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茶会

ようやくお茶会です。

 今日はリリアンヌ様とのお約束の日。


 そういえば服装ってどうしたらいいんだろうと直前になって気づいたんだけど、いつの間に用意していたのかクライス家の侍女さんが持ってきてくれたのでそれを着ることに。


 晩餐会があるのはわかってたからある程度のドレスを持ってきてはいるけど、お茶会は初めてだから色合いとかデザインとかどういうものが適しているのかまだよくわからないんだよね。

 リリアンヌ様はそんなこと気にされないってアルバート様も言ってくれてたけど、作法に自信がないから服装くらいはちゃんとしておきたいというか。



「まぁ、良くお似合いですわ」

「ありがとう、ルミナ」


 コルセットやらお化粧やらヘアセットやらを手伝ってくれていたルミナが完成形を見て嬉しそうに褒めてくれる。

 その横ではファーラが頷きながら小物類を用意してくれていた。


 用意されていたドレスは白地ベースに淡いピンクのレースがあしらわれていて、どことなく桜を思い出させる可愛らしいデザインのものだった。

 日本でもピンクはよく着ていたからちょっと落ち着く。



 なんて思ってたのに、



「さすがクライス様のお見立てですわね!」

「ユーカ様がお似合いになるものをよく存じていらっしゃいますわ!」

「えっ」



 …今、何て言った?

 ファーラもルミナもすごく楽しそうだけど、私は急に落ち着かなくなったよ?


「こちらのドレスはクライス様からの贈り物でございます。お伝えしておりませんでしたか?」

「聞いてないよ!?」


 ドレスなんて一朝一夕にできるものでもないだろうに、アルバート様はいつ用意してたんだろう。

 っていうか、採寸された記憶ないのにピッタリなのすごくない?


 もうすぐアルバート様がお迎えに来るっていうのに、今になってソワソワしてきちゃった…




 って言ってる間にもう来たらしい。

 ノックの音にルミナが出ると、すぐ後ろからアルバート様が顔を覗かせた。


「失礼するよ。支度は終わったかな?」

「う、うん」

「ああ、やっぱりユーカ殿はその色が良く似合うな」


 入ってくるなり私を見て顔を綻ばせるアルバート様。

 私はドレスのお礼を言うのが精一杯だったけれど、それでもアルバート様は何だかとても嬉しそうだった。




 それからリリアンヌ様が待つ庭園にエスコートされ、アルバート様はシェナード様の所に行くそうなので私とリリアンヌ様の二人だけに。


 二人きりで話すのは初めてだから緊張する…



「聖女様、本日はお時間を頂きましてありがとうございます」

「こ、こちらこそご招待頂きありがとうございます」

「アルバートから、聖女様のいらした御国には貴族制度がないと聞いております。楽にして下さいませね」

「お気遣いありがとうございます」


 席に着く前にカーテシーでご挨拶をし、改めてリリアンヌ様を見る。

 柔らかいブロンズの髪は緩く纏められていて、ブルーグリーンの瞳が優しげに揺れていた。

 多分歳は私より少し上くらいなんだろうけど、貴族としての立ち居振る舞いのためか、すでにお子さんがいる母親だからなのか、すごく落ち着いて見える。


 それにしても、クライス家の皆さんは本当に穏やかに笑うのね。

 表面上の笑みではなく、緊張しているこっちがつられて口元が緩んでしまうくらい親しみのある優しい笑顔。

 多分それがより人柄を際立たせてるんだと思う。



 リリアンヌ様はとても優雅な仕草で紅茶のカップに手をつけ、私作のケーキスタンドを興味深そうに見ていた。


「こちらは聖女様がお作りになられたと聞いておりますが…」

「はい。全部私の故郷のお菓子なのですが、よろしかったら是非食べてみてください」

「まぁ! それは是非戴きますわ」


 嬉しそうに瞳を輝かせるリリアンヌ様はとても可愛らしくて、やっぱり女の子は甘いもの好きだよねと嬉しくなる。


 …この国は女の子以外も甘いもの大好きだと知っているけれど。


 どうせならリリアンヌ様にもコーヒーの良さを知ってもらいたいんだけど、勧めてみてもいいかなぁ?

