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見学

アルバート視点です。

 訓練場には常に多くの騎士が集まり、腕を磨き合っている。

 私も例に漏れず、非番と巡回の時以外は大半の時間をここで鍛錬に費やしていた。


「アルバート、ちょっと相手になってくれないか?」

「構わないよ」

「助かる。打ち合いの時にバランスを崩してしまうことがあってな」

「重心がズレるんだろうな」

「ああ。それを何とかしたくてさ」


 軽く身体を慣らそうと訓練場を走り、素振りや型の練習を終えた頃、同僚に声を掛けられた。


 彼の名前はライオット。

 貴族でないため家名はないが、一代で第一騎士団まで上り詰めた才ある騎士だ。

 歳は私の一つ上だったか。

 第一騎士団に配属されたのはディガーと同じ年だったようで二人は仲が良く、私ともディガーを通じて親しくなったようなものだ。

 この騎士団では珍しく声を張り上げずに話してくれる二人なので、私は好んで彼らといることが多い。

 他の皆も気のいい奴等ばかりだが、何分声が大きくて耳が痛くなる。


 常々思っているが、何故皆平気なんだ?

 ディガーに聞いても「慣れだ」としか答えないし、ライオットに聞いても「嫌でも慣れる」と言われたが、何年経っても私は一向に慣れる気がしない。


 訓練の士気を上げてくれる大声は有難いんだが…



「打ち合いでいいのか?」

「ああ。数やって身体に叩き込む」

「わかった。いくぞ!」

「来い!」


 剣を構えてライオットに向き直る。

 相手が構えたのを確認し、一気に間合いを詰めた。

 ライオットは逸早く反応し、私の剣を弾き返す。

 そして反撃のために重心がズレた一瞬に彼の剣を薙ぎ払うと、明らかな隙が出来た。


「今の所だな…ッ」

「弾き返すよりもッ、受け流した方が、良かったか…!?」

「いや…間合いを詰めていたから、距離をとる意味でも、弾き返す方が確実、だ…ッ」


 打ち合いは止めることなく、キン、と剣と剣がぶつかり合い音が響く。

 私はわざと彼が苦手とするタイミングを容赦なく狙い、弱点を顕にさせていた。


 ライオットの咄嗟の判断は的確だ。

 だからこそ、今以上の剣技が身につけば彼はもっと強くなれる。


 強く在りたいと思うのは騎士の誇りであり、故に強くなれるのだと私も思う。


「もう一度!」

「はぁッ!」

「遅いッ!」

「うわ! くそ…お前本当に隙ないな」

「ライオットが相手の動きに合わせすぎなんだよ」


 ライオットは状況判断に長けているが、まず相手の出方を窺ってしまう傾向が強いため自分のペースに持ち込めなくて隙を作らされてしまうことが多い。

 バランスを崩してしまうことがあるというが、それも最初から自分のペースに持ち込めればまた違ってくるだろう。


 彼は何の伝もなく一人で這い上がってきた男だ。

 私も実力でここに在るのだと思いたいが、私を含め貴族は家名が先行してしまうことも少なくない。

 だからといって実力のない者に第一騎士団の任は務まらないので、皆実力者だということには違いないが。


 つまり、彼は実力だけでここまで来る力量があるということ。

 そんな彼が簡単にバランスを崩すような体幹をしているとも思えない。


 私はライオットに相手の出方を窺う時間をもっと短くするよう助言をした。


「ああ、確かに俺はそういう所があるな」

「そこで先手を取られると、自分のペースに戻すのはまず難しい」

「となると、もっと相手の動きを見ないと……いや、初動を見てたら遅いか…? 参考までにアルバートはどうしている?」

「私は足だな」

「なるほど。俺は剣先を見ていたが…足か」

「ライオット、“俺”になっているぞ」

「お? あぁ、いけね」


 一度打ち合いを止めて意見を交わす。

 私の言わんとしていることは伝わったようだが、これは訓練する他ないし私も完全でないためそれ以上のことは言わない。



 …にしても、ライオットは集中し過ぎると言葉遣いが平民に戻ってしまうのは相変わらずだな。


 騎士、特にこの第一騎士団は市井だけでなく貴族街の巡回を受け持つため、貴族を相手とするための言葉遣いを叩き込まれる。

 私達貴族は当たり前に教育されてきていることだが、平民には一苦労らしい。

 騎士団内では多少の言葉遣いの荒さは気にされないが、普段から慣れていないといざという時に話せないからとライオットも頑張って正そうとしていた。



「もう一度頼む」

「ああ」

「行くぞ!」



「第一騎士団、集合!!」

「「「はっ!」」」



