再開
しばらく魔法の話に戻ります。
ツァーリ様と料理の魔法付与の検証を初めて早三日。
そろそろレパートリーも尽きてきた。
製菓は好きだし、基本のレシピを書いてあるノートが手元にあるからアレンジで種類は増やせるけど、調理はそれほど得意じゃないから作れる物が限られるんだよね。
あ、ツァーリ様にも唐揚げやシチューは好評でした。
思いつかないから結局また作っちゃった。
「検証もかなり進みましたし、一度これまでの情報を整理しておきましょうか」
「はい」
これまでお菓子、無機物、魔力を動源として動くもの、食材、人、調理で魔法付与を試してみた。
その結果、意図的に付与しようとしても出来ず、製菓以外に魔法付与は確認できなかった。
そう、調理も。
「ユーカ様の手で何かを作ることに付与が発動するきっかけがあるかと思ったのですが、そうでもないようですね」
普通に調理してても魔法付与は出来ていなくて、出来上がったものに魔力を流しても効果なし。
なのに、その合間に作ったお菓子にはきっちり付与されているという不思議な状態。
「私の魔法付与の対象はお菓子ってことなんですかね?」
「恐らくは」
「それじゃあ、やっぱり作った物を配るのはやめた方がいいですよね…」
「その辺りは宰相閣下に御相談しましょうか」
私にはこの国にお菓子を広めたいっていう野望があるので、どうにか妥協案が見つかってほしいところ。
一先ず、自分が作るのは魔法付与されてしまうためこれまで通り騎士団と魔道士団に配るのは承諾してもらえたので、そこからお菓子文化を浸透させていくことにします。
せめてサライズ様とか料理人さん達にレシピを教えて作ってもらえればなぁ……
それも宰相様に聞いてみよう。
「魔法付与の対象はユーカ様の作る甘味のみ。効果は種類によって異なる。効果が発動するまでの時間は個人差があるが、三十分~半日程度。効果の持続時間は三時間程。複数食した場合は最後に食べた物の効果が発動する。と、わかっているのはこんな所でしょうか」
「そうですね」
「では、今後しばらくは魔法の練習を致しましょう」
「え? 付与の方はもういいんですか?」
てっきり今度はお菓子に絞ってまた細かく検証をしていくと思っていたのだけれど。
ツァーリ様は検証は一旦ストップして魔法の練習に戻ると言う。
魔法の練習は、初めてお菓子を作った時に魔法付与が発動してた騒ぎで、あれ以来ツァーリ様の講義は行われていない。
一人では毎日練習しているけど、新しいことを教えてもらってないのでひたすら反復練習。
その甲斐あって、『ライト』と『ダーク』は安定して扱えるようになってきた。
水魔法も属性が追加されていたから練習したかったけど、光や闇属性とは扱い方が違うかもしれないから下手に練習も出来ずにいたので、魔法の練習に戻るのは個人的には問題ない。
マイキッチンがあるから、お菓子は作りたくなったら作れるしね。
ただ、どうして今の段階で検証を中止して魔法の練習に戻るのかが気になる。
何か理由があるんだろうけど…
「付与についてもまた検証は行いますよ」
私が知りたそうにしていたのがわかったのか、ツァーリ様はクスリと小さく笑うと理由を教えてくれた。
「今の段階ではどれだけ確認してもどのタイミングで付与が行われているのかハッキリしません。もしかしたらそれは貴女の魔力が安定していないからかもしれないという可能性が出てきたのです」
「私の魔力が安定していないから?」
「ええ。魔法を使い始めてまだひと月も経っておりませんから当たり前のことではあるのですが、先日属性が追加されていたことを覚えていらっしゃいますか?」
「はい。水魔法ですよね」
「そうです。しかしそれは極めて珍しいこと。むしろ前例はありません。ですが起こった。つまり、ユーカ様の魔力がまだ安定していないために扱える属性が限られたことから、本能的に本来使える属性やスキルを抑え込んでいるのかもしれません」
「……???」
どういうことなのか上手く理解できない。
疑問符だらけの頭に聞いたことを繰り返してみるけれど、私の魔力がまだ安定していないから実は他に使える属性があったけど使えないことにしてたってことなのかな、くらいにしか纏まらない。
ということは、私は元々水の属性を持っていたけど、まだ扱うには早いから使えないものにしていたためにステータスには反映されなかった、と?
