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指南

今度は剣の稽古を始めることになりました。

 騎士団での魔法の剣のあれこれから数日。

 私は王宮の裏庭で剣の練習をしていた。


「これが基本の構え。まずはこのまま縦に振ってみて」

「はっ!」

「もっと最後まで振り切る感じで」


 私に剣を教えてくれているのはアルバート様。

 何で突然こんなことになってるのかって思うよね。

 私も思ってる。



 あの日、ツァーリ様の十倍の光の壁を簡単に切り崩してしまった私の所に、見学していたらしいアルバートがにこやかにやってきた。

 自分もいつか魔法の剣を受けてみたいと笑って、そのまま剣を学ぶ気はないか聞いてきたのだ。

 アルバート様によると、剣を知らない私の振り方では本来の威力が出せていないし、下手な振り方をしていては身体の方を壊してしまうのだそう。

 確かに剣を創り出せても扱えないんじゃ意味が無いよなぁ。

 それはごもっともだ。

 納得しながら聞いていると、隣にいたツァーリ様も「それもそうですね」と頷いていた。


「ユーカ殿が宜しければ私がお教えしましょうか?」

「アルバートが教えるのか!?」

「ええ、もちろん職務のない時間になりますが」

「…訓練の時間なら構わんが……お前がか…?」


 アルバート様の申し出に、近くにいた団長さんが驚いている。

 アルバート様が教えるのに何か問題があるのかしら。

 キョトンとしながらお二人のやり取りを見ていると、団長さんが笑って私の肩を叩いてきた。


「いや、すまんな。アルバートの剣の腕は我が第一騎士団でも随一なものだ。師とするには申し分ないだろう」

「そうなんですね」


 アルバート様すごいな。

 騎士団の団長さんにそんな風に言われるなんて相当の腕前なんだろう。


「だが、コイツはどうにも物事への興味が薄くてな。今まで誰が頼んでも剣の指南をすることがなかったから驚いただけだ」

「助言くらいはしますよ」


 そんなにアルバート様に教えてもらえるのってレアなことなの?

 というか、教えてもらえるのはもちろん有難いことなんだけど、それだとアルバート様が大変になるよね?


「でもアルバート様の時間が…」

「大丈夫ですよ」


 言い終わる前ににっこり笑って被せられてしまった。

 本当にいいのかなぁ…

 団長さんは苦笑してるし、アルバート様はニコニコしてるし、ツァーリ様は何か考え込んでるし。


 どうしたものかと戸惑っていると、ツァーリ様が「それならば、」と口を開いた。


「クライス殿には剣の指南をお願いすることとして、それ以外の時間で魔力制御の練習を致しましょう」




 …というわけで、アルバート様の都合の良い時間に剣を教えてもらうことになりました。

 はい、回想終わり。



 団長さんは巡回以外の訓練の時間を使っていいと言ってくれていたけど、初日の今日は早速非番の日だそうで。

 せっかくのお休みなのにって言ったんだけど、休みだからと特にやることもないからと押し切られてしまった。

 そういえば前にそんな話聞いたっけ。



 今日はアルバート様が昔使ってたという剣を練習用に持ってきてくれて、それを使って型の練習から入るらしい。

 でも構えてみたら思っていたよりもずっと重くて、私の魔法の剣は魔法だから軽いだけなんだとわかった。

 本物の剣ってこんなに重いんだね…

 これを軽々振り回している騎士さん達の筋力とか体力とかどうなってるんだろうか。


「勢いは殺さないように」

「はい!」

「そう。もう一度」


 何事も基本は反復練習だというけれど、剣が重くてすぐに腕が怠くなってしまう。

 これは筋トレをした方がいいかもしれない。


「…最初からこの剣では重かったかもしれないな」

「もっと軽いのがあるの?」

「私は訓練用は重いもの、討伐は軽いものを使っているよ」

「そうなの? 重い方が威力ありそうだけど」

「重いもので訓練しているのは負荷をかけるためだ。その分体力消費も激しいからね」

「あ、そっか」

「それに、多少威力が落ちてもその分速さで対応できるから問題ないよ」


 つまり、錘を外した分だけスピードが上がるってことか。

 私が剣を構えたままで話を聞いていると、そっと手から抜き取られてしまう。


 あ、軽い。


 思ったよりもずっと身軽に感じるから、確かにこれなら素早く動けそう。

 なるほど、こういうことなのね。


 軽くなった腕を回していると、練習用の剣を鞘に収めたアルバート様がこちらに向き直る。


「ユーカ殿、魔法の剣を見せてもらえないだろうか?」

「水の剣?」

「他にも適正があるのか?」

「あとは光と闇があるよ」


 あれ、アルバート様にステータスの話ってしたことなかったっけ?

