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昔話

リリアンヌ視点です。

 私の名前はリリアンヌ・フォン・フェルミーア。

 フェルミーア伯爵家第二子ですの。


 私には兄がおりまして、兄が領地を継ぐことは決まっていますので私はどなたかと婚姻を結び、何れ領地を出ることになるとはわかっていました。

 恐らくそれが幼い頃より交流のあるクライス家のご子息になるだろうことも。


 私の母がクライス伯爵夫人と懇意にしていて、母は度々兄と私を連れてクライス領へ足を運んでおりました。

 兄はいつ頃からか一緒に行かなくなりましたが、私はクライス領の綺麗な土地が大好きでいつも着いていっていました。

 そしてそこで遊んでくれるのがクライス家長子のシェナード様と第二子のアルバート様だったのです。


 シェナード様もアルバート様も大変お優しい方でいらっしゃいました。

 シェナード様は私の一つ上、アルバート様は一つ下。

 歳の近い私達は傍目には仲が良かったと思います。

 えぇ、傍目には。


 何故かと申しますと、シェナード様もアルバート様も人間関係に冷めていらっしゃいますの。

 と言っても感じが悪い訳ではないのですよ。

 人当たりはとても良いのです。

 ただ、誰に対しても平等に興味がないと申しますか…

 私はお二人との付き合いが長くなるにつれ、そのような印象を抱くようになりました。


 ですがシェナード様はほんの少しずつ私を知ろうとして下さいました。

 きっと私があまりに文句を言っていたからでしょう。

 殿方に意見するなど女性として恥ずかしいことだとわかっておりますが、幼少より見知った仲だというのに他の方々と同じように距離を置いた笑顔を向けられるのが屈辱だったのです。

 私を一人の女性として見てほしいなんて言いません。

 興味がなくても構いません。

 ただ、自分を偽る笑顔を私に向けないでほしいと、ただそれだけお願いを致しました。


 それからシェナード様は私にそのような取り繕った態度をお見せになることはありませんでした。



 ですが、アルバート様は変わりませんでした。

 シェナード様が人間関係に関心がなかったと申し上げるのであれば、アルバート様は剣以外の一切に関心がなかったのです。


 けれど、剣だけを触っていられるわけではありません。

 伯爵家のご子息とあらば身につけなければならないことはたくさんありますから。


 ただ、アルバート様は幼少より大変優秀で、何でもそつなくこなしているような方でした。

 マナーも、勉学も、運動も、人間関係でさえも。

 ですので私が遊びに行った時もあの優しい笑みを携えて差し障りなく御相手下さるのです。



 それは私がシェナード様と婚姻を結び、義理の姉弟となってからも変わりませんでした。










 これは私がクライス家に嫁ぐ前。

 シェナード様が十六歳、私が十五歳、アルバート様が十四歳の時のお話です。



 数年前と比べ、随分と本音で私に接して下さるようになったシェナード様。


 シェナード様に求婚され、お受けする形で成立した婚約でしたが、アルバート様も喜んで下さいました。

 アルバート様は周囲の…特に女性に関心がない、というよりは、その頃には多くの女性がアルバート様に熱烈な視線を向けていましたので少し煩わしそうにしている節がありました。


 シェナード様もアルバート様も見目麗しく、人柄も良く、学力、剣技も秀でておりますから当然のこととも言えますが、シェナード様は早い段階で私との婚約を結び、それを理由に女性からのお誘いをお断りされていました。

