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来訪

新キャラです~

 怯えていても何も始まらないので、当初の目的通りお菓子を作ることにする。


 結局のところ、私は一人でいなければいいってことなんだよね?

 それは気をつけることにします。


 …まぁ、方向音痴の時点で一人で行動出来ないんだけど。

 逆にそれが功を奏している気がするから、今回ばかりは一向にお城の中さえ覚えられない私の方向音痴を前向きに受け入れることにする。



「何にしても、今日はラミィとお茶できるってことだよね!」

「私で宜しければご一緒させていただきます」

「うん、ありがとう! で、何が食べたいの?」

「えぇと…あの、以前戴いたみるふぃーゆというものがとても美味しかったので…」

「ラミィはミルフィーユが好きなのね」



 侍女さん達は私と一緒にお茶をして欲しいと言うと遠慮されちゃうけど、ラミィやファーラは根負けして付き合ってくれるようになった。


 あとよくお茶するのは、アルバート様とツァーリ様、たまにディガー様やライオット様も来てくれたりする。


 ファーラはプリンが好きで、ツァーリ様はチーズケーキ。

 アルター様とライオット様は滅多に来ないから何がお好きかわからないけど、この間はブラウニーを美味しいと食べてくれたなぁ。

 アルバート様は………どれも美味しいって言われてしまうから、誰よりも種類を食べてるはずなのにどれが好きなのかよくわからない。


 それで、ラミィはミルフィーユね。




 さて、ついでにパイ生地とかタルト生地とか、手のかかるものをついでに仕込んでおこうかな。


 パイ生地を寝かせるのに時間かかるから、その間に違うスイーツも作っちゃおう。

 ミルフィーユ用にカスタードクリームも作るし、シュークリーム辺りでいいかも。


 メニューが決まれば、後は作るだけ!


 ラミィも手伝ってくれるというので教えながら二人で作ることに。



「ユーカ様、これくらいで宜しいですか?」

「うん、いい感じ」


 初めての作業に最初は戸惑っていたラミィも途中からは楽しそうにしているのを見て、どうせなら自分の食べる分を作らせてあげるのもいいかもしれないと思い、生地から教えてあげている。

 パイ生地は作る工程が多いけど、意外と楽しいんだよね。



 ラミィが頑張って仕込んだパイ生地と、私が隣で見本に作ったパイ生地を冷蔵庫で休ませ、その間にシュークリームの生地を作ろうとしたら入口からノックの音が聞こえてきた。



 ここに来るってことは私かラミィに用事だよね?

 さっきの話を聞いた後だから、ちょっとだけ身構えてしまう。


 ラミィは気にした様子もなく、私にここで待つよう告げて入口へ向かった。

 そして扉を開け、



「ファーラにルミナ。どうしたの?」

「ユーカ様にお取次ぎを希望する者がおりまして」

「お断りなさい」

「あの、それが……」

 


 訪問者は私付きの侍女さんであるファーラとルミナだったみたい。

 何を話しているのかまでは聞こえないけど、何か困ってる感じだね。

 何かあったのかな?



 とりあえず私は作業を進めながらラミィが戻ってくるのを待つことにした。



 シュークリームはカスタードクリームだけでも生クリームだけでも美味しいけど、やっぱりダブルがいいよね。

 ハンドミキサーが無いこの国で生クリームを何度も作るのはしんどいので、アルバート様やアルター様に手伝ってもらって幾つか冷凍ストックしてある。

 それを解凍しておいて、シュークリームの生地を作って焼く。


 生地を鉄板に並べてオーブンに入れたところでラミィが戻ってきた。

 後ろにはファーラとルミナもいる。


 話は終わったのかな?




「ユーカ様、クライス伯爵様がお目通りをと仰っております」

「へ? アルバート様?」


 アルバート様は今日夜番なんじゃなかったっけ?

 何か用事でもあったとか?


 ……そういえば、ラミィってアルバート様のことクライス伯爵様なんて呼んでた…?


 何となく引っかかるんだけど…



「いえ、シェナード・フォン・クライス様です」



 ……………誰?

 え、でもクライス様なんだよね?

 もしかして同じ家名の人がいる?

 ほら、日本でも鈴木とか佐藤とかめちゃくちゃいっぱいいるし。


 でも違うクライス様だとしたら、私は会って大丈夫なの?

 ラミィが良いって言ってるなら会っても問題ない人?



 私が混乱していると、ラミィは口元を柔らげて教えてくれた。



「大丈夫ですよ。シェナード・フォン・クライス様はアルバート・フォン・クライス様の兄君でいらっしゃいます」

「え」


 兄君、ということは、つまりお兄さん。


 そうだよ、アルバート様、お兄さんいるって言ってた!!