 ライオットに頼まれ、剣を構え直してお互い地を蹴ったその時、団長の声が聞こえ反射的に動きを止めた。

 何かあったのかと急ぎ整列すると、団長の隣にツァーリ殿とユーカ殿の姿を認める。

 また魔力付与絡みのことだろうか。

 それにしてもわざわざ訓練を中断させてまで伝達をするのは珍しいな。


 団長の言葉を待ちながらチラリとユーカ殿に視線を向ける。

 彼女が気付くことはなかったが、それで良かったのかもしれない。


 少し前、私が彼女のエスコートを申し出たことで貴族の女性の間では私達が恋仲なのではないかと噂が広まっているらしい。

 きっとそれは彼女の耳にも入っているだろう。

 私の所に直接聞きに来るご令嬢も居たくらいだから、ユーカ殿の所にも何かしらがあってもおかしくない。


 私としては友人としてエスコートをした以外に他意はなかったが、自分の行動が周囲にそんなに気に止められると思っていなかったので彼女にも申し訳なく思う。

 ふと以前「お前はもう少し風評を気にするべきだと思うよ」と言われたことを思い出した。


 ただ、彼女に申し訳ないとは思うが私は噂話について特段気にしていないので、彼女と親しくしたいと思っている以上きっとまた同じことは起こるだろう。

 その時は対策を……いや、面倒だからしないだろうな。

 今度話す機会があった時にでも先に謝罪しておこうか。



「こちらのユーカ殿が魔法の剣を生み出したため、今から私が剣を合わせてその威力を確認する。興味のある者は見学しても良いが、どの程度のものなのか未知数のため不測の事態に備えて見学すること。勿論、訓練に戻るも良し。以上!」

「「「はっ!」」」


 団長の言葉を聞きながらそんなことを考えていたが、………今、何と言った?

 魔法の剣と言わなかったか?

 彼女はいつの間にそんな高度な魔法を……いや、高度どころではないな。

 かつて魔法の剣など聞いたことも無い。

 一体どのような物なのだろうか。

 私もその剣を受けてみたいものだが。


 団長から解散を受けて全員訓練場の真ん中を空けるように周囲に散っていく。

 やはり皆気になるようで、訓練に戻る者は一人もいなかった。



 訓練場の真ん中には団長、ツァーリ殿、ユーカ殿の三人が居て、剣を構えた団長の向かいにユーカ殿、少し離れた場所にツァーリ殿が立っている。

 ツァーリ殿がユーカ殿に集中を促すと、彼女はそれまで見せていた緊張の表情から真剣な表情へと切り替えた。



『アクア』



 彼女が唱えると、手のひらに水の塊が浮かび上がる。


 ユーカ殿は水の属性持ちということか。

 そういえば聖女のステータスは異常だと耳にしたことはあるが、実際に目にしたことはない。

 スキルに魔力付与があるということ以外知らない事に気が付いた。

 


 それから彼女は水の塊を少しずつ形を変え、確かに水の剣がその手に握られていた。

 私はそれを驚きと感心の目で見つめる。

 攻撃魔法は中、遠距離だから後衛と決めつけていたが、魔力を具現化することが出来るのなら確かに剣に変えることも可能なわけか。

 ユーカ殿の発想には本当に驚かされてばかりだな。


 勿論、驚いていたのは私だけではない。

 周囲で見守る他の騎士達も、初めて目にする水の剣にざわめき立っていた。


「あれって、水の剣か…?」

「だろうな」

「魔法ってあんな使い方も出来るんだな…」


 私の両隣りに居たディガーとライオットが私達だけに聞こえるくらいの声量で驚きを口にする。

 そんなに声を顰めなくても、他の皆の声が大きいからわからないんじゃないか?


「攻撃魔法って離れた所から飛ばすものじゃないのか」

「私もそう思っていた」

「そもそも、魔法は具現化も出来るんだな」

「私は魔法の適正はないが、あったとしても考えもしなかっただろうな」

「ああ。…ユーカ殿は本当に面白いな」

「「アルバートが女性に興味を…!?」」

「……何だ二人して」



 両側から突き刺さる好奇の目に目線だけで睨みつける。

 だが、この二人にその程度で効果があるわけもなく「後で詳しく聞かせろよ!」と妙に楽しそうに言われて肩を竦めた。


 …考えてみれば、ユーカ殿に興味があるとも友人だとも言っていなかったな。

 一々言う必要もないと思っていたが、こんな風に詮索されるくらいなら話しておくべきだったかと私はわざとらしく大きく息を吐き出した。

読んで下さってありがとうございます!

ライオットは前のディガー視点の時に一緒に巡回に行っていた彼だったりします。

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