許可
ほぼ騎士団です。
シェナード様にクライス領へのお誘いをいただいた時、せっかくなら王都以外も見てみたいという気持ちと、曲がりなりにも聖女と呼ばれている身で遠方まで出歩いて良いのだろうかという葛藤があった。
行き方だってわからないし、どのくらいかかるのかもわからない。
宰相様の許可が取れたとして、さすがに一人では行かせてもらえないだろうから侍女さんが着いてきてくれると思うけど、私が連れてっちゃったら他の人達が大変になっちゃうかなとか色々考えたり。
アルバート様も案内してくれるって言ってたけど、そのために騎士団のお仕事休ませるのも申し訳ないし。
ただ、すぐでなくてもいいからいつか行ってみたい。
そんな思いで宰相様の所へお伺いを立てに行ってみたのだけれど。
「旅行、ですか?」
「はい」
「どちらかからお誘いがありましたかな?」
「あの、クライス伯爵様から…」
「おお、クライス領ですか! とても良い所です。是非足を運ばれるとよろしいかと」
「え、いいんですか?」
「勿論でございます。我が国のことを聖女様の目で見て知って頂きたいとも思っておりますからな」
「ありがとうございます!」
まさかこんなにあっさり許可が出るとは思っていなかった。
「それでは護衛を手配致しましょう。日程はお決まりですか?」
「いえ、まだ何も」
「左様でございますか。では第一騎士団のクライス殿を護衛に付けましょうか」
「え?」
「護衛としての腕は申し分ありませんし、自領ですから案内も出来るでしょう」
「えぇと…」
「それに、聖女様とは懇意にされていると耳にしております。初めての長旅、気心が知れた者との方が宜しいかと」
「あ、ありがとうございます」
アルバート様は元々案内役で同行してくれる予定だと伝える間もなく、宰相様は秘書さんらしき人にすぐ手配するよう指示している。
お休み取ってもらうのは気が引けてたから良いのかもしれないけど、それだとお仕事で着いてこないといけなくなっちゃうから楽しめないんじゃないかなぁ…?
どっちが良いのかなんてわからないけど。
日程は宰相様の方で調整して決めて、馬車の手配もしてくれるそうなのでお言葉に甘えてお願いすることにした。
ラミィの方も着いていく侍女を調整してくれるらしい。
移動手段についてはアルバート様にお願いしたらやってくれるんだろうけど、忙しい人なのにそんなこと頼むのも悪いし、じゃあ自分で手配出来るのかって言われたら無理だからなぁ。
とりあえず、さっきの宰相様の話をアルバート様に知らせておかないと。
すでに騎士団に使いが出ていて聞いてるかもしれないけどね。
どちらにしても、今日はアルター様に箱の件でお願いをさせてもらうために騎士団へ行く予定だし。
今日は朝番で夕の鐘がなるより早く終わるって聞いたから、今からツァーリ様の魔法練習して、お昼食べて、アルター様のお好きなガトーショコラを焼いて持っていく予定。
アルター様にもアルバート様を通してお約束させてもらっているから、騎士団の詰所で待っていてくれるそうだ。
今日は忙しいなぁ。
攻撃魔法と防御魔法の練習は順調で、属性の壁はバーダック様の協力のおかげでどれもそれなりの強度で出せるようになった。
あとは防御壁というくらいなので、咄嗟に出せるようにならないといけない。
攻撃魔法はそれぞれ上級者魔法まで手を出し始めたくらい。
結局『アクアランス』は私の銃イメージのせいでどれだけやっても見えないので的に当たってるなら良しということになった。
今日は光の上級魔法『サンダーバースト』をひたすら練習していた。
魔力の加減が難しくて、不発になったり、地面に大きな穴をあけたりとなかなか扱えていない。
あ、穴のあいた所は土属性の適正があるバーダック様が元通りにしてくれました。
ツァーリ様も周りに被害がいかないように防御魔法を展開してくれていたので穴だけで済んだともいう。
でもこの規模の魔法だと自主練で出来る範囲を超えてるからここで練習させてもらうしかないのよね…
というか、さすがに攻撃魔法を王宮の裏で練習するわけにもいかないし。
気長に練習するしかないかとお昼の鐘がなるまでやった所で二人に挨拶をして魔道士団を後にし、王宮内に戻ってお昼にすることにした。