 私の属性を聞いて変な顔してるのはきっとツァーリ様と同じでおかしいと思ってるパターンなんだろうなって察しはつく。

 でもその反応をされるということは、光と闇を併せ持つことは有り得ないっていうのは魔法を使わない騎士さんですら知ってる常識なんだね。



 アルバート様の問いに答えてから水の剣を創り上げる。

 慣れてしまえば意外と簡単なもので、この数日ちょっとずつ練習していただけで発動時間は最初の約半分程度まで縮められていた。


 これが二倍とか三倍とか、強化が必要になってくるともう少し時間がかかるけど、基本の剣だけなら問題ない。


「これが…」

「何も強化していないので威力はないけど」

「この剣はユーカ殿の手を離れたらどうなるんだ?」

「え? 浮かせることは出来るけど……あ、持ってみる?」

「ああ」


 気になるらしいアルバート様の手に水の剣を渡してみたら、その場で水となり、ぱしゃりと音を立てて流れてしまった。


 他の人は持てないってこと?


 アルバート様に尋ねると、恐らくそうだと首肯される。


「光の剣や闇の剣は創れるのか?」

「一応ね」


 光と闇は水の倍の魔力を使うため、強度に限界はあるもののどちらも剣として具現化することは成功している。


 そういえば、同時に他の属性を出すことってできるのかな?

 同時に発動とかじゃなくて、例えば光の剣を出している時に闇の剣を出したりとか。

 魔法ってイメージだから、しっかりイメージを分けられれば出来ないことはない気がしてきたんだけど。

 ちょっとだけやってみてもいいかな?


 右手に光の塊を生み出し、剣に形成していく。

 消費魔力以外は水の剣と変わりないのでこちらもそう時間はかからない。

 出来上がった所で、光の剣はそのままに左手に闇の塊を。


「光と闇を同時に…!?」


 アルバート様が驚いているけれど、ここで集中力を欠くわけにいかない。

 左手に意識を集中させ、剣を強くイメージする。

 そうして少しずつ形を変えていき、


「できた!」


 右手に光の剣、左手に闇の剣を発動させることに成功した。


「そんなことが…!」

「出来るもんですねぇ」

「いやいや、前代未聞だからね!?」


 アルバート様が珍しく声を荒らげている。

 普段は穏やかで優しくて、四つしか変わらないのにすごく大人の男性って感じなのに。


 そんな人がここまで反応するということは、これはツァーリ様に見せたらまた詰め寄られるやつなんだろうな。

 しばらく黙っておこう…


「それにしても、本当にユーカ殿は面白いな」

「それ、暗におかしいって言ってない?」

「そんなことはないよ」

「笑ってるし!」


 もはや笑ってるのを隠す気もないアルバート様に文句を言うが、軽くすまないと謝るだけでやっぱりまだ笑ってる。

 楽しそうなのは何よりだけど、笑われてる側としては複雑です。


 ムッとした顔を見せても変わらずクスクス笑っているだけなので、文句を言うことを諦めて私は創り出した光と闇の剣を消した。


 これ、どっちも出せるようにはなったけどまだ安定しないからすぐ壊れるんだよね。

 魔力消費も水の剣に比べると大きいし。


 それを話すと、アルバート様はそれなら水の剣で基礎の稽古をしようと言ってくれたので再び水の剣を創る。


「強度は? そのままでいいの?」

「そうだな…まずはそのままで素振りからにしようか」

「はい!」

「それじゃ、構えて」


 本物の剣を持った後に水の剣を持つとものすごく軽く感じる。

 というか、そもそも水の剣に重力なんてないようなものだから実質手ぶら?

 剣の形を維持するという意味で集中力は必要になるけど、体力が温存できるのは助かるのよね。

 いくらこっちに来て日本にいた時よりも動くようになったとはいえ、元々インドアな私の体力なんて底が知れてるから。


「剣先を動かさないように」

「む、難しい…」

「少し脇が開きすぎてるかもしれないな」

「脇……こう?」

「もっとしっかり力入れて」




 因みに、アルバート様の指南は意外と厳しかった。

読んで下さってありがとうございます!

遅くなってしまいましたが、評価やブックマークもありがとうございます…!

方向性を見失っている話ではありますが(お菓子を作りたいだけなのはブレません)、佑花の日常を見守っていただけたら嬉しいですm(*_ _)m

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