゃった…
そうだよ……今は属性魔法無効化のスキルの検証中で、今から私はツァーリ様の下級魔法から上級魔法まで受けなきゃいけないから、万が一の為に教えてもらってたんだった。
久しぶりに治癒魔法のことを改めて聞いてたら、つい頭の中でそっちが本題になってしまっていたらしい。
「さて。回復魔法も覚えたことですし、再開致しましょうか」
「は、はい……」
でもやっぱり魔法が自分に向かってくるのは怖いから、治癒魔法の練習の方がいいです。
ツァーリ様の笑顔が怖くて言えないけど。
読んで下さってありがとうございます!
時々アクセス解析を見るんですが、たまに「寝て!?!?」って思う時間に読んで下さっていたりしてつい口に出して突っ込んでしまいます。
読んでいただけるのは嬉しいですが、皆さんしっかり寝て下さいね!




