表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/113

告白

タイトル通りです!帰り道ですね。

 静まり返った空間に先に声を発したのはアルバート様の方だった。


「ユーカ殿、少し話がしたいのだけれど」

「あ、はい………ここで?」

「私は人に聞かれても気にしないからどこでもいいよ」


 話をするのは構わないけど、一応いつ人が来るともしれない大広間でいいのかという意味を込めて聞くと、アルバート様は何ともなしに言い放った。


 薄々気づいてたけど、この人本当に人の目を気にしない人だね…!?


 私としては慣れない恋愛方向の話なのでなるべく人が来ない所の方がいいんだけどなぁ…

 だからと言ってさすがに私の部屋に二人きりっていうのはハードルが高すぎる。


 帰り道で歩きながら…は誰に聞かれるかわからないし、通るのは市街だから貴族のご令嬢の耳に入ろうものならまた噂にされるだろう。


 ………そう考えるとここの方がマシ?


 騎士さんの大半はさっきの騒動を見ているし、聞かれたところで今更な気もする。


「どうする? 何処かに移動して話す?」

「んー…ううん、ここでいいよ」

「そう? …いや、それなら……」

「ん?」


 私の乏しい思考ではこれ以上の最善は出てこないし、アルバート様は気にしないって言うし、それなら。


 そう思ったんだけど、何やらアルバート様が今になって何かを悩み始めている。

 どうしたんだろう?


「ユーカ殿、少し遠回りしても良いかな?」

「それはいいけど…」

「それじゃ、行こうか」


 立ち上がり、軽く腕を突き出してくるアルバート様を見て私も立ち上がる。


 またエスコート…

 未だにこれは慣れないんだよなぁ。

 でもアルバート様が引き下がってくれないのもいつもの事なので、諦めて腕に手をかけた。




 アルバート様に先導されるままについて行くと、いつもなら市街を通って王宮に帰るのだけれど今日は騎士団詰所の裏側へ向かっていた。


 こっちは初めて来たけど、こんな所にも道があったんだね。

 本当に細い小道で、私達も並んで歩くのがギリギリなくらい。


 何処に向かっているのか聞いてみても、着いたら教えると言ったきりで他に会話もない。

 私も話題が見つからず、ただ黙って着いていく。



 それからしばらく小道を道なりに進み、どこまで行くんだろうと思い始めた頃、アルバート様が口を開いた。


「疲れていないかい?」

「ううん、大丈夫」

「もう少し歩けるか?」

「うん」

「足は痛くない?」

「今日はヒールが低いから平気だよ」


 もともとヒールが得意じゃないからなるべく低いものを用意してもらってるので、基本的に歩くのに支障が出ることはない。

 あまりにも長距離だとしんどいけどね。


 アルバート様は疲れたり足が痛くなったらすぐに言うようにとだけ言って再び歩き出した。








「ここは…? 」


 辿り着いた場所は随分と拓けた場所だった。

 もう暗くなっているのもあるが、何故か異常に暗い気がする。

 でも怖い感じはなくて、何となく暖かい。


「ここで少し待っていて」


 そう言ってアルバート様は真ん中の方へ歩いて行き、



『ライトフォース』



 ………って、え、魔法!?


 アルバート様がしゃがんで地面に向かって唱えると、辺り一面がオレンジ色の淡い光に映し出される。

 そこは何も無い暗いだけの場所じゃなくて、濃い紫の花が敷き詰められて暗く見せていた花畑だった。

 それが光に照らされて何とも言えない幻想的な空間になっている。


「綺麗……」


 それしか形容できる言葉が見つからない。

 ただただ綺麗で圧倒される。



「…ここは私が王都に来て初めて見つけた落ち着ける場所なんだ」



 いつの間にか隣に戻ってきていたアルバート様がぽつりぽつりと話し出す。



「当時の私は今以上に剣しか知らなくてね、その分腕には覚えがあったから騎士団に入ってからも順調だったんだ。勿論僻みや妬みの目も多かったけれど」


 アルバート様の強さに憧れる人は多いと聞いた事があるけど、僻んだり妬んだりするのはお門違いじゃないのかな。

 そりゃ、才能だってあるかもしれないけどアルバート様はとにかく努力して身につけた強さなのに。


「噂なんかは放っておけばいいから気にしないが、戦いに身を置く者として普段から人の気配には敏感でね。視線を向けられて、それが負の感情のものだと特に過敏に反応してしまうんだ」

