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噂話

久しぶりの侍女さん達です。

 私に興味があると言われても、少し考えれば当然のことかもしれない。


 今のは急すぎて動揺してしまったけれど、実際私は聖女なんて呼ばれていて、ステータスもツァーリ様曰くおかしくて、作ったお菓子に勝手に魔法付与されてて、異国から来てるから髪や目の色も服も食べる物も違うんだから気にならない方が難しいだろう。


 そりゃ興味持っても不思議はないよね。




 気を取り直した私は、出来上がったシチューとガーリックトーストをお皿に取り分けながら少し冷静になった頭で考える。


 途中で味見したシチューは普段ルゥで作ることが多いからか少し薄かったので、チーズを入れて塩味を出すことにした。

 それはちゃんと成功している。



「それは私が異国から来たから?」



 テーブルにお皿を並べ、まずはいただきますをしてからさっきの話に触れてみることに。


 アルバート様は初めて食べる料理に美味しいと口にしてから私の質問に答えてくれた。


「それもあるね」

「私が聖女だと言われているからとかは?」

「それは関係ないかな。私が貴女に興味を持ったのは貴女が聖女だと言われてしばらく経ってからだよ」

「魔法付与とか?」

「それはどうだろう…? 興味がないわけではないが、どちらかというと付与を行っているつもりがないのに付与されていて慌てているユーカ殿の方が見ていて楽しい」

「た、楽しいって……本当にわかんなくて悩んでるのに……じゃあ髪とか目の色とか?」

「それなら初対面で興味を持っていたはずだね」

「それもそっか」

「あとは…料理とかお菓子?」

「貴女が作る物はこちらでは見た事がないし、とても美味しいからまた食べたいとは思うが…」

「うーん…? じゃあ何が興味を引いたの?」

「私もよくわからないんだが…反応は可愛らしいと思う」

「か、かわ…っ!?」

「そう。そういう反応がね」


 …それって、エスコートとか女の子扱いとかに慣れてない私の反応を見て遊んでるだけじゃないの?

 すみませんね、男慣れしてなくて。

 これでも男友達は多い方だったんだよ!

 ただ、恋愛に発展することはなかったけど。


 だから、そんな私にとってこの国の人の距離感は近すぎて、スキンシップが多すぎて慣れないの!



 不服を顔で表現するが、それすらも楽しそうに見られて余計に恨めしい視線を送ってしまう。


 話を聞く限り、アルバート様の周りにはバリバリ肉食系女子のご令嬢の皆さんばかりだったから私みたいなのが新鮮なだけだと思うけどね。


「この国の女性はそうやって顔に出さないからね」

「…そんな高度な教育受けてきてないので無理ですー」

「ユーカ殿にそうしろと言っている訳じゃないよ」


 …何だかアルバート様から微笑ましいような生暖かいような視線を感じる。


 これ、もしかして珍獣扱いされてるのでは…?





 結局の所、興味があるから友人として近くで見てみたいと思ったのだと言われれば、まぁ友達なんて始まりはそんなものかと思ってしまうので何も言えなくなった。

 実際友人ができたことはとても嬉しいし、頼れる人がいるというのは安心できる。


 色々と納得いかない部分はあるものの、良くしてもらっているのは確かなので飲み込むことにした。




 そしてその日は片付けをして部屋に送ってもらって別れたのだけれど、私は自分達が「友人」と言っていても傍から見たらそうは見えないということを忘れ去っていたのだった。


 ついでに、その相手が大変おモテになる騎士様だったということも。














 翌朝。

 支度をして続きの間から出るとラミィとファーラがいつも通りお茶の準備をしてくれていた。


「おはよー」

「「おはようございます、ユーカ様」」


 綺麗なカーテシーで挨拶をしてくれる二人。

 ソファに座って淹れてくれたお茶を啜っていると、ラミィが今日の予定を教えてくれた。


「本日はツァーリ副団長様より、調理場にて料理の検証をさせていただきたいとのことです」

「あぁ、そうだったね」


 昨日料理したから勝手に満足しちゃってたけど、元はと言えばそのために市井を見に行ったんだった。


 朝食が済んだら行こうかな。

 昨日シチュー作っちゃったけど、今日は何を作ろうか…

 そろそろお菓子も作りたいんだけど、合間に作っちゃダメかなぁ?



