上限
前話の続きですー
「確かに的に当たっていますね」
的の前で確認してくれていたバーダック様が私達の元へ戻ってくる。
あれから私はとにかく矢を放ち、ツァーリ様は矢が創り出されていることと軌道の確認、バーダック様は的の前で水の矢が本当に飛んできているか見るという分担作業が行われた。
私が的から外す可能性も高いから、もちろんバーダック様は防御魔法を隔ててるよ。
「見えてないのに急に的で爆ぜるんですよ」
「アクアランスっていうよりアクアボムですね」
「「ぼむ?」」
「爆弾っていう………えぇと、爆発する武器? です」
爆弾って言うと手榴弾がすぐに思い浮かぶけど、色んな種類があったはずだし間違ってないよね?
っていうか、ランスって槍でしょ?
私のイメージでは槍ってこう…持つとこが長くて先端が尖ってるイメージなんだけど…
でも槍投げも私の力で的に届くとは思えないしなぁ…
一応的には当たってるからやっぱり今のまま銃のイメージでいくか、もっとツァーリ様に近づけた方がいいのか。
とはいえ、近づけるにしても銃以外に早い武器のイメージがないからそれも難しい気はする。
「何にしても水の矢であることに違いは無いので良しとしましょう」
「これ実践で使ったら強そうだし、いいと思いますよ」
確かに急に爆発したらビックリするし、もう少し魔力込めれば威力も上がるかも。
そのためにはもっとコントロールを身につけないといけないけど。
間違って味方に当たったりでもしたら大変だしね。
「本日教える予定ではありませんでしたが、この際ですから出来る所までやってしまいましょう」
「え!?」
「まだMPは大丈夫ですね?」
「えっと、『ステータス』」
島崎佑花 Lv 59
属性 : 光 闇 水
HP 2109/2320
MP 9150/9900
スキル : 属性魔法無効化 状態異常無効化 迎撃(中) 魔法付与
状態 : 健康
ステータスを確認してみたけど、アクアランスは水の下級魔法だからか乱発してた割に大してMPは減っていなかった。
むしろ、いつの間にかまたLvが上がってて、それに伴ってMP上限も上がってたからね。
ただ、そろそろMP上限が10000越しそうなんだけどこれってどこまで上がるんだろう?
9999で終わりなのかな?
それはともかく、何だか急にツァーリ様の圧が強くなったような…?
ちょっと怖いんですけど…
何となく怯えながら大丈夫だと言うと、ツァーリ様はにっこりと満面の笑みを浮かべて『ファイアウォール』を目の前に展開した。
「では、水の壁から参りましょう」
「えっと…?」
「どの程度の魔力を使い、どの程度の強度にするかは自由です」
「は、はい!」
ツァーリ様、どんどん説明がざっくりになっていくなぁ…
でも実際、そのおかげで魔法はとにかくイメージだってことは頭でも身体でも理解したけれども。
防御魔法ならもちろん強度が高い方がいいだろうけど、どのくらい魔力を込めるのがいいのかわからない。
こればっかりはやってみないと無理だよね。
「強度の確認ってどうしたらいいですか?」
どうせならどの程度なら実践でも使えるのか知っておきたい。
そもそもこの攻撃魔法と防御魔法は討伐に参加するために必須だから覚えてるんだし。
そう思って聞いてみたら、バーダック様が攻撃魔法で壁を壊す訳を買って出てくれた。
バーダック様は魔道士団の中でも討伐組に入るらしく、何度も騎士団と討伐に出ているそうなのでまさに適任だとお願いすることに。
私が壁を創り、バーダック様が攻撃して、その様子をツァーリ様が見る。
時にアドバイスをもらったりしながら繰り返すこと数時間………くらい。
いや、正確な時間はわからないから体感で。
この間ずっと水の壁だけを出していたわけではなく、光と闇の壁も同時進行で練習することになり、お昼の鐘がなる頃にはさすがにかなり疲れていた。
「では、本日はここまでに致しましょう」
「あ、ありがとうございました……」
「因みにユーカ様。ここまでのMP消費量はどれ程のものですか?」
「え? ………大体三分の一くらいです」
「これだけ魔法連発しててまだ半分以上残ってるとか、ユーカ様のMPはどうなってるんですかね」
「本当におかしな方ですよね」
「二人揃ってそんな呆れた目を向けないでください…」
ツァーリ様にそういう目で見られることには慣れてきたけど、バーダック様にまでされると何となく居た堪れない気分になるのでやめてほしいです。
それに、MPは思ったより消費してなかったけどHPは半分まで減ってるからね。
疲れてる訳だよなって自分でも納得した。
…あ、今日の練習でまたLvが二つ上がってました。
MPの上限はどうなるのかなって思ったら、普通に超えるらしいことがわかった。
もしかして上限のないのかなぁ?
