迎撃
前話の続きです。スキル検証もこれで終わりかと思いきや…
「な、何が起きたんでしょう……?」
私の属性魔法無効化のスキルを検証するためにツァーリ様が風の攻撃魔法を発動した所までは理解しているけど、怖くて目を瞑っていたほんの数秒の間に何があったのか。
私には何の衝撃もなかったし、特に何かをしたつもりもない。
けど、その一瞬で周りは何かの被害に遭ったかのような惨状になっている。
……えーと、私………の、せい?
タイミング的に自分としか思えないけど、無効化するだけなら弾かれて終わりのはずなのに何故?
現にさっきミライズ様に魔法をかけられた時は弾いただけだったのに。
辺りをキョロキョロと見回しながらツァーリ様に近付く。
それまで展開していた光の壁を消している所をみると、ツァーリ様の所にも衝撃が来たということなんだろう。
…どこから?
「……成程、そういうことでしたか」
「ツァーリ様?」
私は現状が全く理解出来ず、ただ首を傾げる。
誰かに聞こうにも、ファーラは危ないから訓練場の入口に待機してもらっていていないし、今日はバーダック様もいない。
他の魔道士さん達は………何かこっちを見て怯えたような顔してる気がするのは気のせいかな…
そんな中、一人状況を把握したらしいツァーリ様がゆっくり顔を上げて話し出した。
「私が検証しようとしていたのは属性魔法無効化のスキルについてです」
「はい」
「ですが、恐らくこの属性魔法無効化というスキルは他のスキルと共に発動することもあるようですね」
「他のスキルと共に発動、ですか?」
「ええ。先程私が発動した『トルネード』はユーカ様を包み込む前に弾かれ、そのままこちらに返ってきました」
「えっ!? 大丈夫だったんですか!?」
「咄嗟に『ライトウォール』で防ぎましたので問題ありません」
話を聞いていくと、私に向けられたはずの『トルネード 』は私に届く前に弾かれてツァーリ様の方へ跳ね返される形で返ってきたそうだ。
ツァーリ様は恐らく迎撃スキルが発動したのだと見ているけれど、迎撃とは相手を迎え撃つこと。
つまり、反撃に近いものであり相手の攻撃を防ぐものではない。
なのに私には傷どころか衝撃すらないということは、無効化も同時に発動したのではないかということらしい。
ツァーリ様は迎撃スキルは私が発動しようとして使わなければ発動しないと思っていたそうで、本人の意思関係なく自動で発動されたことに驚いていた。
「迎撃というからには、本人が迎え撃つ姿勢をとらないことには攻撃のしようがないと考えておりましたので、まさか攻撃を跳ね返されるとは思ってもおりませんでした」
「でもこれ、魔法は跳ね返せたとしても物理攻撃には発動するんでしょうか?」
「ふむ、そこは確認致しかねますね………今もクライス殿の剣の指南は続けていらっしゃいますか?」
「あ、はい」
「では物理攻撃に対してはそちらに一任させていただきましょう」
遠距離からの魔法に長けているツァーリ様は接近戦は出来ないし、魔道士団には物理攻撃に長けている人はいないのでそれだと剣の指南を受けている私の身体の方が咄嗟に反応して防いでしまう可能性があり、確認にならない。
だったら剣技に優れている騎士のアルバート様にその役を買って出てもらえば、アルバート様なら寸止めも出来るだろうからその方が安全に検証できるのだとツァーリ様は言う。
…ってことは、いつもは私の剣を受けて流すだけのアルバート様の剣先が自分に向かってくるってことだよね?
