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製菓

ようやく念願のお菓子作りです!

 宰相様に厨房の使用許可をもらえた翌日。

 私は早速お菓子を作るため、厨房を訪ねていた。



「聖女様、お待ちしておりました」

「ユウカ・シマザキと申します。ユウカと呼んでください」

「ですが…」

「聖女なんて柄でもないですし、堅苦しいのは苦手なんです」

「…かしこまりました。私は料理長のサライズ・フォン・ハーシェードと申します」

「ハーシェード様ですね」

「サライズとお呼びください、ユーカ様」


 ラミィに案内してもらって辿り着いた厨房で、私はすでに話が通っているらしい料理長さんに挨拶をしている。



 因みに、ラミィやファーラをずっとさん付けで呼んでいたら「侍女に敬称をつけるものではありません」と言われたので、それなら私のことも名前で呼んでくれたら敬称を外すということで合意した。

「シマザキ様」なんて落ち着かないもの。

 この調子で他の侍女さん達にも名前で呼んでもらえるように交渉するつもりだ。



「ユーカ様はこちらで何をお作りになるご予定ですか?」

「お菓子を作りたくて。なるべく邪魔にならないようにします」

「いえいえ、この時間でしたら休憩に出ている者も多いですし、気にしないでください」


 料理長さん……サライズ様は、髪こそコック帽に纏められていてわからないけど、エメラルドグリーンの優しげな瞳が印象的なおじさまだ。

 おじさまと言っても四十代前半くらい?

 少し目元の皺があるくらいでパパと同じくらいじゃないかな。



 邪魔してしまって申し訳ないと思いながらも用意してもらったスペースに食材を集めていく。

 教えてもらった食材の保管庫を見ると、何でこんなに材料が揃ってるのに誰もお菓子を作るという発想に至らないんだろうと不思議になったのは言うまでもない。


 とりあえず、まずは配りやすさを考えてクッキーでも作ろうとバターと卵を常温に戻すために取り出した。

 それから薄力粉と砂糖を量り、薄力粉をふるおうと思ったが、お菓子を作らないこの国に粉ふるいがあるとも思えない。

 泡立て器で混ぜてもいいけど、網目の細かいザルがあればそっちの方がいいのかな。


「ザルってありますか? なるべく目が細かいやつがいいんですが」

「ありますが…この材料でザルを何に使うんですか?」

「ふるうんですよ」

「ふるう?」


 そこから通じなかった。

 それもそうか、粉ふるいなんてお菓子作りくらいしかやらないもんね。



 用意してもらったザルと新しいボウルにさっきの薄力粉をふるい入れる。


 あ、茶漉でもよかったっけ。

 ここにはお茶はないけど紅茶はあるから茶漉あるはずだ。


 何せ使うのがザルなので、念入りに粉ふるいを行い、卵も溶いておく。

 そこまでやったらあとはバターが柔らかくなるまでやることもないし、保管庫を見てどんなクッキーが作れるか考えてみることに。

 サライズ様は私が何を作るのか気になるようでずっと横にいるんですけど、仕込みの方は大丈夫なんでしょうか。



「わ! チョコがある!」

「パンに使うのですよ」


 だから、何でチョコがあるのにお菓子っていう概念はないの!?

 チョコならそのまま食べてもお菓子なのに!


 もはや憤りを感じながらチョコを手に取る。

 それから紅茶の葉とドライフルーツにアーモンド。

 これだけあればクッキーの詰め合わせが作れる!

