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決意

討伐やら騎士団についての話です。

「討伐ってどんな感じなんですか?」


 向かいの席で優雅にカップを傾けるツァーリ様に聞いてみる。

 日本には魔物はいないし、魔法も存在しないし、そんなの全部ゲームの中の話だから実際の討伐なんて想像もつかない。


 でも私はいつかは討伐に出ないといけない。

 そのために喚ばれ、そのために魔法や剣の訓練をしているのだから。

 それだけは理解している。


 だからといって前向きな訳ではないけれど。

 だって怖いし。

 ステータスだけ良くたって役に立つとは限らないし。

 逆に足手まといにしかならないと思うけど、ゲームと違って下手したら死んじゃうってことでしょ?

 私はまだお菓子を布教するという使命も果たしてないし、聖女の役割を無事に終えたら日本に帰れるんじゃないかって希望を捨ててもいない。

 だからやれることはやらないといけないの。

 簡単に死ぬなんてそんな親不孝なことはできないから。



「そうですね、基本的に第二騎士団と魔道士団の討伐担当で組んで動くことが多いです」

「第二騎士団って決まってるんですか?」

「遠方ですと第三騎士団になりますが、近隣には第二騎士団が動くことになりますね」



 ツァーリ様の話によると、第二騎士団が近隣の討伐や各地からの依頼への対応、第三騎士団が遠方の討伐、第四騎士団は市井の巡回と近隣の討伐、第五騎士団は入団当初の騎士達の訓練や市井の巡回を主とするのだとか。


 でもこれだと第二騎士団と第四騎士団が近隣の討伐担当で被ってるけど…?

 どういうことなのか聞いてみると、騎士団単体で行けるような魔物のLvの低い近隣の森が第四騎士団担当で、魔道士団と連携が必要になる高Lvの近隣の森が第二騎士団の担当になるそうだ。


「ということは、ツァーリ様は今回高Lvの森に行かれていたということですか?」


 何度も討伐に出ている所でそんなに魔物も強くないから大丈夫だと言っていたので、まさか高Lvの森だなんて思っていなかった。


「第四騎士団は騎士見習いですから、本当にLvの低い森しか担当させないのですよ。つまり、本来近隣の森を担当するのは第二騎士団というわけです。私が行ったのはそんなに苦戦するような所ではありませんので」

「それなら良かったです」

「ユーカ様に討伐に出ていただく際は、まずは第四騎士団が受け持つ近隣の森からになりますね」

「…はい」

「今からそんなに力まずとも大丈夫ですよ。私も一緒に参りますし、あの辺は本当に弱すぎてすぐに終わります。雰囲気に慣れるためという感じです」


 そんなにあっさり終わるような場所なんだろうか…

 でもそういう所で討伐の空気に慣れておけるのはとても助かるので何も言わない。

 私はまだ戦い方すら知らないんだから、突然強い敵が出る所になんて連れていかれたら戦うどころの話じゃないだろうなって自分でも思うし。


 それに、ツァーリ様が一緒に来てくれるなら心強いよね。


「ところで、第一騎士団は討伐には出ないんですか?」

「第一騎士団は主に市街の巡回担当ですので滅多に討伐に出ることはありませんね」


 ちょっと疑問に思ったから聞いてみたんだけど、確かにアルバート様から討伐に出ていたという話は聞いたことがない。

 第二、第三騎士団が遠征に出ることが多いから第一騎士団は王都メインってことなのかな。

 近衛騎士団もいるけど王族や王宮内の警備が担当だから、王族の外出で王都から出ることはあってもそれ以外で出ることは無いってセルトリア様が言ってたなぁ。

 それって近衛騎士団は討伐には出ないってことよね。

 つまり、強くなればなるほど王都にいられるって感じ?


 騎士団事情はあまりよく知らないけど、今後討伐にご一緒させてもらうことになるのならアルバート様やアルター様達にもう少し話を聞いてみてもいいかもしれない。

 確か騎士団は第五からスタートして、実力に応じて順に上がっていくって聞いたから、お二人も討伐に出たことはあるはず。


 因みに、騎士団にはそれぞれ団長がいるけど、その人達は全員第一騎士団に配属されるくらいの実力者なんだって。

 第一~第三騎士団の団長は実力が求められるのは言わずもがな、第四騎士団は低Lvとはいえ騎士見習いの人達が討伐に出るのだからフォローのための配置、第五騎士団は教育のためらしい。

