結論
ようやく結論出ましたね。
あの後アポ無しで行ったにも関わらず、快く迎え入れてくれた宰相様にも相談し、王宮内の者に限ってなら許可が出せるだろうというお返事を頂いた。
それならやってみようかな。
私も皆に背中押してもらえたし、お菓子を普及させる絶好のチャンスなのよね!
まずは王宮内から始めて、私の魔法付与問題が何とかなれば市井の方にも広めたいところ。
よし、早速色々考えなくちゃ!
「時に聖女様」
「はい?」
と内心意気込んでいたら、宰相様がお菓子がなくなる前に取り置いてもらうことはできないものかとお伺いを立ててきた。
確かに宰相様はお忙しいから気軽に買いに来れないだろうし、来ても売り切れてたら悲しいよね。
「もちろんです! 予約承りますよ!」
「よやく?」
「予めお約束しておくことですね。来られるお時間や品物を事前に確認してご用意しておくシステムです」
「なるほど、受注のようなものですな」
「多分そんな感じです」
最初は個数用意したいからカットのみのつもりだけど、予約システムが上手く取り入れられるようになったらホール売りとかもしたいとは思ってはいる。
普通ホールケーキって誕生日とかクリスマスとかに何人かでシェアして食べるものだけど、この国の人達甘いもの好きすぎるから下手したら一人でホール平らげそうなんだよなぁ。
しばらくは宰相様とかお忙しくてなかなか来られそうにない人だけ予約受けることにしよう。
うーん、すでに手が回らなそう…
「それでは、近日中に申請書類を提出して頂けますかな?」
「あ、はい!」
確かラミィが用意してあるって言ってたからもらえばいいか。
「御心は決められたのですか?」
部屋に戻ってラミィに声を掛けると、何だか嬉しそうに聞いてくる。
前向きにやってみるつもりだと伝えると、ラミィはいそいそと申請書類とペンを持ってきてくれた。
「ではこちらに御記入下さいませ」
「御記入終わりましたら直ちに宰相閣下の元へ提出に参りますね!」
「あ、ありがとう」
ファーラがめちゃくちゃ前のめりだった。そんなに喜んでもらえるならお菓子の作り甲斐があるよね。
っていうか、申請書類初めて見たけどすごく簡素。
これで本当に必要事項足りるの…?
こんなの、情報あってないようなものじゃない…?
まぁ記入する方としては楽なんだけどさ。
頭を捻るような所もなくサクッと記入を終えると、スっとラミィが手に取り、サッとファーラに渡して、ファーラはすぐに居なくなった。
早いなぁ……
「ラミィのためにミルフィーユも置くからね」
「まぁ、嬉しいですわ」
あまり種類を増やしすぎると作る方が追いつかなくなりそうだから、ラインナップもある程度絞らないとね。
まずは身近な人達の好きなものから選択肢に挙げていこう。
ラミィはミルフィーユ、ファーラとアルバート様はプリン、ミライズ様とツァーリ様はチーズケーキ、アルター様はガトーショコラ、ライオット様はショートケーキだったよね。
意外と被ってるものだなぁ。
ルミナとセルティアとアリエスにも聞いてみるか……あ、ラミィが知ってるかも。
「ねぇラミィ、ルミナ達は何が好きか知ってる?」
「ルミナはすふれちーずけーきが美味しいと言っておりましたわ。セルティアはてぃらみすたるとで、アリエスもぷりんだったと記憶しております」
「ありがとう。プリン大人気だね」
「私も好きですわ」
「そうなのね」
そっか、みんなプリン好きなんだ。
私は固めの方が好きだからオーブンで焼いちゃうけど、ゼラチンみたいなやつがあればとろとろプリンも簡単に作れるのになぁ。
アルバート様用に食べ比べセットで作るつもりのとろとろプリンは蒸すから完全にとろとろにはならないんだよね。
うーん、市井に売ってたりしない?
