相談②
色んな人に相談しにいきます。
「…なるほど、それで悩んでいらっしゃるのですね」
「そうなんです…」
「ふむ…侍女達と厨房の者達とは理由が異なりますが、魔道士団としては賛成ですね」
恐らくツァーリ副団長も同じことを言うでしょうとミライズ様は顎に手を当てて少し考える素振りを見せる。
理由は違うけどお菓子を販売することには賛成で、ミライズ様とツァーリ様は同じことを言う?
どういうことなんだろう。
私が首を傾げていたら、ミライズ様はクスクス笑って理由を教えてくれた。
「魔道士団だからこその理由なんですよ」
「と言いますと…?」
「貴女の甘味には魔力付与がされていると報告を受けています」
「はい」
あれから何度お菓子を作っても魔力付与はされていたし、逆にどれだけご飯を作っても魔力付与はされなかった。
原因不明のままだけど、お菓子にのみ魔力付与されているというのは確かなようだ。
「それが気になっている魔道士は多いのですよ」
「はぁ…?」
「つまり、自分で自由に購入が出来るようになれば心置き無く研究できるというわけです」
そういうことか!
確かにそれならツァーリ様も言いそう!
むしろツァーリ様がやりそう!
「勿論、聖女様の作る甘味が大変美味しく珍しいというのもありますけどね」
「あ、ありがとうございます」
「そういう訳で、魔道士団としましても歓迎ですよ」
そうなりましたら毎日伺いますねとミライズ様はおどけてみせる。
因みに、チーズケーキがお好みらしいので今度差し入れようと思う。
話が終わり、お忙しいミライズ様の邪魔をするのも悪いと早々に退室しようとしたんだけど、詰所の出口まで道がわかるかと聞かれてここまで案内してくれたダルウィン様はすでに居ないことを思い出した。
私が来た道を覚えているはずなんてないし、ファーラも詰所に入ることは滅多にないから覚えていないという。
結果、ミライズ様に入口まで送ってもらうことに。
「お忙しいのにすみません…」
「お気になさらずに。またいらして下さいね」
「ありがとうございます」
ミライズ様、優しい。
うん、やっぱり今度チーズケーキを差し入れよう。
手を振って送り出してくれるミライズ様にお辞儀をして、私はファーラの案内で騎士団の詰所へと向かった。
そして辿り着いた騎士団の入口で私は固まっていた。
まぁ例の如く騎士さん達に囲まれたからなんだけど。
因みにファーラは隅の方に控えているので巻き込まれていない。
というか、騎士さん達が寄ってきた時にしれっと逃げられた気がする。
「騎士団へようこそ、聖女様!」
「今日はどうされたんですか!?」
「誰かに御用事ですか!?」
「団長ですか!?」
「アルバートですか!?」
「二択なの!?」
つい素で突っ込んでしまった。
もしかして私は、騎士団に団長さんかアルバート様にしか用事がないって思われてるの…?
正直、今までの行動を振り返ってみても否定は出来ないし、実際今日もお二人に相談に来たから間違ってはないんだけど。
とりあえず団長さんにお会いしたいと騎士さんにお願いすると、その内の一人が案内をかってでてくれたのでお言葉に甘えることにする。
本当にいい人達だよね。
声は大きいし、お会いする度に距離が近くなってて圧がすごいけど。
もうちょっとパーソナルスペースが欲しいかなぁ。
そう思いながらも、ふとこの距離感にだんだん慣れてきてる自分に気付いて困惑した。
そうだよ、少し前まで男性が近すぎてキョドってたのに!
いつの間に慣れてしまっていたのか…
というか、これは慣れていいものなの…?
自分の変化に戸惑いながらも、案内してくれた騎士さんに着いて階段を上っていく。
団長さんのお部屋に着くと、騎士さんは「アルバートも呼んでおきますね!」と去ってしまった。
…アルバート様にも用事があるって言ってないのに何でわかったんだろう。
ま、まぁいいや!
とりあえず団長さんに相談しよう!