じゃあ何で急に使えるようになったのかも謎なんだけど。
「勿論、そうである確証はありません。ですが、属性が追加されているのでそちらの練習も始めなければなりませんし、魔力が安定した時に付与にも何か変化があるかもしれません。ですので、今は魔法の練習をするのが宜しいかと」
「なるほど…わかりました」
「それでは、早速水魔法の扱い方からご説明致しますね」
「よろしくお願いします」
何となく言いたいことはわかった気がする。
確かに魔力が安定して悪いことはないし、ツァーリ様の言う通り付与だってわかりやすくなるかもしれない。
そうなれば検証も進むし、今無理に魔法付与に固執する必要もない。
私は出来ることからやるしかないんだから。
「扱い方と言っても、光と闇の方が繊細な調整が要りますのでそう難しいことではありません」
あの後すぐに外に出て練習を開始することになった。
久しぶりなのにいきなり実技でいいのかと思ったが、ツァーリ様によると基本については終えているし、この先は専門的な理論になってくるので今は必要ないそうだ。
『ファイア』
ツァーリ様が唱えると、その手の中に火の玉が生まれる。
「私は水の属性がありませんので火属性での代用となりますが、水も扱い方に違いはありません。『ライト』と同じように手のひらに魔力を集めて『アクア』と唱えてみて下さい」
「はい」
大丈夫、コントロールの練習はしてきた。
あとは集中するだけ。
身体中を巡る魔力の流れを手のひらに集め、唱えるのと同時にシャボン玉のようにふわりと浮かせるイメージで…
『アクア』
体感的には成功しているの思うんだけど、自分の目で確認するため閉じていた目を開けて手元を見る。
…あれ?
それからツァーリ様を見ると、呆れたように水の塊を見て眉を顰めていた。
「貴女は本当におかしな方ですねぇ…」
「え、えーっと…」
「ですが、コントロールは素晴らしいです。しっかり練習されていたのですね」
「ありがとうございます!」
『アクア』は成功していた。
手のひらから浮かせるのも出来ていた。
が、私の手のひらには自分で思っていたよりも随分と大きな塊が浮いていた。
「『ライト』の方が魔力を凝縮させますので、同じ感覚で『アクア』を出せば多少大きくなるだろうとは思っていましたがまさかここまでとは…」
「あ、そうなんですね」
「ええ。ですから光や闇は扱いが難しいと言われているんですよ」
手のひらサイズの水を出そうと思ってたにしては確かに大きすぎる。
だってこれ、ビーチボールくらいの大きさだよね?
でもこれでちょっとわかった。
私は『ライト』や『ダーク』の練習ばかりしてきたけど、それと同じ加減で『アクア』を発動してしまうと集める魔力量が多すぎるらしい。
少し加減してやらないと、その辺水溜まりだらけになっちゃうってことね。
加減の問題だけだとツァーリ様も言ってくれたので、とにかく何度も『アクア』を発動して適切な魔力量を探っていく。
繰り返している内にようやく手のひらサイズの『アクア』を出すことが出来たんだけど、水魔法は思っていたよりも全然魔力を必要としないようで光魔法の半分程度しか使わなかった。
属性でこんなに違うものなんだ。
「では次は水の形を変えてみましょう」
「形ですか?」
「ええ。何でも良いのでイメージして下さい」
形………楕円とかでもいいのかな?
手のひらの水の球体をゆっくり押し広げていくイメージで集中する。
あ、せっかく形変えるならよくゲームで見た水の剣とかカッコよくない?
これって途中からイメージ変えれるのかな?
思いつきで楕円からそのまま長さを伸ばして少し薄くし、柄の部分がイメージ出来たら刃先が鋭くなるよう形を調整して。
これで脳内のイメージは出来上がった。
そこに魔力を凝縮させて、あとは形になっているかどうか。
「できた!」
「これは…水の剣…!?」
私の手にはしっかり水の剣が握られていて、出来るもんだな~ってガッツポーズをしていたらツァーリ様に真顔で詰め寄られました。
あ、これ長いやつだ。
蛍現象の件で悟った私は、またかと遠い目をする他なくなってしまった。
読んで下さってありがとうございます!
佑花はお菓子作りが趣味ですが、人並みにゲームしたりアニメ見たりしてるので多少の知識はあるのです。