片栗粉があったくらいだから売ってても不思議はないんだけど。
アルバート様に連れてってもらう時に探してみよう。
そうしたらプリンの種類も増やせるね。
「これで七種類かぁ…どうせなら十種類くらいは置きたいよね」
「でしたら、あっぷるぱいは如何ですか? 侍女の中でも大変好評でございます」
「あ、パイがなかったっけ。じゃあアップルパイも入れよう」
あとはタルトがもう一つくらいあってもいいよね。
チョコタルトか、フルーツタルトか、いっそ皆のプリン好きを考慮してプリンタルトか。
あ、ロールケーキも入れとこう。
これで十種類になるし。
他は手軽に食べられそうな焼き菓子を一通り揃えておきたいところ。
定番のマドレーヌやパウンドケーキがベーキングパウダー無くて作れないから、やっぱりクッキー、ブラウニー、ガレット辺りになっちゃうのは仕方ない。
個包装の袋も用意しなくちゃ。
あとはショーケースをどうするかよね。
冷蔵庫にしまっておいてもいいけど、それだと中身が見えないから選ぶのに困ると思うし…
でもどこに頼めば作ってもらえるのかも、幾らくらいかかるのかもわからない。
それに、材料費も宰相様に相談しないと。
今は食料庫から自由に使っていいって言ってもらってるけど、売るとなるとそういう訳にもいかないし。
そうだ、マイキッチンも実験用に作ってもらったんだから、ここをお店として使うなら家賃みたいなやつも要るんじゃ?
そう思うと結構かかりそうだけど大丈夫かなぁ…
私、国から貰ってる分しか収入ないんだけど足りるの?
足りなかったら宰相様に直談判して売上から返済させてもらうしかないか。
…何にしても、まずは許可がおりないことには何も始まらないのに今から心配してても意味無いよね。
同じ姿勢で考え込んでいたせいで少し固まってしまった身体を伸ばして力を抜く。
慌てる必要はないんだから、これからはゆっくり考えて一つずつ確実に進めていくことにしよう。
そう思ったところにファーラが戻ってきて一言。
「ユーカ様! 申請が通りました!」
「早くないっ!?」
そんなに早く申請って通るものなの!?
日本が慎重すぎるだけ!?
でも即決はおかしくない!?
ツッコミが追いつかない。
私はこの国のことがまた一つわからなくなりました。
「場所はユーカ様のお使いになっている調理場を使用して良いとのことです」
「えっ、もうそこまで話進んでるの? 使用料は?」
「売上の一割だそうです」
あれ、安くない…?
私には相場とかさっぱりわからないけど、そんなもんなの…?
「それから、食材はこれまで通り食料庫のものを使用して良いですが、使用する都度食材費を支払うようにと」
自分で食材も何とかしないといけないと思ってたからそれはすごく助かる…!
ホッとしながらファーラから手渡された表を見てみると、そこには食材毎の単価が書いてあったんだけど…
「これ、安くない?」
単価自体は見てもわからないけど、何故か隅の方に三割引きしてあげるよって添えられてた。
え、何で?
そんなに融通してもらう理由がないんだけど。
「それだけ宰相様も楽しみにされているのですよ」
「恐らく宰相様だけではこのような個人的な優遇は難しいでしょうから、国王様も関与されているかもしれませんわね」
「ぅえ!?」
何でそんなに大事になってるの!?
私が聖女とか言われて喚ばれた立場だから?
聖女らしいこと何一つしてませんけど!
「ユーカ様の甘味がこの国中に広がるのも遠くないかもしれませんわ」
「それは確かに目標だけど…」
「それに、国王様や宰相様なりの応援なのですから有難く頂戴した方が良いと思います」
「うぅ……そうよね……」
過剰な期待に少し胃が痛くなったけど、私の野望はこの「お菓子」という文化が無い国にお菓子を浸透させること。
そのための第一歩なんだから、ここは怯んでる場合じゃないよね!
やるからには皆に喜んでもらえるお店を作るよ!
「ところで、ガラス張りの冷蔵庫って何処に頼んだら作れるか知ってる?」
そのためにも準備は万全にしないと。
ショーケースは外せないし、テイク用のケーキの箱も何とか考えないと。
箱はまだ何とかなるだろうけど、ショーケースは時間もかかるだろうから早めに相談したい。
そう思って二人に聞いてみると、予想外の返答がきた。
「ガラスでしたらクライス様にご相談されては如何ですか?」
「え? アルバート様?」
「えぇ、クライス領はガラス細工で有名ですので」
読んで下さってありがとうございます!
ツァーリが帰ってこないと聖女としての修行が出来ないので脱線していきますねぇ。
次こそはデート(仮)ですよ!