 私、チョコとコーヒーの組み合わせ好きだから自分も飲みたいし。


 少し悩んだ結果、嫌がられたら自分の分だけ淹れればいいやと思い、まずは聞いてみることにする。


「リリアンヌ様はコーヒーは飲まれますか?」

「珈琲ですか? 以前一度戴いたことがあるのですが、苦くて私には飲めませんでしたの…」


 やっぱりか。

 クライス家でコーヒーを淹れたのは誰なんだろう。

 恐らく執事さんか侍女さんなんだろうけど、皆が皆苦くて飲めなかったっていうのはちょっとコーヒーが可哀想すぎるから淹れ方を教えてあげたいわ…


「でしたら、私が淹れてみても良いですか?」

「聖女様がお淹れ下さるのですか?」

「私の国では当たり前に飲まれていたのでよく自分で淹れていたんです。シェナード様もアルバート様も気に入って下さいました」

「まぁ、それは是非お願いしたいですわ」

「ありがとうございます」


 承諾を得られたので淹れて目の前に出したコーヒーにミルクと砂糖を添えておいた。

 甘いものと一緒に食べるから要らないかもしれないけど、好みがあるからね。


 ミルクと砂糖は飲んだ加減で自由に入れてみてくださいと説明し、まずブラックのまま香りと味を確かめるリリアンヌ様を横目に私も一口啜る。

 うん、いつも通り。

 私は濃すぎるのが好きじゃないから少し薄めなんだけど、リリアンヌ様は口にあったかな?

 どうしても苦手な人もいるから無理して飲むことはないけど、苦いばかりじゃないってことだけでも伝わればいいなぁ。


「…美味しいですわ!」


 ちょっと不安になりながら反応を待っていたら、二口、三口と口に含んで、ミルクや砂糖を少しずつ足しながら飲んでいたリリアンヌ様がパッと顔を上げた。


「甘くするのも勿論ですが、そのままでもとても香りが良く、爽やかな苦味が広がりますのね」

「そのままだと甘いものに合うんですよ。私はこのチョコレートを食べながら飲むのが好きなんです」

「こちらは…?」

「食べてみて下さい」

「…舌の上で溶けていきますわ…!?」



 リリアンヌ様は終始こんな感じで、見ていてすごく癒された。


 コーヒーも気に入ってもらえたようで、是非淹れ方を使用人に教えていってほしいと頼まれたり、もっと色んなお菓子を食べてみたいと言ってもらえたりして、途中から緊張してたことなんて忘れて楽しく女子会してたよね。




「聖女様はアルバートのことをどう思っていらっしゃいますの?」

「…ッ!?」


 どのお菓子が美味しいとか、こういうお菓子もあるとか、話に花を咲かせていた矢先に急にそんなことを言われて危うく噎せるところだった。


 よかった、飲み込んだ後で…


「不躾で申し訳ありません。私は幼少よりアルバートを存じておりますので、シェナードから王都でのお話を聞いてからも信じられませんでしたの」


 リリアンヌ様は手にしていたカップをソーサーに置いて俯くと、ぽつりぽつりと話し出した。


 王都での話って言うとシェナード様に初めて会った時のことだよね?


「アルバートはシェナードにそっくりなんです。何でもそつなくこなし、人当たりもよく、周囲に関心がない…」

「え…?」


 見た目はそっくりな兄弟だけど、シェナード様が周囲に関心がなかったというのは意外だった。

 アルバート様が剣にしか興味がなかったっていうのは聞いてたけど、それはシェナード様の影響もあったんだろうか。


 何にしても私は今の二人しか知らない。



 驚く私に苦笑を浮かべたリリアンヌ様は、突然こんな話をごめんなさいと目を伏せる。




「少し、昔の話をしても良いかしら?」

読んで下さってありがとうございます!

女子会、書きたかったんですよね。

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