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論破

純粋な善意に佑花は弱そうですね。

 お茶会という名の女子会はとても盛り上がっていた。

 執事さんにも侍女さんにも下がってもらい、完全にリリアンヌ様と私の二人きりだったので私も相談しやすかったというか。

 リリアンヌ様のお話を聞いた上でアルバート様のことをどう思っているか聞かせてほしいと微笑まれ、私は出逢いからこれまでのこと、その時に感じたことを順に話していった。

 告白されたこと、私も同じ気持ちであること、そして迷っていること。


 リリアンヌ様は相槌を打ちながら最後まで話を聞いてくれた。



「そうでしたのね」

「はい…それで応える勇気が出ないというか、応えていいのかわからないというか…」

「ふふっ、聖女様は大変可愛らしい御方なのね」


 アルバートが惹かれるはずだわとリリアンヌ様は笑うけれど、私にはどういうことなのかさっぱりわからない。


 確かに反応がこの国の女性とは違うって言われたことはあるけど、それも単に男慣れしてないってだけだと思うし、素直に喜べないところではある。


 なんて複雑な気持ちになっていると、リリアンヌ様はさっきまでの楽しそうな表情ではなく真剣な顔で私を見ていて、反射的に背筋がピンと伸びるのが自分でわかった。



「聖女様はアルバートと交際をするということは婚約と同義になってしまうことを躊躇っていらっしゃるのですわよね?」

「そう…ですね。私には交際経験がないので、アルバート様が私に飽きた時に枷にならないかと思うと…」

「ということは、聖女様ご自身はアルバートと婚約になってもお嫌なわけではないと?」

「あ、はい、それは大丈夫です」


 私はアルバート様の良い所をたくさん知ってるし、告白してもらっておいてなんだけど私には勿体ないくらいの人だってわかってる。

 そんな人と婚約だなんて、嬉しいけど現実味が無さすぎて怖いってことしか。


 それよりもアルバート様が私に興味を失くした時のことを考えると、婚約なんて当人同士だけの問題じゃないし、絶対邪魔になる。

 今はいいかもしれないけど、興味なんて一生続くようなものじゃないだろうから。


 だから安易に受け入れる訳にいかないと悩んでいるんだけれど。


「アルバートがそのように先の覚悟もなく交際を申し込むとは考えられません」

「リリアンヌ様…」

「聖女様はお優しいからご自分のことよりアルバートのことを考えて下さったのでしょう。ですが、今はアルバートのことは置いて、ご自分のお気持ちをお聞かせくださいませ」

「私の………私は、お受けしたいです…」

「でしたらそのお気持ちだけで十分ですわ」


 カップを手に取り、再びにっこり笑うリリアンヌ様。



 …私は本当に告白を受け入れて良いんだろうか。

 それはアルバート様にも、クライス家にもマイナスにならないのか、とても怖い。


 リリアンヌ様は良いと言ってくれるけど、それは同じ女性だから応援してくれているとかそういうことじゃないのかな。


 私は聖女っていう肩書きしかない。

 それも実績も何も無い、名前だけの聖女。

 そんな私と婚約するメリットがあるだろうか。


 アルバート様はきっとメリットなんて考えてないと思うけど、クライス家家はまた別の話。

 シェナード様がどう思うかもあって、考えすぎてずっとぐるぐるしている。


「…こんなことを言ったら失礼だと思うんですが、クライス伯爵家としては思う所はないんでしょうか?」

「それは、御家にとって利があるか、ということかしら?」

「はい」

「…正直に申し上げますわ。聖女様の心配されるようなことはございません。我がクライス家にとってアルバートと聖女様の婚約は利しかありませんの」

「え?」


 意を決してリリアンヌ様に聞いてみたら、予想外の答えが返ってきて思わず目を見開いてしまった。


 利しかない、ってことはメリットしかないってことだよね?

 何で?


