聖女
何やら暴走してます。
急に異世界に喚ばれて、何が何だかわからないまま救世主とか聖女とか言われても困るんですけど。
状況を理解できないまま話は勝手に進められ、私は今お城の中の一室にいる。
「今日からこちらの部屋をお使いください」
朝目が覚めて夢じゃなかったとわかった時点で、住む場所はどうしようか、不動産とかあるのかな、そもそもお金がないから働かないとって心配してたからお部屋を用意してもらえるのは有難いことなんだけどね。
でも専属の侍女さんとかいらないです。
しかも五人も。
だだっ広い部屋にお姫様が使うような広すぎるベッド。
続きの間はリビングなのか、アンティークのテーブルにふかふかソファがあり、現在私はそのふかふかソファに沈んでいる。
ふかふかすぎて姿勢直そうと身動ぎしてもすぐ沈むのよ!
辺りを見回せばひと目で豪華とわかる調度品に、目の前にはとてもいい香りの紅茶とアフタヌーンティーセット。
でもケーキスタンドに乗ってるのは色とりどりの小さい菓子パン達。
この国の人は菓子パン好きなのか?
そして給仕の侍女さんに、壁側に待機の侍女さん。
いや、この環境で寛げないから。
とりあえずケーキスタンドにケーキ作って並べたい。
未だにテンパる頭を何とか起動させ、お茶を頂きながらこれからのことを考える。
国王様の話ぶりからして、私に求められてるのは魔物退治だろう。
って言われても、戦ったことなんてないから剣も弓も使えないんだけどなぁ。
じゃあどうやって戦えばいいのか。
多分一番可能性が高いのは魔法。
さっきのローブの人達も私のステータスを見て驚いてたってことは、恐らく何かしら戦力になると思うんだよね。
ただ、私は魔法の使い方を知らない。
だって魔力があるなんて知らなかったし、日本には魔法なんてものもなかったし。
となると、まずは魔法の使い方を覚えないといけないよね。
あとこの国のことも少しは知っておかないと。
アルバート様から少しだけ教えてもらったけど、ほんの齧り程度のものだから。
うーん、そうなると誰かに指導をお願いできないかな。
そこまで考えて、何でそんなに前向きになれるのかって自分でも思うけど不思議と不安はあまりない。
最初に出会ったアルバート様、団長さん、騎士の皆さん………まだここに来て間もないけど、みんな優しくしてくれたからかもしれない。
それに、どうせ帰れないのならこっちで楽しく暮らせる基礎を作らなくちゃ。
こういうのは大体世界を救ったら元の世界に戻れるのがセオリーだしね。
悲観的になってたらきっと未来まで暗くなる。
楽観的な自分の性格に感謝しながら、私は魔法とこの国について教えてもらうため、給仕をしてくれていた侍女さんに声をかけた。
その日は侍女さんにお城の中を案内してもらった。
侍女さんは私付きで五人配置されているけど、実際にメインで普段からつくのはラミィさんとファーラさんの二人だそうだ。
侍女長でもあるラミィさんは案内しながら補足で色々と教えてくれるのでとてもわかりやすい。
「シマザキ様、こちらで王宮内の主な場所のご案内は終了でございます」
「ありがとうございます」
「お疲れではありませんか?」
「大丈夫です」
「では、宰相閣下の元へ参りましょう」
ん? 何で宰相様の所へ?
謁見の時に伝え忘れたことでもあったのだろうか。
疑問に思いながらもラミィさんの後をついて行くと、謁見の所とは違う部屋に案内された。
「宰相閣下。聖女様がお見えになられました」
「お通ししろ」
門番さんが部屋の中に声を掛け、返事と共に扉が開かれる。
その奥には社長室みたいな大きな机があり、そこに座っていた宰相様に手前のソファに腰掛けるよう言われてその通りにすると、向かいに宰相様が移動してきた。
「ご不便はありませんかな?」
宰相様の言葉に緩く首を振り、良くしてもらっていることを伝える。
その返事を聞くと、ラミィさんに向かって何かあればすぐに知らせるよう指示されていた。
「ところで、わざわざ起こしいただいたのは確認したいことがあったからなのですが」
「確認したいことですか?」
「えぇ。先程侍女より、貴女が魔法の使い方やこの国のことを学びたいと仰っていると伺いました」
「あ、はい」
侍女さんはいつの間に宰相様に知らせてくれてたんだろう。
すでに話は通っているらしく、明日からもう学べる環境を整えてくれたらしい。
当面は生活に慣れるため、午前中に講習を予定し、午後は自由にして良いことになった。
お城の中以外も見て回りたかったからちょうどいいね。
それから数日。
私は少しずつこの国のことや、貴族のこと、マナーについて等勉強している。
歴史の授業みたいでちょっと面白い。
日本では教科書上でしかわからなかったことも実際に見て「なるほど」ってなるのも大きいかも。
ほら、貴族の挨拶とか、風習とか。
でもドレスだけはいつまで経っても落ち着かない。
この国ではドレスが当たり前、肌を見せるのはNGってなってるけど、結婚式やパーティーでもないのに毎日着るのはしんどいよ。
せめてワンピースみたいなやつはないのかなぁ。
ヒールは歩きにくいし、ドレスの裾は足にまとわりつくし、コルセット締められすぎて苦しいし、何より重い。
しかもそれで優雅な仕草を求められるというのだから、何の拷問だとさえ思ってしまうのも無理はないと思うの。
けど、マナーを学ぶにあたってドレスは必須だし、ドレスも慣れるしかないと言うから仕方ない。
今日も今日とてなるつもりもない淑女になるべく、顔に笑顔を貼り付けた。
因みに今日は午前中のマナー講習の後、ラミィさんに市井の市場に連れてきてもらっている。
ここに来るのは初めてなんだけど、小麦粉やカカオパウダー、ラズベリーなんかも売られていて、調理器具があればお菓子が作れるのにと溜め息が出てしまい、ラミィさんに心配されてしまった。
「如何なさいました? 」
「あー…いえ、お菓子作りたいなぁって」
「おかし?」
あれ、お菓子が伝わらない。
「えぇと、スィーツとか」
「すぃーつ? 何でございましょう?」
「え? ケーキとか、クッキーとか」
「申し訳ございません、どれも存じ上げないですね」
まさかのお菓子が…ない?
嘘でしょ!?
何でケーキスタンドがあるのにケーキの存在を知らないの!?
荒ぶる私の脳内は大混乱だ。
何たって私は小さい頃からお菓子が大好きで、お菓子作りが好きなママと一緒によく作っては、甘い物が好きなパパと食べていた。
その影響で私はパティシエになりたいと専門学校に通っていたのだから。
…パパ、ママ、元気かな。
親元を離れた身とはいえ、連絡手段もなくなってしまったのだと思うと寂しく思う。
もし日本に帰れたら、真っ先に実家に会いに行こう。
そのためにも今できることをしなくては。
今できること。
冷静な頭だったらきっと魔法の練習って思っただろうが、今の私はお菓子がないことがショックすぎてきっと頭が回っていないんだ。
だから、
「私がこの世界にお菓子を広めなくては!」
変な使命感に駆られて、宰相様の所に厨房を使わせてほしいと直談判しにいくなどという暴挙に出てしまったのだった。
読んで下さってありがとうございます!
佑花はただお菓子が食べたいだけなんです。