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休憩

安定のアルバートです(つまりマイペース)。

「うん、この辺りで休憩にしようか」

「つ、疲れた…腕つりそう……」

「普段使わない筋肉を使ったからだろうね」


 アルバート様は教え方も丁寧だし、わかりやすいんだけど、妥協を許してくれない。

 基本が身につかないと応用に至っても中途半端になるだけで逆に隙ができてしまうからと、とにかく基礎を延々やることになった。


 剣にしか興味がないって前に言ってたけど、それは逆に言えば剣だけは拘るってことなのね。

 だからこそアルバート様の強さがあるんだと納得はした。

 着いていけるかは別として。


「休憩したら今度は私に打ち込んでみようか」

「あれ? 基礎はもういいの?」

「その基礎の確認になるんだよ。基礎をどれだけ身につけられたかで自分への負荷は段違いだからね」

「そっかぁ」


 息を整えながら話を聞く。


 けど、疲れたからとりあえず今は少し座りたいなぁ。

 なるべく動きやすい服を選んだとはいえ、ドレスには変わりないのでさすがに地面に腰を下ろすわけにもいかない。

 小腹も空いたし、どうせならちゃんと休憩したい。


 あ、ちょうど昨日スコーンを作ったから、軽食にどうかな?


 そう思ってアルバート様に軽食のお誘いをすると、いつもの感じで快く受け入れてくれた。



「それならユーカ殿の調理場へ行こうか」


 当たり前のように腕を差し出してエスコートを促してくるアルバート様。


 ここからマイキッチンまで大した距離もないし、以前「あのアルバート様がエスコートした」なんて騒がれたというのに、この人は全然気にしていないらしい。


 何なら、気にする気がないから今後も自分の言動によってまた噂されたりしたらごめんって先に謝られたくらいだからね。


 こんなにサラリとエスコートしてくるのに、他の女性にはその場の挨拶だけで躱しているというのが信じられないですよ。


「…………はい」


 未だにエスコートに慣れない私。

 私にエスコートは不要だと言っているのにアルバート様は一向に聞き入れてくれないので、諦めてその腕にそっと自分の手をかけた。







 何人かに声を掛けられながら辿り着いたマイキッチンで私は項垂れていた。


 会う人会う人、皆好奇の目で見てくるんだもん。

 中にはわざとらしく「クライス殿がエスコートとは珍しいですね」なんて言ってくる人もいたりして。

 アルバート様は「そうですか?」ってにっこり返して早々に話を終わらせてたけど、これまた噂にされるやつじゃない?


 でもアルバート様に気にするつもりがない以上どうしようもない。

 それに私じゃ話術に長けた貴族様相手に上手く切り替えせる自信がないから、アルバート様があしらってくれるおかげで助かっている部分もあるわけで。


 …これはもう仕方ない、よね?


 私の葛藤を知ってか知らずかアルバート様は変わらずニコニコこっちを見ている。



 私は気持ちを切り替えるためにお湯を沸かし、作っておいたスコーンを温め直した。



「温めるだけだから座ってていいよ?」

「ありがとう」


 じっと私の隣で手元を見てくるアルバート様に声を掛けるものの、テーブルに向かう気配がない。

 私が作業しているのが面白いのか、これは割とよくあることなので私もそのまま放っておいたりする。



 スコーンには紅茶でもコーヒーでもいいんだけど、普段から紅茶を飲む機会が多いことと、アルバート様がコーヒーを気に入ったらしく二人でお茶をする時はコーヒーが定番になっていた。


 こんなに飲んでるのに少し前まで苦手だったっていうんだから驚きよね。

 前に一度だけ淹れてもらったコーヒーが苦すぎて飲めたものじゃなかったって言ってたけど、本当にどんな淹れ方したらそうなったんだろう。

 逆に気になる。



 今日もいつも通りコーヒーを淹れて、ミルクと砂糖を添える。

 私が食べるものに合わせてコーヒーの甘さを変えていたら、アルバート様も同じように調整するようになっていたんだよね。



 温まったスコーンをお皿に取り分けてテーブルの上に並べたところで揃って席に着いた。


「これは味が違うのか?」

「うん、プレーンとチョコと紅茶の三種類だよ」


 プレーンにはお好みで足せるようにジャムも添えておこう。



「パンに近い気もするが、それにしてはサクッとしているんだな」

「そうだね、ちょっと違うかも」


 アルバート様は基本好き嫌いがないみたいなんだけど、綺麗に食べ終わった後にどれが美味しかったとかまた食べたいとか絶対感想をくれる。

 そりゃモテるわ。


 かくいう私もさすがにアルバート様の美形には慣れてきたので、お茶するくらいなら動揺することもなくなってきたよ!