 騎士団めちゃくちゃ人数多いからまとめるだけでも大変そう。



「討伐は何グループかに分かれてルートを決めます」

「皆さんまとまって動くわけじゃないんですね」

「ええ。あまり大人数ですと逆に狙われやすくなりますし、一回で回れるルートが限られるので討伐が長引いてしまいますから」

「なるほど…」


 まとまって動いた方が安全なんじゃないかって思ったけど、そうとも限らないんだね。

 考えてみれば、人が密集してるってことはそれだけスペースがないから動きにくい可能性もありそう。


「ですが、あまり戦力を分散しすぎるといざという時に危険ですので、大抵は七~八人で組むことが多いですね」

「騎士さん五人、魔道士さん二人くらいの振り分けですか?」

「ええ、その通りです。魔道士はあくまで後方支援ですので、敵に囲まれては歯もたちません。ですから前後を騎士で挟んで移動するのですよ」


 そうだよね、ただでさえ集中力が要るのに急に魔物が出てきたら魔法どころじゃなくなっちゃう。

 そうやってフォローし合って討伐していくんだね。


「以前にもお話した通り、ユーカ様にはまず攻撃魔法を覚えていただきます。下級からとなると水魔法ですね」

「はい」

「その後、光と闇の上級魔法と、できれば防御魔法も使えるようになってからと考えています」

「防御魔法って、ツァーリ様が使ってた炎の壁とか光の壁みたいなのですか?」

「ええ。他にもあるのですが、基本は属性の壁ですね」


 火、水、風、土の壁に比べて光、闇の壁は倍の強度があるって言ってたし、前にツァーリ様の防御魔法を見て私も覚えたいと思っていたからちょうどいい。

 となると、まずは水の攻撃魔法と防御魔法、それから光と闇の攻撃魔法と防御魔法ってことだから、習得にどのくらいかかるのかわからないにしても討伐に出るのは結構先になりそうだなぁ。

 心の準備をする時間がもらえるのはとても助かるけど。



 今でも私に何ができるの? って思うし、聖女って何なのかもわからないままだけど、この世界が日本とはかけ離れていることは一ヶ月強暮らしてみて嫌という程わかった。

 日本の常識が通用しないことも、私のここでのステータスがずば抜けていることも。

 だから強いのかって言われたらそれは否定するしかないけど、少なくともこの桁外れのMPは何か意味があるんじゃないかって思う。


 国を守るとか世界平和だとか、そんな大層なことは考えられないから私は私にできる一歩一歩を確実に進んでいきたい。

 それが幸せな未来に繋がると信じて。





「では明日は、現段階での魔力コントロールを確認して水魔法の訓練ということで」

「よろしくお願いします」

「こちらこそお願い致します。それでは今日はこれでお暇させていただきますね」

「帰ったばかりでお疲れなのに長々引き留めてしまってすみませんでした…!」

「そんなことはありませんよ。私の方が勝手にお伺いしたのですから」


 席から立つツァーリ様を扉までお見送りするために私も立ち上がる。

 ちょうどラミィが箱っぽい物を見つけて戻ってきてくれたようなので、それにお土産のチーズケーキセットを詰めてお渡しした。




「ユーカ様」

「ん?」

「ユーカ様は……その、討伐に出なくてはならないのでしょうか…?」

「ラミィ…」


  ツァーリ様が扉を出ていくのを見送った後、どこから話を聞いていたのかラミィが言いにくそうに口を開いた。


「私がそんなことを口にできる立場でないと重々承知しております。ですが…」

「心配してくれてありがとう、ラミィ。私は大丈夫、なんて言えないけどそのために喚ばれたんだから仕方ないよ」

「ユーカ様…」

「もちろん不安だし、怖いよ……だからこそ焦らずにやれることから初めてみる」

「…ユーカ様はお強いのですね」

「そんなことないよ。この国の人達がみんな優しくて、こうしてラミィみたいに心配してくれて、ツァーリ様やアルバート様みたいに支えてくれるから」


 短い付き合いなのに本気で心配してくれるラミィには本当に感謝してるんだよ。

 この国のことを全く知らない私が不自由なく暮らせるのはラミィ達がサポートしてくれてるから。

 もちろんそれが仕事なんだってわかってるけど、それでも嬉しかった。


 この国に来て、人の優しさって本当に温かいものなんだなって強く思った。



 だから私は強くなる。

 強くならないといけない。


 日本に帰るためっていうのもあるけど、それよりもまずは優しいこの国の人達がずっと笑っていられるように。

 私が私に負けないように。

読んで下さってありがとうございます!

佑花は佑花なりに成長しようとしているんですよね。

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