具現
魔法練習の続きです。
うっかり好奇心で水の剣を創り出してしまってから、私はひたすら試し斬りをさせられていた。
「えいっ」
剣なんて持ったことないから振り方はテキトーだけど、斬れればいいんでしょ? って感じで振り回している。
「次はこちらです」
「デカっ!」
ここまで色々な物を試してきた。
板から始まり、丸太、コンクリートの塊、鉄板……
そして今目の前にあるのは重そうな金属の大きなドア。
これ、城門くらい大きいんじゃない?
どうやって……はツァーリ様なのできっと風魔法で運んだんだろうけど、どこから持ってきたの!?
こんなの斬れなくない!? と慌てる私に、刃先に魔力を集中させるようにとツァーリ様は冷静に教えてくれるが、それでもこんな大きな壁のような扉、斬れるの…?
何にしても結果はどうあれやらないといけないようなので刀身から切っ先まで魔力を集中させ、凝縮する。
それを振り下ろすように勢いよく剣を振るうと、スパン! という軽い感触と共にすごい音を立てて崩れ落ちる扉。
え、斬れるもんなの?
自分でも意外すぎて目をパチクリさせてツァーリ様を見たら、同じように目を見開いていた。
あ、ツァーリ様も予想外でしたか。
「もしかしたら、とは思いましたが、まさかこんなに簡単に斬れるとは…」
「はぁ…」
「次は………こちらでも試してみましょうか。『ファイアウォール』」
そう言ってツァーリ様が手をかざした場所には大きな炎の壁が出来ていた。
「これは…壁ですか?」
「ええ、魔法壁ですね。一定のダメージを防いでくれます」
なるほど、本当に壁なのね。
納得していたらこの壁を斬れるか試すよう言われたので、さっきの扉と同じくらい魔力を凝縮させて炎の壁に向かって振り下ろす。
すると、目の前にあった大きな炎の壁は一振りで消え去った。
「ほぅ…では、『ウィンドウォール』」
「えいっ」
「次は先程までとは違いますよ。『ライトウォール』」
「えっ、光の壁!?」
ツァーリ様曰く、この魔法壁はどの属性でも練習次第で出すことが出来るらしい。
これは私も練習しておきたい…!
けど、今はまずこの剣から。
私はさっきよりも少し魔力を足して剣を振り下ろした。
ガキンッ
それまでは軽く斬れていたのに光の壁は段違いに重く、何とか斬れたものの手への振動が酷い。
あんまりビリビリするものだから剣から手を離したら、剣は水の塊となって弾けて消えてしまった。
「痛っ」
「大丈夫ですか?」
ツァーリ様が回復魔法をかけてくれて、痛みとビリビリは消えた。
回復魔法って初めて見たけどすごいんだね。
「それにしてもあの強度を斬られるとは思っていませんでしたね」
「すごい痛かったですけど…」
「そうでしょうね。『ライトウォール』はその前の二つと比べて倍程の強度がありますから」
それは痛いわけだ。
でもよく考えてみたら、光と闇の半分の魔力で水が使えるってことは、逆にすれば水の倍の魔力が込められてるってことだよね?
ってことは、私は魔力を少し足すんじゃなくて倍にしないといけなかったのか……
前にツァーリ様が、光と闇の攻撃魔法は上級魔法からしか使えないけど威力は他属性の上級魔法と比べものにならないと言っていたのを思い出した。
防御魔法であれだけ違うのなら攻撃魔法もそうなんだろうと今になって納得する。
「ユーカ様、MPはまだ大丈夫ですか?」
一人で頷いていると、いつの間にこれまで試し斬りした物の残骸を片付けたのか綺麗になっているスペースに立つツァーリ様がステータスを見るよう促してきた。
そんなに疲れた感じもないから大丈夫だと思うけど、恐らく水の剣による魔力消費も見たいんだろうな。
『ステータス オープン』
ツァーリ様に見えるようオープンにすると、
島崎佑花 Lv 52
属性 : 光 闇 水
HP 2250/2250
MP 8560/9100
スキル : 属性魔法無効化 状態異常無効化 迎撃(中) 魔法付与
状態 : 健康
あれ、またレベル上がってる。
これって上限いくつなのか、ちょっと気になってきたなぁ。
HPはきっとさっき回復魔法かけてもらったから満タンなんだろうけど、思ったよりMPが減ってなくてビックリした。
疲れた感じがない訳だよね。
そして、ステータスを見せる度にツァーリ様に呆れられるのにもそろそろ慣れてきた。
「本当に驚く程おかしなステータスですね」
「えぇと、すみません?」
「謝る必要はありませんが、このレベルの上がり方やMPの最大値は不思議でなりません」
「私も不思議です」
「そうでしょうね」
毎日練習をしてるといっても、そんなに長時間やっている訳でもない。
後は今日ので上がってるかもしれないけど、どのくらい上がったのかもわからないし。
MPに至ってはこの国で初めてステータスを見た時から異常って言われてたからね。
当人もわかっていないのでどうしようもないんです。
「それでは、これから騎士団に参りましょうか」
「え?」
MPを確認されたということはまだ練習を続けるんだろうとは思っていたけれど、まさかの騎士団に移動すると言う。
何のために行くんですかね?