「あぁ…」


 それは何となくわかる気がする。

 ただでさえ悪意の目ってわかりやすいのに、騎士さんなんてよっぽどだよね。


「今でこそ平気になったが、当時はまだ未熟でその視線に疲れてしまう時もあったんだよ」

「なるほど…」

「その時に見つけたのがこの場所だった」


 アルバート様は私に向けていた目線を花畑の中心に移し、穏やかな口調で話し続ける。


「ここは見た目には暗がりだろう?」

「うん。お花畑とは気づかなかった」

「だからここに好んで寄る人は居なかったんだ。私も最初は不穏な場所だと思ったが、ここなら人も来ないだろうと度々足を運んでいた」

「確かに近寄りがたいね」

「ああ。そしてその内にこの薄暗さは花が作り出しているものだと気付き、光魔法で照らしてみたことが始まりだった」


 オレンジの光に照らされる濃い紫の花達は光の反射でまた違う色を見せながら咲き誇る。

 それはまるでアルバート様を受け入れているかのような優しい光。



 …というか、アルバート様が魔法を使えることに関しては聞いてもいいのかな?

 今までそんな話聞いたこともなかったからすごくビックリなんだけど。


「……何で魔法を使えるのを黙ってたのかって顔をしているね」

「…………黙ってたのかっていうか……」


 悩んでいたらアルバート様の方から切り出してきた。


 え、そんなに私顔に出てた…!?


 でも、正直気になってることだったから向こうから切り出してくれたのは有り難い。


「私は騎士にしてはMPが多いが魔道士になるには少ない。属性も光のみだ。それに剣にしか興味がなかったから魔道士になる選択は元よりなかった」

「あー………」

「だが、戦場では何があるかわからないからな、念の為にと光魔法の訓練もしていたんだよ」


 けれどこれまでに使ったことはなく、アルバート様に魔法の適正があることを知るのはごく一部の人だけらしい。


 そうだよね、剣が強くて魔法まで使えるなんて知られたら余計に人の目が多くなりそうだもん。


「ねぇ、さっきの魔法、私見たことない!」

「『ライト』を広げるだけの簡単なものだよ。興味があるなら今度教えようか」

「うん!」


 私は『ライト』から派生するものなんて蛍もどきしか出来ないから嬉しい。


 少しギクシャクしていたことなんて忘れて浮かれていると、アルバート様がこちらを優しい目で見ていることに気付く。



 そうだった、話を聞くためにここに来たんだった。



 アルバート様は着ていた騎士団の制服を脱ぐと、それを地面に置いてそこに座るように言われ、汚れてしまうからと断るけど聞いてもらえず、諦めて腰を下ろす。

 満足そうな顔で隣に座ったアルバート様が「先程は驚かせてすまなかった」と頭を下げた。



「ユーカ殿がどう思ったのか正直に聞かせて欲しい。その上で言い訳をさせてくれないか?」

「………その、急すぎて信じられなかったっていうのと、アルバート様はあの場で私を助けるためにそう言ったのか、それとも本気だったのかわからなくて…」

「そうか…」

「私ね、今まで恋人とかいたことなくて。自分を好きだなんて言ってくれる人がいること自体、信じられないのかもしれない」


 実際そうだった。

 恋愛に縁がなくて、ただお菓子を作るのが好きで、家族や友達と仲良く過ごせればそれでよかった。

 恋愛をどこか自分とは関係のないものだって思い込んでいたのかもしれないけど、それでよかったんだよ。



「ユーカ殿、まずこれだけ言わせてもらえないか?」

「なぁに?」

「私は本当にユーカ殿を慕っているよ」

「え…?」

「そうだな…貴女の国の言い方を借りるなら、「好きだ」と言えばいいのかな?」

「アルバート様……」

「この気持ちに嘘はない」



 真剣な顔でまっすぐに私を見るアルバート様。


 私はただその青の瞳を見つめ返すことしか出来なかった。

読んで下さってありがとうございます!

ここは書きたかった話の一つなのでようやく辿り着けて嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