 信じられなくて目をぱちくりとさせている私に、リリアンヌ様は丁寧に説明してくれた。


「まず第一に私達はアルバートの幸せを願っています。剣以外に夢中になれるものができることをずっと願っておりました。ですから、そのアルバートが自分で選んだ相手であれば貴族であろうと庶民であろうと反対するつもりは一切ありませんでした」

「そう、なんですね 」

「そして二つ目は貴女が聖女様であるということです。聖女様という強い象徴を求める者は多くいます。ですが、聖女様がクライス家にいるとわかれば我が領への手出しも出来ないでしょう」


 なるほど…確かにアルバート様も私と繋がりを持とうとする人が増えてるって言ってたからそういうことなのかな?

 何もしてなくても“聖女様”って名前は大きいのね…


「加えて言うのであれば、我がクライス領は争いを好まず中立を貫いております。聖女様が其処に居るということは、聖女様も中立のお立場になるということ。つまり、聖女様を利用しようとする派閥への牽制にもなるのです」

「そんなことが…」

「残念ながら、実際に起こりうることなのです」


 それってつまり、私の立場や力を利用しようとしてる訳でしょ?

 私には派閥とかわからないし、この国において何が良くて何が悪いのかもはっきり判別出来ない。

 それを狙って利用しようとする悪い人もいるってことかな。


 そう思うと、この国に来て約三ヶ月で私が出逢った人が皆いい人だったのは奇跡的なことなのかもしれない。

 怖いと思うような人にも、私を利用しようとするような人にも会ってないし。

 私が気付いてないだけかもしれないけど、そうだと思いたい。


「ここまでお話しておいて今更と思われるかもしれませんが、クライス領にとっての利をお伝えしたのは聖女様が気にされているようでしたので。私達には一つ目の理由が全てなのです」


 大事な弟ですからね。


 そう言って笑うリリアンヌ様の表情に曇りはなくて、心底アルバート様に興味の対象が出来たことを喜んでいるようだった。


「それに、私達もこんなアルバートは見たことがありませんもの。嫌だと仰ってもきっとそう簡単に逃がしてもらえませんわよ」

「えっ」

「幼少の頃、剣にしか熱中できないアルバートを心配してお父上が一度剣のお稽古を休止させたことがありますの。その時のアルバートったら、それは凄い剣幕で四六時中お父上に解禁するよう迫っていたのです」

「し、四六時中……」

「それ程までに剣を取り上げられるのが嫌だったのでしょうね。それ以降関心を持つものがありませんでしたので比較対象はありませんが、きっと聖女様への執着も強いと思いますわ」

「え、えっと……執着…?」

「ですから聖女様!」

「は、はい!」

「諦めて下さいませ!」

「はい!?」


 あれ!?

 何か急に空気が変わったんですけど!?


 リリアンヌ様は切々と私の不安を解消しようとしてくれていたはずが、いつの間にか私への説得になっていたらしい。

 とってもいい笑顔でお願いされてしまった。



 アルバート様がとても愛されているのはここに来てからの数日でよくわかった。

 それはとても良い事だと思うし、微笑ましいよ。

 私としてもアルバート様にはすごく助けてもらってきて、本当に優しい人だとわかってるからそんな風に無条件に応援してもらえるのってすごく素敵なことだと思う。

 その相手が自分だと思うとどうにも気恥しいだけで。


「聖女様のお気持ちが別にあるのであれば無理強いは致しませんわ。ですが、そうでないのなら私達の為にも前向きに考えていただきたいと思っております」

「リリアンヌ様…」

「他に何か懸念事項がありまして?」

「い、いえ! 私は…その、男性に想いを寄せてもらったことがないので、私で良いのかどうしても不安になってしまって…」

「ふふっ、そこはアルバートの腕の見せ所ですわね」


 その言葉の意味はよくわからなかったけど、リリアンヌ様が話してくれたことは少なからず私の自信に繋がった気がする。




 こんな私がアルバート様の隣に立っても良いと望んでもらえるのなら。


 アルバート様が私を選んで言葉をくれたように、私も今の気持ちをしっかり返したいと思う。





 えぇと、クライス領を立つ前には伝えられるといいな…

読んで下さってありがとうございます!

リリィは本気で佑花を論破しようとしています。佑花はまず負けるでしょうね(笑)本気を出したらシェナードにも勝ちそうです。

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