魔法なら魔道士団の方なのでは…?
突然言われて困惑していると、ツァーリ様に問答無用で騎士団まで引っ張って連れていかれてしまった。
騎士団に着くと、もちろん最初に団長さんへご挨拶と用件を話しに行く。
そこでようやくツァーリ様が何をしようとしていたのか知ることになった。
「水の剣だと!?」
「ええ。ですから水の剣で一般的な剣と戦えるのか、威力はどの程度まで上げられるのかをこちらで試させて頂けないかと」
「それは構わんが、その役は私にさせてもらいたいものだな」
「えっ? 団長さんがですか?」
「ああ。今後同じように魔法を巧みに操ってくる奴が出るかもしれん。その時に知っているのと知らぬのとでは雲泥の差があるからな。あと単純に興味がある」
これまた意外なことに、団長さんが相手を引き受けてくれることになりました。
と言っても、私の剣を受けてもらう相手ってだけなんだけど忙しい団長さんを駆り出していいのかな?
「では訓練場に向かうとするか」
とは思うものの、団長さんが誰よりも乗り気だから気にしないことにする。
先陣切って歩き出したから止めようが無いっていうのもあるんだけど。
「ここが訓練場…」
「騎士団の訓練場に来るのは初めてですが、魔道士団のものとは随分違うものですね」
「ここでは巡回や任務のない者が訓練に当たっている。魔道士団は中遠距離攻撃、我ら騎士団は近距離攻撃と基本が違うから訓練場にも差はあるだろうな」
団長さんの説明を聞きながら訓練場に足を踏み入れると、それまで練習をしていた騎士さん達が一斉に動きを止めて団長さんに向き直った。
すごいね!?
訓練場の一角で団長さんが私と魔法の剣の効果を試すこと、興味のある者は見学しても構わないがどの程度の威力があるのかわからないため自分の身は自分で守ることを話してその場を散らす。
が、皆魔法の剣に興味があるようで誰も訓練に戻らず私達に視線を向けている。
「何だ、訓練に戻る奴はおらんのか」
「皆魔法の剣が気になるのでしょう」
「まあ無理もないが」
どうせ誰も使わないなら真ん中で広く使ってやろうということになって、私と団長さん、ツァーリ様の三人は訓練場の中央へと進む。
それを四方八方から騎士さん達が遠巻きに見てるものだから、私としては緊張してそれどころじゃない。
「では始めよう」
団長さんが剣を構える。
私も集中して水の剣を生み出そうとするが、周りが気になって上手くいかない。
「集中は魔法の基本ですよ」
「はい…!」
ツァーリ様に注意されて大きく息を吸う。
そうだ、魔法のコントロールは集中力にかかってる。
それを失敗したら物に、人に被害がいってしまう。
私はまだ攻撃魔法は使えないけどMP量だけで言ったら尋常ではないらしいから、もし暴発なんてしようものならどうなるか。
私の魔力をコントロール出来るのは、私だけ。
『アクア』
まずは手のひらに水の塊を生み出し、そこに魔力を注ぎながらイメージを構築させて刀身を伸ばす。
剣の形を創り上げ、刃先に魔力を凝縮したらギュッと柄を握る。
どう見ても水なのに、まるで本当に剣を持っているかのような感触なんだよね。
目の前の団長さんは「これが水の剣…!」と感心しながらも目線は刃先から離さない。
「いつでもいいぞ」
「はい!」
私はざわめく周囲を遮断するように魔力の流れだけに集中した。
読んで下さってありがとうございます!
しばらく魔法の剣の話になるかと思います。ファンタジーといえばですよね!