その後、予定通りガトーショコラを焼いて二人分をラッピング用の袋に小分けにし、カゴに入れてラミィと一緒に騎士団に向かう。
皆さんに差し入れしたいところではあるけど、たくさん作る時間はないから中途半端に持っていくよりは…と思って今回はアルター様とアルバート様の分だけにした。
残りは戻ったらラミィやファーラ達と食べることにするよ。
いつも通り歩いて市街を抜けて騎士団の詰所に行くと、入口でアルター様が待ってくれていた。
「お待たせしてしまってすみません!」
「いえ、こちらこそ御足労頂きありがとうございます」
「とんでもないです。お時間を頂きありがとうございます」
駆け寄るとアルター様に丁寧に騎士の礼をされ、慌ててカーテシーを返す。
そうだった、淑女は慌てている姿を見せちゃいけないんだっけ。
相変わらずマナー講義が苦手な私はすぐに忘れて今みたいに慌てることが多い。
この国に馴染むにはまだまだ時間がかかりそうです。
「どちらでお話しましょうか。 人目があっても宜しければ大広間へご案内致しますが」
「全然気にしないので大丈夫です」
「ではこちらへどうぞ」
アルター様に案内されるままに歩いていたら、会うとよく声を掛けてくれる騎士さん達が向こうからやってきてあっという間に囲まれた。
だから、巨体に囲まれるのは怖いんですって!
あと声が大きい!
「聖女様じゃないですか!」
「今日はどうされたんですか!?」
「アルバートじゃなくてディガーといるのは珍しいですね!」
「団長の所ですか!?」
「ご案内しましょうか!?」
「お前ら、聖女様を囲んで騒ぐな!」
あ、アルター様が助けてくれた。
ありがとうございます。
いつぞやのアルバート様を思い出しました。
やっぱりお二人仲良いだけあって何となく似てるよね。
「聖女様は私に話があるとお越し下さったんだ」
「ディガーに!?」
「聖女様、ディガーにはすでに婚約者がおりますよ!?」
「それより私は如何ですか!?」
「いやいや、私の方が!」
「コイツらよりも私を是非!」
「な、何の話ですか!?」
えぇと、アルター様に婚約者がいるのは知ってますよ?
まさか私がアルター様を狙ってると思われてる!?
そんなことしないよ!?
っていうか、何を立候補されてるの!?
返答に困ってテンパっている横でアルター様が盛り上がる騎士さん達を相手に珍しく声を張り上げて怒っているけれど、騎士さん達は全然聞いてくれなくて何かもう収拾がつかない。
どうしたらいいの、これ…
終いには休憩に来たらしい他の騎士さん待ちまで乗っかって大騒ぎ。
そろそろアルター様の喉が心配です。
「ほんっっとお前らいい加減に…!」
「何の騒ぎだ?」
「アルバート! いい所にきた! 助けてくれ!」
「は?」
そこに眉間に皺を寄せながら入ってくるアルバートの姿が。
あんな不機嫌そうな顔初めて見た…
私の前では基本的ににこやかで穏やかだからなぁ。
剣の訓練の時は真剣な顔だけど。
因みに、多分だけどアルバート様は私の姿に気づいていません。
何故なら、後から増えた騎士さん達にも囲まれて埋もれてるからね。
私からは隙間から見えるけど。
前にもこんなことあったような………?
「ディガー、お前ユーカ殿に会う予定はどうした?」
「会うには会ったよ。話は出来てないけどな」
「何かあったのか?」
「何かも何も、コイツらに聖女様が囲まれて動けないんだよ!」
「…………は?」
アルバートは心底意味がわからないという顔で私を囲む騎士さん達に目線を向ける。
騎士さん達は相変わらず「私も!」「いや、私が!」と何のことかわからない立候補をしていて話を聞いている様子はない。
はぁ、と大きな溜め息が聞こえたかと思えば、アルバート様が一歩ずつゆっくり近づいてきた。
「おい、お前ら群がるな!」
「うお、アルバート!」
「何だ、お前も入るのか!?」
「お前が入ると私達が不利になるから辞退してもらいたいところだがな!」
「辞退? 何の話だ?」
アルバート様が真っ先にアルター様の方を向いて事情を聞こうとするのを見て、発端の騎士さん達に聞くんじゃないんだ…とつい笑ってしまった。
読んで下さってありがとうございます!
中途半端ですが、ちょっと長くなるので区切りにしちゃいました。