 その分、更にアルバート様に向かってしまわれたのでしょう。


 ある日、シェナード様と共に部屋で読書をしていた私の元に疲れた様相のアルバート様が来たのです。



「…シェナ兄、リリィ、どうにかしてくれ」

「アルバート?」

「どうした? 出掛けたのではなかったのか?」

「出掛けようとするとどこからかご令嬢方が集まってきて私を取り囲んで動けなくなるのです」

「………それは大変だな」

「私は傍の森に稽古に行こうとしているだけなのに…」

「あら、そうだったのね」


 この頃になるとアルバート様は一人で鍛錬に出ていることが多く、私がシェナード様の元に通っていてもお会いすることが少なくなっていたの。

 だからこの時は驚いたわ。


「シェナ兄はいいですね…」

「そう思うならお前も相手を見つけたらどうだ?」

「少なくとも私を取り囲むご令嬢方からは見つけられません」

「ならお前はどんなご令嬢なら良いんだ?」

「放っておいてくれる人ですね」


 アルバート様は本気でそう言っているのか、まともに答えるおつもりがないだけなのかはわからなかったけれど、女性が寄ってくることに辟易していることだけはわかったの。


 でも、貴族社会において女性は守るべきもの。

 粗雑に扱えば、御家同士の問題に発展しかねない。

 だからこそアルバート様はしきりに溜め息を零していたわ。




 それから翌年にはシェナード様と私が結婚し、シェナード様は領主補佐として領地の経営を学び始めました。


 そしてアルバート様は、私達の結婚を見届けてすぐに騎士団に入団するべく王都へ行ってしまったのです。


 私は十五から入団するなんて早いのではないかと思ったのだけれど、シェナード様はよく十五まで我慢したなと笑っていらしたわ。


「アルバートが早かれ遅かれ騎士団に行くのはわかっていたからな」

「でも結婚式が終わった翌日に出ていってしまうなんて…」

「いや、アルバートからしてみればもっと早くに出たかったんだと思う。私達が落ち着くのを待ってくれていたんだろう」

「そう……そう、よね」


 アルバート様は昔からシェナード様を慕っていて、私はお二人が喧嘩をした所を見たことがないのよね。

 シェナード様もアルバート様を可愛がっていらしたし、本当に仲の良いご兄弟なの。

 そうでなかったら、確かにもっと早くにクライス領を出ていたかもしれない。

 そう思ったら仲の良さに感謝したものでしたわ。



 王都へ出てからは時折お手紙が届く他は関わりがなくなってしまいました。


 無事騎士団に入団して着々と業績を残していると、風の便りに聞きました。

 剣には大変のめり込んでおりましたから、腕前も相当のものなのでしょう。

 以前にも増して、クライス家に縁談の申し出の封書が届くようになったことにはシェナード様と共に頭を抱えたものです。


 ただでさえ女性に言い寄られることを煩わしいと感じているアルバート様に縁談のお話などできる訳もなく。

 稀にシェナード様がお手紙の一文にそっと添える程度で、私達は全てお断りしておりました。


 勿論クライス領だけでなく、王都のアルバート様本人に届ける御方も多かったようですわね。


 それは御歳を重ねても一向に減る気配はなく、今に至るわけですけれども。


 あれから八年が経ちますが、アルバート様があれ程取り乱したのは初めて目にしました。

 いつでも冷静で、慌てる様子を一切見せないあのアルバート様が。


 シェナード様を通して王都でのお噂は耳にしております。

 アルバート様が女性をエスコートしたことが騒ぎになっていたと。


 私も俄には信じられませんでした。

 一番親しいと言える昔馴染みの私でさえ、過去に一度もエスコートをされたことがないのです。

 愛称で呼んで下さるのが唯一周囲と違う点でした。

 他のご令嬢方からは、皆家名でしか呼ばれないのに何故貴女だけと妬まれたこともあったのですよ。


 ですから、聖女様と共にお帰りになったアルバート様を見て以前のアルバート様と違うとはすぐにわかりました。

 まず、聖女様を見る目がとてもお優しいんですもの。

 あんな目で女性を見るアルバート様なんて初めてですし、想像もしておりませんでしたので私の方が恥ずかしくなってしまいましたわ。


 行動の端々からも聖女様への好意が現れていて、疑いようもなかったのですけれども。



 ですから、私は聖女様のお気持ちと併せて、そんなお二人のこれまでのお話を聞かせて頂きたいのです。


 家族として、私の知らないアルバート様を是非お教えくださいませ。

読んで下さってありがとうございます!

リリィから見た昔の二人と今の二人でした。似た者兄弟だったんですね。

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