「ところでユーカ様、昨日はクライス様との逢瀬だったようで」

「んぐっ!?」

「如何でしたか?」


 そんなことを考えていたら、急にラミィに逢瀬とか言われて危うく噎せるところだった。


 逢瀬って何!?

 逢引みたいなこと!?

 それは恋人同士でやるものでしょ!?

 恋愛経験皆無な私に当てはまる熟語じゃないんですけど!?


 口に含んだ紅茶を何とか飲み込むことに成功し、落ち着かせるために大きく深呼吸をしてから話を聞くことにした。


「何でそんな話になってるの?」

「すでにご令嬢の間では噂になっておりますよ」

「は!?」

「そうですね、あのクライス様が女性をエスコートしてたなんて、噂にならない訳がないですよ!」

「え!?」


 何が何だかわからないまま、ファーラにまで畳み掛けられて私は混乱するしかない。



 ちょ、ちょっと待って。

 昨日のことがご令嬢の間で噂になっている、と…?


 昨日……何した…?

 まず、アルバート様にエスコートしてもらって市街と市井を散策しました。

 ベンチで頭撫でられたりしました。

 荷物もアルバート様が持ってくれました。

 王宮まで送ってもらいました。

 料理をご馳走様して二人で食べました。



 …あ、これダメなやつ?


 最後のは人に見られてないから知られてないとしても、普通に見たらデートってことになっちゃう…の?

 デートとかしたことない…というか、そもそも相手がいないからそんな思考にすら至らなかった。


 そうだよ、ファーラの言う通り、相手があの女性に大人気だけどやんわりあしらってるアルバート様だってことを忘れてたよ!

 エスコートらしいエスコートは初めてだって本人も言ってたね!?


 今更色々思い当たる所が出てきて頭を抱える。


 うわぁ、マジかぁ……

 これ、アルバート様に迷惑がかかるんじゃないかな…

 出来れば耳に入らないでほしいけど、騎士さんだからきっと色んな所から情報は回ってくるよね。


 後悔しても遅いけど、もう少し考えて動くべきだったかもしれないとは思う。

 次からは気をつけよう…



「因みにどんな噂が流れてるの?」

「私が聞いたものですと、クライス様が女性をエスコートされていたというものと、とても楽しそうにされていたと」

「私も同じです。広場で仲睦まじく座ってお話されていたとお聞きしました」

「あー………」


 噂には尾鰭が付くのが常套だと思って一応二人に確認してみたが、噂は何も間違ってなくて否定のしようもなかった。

 確かにエスコートしてもらったし、アルバート様も楽しそうにされていた。

 何でか驚かれることも多かったけど。

 広場のベンチで話してたのも本当のことだし。


「実際は如何だったのですか?」


 ファーラはもしかしたら噂と実際は違うのかもしれないと思ったようだけど、残念ながら否定する所がありません。


「そのままです…」

「ではクライス様がエスコートしていたのは間違いないのですね!」

「うん」

「エスコートはユーカ様がお願いされたのですか?」

「ううん。むしろエスコートは要らないって断ったんだけど」

「わぁあ!」

「ファーラ、落ち着きなさい」


 ファーラさん、何故そんなに嬉しそうなんですかね?

 何にテンション上がったのか知らないけど、ラミィに窘められちゃってるじゃない。


 ラミィもまだ若いけど侍女長だけあって落ち着いていて、ファーラはもっと若くて多分私よりも下だと思う。

 普段はそれでも落ち着いてるんだけど、どうやら年相応に噂話とかは好きみたいだね。


 でも、前にラミィもアルバート様と仲良いって言ってきたくらいだから、ラミィもそういう話好きなのかな?


 人の恋バナとかなら私も聞くの好きなんだけど、いざ自分が関与しているとなると居た堪れないから勘弁してほしい。

 しかも噂話だけ聞くと恋バナっぽく聞こえるけど、実際は珍獣観察的な感じなのが更に居た堪れない。


「ユーカ様、私は応援しておりますからね!」

「何を…?」


 ファーラの謎の応援を受けつつ、私は再び紅茶に口をつける。

 とっくに冷めてしまったけど、それが逆に私の心を落ち着かせてくれるようだった。



 人の噂も七十五日って言うけど、早く落ち着くといいなぁ…


 切に願いながら、私は大きくため息をついた。

読んで下さってありがとうございます!

そりゃ噂にもなりますよね(笑)

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