表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/113

応援

ラミィ視点です。

 私達侍女の勤務は交代制で、早朝から夕刻までの勤務の者、夕刻から夜半までの勤務の者、夜半から早朝までの者にわかれております。

 私は侍女長を任せて頂いている身なので勤務は決まっていないけれど、昼間の指示出しが仕事の大半であること、また聖女様には夜半の見守りや朝のお支度は不要と言われていることから日中勤務のことがほとんどなのです。

 とはいえ、何が起こるかわかりませんので聖女様の寝室から繋ぎのお部屋で夜半勤務の侍女を一人配置するようにしておりますが。



 ご自分で何でもされる御国に育ったという聖女様は、確かに我が国では当たり前に侍女が行うことまで全て御自身で為されていました。


 お着替え、身嗜み、湯浴み等々、逆に私達がお手伝いを申し出ると大変嫌がっておいでです。


 更にお茶もご自分でお淹れになるようです。

 先日は珈琲の淹れ方を教えて下さいましたし、食事こそ料理人の用意したものを召し上がられますが、そちらも御自身でされていたそうで。


 そして何より、聖女様といえば甘味ですわね。

 我が国に広まる甘味と、聖女様がお作りになる甘味はどれも見た目も、お味も、食感も全然異なるのですが、大変美味しゅうございます。


 聖女様は我が国に召喚される前はニホンという御国で、おかしを作る勉強をされていたとのこと。

 おかしというものがユーカ様のお作りになる甘味ですわね。

 総称しておかしと呼ばれるそうで、食事と食事の合間に摘むものなのだと教えて下さいました。

 パンディッド王国にはそのような習慣もなければ、おかしなどというものも存在致しません。

 一番近しいのは、お茶会に用意される一口パンでしょうか。


 この国ではパン食の文化が強く、毎食パンを食べる習慣があるのですが、聖女様はそれを知って「せめて惣菜パンはないの…!?」と嘆いておられました。

 そうざいパンとはどのような物なのか存じませんでしたが、後日クライス様とお出掛けになられた翌日にからあげパンというものを頂戴致しまして。

 パンといえば甘いものと思っておりましたし、そもそも我が国には甘いものしかございませんので、それはそれは衝撃的なお味でございました。

 悪い意味ではございません。

 …いえ、このようなもの知らなかったということは悔やむべきかもしれませんね。

 それ程美味しかったのです。



 そんな聖女様は、こちらにいらした当初に比べて随分打ち解けて下さったように思います。

 純粋で、お可愛らしくて、お優しい。

 私達は近くで聖女様を見て参りましたので、彼女がどれだけ素敵な方なのか存じております。

 そして真面目な方ですので、ハイムウェル侯爵夫人によるマナー講義、ツァーリ副団長様による魔法講義、クライス様による剣術指南も全てきっちり受けていらっしゃいますし、御自身で復習もされています。


 見知らぬ国に喚ばれ、頼る者もわからず不安なはずですのに、聖女様はそんな様子はおくびにも出さず、いつでも私達に笑顔で接して下さいました。





 先日も、



「ラミィ! ちょっと聞いていい?」

「どうされました?」

「さっき作った生キャラメル、他の侍女さん達にも差し入れたいんだけどどうすればいいかなぁ?」

「侍女にですか?」

「うん。でもお休みの人とかもいるよね? さすがに居る人だけってなると不公平だろうし」

「お気遣いありがとうございます。それでしたら私が侍女達に配りましょうか?」

「お願いしちゃってもいい?」

「勿論でございますわ」





 というようなことがありましたが、今回が初めてではございません。

 聖女様はいつだって私達を侍女としてではなく、個人として見て下さっているのです。


 聖女様は国賓なのですから、私達に気を遣う必要など無いとお話したこともあるのですが、聖女様のご対応はその後も変わらずでした。

 でしたら私達はその優しい御心に寄り添って、お困りになることのないよう支えていくまで。

 侍女としてだけでなく、個人としてもお役に立ちたいと思った瞬間でした。





 遡ってひと月ほど前のクライス領への訪問。

 本来であれば私も同行できる予定だったのですが、生憎その期間に御家の都合で侍女の欠員が出てしまったため、侍女長として残らざるを得ませんでした。


 後程聖女様が恥ずかしそうに頬を染めてあちらでのことをお話下さる姿を見て、帯同出来なかったことを悔やみました。



 聖女様がクライス様に想いを伝えられ、ご自分のお気持ちを見直されていた頃、恋愛事に不慣れでどうしていいかわからないけれど自分なりに真摯に向き合いたいと仰っておられました。