「…というご相談なんですけど」
「良いのではないか?」
「え、 即答ですか!?」
いつも通り迎え入れたくれた団長さんにこれまでの経緯を話すと、悩む素振りもなくサラッと肯定されてしまった。
「ユーカ殿の差し入れを楽しみにしてる者も多いが、厨房の者達が言うように満足いく程行き渡らないからな」
「あー……」
特に騎士団なんてめちゃくちゃ人数多いしなぁ。
第一騎士団は少数精鋭って聞いてるけど、それでも全員分は用意できてない。
ましてや他の騎士団や近衛騎士団には差し入れ自体はしてるものの、一部の人しか食べれてないだろうし。
かといって、さすがに全員分はキツい…
「騎士団にも、買ってでもユーカ殿の甘味を食べたいと思うものは多いはずだぞ」
「そうだと嬉しいですが…」
「気になるならその辺の騎士に聞いてみるといい」
そこまで言ってもらえると、ちょっとやってみようかなって気持ちが芽生えてくる。
帰りに他の騎士さん達にも少し話を聞いてみようかな。
それで結論出そう。
「加えて、ユーカ殿の甘味はステータスに影響があるからな。騎士としてはもってこいだ」
「あ、そういえばそうですね」
魔道士団は研究のためって言ってたけど、騎士団ならHP回復とかにも使えるわけか。
それなら売る時にお菓子の効果も書いてPOPとかにして添えておいた方が良さそうだよね。
…って、私すでに販売するつもりで考えてるじゃない。
思ったより自分がやる気満々だったみたいだ。
でもアルバート様にも相談はしておきたいんだよね。
できればアルター様にも聞きたいんだけど、お会いできるかな…
詰所内をウロウロしてたら出会えるかな、なんて楽観的なことを考えていたら、ドアの外からノックの音が聞こえてきた。
「入れ」
「失礼致します。お呼びと伺いましたが」
「アルバート様!」
「ユーカ殿…?」
団長が入室を許可すると、アルバート様が一礼をして入ってくる。
そして私を見てビックリしている。
ただ、団長さんはアルバート様を呼んだ記憶がないらしく眉を顰めていた。
すみません、多分呼んだの私です。
いや、私というか、さっきの騎士さんというか。
さっきの騎士さん、私が呼んでるんじゃなくて団長室に行くようにって言ったのね…
さっきの騎士さんのことを説明して団長には納得してもらったので、そのままアルバート様にも話を聞かせてもらうことに。
アルバート様とはよくお茶をしていることもあって他の人に比べるとお菓子を出す頻度が高いから、わざわざ買ってなんて思わないかもしれない。
…と思ったのだけれど、
「購入出来るようになれば、毎日ユーカ殿の甘味が食べられるわけだね」
「え? えぇと、そう、なのかな?」
逆に前のめりだった。
そんなに毎日スイーツ食べたいのか。
私も食べたいけど。
チラりと団長の方を見ると、言っただろう? とでも言わんばかりの顔でニヤついている。
その通りだったけど、まさかその反応がアルバート様から出ると思ってないから。
「アルバート、少しユーカ殿に付き合ってやれ」
「はっ」
「え? 付き合うって…何に…?」
「騎士達に話を聞きたいのだろう? 私は仕事があって広間まで送ってやれんからな。アルバートに送らせよう」
「え? え?」
「畏まりました」
団長さんとアルバート様の中で話がどんどん進んでいく。
えっと、アルバート様が騎士さん達に話を聞くのに付き合ってくれるってことでいいのかな?
未だに騎士団の詰所さえも道を覚えていないのでついでに入口まで送ってくれるのはとても助かるけど、仕事中のはずなのに申し訳ない気もする。
「では失礼致します」
「あっ、団長さん、ありがとうございました!」
「ああ。またいつでも来るといい」
団長さんに挨拶をして、アルバート様の隣に並ぶ。
ファーラは基本後ろに控えているので後ろ目に確認だけして歩き出した。
「そうだ、次の非番が決まったよ」
「あ、本当に?」
歩きながらアルバート様が話し出す。
「ああ。三日後の予定だ」
「三日後ね」
「朝、部屋まで迎えに行くからニホンの服を着ておいで」
そうだった。
アルバート様と日本にいる時みたいな格好で周りを気にせず市井を歩こうって約束してたんだった。
その為に日本の男性の服装とかもお茶しながら話したりしたんだしね。
周りが奇異の目で見てくることは分かってるからちょっとだけ覚悟がいるけど、アルバート様の格好も気になるから楽しみだったりする。
プリンも作らなきゃだし、お出掛けの準備もしておかなくちゃ。
三日後の約束に思いを馳せながら、アルバート様にエスコートされつつ階段を降りていった。
あれ? 騎士団でエスコートされる必要なくない?
読んで下さってありがとうございます!
きっとファーラは二人の後ろでニヤニヤしてるんでしょうね~