想像するだけでめちゃくちゃ怖い…
魔法も怖かったけど、剣なんて余計に。
けど、これを検証しておくことで自分の戦い方が決まるんだって思ったらスルーしておく訳にもいかないよね…
魔法攻撃には強くても、迎撃が物理攻撃には通用しないとしたらそっちに意識を張らないといけないし。
「クライス殿と次にお会いするのはいつですか?」
「えぇと、剣の練習ですか?」
「ええ。お二人の逢瀬を邪魔するつもりはありませんので」
「そそそっ、そんなこと…っ! ………剣の練習は明日の夕方の予定です」
「畏まりました。ではその日は私も参りましょう」
「ツァーリ様もいらっしゃるんですか?」
「と言いましても、検証のお願いをしに伺うだけですけれどもね」
まさかツァーリ様にまでからかわれると思っていなくて油断した。
アルバート様とのことは耳に入っているだろうとは思っていたけど、ツァーリ様は私のプライベートなことに口を出してくることは滅多にないから。
…あ、でも前にもアルバート様と仲が良いんですね、みたいなことは言われたことがあったような。
それは単に私がどうこうというより、アルバート様が誰かと親しくしてるのが珍しいからってだけなんだろうけど。
ツァーリ様ってあんまり人のことを話さないから印象に残ってるだけなのかも。
「では、もう少し魔法を変えて確認してみましょうか」
「は、はい…!」
「次からはこちらも迎撃が発動する前提で防御壁を張っておきます。下級魔法から上級魔法まで一通り試させていただきますね」
「ひ、一通り…上級魔法まで…ですか…!?」
「ほぼ確実に無効化されると思いますよ。討伐に出れば魔法を使ってくる魔物もおりますから、予行演習と思っていただければ宜しいかと」
「う…」
「では、参ります」
ツァーリ様は再び距離をとってから辺り一面に防御壁を展開した。
いつか討伐に出ることが確定しているのなら、攻撃される感覚にも少しは慣れておかないと咄嗟の時に動けなくなることもあるよね。
無効化は自動的に発動してくれるんだから、こんなに安全なスキルはない。
討伐に出て、怖くて目を瞑って蹲っているなんて足手まとい以外の何物でもない。
攻撃魔法が飛んでくるのを正面から見るのはすごく怖いけど、そんなことそんなことを言ってる場合じゃない。
ツァーリ様が大丈夫って判断してのことなんだから、信じないと。
怖くて目を逸らしたくなる衝動を必死に堪えて真っ直ぐにツァーリ様を見据える。
そんな私の様子に納得したようにニッコリ笑ったツァーリ様は、何故か私に近づいてきた。
「ツァーリ様?」
「一つ確認を忘れておりました」
「確認?」
「ええ。治癒魔法が無効化されないかどうかの確認です」
「治癒魔法…」
そういえばこれまで怪我するようなことがなかったから治癒魔法に縁がなかったなぁ。
治癒とか、状態異常回復の魔法があることは講義で教えてもらって知っていたけど、実際に見たことも無い。
それに、私が無効化する可能性があるってことは、治癒魔法は属性魔法?
それだとミライズ様の魔法が効かなかったように弾かれてしまってもおかしくないよね。
…待って、治癒魔法効かないって致命的じゃない!?
状態異常は無効化があるから大丈夫だとして、物理的なダメージを受けた時に回復出来ないってことだよね!?
そこまで考えて私が慌てていると、ツァーリ様は安心して下さいといつもの穏やかな笑顔で私の顔を覗き込んでくる。
ちょ、ちょっと距離が近いです…
ツァーリ様も美形さんだから、いい加減見慣れたにしてもどうしたって緊張してしまう。
「いざとなれば回復薬がありますので、魔法が効かないのであればそちらで回復できますから」
「あ、回復薬…!」
そういえば、見たことはないけどそんなものがあるって騎士さん達から聞いた事がある。
でもたくさんは持っていけないから、魔道士さんはMP回復薬を持っていって治癒魔法と併用して回復するんだとか…?
「それに、治癒魔法をユーカ様自身が習得されれば自分で回復もできますね」
「私も使えるんですか?」
「ええ。これまでお教えしなかったのは属性がなかったからですが」
「…ということは、治癒魔法は風の属性…?」
「御明答です」
というわけで、念の為治癒魔法を先に試すことになりました。
因みに竜巻による地面の抉れは、バーダック様が招集されて直してくれました。
土の属性がある人があまりいないのか、バーダック様が便利屋さん扱いされているのか…
わからないけど、いつもお世話になっていることに違いは無いので、今度バーダック様にも何か差し入れようと思います。
読んで下さってありがとうございます!
もはや迎撃じゃないじゃんってツッコミはスルーで………笑