 その末に御自身のお気持ちに気付かれると、すぐにクライス様にかかる不利益を考えてしまわれ、私としましてはもどかしい思いでいっぱいだったことを覚えております。


 クライス様が聖女様を大事にされていることは今となっては周知の事実ですが、それを受け入れたいお気持ちと、御自身への自信のなさから出る葛藤で聖女様はずっと悩まれていました。


 ですから、王都に戻られた際のお二人の仲睦まじいお姿を目にして大変安堵したのです。

 こちらを発つ時にはまだギクシャクされておりましたから。




 私はクライス様のことを殆どお噂でしか存じ上げません。

 今でこそ聖女様の付き添いとして騎士団に出向き、顔を合わせることも増えましたが、本来侍女と騎士様は関わりの薄いものなのです。


 ですから、見目麗しく、お優しいけれども女性どころか剣以外に一切興味のない変わった御方であること、女性との噂に御自身が巻き込まれることを厭う故のことなのか、絶対にエスコートはされず笑顔で躱されるということ、そんな御方ですがクライス領という安定したお立場と美しい領地を持ち、剣技に優れ、騎士団でも一目置かれているため女性からのお誘いは絶えないということ。

 それだけが私の知るクライス様でした。


 実際、聖女様に付いてお会いした際にもそう思っておりましたし、今でも聖女様以外に対しましては変わりがないご様子です。


 聖女様に関しましては、驚く程お変わりになられましたけれども。

 あのクライス様が自らエスコートを申し出て、非番の日に女性と出掛けられ、騎士の仕事が終わると会いにいらっしゃり、贈り物までされるのですもの。

 これまででしたら、一つたりとも有り得ない事でしたわ。



 今回のクライス領への訪問でご婚約までお話を進められるとは思ってもおりませんでしたが、それもこれもクライス様が本気になられたということなのでしょう。

 クライス家の皆様のお力添えもあったのでしょうね。


 急展開な出来事に私はお話を聞いて驚く他ありませんでしたが、聖女様が幸せそうに笑っていらっしゃるのでよかったと心から思います。









「ねぇラミィ。何か食べたいものある?」

「食べたいもの、ですか?」

「お菓子に限るけどね。今日はマナー講義もないし、ツァーリ様もご用事あるって言ってたし、アルバート様も夕方になるみたいだから久しぶりにたっぷり時間もあるから、ラミィの好きな物作るよ!」

「まぁ! ありがとうございます」

「やっぱりミルフィーユ?」

「みるふぃーゆも大変美味しゅうございますが、先日お作り頂いたぷりんたるとも捨て難いですわね………悩んでしまいますわ」

「じゃあ両方作っちゃおっか!」

「宜しいのですか?」

「全然大丈夫! 後でファーラも呼んでお茶しようね」

「畏まりました。ファーラには声を掛けておきますわ」

「うん、お願い」



 今日も今日とて聖女様はおかしを作ると調理場に向かわれ、楽しそうに食材の準備をされております。


 聖女様はおかしを作られている時、大変生き生きとされており、私はそのお顔を見ているのが好きなのです。

 彼女の笑顔は周囲を明るくして下さいます。

 出来ることであれば聖女様がずっと笑っていて下さることを、突然環境が変わってしまった彼女が末永く幸せであることを願ってしまうのです。


 そのためにもクライス様には是非頑張っていただかなくては。



「ラミィ? どうしたの?」

「何でもございませんわ」



 私はお二人の進む道が明るく光に満ちたものであるよう、一番近くで見守らせていただきますわね。

読んで下さってありがとうございます!

昨日書いていたものが保存できないまま消えてしまい、本来魔法練習の話の予定だったのですが同じものを書き直す気力がなくなったためラミィ視点の話になりました。

慌てて書いたものですので、閑話休題だと思ってもらえたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