 何で全く思いつかなかったんだ!



 ………いや、待って。

 そのお兄さんが私に何のご用事が?

 もしかしてアルバート様に頼りすぎてるのがバレて距離を置くようにとか言われるんじゃ!?

 だって頻繁にお手紙のやり取りするくらい仲良しな兄弟だもん。

 色々筒抜けになっていても不思議はないし、私自身アルバート様に迷惑をかけまくってる自覚があるから何も言い返せない。


 会わなきゃ、ダメ、かなぁ…?

 悪い未来しか浮かばなくて会うの怖いんだけど…


 でもここで会わなかったらアルバート様の立つ瀬もなくなっちゃうよね。

 それは避けたいし。


 覚悟を決めるしかない…か。




「…お会い、します」

「ではご案内して参ります」


 内心バクバクで破裂しそうだけど、アルバート様にお世話になってるのは事実なんだからお兄さんにもきちんと御礼を言わないといけない。

 私が何を言われたとしても、それだけはちゃんとしよう、うん。


 シュークリームの皮が焼き上がった音がしたけど、私はそれどころじゃな………



 あれ、シュークリーム?



「ねぇ、ラミィ。ご挨拶するのにここでいいの?」



 そう、ここはマイキッチン。

 しかも私は作業しやすいように軽装。

 そして作業の途中で散らかった作業台。


 どう考えても初めましてのご挨拶をする場に相応しくないと思うんだけど。


「クライス伯爵様は私的にとご希望でしたので問題ないかと」

「そういうものなの?」

「えぇ。公式にとなりますとそういう訳にも参りませんが」

「ふぅん?」


 何にしてもここでいいと言ってもらえるのなら少しは気が楽になる。

 このマイキッチンは私の憩いの場だからね。

 煌びやかな応接室でゴテゴテのドレス着てご挨拶とかじゃなくて良かった。




 ラミィと話して少しだけ落ち着きを取り戻した私は、焼き上がったシュークリームの皮を冷ましつつ、カスタードクリームを作ることに。

 ミルフィーユの生地もまた重ねて伸ばしてを繰り返し、もう一度冷蔵庫へ。


 カスタードクリームは簡単なので、材料を混ぜてフツフツと小さく火にかけて混ぜ、とろみがついたら器に広げて冷ますだけ。

 あとは粗熱が取れたら冷蔵庫に入れて冷やして完成。


 次は………いや、下手にやり始めたらクライス伯爵様が来ちゃうかもしれないよね。

 大人しく待とうと手を止めると、ノックの音と共にファーラが部屋に入ってきた。



「ユーカ様、クライス伯爵様をお連れ致しました」

「ありがとう」

「お初にお目にかかります。クライス伯爵家長子、シェナードでございます」

「ご丁寧なご挨拶有難く頂戴いたします。ユウカ・シマザキと申します」


 ファーラに続いて入ってきたクライス伯爵様は、アルバート様と同じく金に近いライトブラウンの髪に色素の薄い青の瞳で、髪が長いことと少しだけ目元が垂れていることを除けばものすごく瓜二つなお兄さんだった。

 めちゃくちゃ似てるし、やっぱりイケメンのお兄さんだけあって顔が整ってるなぁ。



 思っていたよりも柔らかい印象のクライス伯爵様にホッとした私は、ようやく覚えたカーテシーでご挨拶を返す。


 すると、ニコリと微笑んだクライス伯爵様に「少しお話をさせて頂けませんか?」と手を取られ、優雅にテーブルにエスコートされてしまう。


 うん、間違いなくアルバート様のお兄さんだわ。


 されるがままに椅子に座り、クライス伯爵様も向かいに腰掛けた所で突然頭を下げられた。



「本日はお約束もなく突然の御挨拶となってしまったこと、申し訳なく非礼をお詫び致します」

「え!? いえ、そんな、」

「王都に急用が出来て参ったのですが、予定よりも随分早く事が済んでしまいまして。それならば、可能でしたら聖女様にご挨拶させていただけないものかと参じた次第でございます」

「そうだったんですね。わざわざありがとうございます」


 それならアルバート様に会えばよかったのに、とも思うけれどアルバート様はまだ休んでいるだろうからどっちにしても難しかったかもしれないよね。

 でもアルバート様もお兄さんに会いたかったんじゃないかな。

 お仕事だから仕方ないけどさ。



「それから………弟と仲良くしていただいているとのこと。兄として喜ばしく思っております」

「あ、いえ、こちらこそ…」




 そう言って笑うクライス伯爵様の顔は、アルバート様の笑う顔とそっくりだった。

読んで下さってありがとうございます!

アルバートのお兄さん登場です。ようやく仲良し兄弟の話が書けるので、二人がどう動いてくれるのか楽しみです。

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