まぁそれは今後またLvが上がった時にわかるよね。
その後私はバーダック様にご挨拶とお礼を言って、ツァーリ様に王宮まで送ってもらっていた。
「明日のご予定はいかがですか?」
「明日はマナーレッスンも無いし、アルバート様が夜番で剣の指導はお休みなので特に予定はないです」
「ではまた明朝お迎えに参りますね」
「ありがとうございます…」
明日も朝からみっちりってことかぁ…
ツァーリ様のよくわからないスイッチを知らぬ間に押しちゃったみたいだけど、あのいい笑顔で有無を言わさず押し切られると本当に何も返せなくなるんだよね。
あれからずっと防御壁の練習だけしてたから何となく感覚はわかってきたけど、イメージがしっかりしてないからか発動までに時間がかかりすぎる。
そこをもう少し何とかしたいところ。
ツァーリ様みたいにポンポン出すのは無理だろうけど。
さて、これからどうしようかな?
アルバート様の剣の指導は夕方って言ってたから、多分夕の鐘が鳴ってから来るだろうしそれまで時間がある。
まずはお昼を食べて、それから何か作ろうかなぁ。
疲れてるなら大人しく休んだ方がいいのはわかってるんだけど、私の場合はゴロゴロしてるより好きなお菓子作って食べてる方が回復する気がする。
よし、何か作ろう。
暑くなってきたし、今日はムースにしよう。
簡単にできるし、食べやすいし。
剣の練習が終わった後にお時間あったらアルバート様にも出してあげよう。
アルバート様はお忙しいだろうし、今日みたいに騎士団のお仕事の後だったりしたら疲れてるだろうに、私への指導が終わるといつもお茶の時間を作ってくれるの。
本当に優しい人だよねぇ。
私の話を聞いてくれたり騎士団の話をしてくれたり、話題はその時々だけどいつも穏やかな時間をくれる。
日本にいた時みたいにバカ騒ぎして大笑いするようなことはないけど、アルバート様といる時間はホッとするというか。
何だろう、刷り込みの雛みたいな?
この国に喚ばれて最初に出会って助けてくれた人だから、無意識に会うと安心するとか?
それが何でかはわからないけど他の人といる時より心地良いんだよね。
アルバート様にも心落ち着ける時間に出来てたら良いんだけど。
………でもあの人いつも落ち着いてるか。
四つしか変わらないのに何でそんなに落ち着き方が違うんだろう。
アルター様もアルバート様と同い年って言ってたけどやっぱり落ち着いた大人の男性って感じだし、貴族だからそういう風に教育されてきてるとかもあるのかなぁ。
教育されたとしても私には無理そうな予感しかしないけど。
私は私なりにこの国の作法を覚えて、ある程度マナーは身につけようと頑張っているけど今の所カーテシーくらいしか身についてない。
カーテシーは慣れたよ!
単にやる機会が多いからだけどね!
市井ではカーテシーすることもそうそうないけど、カーテシーって貴族様のご挨拶だから王宮に住まわせてもらってる以上避けられないっていうのもある。
言葉遣いとかも直した方がいいとは思うものの、どうしても日本で習った敬語レベルしか咄嗟に出てこないんだよねぇ…
まだまだこの国に馴染むには先は長そうです。
読んで下さってありがとうございます!
次話辺りでアルバート視点の話も進めたいです(願望)