 これだけ顔を合わせてるんだから、いくらイケメンとはいえいい加減耐性ができてもおかしくないよね。



 それに、このお茶の時間でアルバート様が自分のことや騎士団のことを話してくれることも増えて、それを聞くのも楽しみだったりする。


 最近だとアルター様やライオット様の話とか、領地にいるお兄さんの話とか。

 お兄さんとは近況を手紙で連絡し合うくらい仲が良いんだって。

 確かその話をしてくれた時はちょうど前日にお兄さんからお手紙が届いたんだって言ってた気がする。


「ユーカ殿は剣を持ってみてどうだった?」


 おや、今日は私の話なのかな?

 それとも剣の話?

 どうせならアルバート様が剣にのめり込んだ理由とか聞いてみたいなぁ。


「思ってたよりも重かったかな」

「そうか。私達は軽々扱っているように見えるからかもしれないな」

「そうかも。アルバート様は小さい頃から剣を握っていたの?」

「ああ、私は家督争いに巻き込まれることもないから幼少の頃からずっと剣を振るっていたな」


 やっぱり小さい頃から剣に触れていたんだ。

 団長さんが認めるほどの強さなんて、一朝一夕には無理だもんね。



 それにしても家督争いかぁ…要するに後継問題ってことでしょ?

 アルバート様は次男だからって早々に騎士団に入ったって言ってたけど、どこもそんな感じなのかな?

 それなら女の子の場合はどうなんだろう。

 貴族社会なんて歴史の中の話でしかないから全然勝手がわからないや。


「小さい頃なんて剣持てたの?」

「いや、持てる程の力がつくまでは木の棒を振るっていたな。六歳の時に一番軽い剣が与えられて、それからは剣だね」

「アルバート様も誰かに教えてもらったの?」

「勿論。基礎は自警団の元騎士に指導してもらっていたよ」


 木の棒を振っている小さいアルバート様とか絶対可愛いよね。

 でも六歳で剣を持ったってことは、それより前からずっと騎士になりたかったんだろうか。

 そうだったとしたらすごいなぁ。

 しかもそれをちゃんと実現してるんだから。





 コーヒーを啜りながらのんびり話を聞いていたら、いつの間にかスコーンのお皿は空になっていた。

 時計を見ると優に一時間は休憩しているし、そろそろ腹ごなしに動いた方がいいかもしれない。


 チラリとアルバート様の手元を盗み見ると、もうコーヒーも飲み終わるようだったので私もカップの残りを一気に呷る。


「さて、稽古に戻ろうか?」

「お願いします!」













 それから再び構えの確認、素振り、打ち込みをして、アドバイスをもらい、また繰り返し。


 ものすごく疲れてもう腕が上がらないけど、基礎を教えてもらって実際に打ち込むことでこの間私がどれだけテキトーに水の剣を振っていたのかわかった。

 剣と剣がぶつかった時の衝撃が全然違ったの。

 もちろん剣の威力を上げちゃえば関係なしに斬れるけど、それって結局剣頼りになっちゃうからいざという時何もできなくなる。



 アルバート様からも基礎は学んでおいて悪いことはないからと、また明日の夕方巡回の帰りに迎えに来てもらうことになった。



 …ということは、午前中はツァーリ様の所に行って魔力制御の練習かな。

 それなら夜に生地を仕込んで、明日の朝久しぶりにクッキーでも焼いて魔道士団に差し入れようか。

 最近は騎士団に出入りすることが多くてそっちに差し入れてばっかりだったし。

 クッキーなら付与の効果もハッキリしてるからいいよね。


 よし、そうと決まったら部屋に戻ってお風呂に入ろう。

 まずは汗を流して、ご飯を食べないと。




 私はありがとう、また明日よろしくお願いしますとアルバート様に頭を下げてしれっと一人で戻ろうとしたら、またしても自然にエスコートされていつの間にか部屋まで連れられてきてしまい、後でラミィとファーラに質問攻めにされる羽目になったのだった。

読んで下さってありがとうございます!

基本スペック:紳士が身についているアルバートなのでエスコートは本人も自然にやってます。単に興味がある佑花がエスコート対象である女性なので、隣にいるためにやってるだけで他意がないので始末が悪いやつ。

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