再会
久しぶりのアルバート登場です。
宰相様の執務室を後にした私達は、その足で魔道士団の詰所に向かっていた。
今度はツァーリ様にお渡しするためだ。
ツァーリ様も忙しい方だからお会い出来るかはわからないけど、無理だったら明日の講義で渡せばいい。
それくらいのつもりで尋ねたら、宰相様同様あっさり入室が許可された。
「ユーカ様、どうされたのですか?」
いつも通り笑顔で迎え入れてくれるツァーリ様。
机の上の書類の山を見るに、忙しいことに違いはなさそうなので簡潔に用事を済ませることにします。
「私の故郷で食べられていたクッキーというお菓子を作ったので、お一ついかがでしょうか?」
「おや、それは嬉しいですね」
さっきの宰相様と違い、ツァーリ様は躊躇なく渡したラッピングの袋を開け、クッキーを口に運ぶ。
魔道士団副団長様ならもうちょっと疑ってかかるくらいでなくて大丈夫なんだろうか。
自分が信用されているのだということはわかっても不安になってしまう。
結果から言うと、ツァーリ様も大変お気に召していただけたらしい。
次は倍くらい詰めてくださいねとにっこり微笑まれてしまった。
「次は騎士団でよろしいですか?」
「はい。団長さんにお会い出来ればいいんだけど…」
ラミィに次は騎士団に連れていってもらう。
騎士団は魔道士団とはお城を挟んで反対側にあるため少し歩くようだ。
「お疲れでしたら馬車を用意しましょうか?」
「ううん! これくらい歩けるから!」
貴族の皆さんは短い距離でも当たり前に馬車を使われるみたいだけど、一般庶民で育ってきた私にそんな感覚はない。
お城を挟んで反対側って言ったって、地下鉄一駅歩くのに比べたら全然近いもの。
それに、街並みを見ながら歩くのって楽しいからわざわざ馬車に乗ってさっさと行っちゃうのは勿体ないよ。
どうせならお店とか色々見ながら歩きたいな、なんて思って歩いていたら路地から見覚えのある姿が見えて思わず叫んでしまった。
「アルバート様!?」
またしても路地。
アルバート様と会うには路地がないといけないのかしら。
そんなアホな事を考えながら、私に気づいて近づいてきてくれたアルバート様に頭を下げる。
「ユーカ殿じゃないですか」
「す、すみません、急に叫んでしまって」
「大丈夫ですよ。こんな所で何をされているんですか?」
「騎士団の詰所に向かう所だったんです」
「騎士団の?」
アルバート様は不思議そうに首を傾げていたが、団長さんの所に用事があると言うとそれなら自分が案内しようと言ってくれた。
「アルバート様は巡回中ですか?」
「あぁ、いえ、今は休憩なんですよ」
さすがに休憩中の人に案内をお願いするのは申し訳なくて遠慮するが、休憩が終われば詰所に戻るのだからついでだと押し切られてしまう。
…あ、そうだ。
休憩中なら今アルバート様にクッキー渡しても問題ないかもしれない!
案内してくれるつもりでいたなら特に用事がある訳じゃなかったみたいだし。
会えるかどうかわからなかったから、今がチャンスだよね!
そう思ってアルバート様にお時間があるか確認すると、快く肯定の返事をくれたので、近くのベンチに座って少しお話させてもらうことに。
その間にラミィは団長さんの所に少し時間をもらえるようにお願いしに行ってくれた。
「数日前のことのはずなのに何だか随分と久しぶりの気がしますね」
「そうですね。あの時は色々とありがとうございました」
「私は騎士として仕事をしただけですよ」
「それでもとても助かりました。アルバート様にずっと御礼を言いたかったんですが、遅くなってしまってすみません」
「そんなことはないですよ」
出会った時と同じように優しいアルバート様に、その時のことをふと思い出す。
右も左もわからず、どうしていいのか戸惑っていた私に嫌な顔一つせずこの国のことを教えてくれた人。
私の話を否定せず、信じて話を聞いてくれた人。
そんなアルバート様には感謝しかない。
「御礼と言ってはなんですが、日本で食べていたクッキーというお菓子を作ったのでよろしければ貰ってください」
「ニホン…ユーカ殿の故郷ですね。私が戴いてもよろしいのですか?」
「もちろんです。お口に合えば良いのですが…」
「ここで頂いても?」
こくりと頷くと、アルバート様はクッキーを一つ口に入れてパッとこちらを見た。
どことなく嬉しそうな顔に私まで頬が緩む。
「これは美味しいですね! それにいい香りだ」
「私も昔から大好きでよく食べていたんです。いい匂いですよね」
「……だからですね」
「え?」
「初めて貴女にお会いした時、ふわりと甘い香りが漂っていたのですよ。香水とは違う感じがしていましたが」
確かに私は香水はつけていない。
けど、出会った時に甘い匂いって何だろう。
その日のことを思い返してみるけれど、バイト帰りに足が縺れて転びそうになったと思ったらここに飛ばされてたってことしか…………バイト?
そうじゃん、私のバイト先って洋菓子店だわ。
「え、っと、バイトでケーキなんかも作ってたから匂いがついてたのかもしれないですね」
「ばいと、というのは仕事ですか?」
「あ、はい。正規ではない、臨時の仕事って感じです」
「なるほど。それでけーき? を作っていた時の香りだと」
「ケーキもクッキーも甘い匂いが強いですから」
「言われてみると似たような香りだったかもしれません」
男性に匂いを嗅がれていたのは恥ずかしいけど、スイーツの甘い匂いで良かったと一安心。
それからアルバート様は、残りのクッキーをゆっくり食べてそれぞれ感想をくれたり、日本のことを聞いてきたりして、ラミィが戻ってくるまで話に盛りあがっていた。
そしてアルバート様の案内で団長さんにもお会いしてクッキーを渡し、ついでに騎士さん達にも配ってもらえるよう大量のクッキーを預けてきた。
その夜。
夕食も終えてまったり紅茶を飲んでいると、ラミィが世間話でもするかのように話を切り出した。
「ユーカ様はクライス様と仲がよろしいのですね」
「え? 何で?」
「クライス様は勉学にも武道にも優れていらっしゃり、あの通り見目麗しい方ですのでご令嬢方から大層人気があるのですが、クライス様ご自身にそういった事にご興味がないようでして。ですから、ご令嬢方にお名前で呼ばせることは滅多にないそうですよ」
「え? そうなの?」
「少なくとも私はユーカ様が初めてですし、クライス様が女性をお名前で呼ばれるのも初めてお聞き致しました」
「えぇ? って言われても……あ、もしかしたら名前を呼ぶ感覚がこっちと違ってて私が戸惑ってたから気を遣ってくれたのかも!」
むしろそうとしか考えられない。
実際私は名字と名前の順番違ったまま自己紹介してたわけだし。
アルバート様は優しいから、私がそれ以上困らないように合わせてくれたんだろうなぁ。
「そうでしょうか」
ラミィは何でか納得してないみたいだけど、
それ以外に何があるっていうの。
こういう時「もしかしたら私のこと好きなのかも」みたいに思えたら良かったのかもしれないけど、生憎この歳になっても恋愛経験のない私にはそんな都合の良い解釈はできないんです。
しかも相手がご令嬢方に大人気の美形騎士さんなんて。
お会いするのは眼福なんだけどね。
読んで下さってありがとうございます!
この二人、歩み寄る気がしませんね。