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シェナード視点で、佑花とリリィがお茶会をしている裏のお話です。

 ユーカ様がリリィとお茶会をしている頃、私とアルバートは父上、母上を私の執務室に招いて話をしていた。



「お忙しい中お呼び立てして申し訳ございません」

「いや、構わない。それよりもどうした? アルバートが私達に話があると聞いているが、珍しいな」

「もしかして聖女様のことかしら?」


 父上も母上も、クライス領に戻ってからのアルバートの様子を見ているから気になるんだろう。

 そのお気持ちはよくわかります。


 対してアルバートは慌てることも無く、相変わらずの調子だけれども。


「ええ。聖女様のことで私から一つお願いがありまして」

「お願い?」

「何か御不便がおありだったらすぐにでも…」

「いえ、そうではなく」


 お願い、か。

 聖女様のことをどう思っているのか聞けるのかと思っていたお二人としては、何か至らない所があったのかという思考になっても仕方ない。


 私は大体の察しがついているからもう少し黙って様子を見ていることにするよ。

 面白いからね。


「ところで聖女様はお前が保護したと耳にしたんだが本当なのか?」

「本当ですよ」

「それもあって親しくなったのね?」

「そうですね、始まりは其処だったのかもしれません」

「聖女様の召喚の儀が成功したと何処からか聞こえてきたが、まさかアルバートが関わっていたとはなぁ」

「私が関わっていたわけではありませんよ」

「あら、そうなの?」

「召喚の際に目標位置がズレてたまたま私の管轄に喚ばれてしまっただけなので、団長に報告してから暫く音沙汰もなかったのです。後日偶然お会いしたことで再びお会いするようになりました」

「まぁ、そうだったのね」


 その辺りの経緯は私もアルバート本人から手紙で聞いているから存じているが、私は父上や母上には話していないというのに何処から耳に入れたのだろうか。


 若干話が逸れてしまっているが、口を挟むようなことはせず会話を聞いていると母上が急に楽しそうな様子を見せた。


「ねぇ、アルバート。貴方は聖女様のことをどう思っているの?」


 あぁ、リリィと同じ反応だ。

 やはり女性は幾つになっても色恋話が楽しいんだろうな。


 さて、アルバートは何と答えるのか。

 今迄何度も母上に尋ねられては「何とも思っておりませんが」と笑顔で返していた弟の姿が脳を過る。


 今回は相手が相手だからか父上も気になるようで、一緒になって真剣な目でアルバートを見つめていた。


「良き友人であり、想い人です。先日交際を申し込みました」

「まぁ!」

「「おぉ!」」


 そのような噂は耳にしていたが、本人の口から直接聞くまでは鵜呑みにしまいと心の奥底に潜めていた。

 あのアルバートからこんな言葉を聞ける日が来るとは夢にも見なかったから、私も一緒に声を上げて喜んでしまったよ。


「それで!? お返事はどうだったの!?」

「まだ頂いておりません。そこでお願いなのですが、」

「何だ? 何を協力したら良い?」

「何でもするわよ!」


 父上と母上は高揚するのは無理もありませんが、少し落ち着きましょう。

 アルバートが話すタイミングを失っていますよ。


「協力は結構です。私自身の力で振り向かせられなければ意味がありませんから」

「アルバート…!」

「ですから、もし聖女様が了承の返答を下さった時、婚約する許可を頂きたいのです」


 あぁ、成程。

 それがお願いだったのか。


「そんなのは聞くまでもなく許可するけれど、何故私達に?」

「そうだな、私達は隠居の身。シェナードの許可があれば問題ないだろう?」

「私も反対する気はないからアルバートの好きな時に婚約すればいいよ」

「ありがとうございます。ですが、私は兄上だけでなく父上、母上にも報せておきたかったのです」

「アルバート…」


 そう、もう領主は私が受け継いでいるのだから、実際の話として私が許可を出せばいくら父上や母上が反対しようとも強行することはできる。

 まぁ反対するようなお二人ではないけれどね。


 それをわかった上できちんと伝えたいと思うお前は本当に優しい男だよ。

 お前のことだから、父上と母上を安心させてあげたい気持ちと、ユーカ様が肩身が狭くならないようにと考えた上でのことなんだろう?


 婚約まで考えるということは、添い遂げる覚悟がある相手ということ。

 そんな相手に巡り会えたことに私は心から感謝するよ。




 …ただ、一つだけ懸念がある。

 それを聞くのは酷であるとわかっているが、確認して置かなければならない事だというのも事実。


 私は意を決して口を開いた。


「アルバート。相手が聖女様ということはどういうことかわかっているね?」

「ええ」

「狙われる危険性のある立場であること、時に重大な事案に巻き込まれる可能性もある方ということ、そして…」


 彼女の力は未知数だ。

 故にその力を手に入れたいと企てる者は少なからず居るだろう。

 まぁ、これに関しては騎士であるアルバートの方がよくわかっているだろうが。


 また、聖女様というのは魔物討伐遠征への同行だけでなく、もっと大きな事が起こりうる存在であるということ。

 聖女様の力を使って事を成す時、国政として其れを進められてしまえばいくら繋がりがあろうと我々は関与は出来ない。


 そして最後、私が一番懸念していることは…



「…聖女様はお役目を果たされたら元いた国に戻られるかもしれない」


 そう、聖女様は我が国が“喚んだ”存在でありこの国の方ではない。

 過去の聖女様に関する記述が少なく確証はないが、可能性として有り得ることだというのは忘れてはならない。


 アルバートが強く想い入れがあるのなら尚更。


「…承知しております」

「いいんだな?」

「勿論そうならないことを願いますが、それでも私は彼女と共に在りたいと望みます」



 アルバートは私から目を逸らすことなく、迷いのない瞳でそう言い切った。


 それならば私から言うことは何も無い。

 そうならないことを私も強く願っているよ。



 父上は嬉しそうに何度も頷いていて、母上は今にも泣きそうだ。

 ずっと心配してきたのだから無理もない。


「父上、母上、兄上。快く婚約の許可を頂き、ありがとうございます。私は、私の幸せをこの手で掴み取ってみせます」

「アルバート…」

「そのためには騎士の地位もクライスの名も、何でも利用しますからご了承ください」「ふっ…そう来たか」


 急に不敵に笑ったかと思えば不遜な物言いをする。


 これまで地位にも名声にも関心のなかったお前がそんなことを言うようになるとはな。

 人は変わるものだ。


「使えるものは何でも使え。お前が今使えるものは全てお前の武器だ」

「父上」

「そうよ、貴方がこれまで使おうとしなかっただけ。いつだってクライスの地は貴方の力になるわ」

「母上」

「領地の権限が私にあるとはいえ、お前はクライスの名を受け継ぐ者だ。最後に自分の手で掴むためにも、もっと私達を頼るといい」

「兄上」


 ありがとうございますと腰を折るアルバートに、彼らの進む先が光溢れるものになるようにと心から祈るよ。






 それからアルバートは母上に捕まって聖女様とのことを根掘り葉掘り聞かれていたのだが、全く包み隠さず聞かれるがままに話す辺り、弟はどこかに羞恥心を忘れてきたのかもしれない。


 これでは聖女様も苦労するだろうな。

 これだけの好意をまっすぐに向けられるというのも気恥しいものだろうと想像に余りある。


 しかし、そこはアルバートが抑えるなり、聖女様と折り合いをつけるなり、二人で上手く調整していけばいい。




 さて、こちらの話はまとまったが、リリィの方はどうなったかな?

読んで下さってありがとうございます!

みんなアルバート好きすぎますね。

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