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真意

告白の続きです。頑張れアルバート。

「何処から話そうか………そうだな、急すぎるという所からにしようか。ユーカ殿に急だと思われるのも無理はない。私がユーカ殿への好意に気が付いたのがつい先日の話だからな」

「そ、そうだったんだ」

「ああ、それまでは興味があるだけだったのは事実だ」


 アルバート様は私が聞きたいことを全部話してくれるつもりらしい。

 私はそれを相槌を打ちながら聞いていた。


「ユーカ殿と親しくなるにつれ、他の誰でもない私が守りたいと思うようになった。ただそれが友人としてなのか、ユーカ殿の境遇からくる庇護欲なのか、それとも恋情なのか次第にわからなくなってね」


 それでアルター様に相談したのだという。

 アルバート様がこういう事を誰かに相談するって何か意外だなぁ…


「相談したというか、団長に領地へ帰る為の休暇を申請したことを伝えた流れでディガーに言われてね」

「言われたって何を?」

「“お前は聖女様に甘い”と」

「そうなの? 私は他の女性への対応を知らないけど、アルバート様は出会った時から優しいよ?」

「それは騎士としてだからね」


 困ったように笑うアルバート様は、自身の変化に自分でも戸惑う所があったらしい。


 剣にしか興味を持てないことには何も思わなかったけど、それでも自分が他に興味を持てるものはないのかと考えることはあったようで、そんな時に私と出会って異国の文化を知っていく内に少しずつ気になることが増えていったのだとか。


「はっきりと自覚したのは自領の案内を申し出た時だ」

「ついこの間だね」

「ああ。自分で申し出ておきながら言うのもどうかと思うが、自分でも無意識の発言だったんだ」


 クライス領はとても綺麗な所だそうで、至る所にガラス細工が散りばめられているんだって。

 想像するだけて楽しそうだけど、そこで育ってきたアルバート様としては私がどんな反応をするのか興味があってお誘いを撤回しなかったそうだ。


「私が敢えて休暇を取ることは基本的にないから、申請した事とその理由で余計な噂が回ることも考えられたんだ」

「理由? お家に顔を出すためじゃないの?」

「いや、聖女様の案内の為と申請した」

「そこは濁してもいいと思うよ!?」


 何でそんなとこまで正直に申請しちゃうかな!?

 それって、少なくとも騎士さん達にはアルバート様と領地へ旅行に行くのがバレるってことだよね!?


 どうせ自領に帰るためと申請した所で、いつも私は二日程度しか休暇の申請をしないのに今回はどうしたのかと詰め寄られるのは分かりきっていたからなとアルバート様は溜め息を落としている。

 だからって………いや、疚しいことはないけどさ………



 でも、噂は気にしないとはいえ面倒事が嫌いな人が珍しいよね。

 騎士団の皆の耳に入ったら絶対質問攻めに遭うと思うんだけど。

 アルバート様、そーゆーの嫌がりそうなのに。


 不思議に思って聞いてみると、またしても困ったように眉を下げてアルバート様は笑っていた。


「我ながら信じられないが、それでもいいかと思ってしまったんだよ」

「え……」

「それからディガーに後押しされてようやく自分の気持ちに気が付いたから、本当に数日前のことなんだ」


 だから急だと思われても仕方ないんだと言われ、他人事のように納得してしまう。


 そんな風に想ってくれていたなんて知らなかった。

 私も恋愛下手だけど、もしかしたらアルバート様もそうなのかもしれない。


「あとは、私がユーカ殿をあの場から助けるために言ったのか、本心で言ったのかわからない、だったかな?」

「う、うん…」

「これに関してはどちらも、だ。ユーカ殿が困っていたからというよりは、アイツらがユーカ殿に群がっていたのが気に食わなかったというか……自分でもよくわからないんだが、これが嫉妬と言うやつなのだろうか…?」

「私に聞かれても…」


 多分それは嫉妬だと思うけど、自分に対して言われてることに肯定できるほど自分に自信がないので…


 …でも、そう思ってもらえるって嬉しいことなんだなぁ。

 初めて知ったよ。


 聞かされてる方は恥ずかしくて仕方ないけどね!!!


「それも群がっていた原因がディガーに想いを寄せていると勘違いしたことから皆がユーカ殿の恋人に名乗りを上げた、なんて聞けば黙っている訳にはいかないだろう」

「え、えぇと…」

「…本当はもう少し自分の気持ちを見つめ直してから告げるつもりだったんだ。だが、あの場で自分の口から交際を申し込んだ時、何かが吹っ切れた気がしてね」


 それは開き直ったとは違うのか…?