 この国の人達はご飯に菓子パンを食べるくらい甘党が多いみたいだし、きっとお菓子も気に入ってくれると思うんだよね。


 食べることももちろん好きだけど、何より作る過程が大好きな私は久しぶりのお菓子作りにウキウキしていた。








 そして三時間後、私は焼き上がった超大量のクッキーを前に達成感を覚えている。

 うん、我ながら上手く作れた。

 普段からレシピをメモしたノートを持ち歩いててよかったよ。


 本当は色んな形にしたかったんだけど、クッキー自体が存在しない国に型なんてあるわけもなく。

 今回は無難に丸と四角に成型した。

 でも味はプレーン、チョコチップ、紅茶、ドライフルーツ、アーモンドとあるし、お菓子布教の取っ掛りとしては悪くないと思うの。


 わくわくしながら冷ましたクッキーを一つずつ食べてみると何となく懐かしい味がして嬉しくなる。


「それは何という料理なのですか?」


 一人でクッキーを堪能していると、結局ずっと私のお菓子作りを見ていたサライズ様が興味津々という顔を隠しもせずに覗き込んでいた。

 あ、違う、サライズ様だけじゃなくて周りの仕込みをしていたはずの料理人さん達もいつの間にか集まってたみたい。

 いい匂いにつられたのかもしれない。


「クッキーっていうお菓子ですよ。よかったら皆さんもどうぞ」

「よろしいのですか!?」

「食べてみたいです!」

「是非!」


 私としてはお菓子の美味しさを知ってもらって、作る人が増えて、お菓子という文化を構築してもらうために作っているので、料理人さん達にも渡すつもりでいたから問題ない。

 でもなるべくたくさんの人に食べてもらいたいから、ラミィに用意してもらったラッピングに五種類のクッキーを一枚ずつ入れて皆さんに配っていく。

 皆さんそんなに気になってたのか、ラッピングしたのにすぐに開けて食べ始めてる。


「うまっ!」

「何これサクサク!」

「一つずつ味も違うんですね!」

「色んな味が作れるんですよ」


 あっという間に食べ終わった料理人さん達から高評価をもらえてホッとした。

 大丈夫だろうと思っててもやっぱり最初は不安だからね。



 さて、まずは知り合いから配っていこう。

 宰相様にラミィ、ファーラ、侍女さん達、ツァーリ様、団長さんには渡したいなぁ。

 国王様は……どうしよう。

 渡したいけどきっと毒味とか必要になるよね。


 あとは……アルバート様。

 この国で一番最初にお世話になったアルバート様にもきちんと御礼をしたい。

 あの謁見の日、団長さんのお部屋まで案内してもらって以降お会いできなかったからまだちゃんと御礼の言葉すら言えてないの。

 ただ、騎士さんの勤務を知らないから騎士団に行けば会えるって訳でもないだろうし、訓練中だったりしたらお邪魔になるだろうしと思うと少し腰が引ける。


 えぇい、ダメで元々だ!

 団長さんにお渡しするついでに聞くだけ聞いてみることにした。


 気を取り直してラッピングに取り掛かる。

 侍女さん達の分はラミィに預け、残りはバスケットに詰め込んでもらって準備完了!

 まずは宰相様の所に行って、そのままツァーリ様に会いに行こう。







 未だにお城の中を覚えられていない私はラミィに案内してもらって宰相様の執務室に来た。

 急に来てしまったので忙しかったら出直そうと門番の騎士さんに取り次ぎをお願いすると、予想外にすんなり入れてもらえたのでお言葉に甘えて入室させてもらいました。


「これはこれは聖女様。本日はどうなさいました?」

「昨日は厨房の使用許可を出して下さってありがとうございました。早速クッキーというお菓子を作ったのですが、宰相様もお一ついかがでしょうか?」

「くっきー、ですか?」


 耳馴染みの無い言葉に眉を顰める宰相様。

 そりゃそうだよね。

 百聞は一見にしかずとバスケットから一つ取り出してお渡ししてみるが、やっぱり怪訝そうにまじまじと見ている。


「私の故郷の食べ物なんです。甘くて美味しいのでよろしければ食べてみてください」

「ふむ……ではお一つ」


 興味と不安が入り交じった様子の宰相様は、それでも一つ口にしてすぐに目を見開いた。


「これは不思議な食感ですな! サクッとしていて香ばしい!」

「お口に合ったならよかったです」

「それにこれは…紅茶の風味がするようですが」

「はい、紅茶の葉を練り込んであります」

「紅茶の葉! 紅茶は飲むだけでなく食べられるものなのか!」


 どうやら宰相様も例に漏れず甘党さんだったようで、最初の躊躇いが嘘のように一瞬で食べ終わっていた。


「くっきーとやらはお茶請けに良さそうですね」

「そうですね。クッキーだけでなくケーキやパイ、タルトなんかもいいですよ」

「どれも聞いた事のない料理ですな」

「食事とは違う、間食用のお菓子なんです」


 また作ったら届けてほしいという宰相様に二つ返事で頷きつつ、国王様にはどうしたら良いか聞いてみる。

 宰相様としても国王陛下に献上したいと思っていたそうで、王族の皆さんの分を預かってもらうことにした。

読んで下さってありがとうございます!

ここから佑花のお菓子布教が始まります。

お菓子作りに関してはざっくり読んでいただけると助かります。

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