 なんて茶化す場じゃないよね。


 アルバート様は私の手を取り「紛れもなく本心で告げているよ」とその大きな両手で包み込む。


 剣を握る人だけあってゴツゴツした男の人の手って感じだけど、温かくて、心臓はバクバクしてるのにどこか落ち着く気がして。


 私はそれを振りほどくこともできず、されるがままに固まっていた。







「…すまない、困らせてしまったな」


 どれくらいそうしていたのか。

 私には長い長い時間に思えたけど、実際はほんの数分だったのかもしれない。


 ゆっくりと離れていく温度に、いつかのような寂しさを思い出した。



 アルバート様は私の真正面に向き直り、膝をつくと改めて私の手を掬い上げて甲に小さく唇を落とす。

 そして顔を上げ、真剣な目でゆっくり口を開いた。


「私、アルバート・フォン・クライスはユーカ・シマザキ嬢に正式に交際を申し込ませて頂きます」

「アルバート様……」

「先程も言ったが、返事は焦らなくていい。ゆっくりでいいから考えてもらえないだろうか」

「…はい」

「…ありがとう」



 いつもにこにこ穏やかで、優しくて、紳士で、カッコ良くて人気もあるのに女性に一切靡かなくて、面倒事が嫌いで、お兄さん想いで、興味があることには前のめりで、同じ騎士団の人には意外とキツくて、何気に表情豊かなアルバート様。


 最初に出会った時はイケメンの騎士さんとしか思わなかったのに、あれから友人として付き合っていく中でたくさんの面を見て、アルバート様のことを知った。


 だけど、そんなすごい人に告白される未来があるなんて思わないから、一切恋愛感情無しで見てきたので今は何よりも戸惑いが勝っている。

 でも、時間をかけてでもきちんと向き合いたいとも思う。


「アルバート様…」

「どうした?」

「私、ちゃんと考えるから、だから…」

「ありがとう。私はどんな答えであってもユーカ殿の友人を辞めるつもりはないよ」


 何も言わずとも察してくれるのはアルバート様がすごいだけなのか、それともこれまでの日々の中でそれだけ私を見てくれていたからなのか。


 今はまだ落ち着いて考えられないけど、ゆっくりでいいって言ってくれる優しいアルバート様のことを私ももっと知りたい。

 ちゃんと知って、それからどうしたいのか考えたい。


 重いって思われるかもしれないけど、私にとって告白されるのも返事をするのも初めてのことだからテキトーにしたくない。



「けれど、私は諦めるつもりはないからそれは覚えておいて」

「ま、前向きに検討します…」

「ああ。それと、クライス領の案内役も撤回する気は無いから」

「それに関しては、アルバート様の育った土地をアルバート様と見て回りたいと思ってるので、是非お願いします」

「承知致しました」

「「ふふっ」」


 顔を見合わせて揃って口元を緩める。



 何かいいな、こーゆーのって。

 穏やかで幸せで安心する。



「そうだ、日程は決まったのか?」

「え? ううん、どのくらいの日数があればいいのかもわからないし、宰相様にお願いして…………あ」

「どうした?」


 何か忘れてる気はしてたけど、そういえばアルター様に相談するついでにアルバート様に会えたら旅行のことを話そうと思ってたんだった。

 危ない危ない…!

 まぁ私が忘れてても宰相様の所から連絡は来るだろうけど。


「宰相様にクライス領に行きたいって言ったら、アルバート様を護衛につけるって」

「え?」

「だから、お休みじゃなくて仕事になっちゃうって言いに来たの忘れてた」

「元より共に行く予定だとは言わなかったのか?」

「言う前に話が進んじゃったから。アルバート様に仕事として行くか私的な方がいいのか聞いて、私的な方が良ければ宰相様に言おうかなって」

「成程…私は仕事で構わないよ。私が断れば他の騎士に声が掛かるだろうし」

「アルバート様がいても?」

「私的な同行では責任を負える者がいないからね」


 そういうものなのか…

 そんな丁寧に扱ってもらう必要なんてないけど、決まりなら仕方ないね。

 アルバート様にはお仕事として来てもらって、なるべくゆっくりしてもらおう。




 あれだけテンパっていたのに、気付けば仲良く旅行のことを話している自分に自分で苦笑しながら私は穏やかに笑うアルバート様の横顔を盗み見ていた。

読んで下さってありがとうございます!

ここからはアルバートのターンですね。早く両想いになってくれたらいいんですが…

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