回顧
七夕ですね!内容は全く関係ありません!
間抜けな声が出た自覚はある。
でも「私の用事は貴女です」なんて突然言われたら挙動不審になるのも無理ないよね?
楽しそうにニコニコしているアルバート様は私の反応を眺めている。
この人、絶対わざとだ。
「ど、どういうことですか?」
「街を散策したい友人を案内するという用事、ということですよ」
えーと、つまり、ご友人を案内する用事があるってことだよね。
あれ、そのご友人は?
っていうか私関係ないのでは?
「じゃあご友人をお迎えにいかないといけませんね!」
「え?」
「私はこの付近でお待ちしてますから…」
「ユーカ殿」
「はい?」
私が居たらご友人を案内するのに邪魔かなと思って言ったのに、何故かアルバート様に盛大に呆れられてしまった。
え、何で?
一緒に行った方が良かった?
「だから、用事は貴女と言ったでしょう」
「あ、はい。でもご友人が…」
「はぁ…貴女と私の関係は?」
「え、っと、友人、です…?」
「最後の?は要りませんよ。それで、貴女の御用事は?」
「街を散策しようと…………あっ!」
「やっと気づきましたか…」
「す、すみません…」
そ、そういう事か…!
街を散策したい友人=私。
私を案内する事が用事、と。
だからアルバート様は用事が私で、すでに優先されてるって言ってたのか…
ここまで言われてようやく気づく自分の鈍さに頭を抱える。
そりゃ呆れられるわ。
「ということで、貴女が見たい物があればご案内しますよ」
「うぅ……はい……」
「ドレスやアクセサリーには興味がありますか?」
「見るのは好きですけど…」
「身につけるのは?」
「あまり…似合う気がしないので」
小さい頃はヒラヒラフリフリのお姫様みたいなドレスが好きだったけど、日本では普段からドレスを着る風習なんてないし、私の歳では結婚する人も周りにいなかったから結婚式に出たこともない。
それ以外にドレスを着ていくようなパーティーなんてものもないから、こっちに来て初めて着たんじゃないかなってくらい縁がない。
それでも普段からドレスで出歩くのはハードルが高すぎるし、お菓子を作るにも邪魔だからなるべく楽そうなものを選ばせてもらっているけれど。
今着ているのだって、淡いピンクに白と黒のラインと裾のレースがアクセントの、ドレスと言うよりワンピースっぽいものだ。
めちゃくちゃお姫様なドレスとか、ゴージャスなドレスとかも用意してくれてたけど未だに着る勇気がないのでそっとしまわれている。
日本にいた時はそれなりにオシャレにも興味はあったけどいつも面倒がってパーカーとか着てたから、こんなきっちりしたドレスを毎日着るなんて貴族って大変なんだって心から思ったよね。
「そんな事もないと思いますが…今日の装いもお似合いですよ」
「あ、ありがとうございます」
「ユーカ殿は華美なものは好まないのですね」
「華美……そうですね、あまり派手なものは苦手です」
アルバート様に連れられて通りを歩いてみるけれど、ウィンドウショッピングをしようにもどのお店もガラス張りではないから入らないと見ることもできない。
かと言って買うつもりもないのに入るのも気が引けるんだよね…
そうやって実際回ってみると、市街はドレスの仕立て屋さん、アクセサリー屋さん、武具屋さんがほとんどで、あとはちらほらとカフェテラスがあるくらいだった。
特に寄る所もなかったのでテラスで休憩しようかとアルバート様は言ってくれたけど、マナーにまだ自信のない私は外での飲食を極力避けたい。
なのでやんわりお断りすると、それならとアルバート様は私をエスコートして再び歩き出した。
「ここは……」
「ウェルシティ広場ですよ」
歩くこと五分余り。
通りを抜けて違う通りに入り、突き当たりまで行くと開けた場所に出た。
ここは、私が初めて飛ばされてきた場所。
そして、アルバート様に初めて出会った場所。
「何だかすでに懐かしいです」
あの時は夜遅くて辺りもあまり見えなかったけどこんな場所だったんだね。
「あの時は驚きましたね。すでに巡回を終えた場所から急に人の気配がするので何が起きたのかと」
「私もビックリしました。帰り道で足が縺れて、転ぶ! って思ったらここに立ってたので…」
「あの時は俄に信じられませんでしたが、今思えばそれは混乱しても無理ないですね」
「そうですね、盛大にパニック起こしてました」
備え付けのベンチに腰を下ろし、つい半月程前の事を思い出して二人で笑う。
あれからもう二週間以上経ってるのか。
もう二週間なのか、まだ二週間なのか。
幸い、こっちの人達は本当に優しくて皆助けてくれるから何とか暮らせているけど、これがもし召喚されたのがこの広場じゃなくて外の森とか、見知らぬ国だったらどうなっていたのかと考えるだけで怖い。
この国で、この場所でアルバート様に見つけてもらえて良かったと今だからこそ心から思える。
「貴女の装いも変わったものでしたね」
「日本ではどこでも売っているようなものなんですよ」
「その服はどちらに?」
「え? お部屋にありますよ?」
「では今度それを着て出掛けましょう」
「えぇ!?」
確かあの時着てたのは薄手のパーカーにインナー、ショートパンツというラフな服装だったはず。
向こうでは当たり前に着てたけど、こっちで着たら変な目で見られるよね!?
ドレスの人達の中にそんな格好で出ろと!?
「それで市井に行って気に入った服を買いましょう」
「え?」
「市街よりは市井の方が貴女に馴染む物があると思います。ニホンみたいにはいかないでしょうが、周りの目は気にせず自分らしい姿で楽しむ時間があっても良いのではありませんか?」
「アルバート様…」
「ご教授いただければ私も可能な限りニホンの男性の装いに致しますよ」
「え!? アルバート様も合わせて下さるですか!?」
「勿論です」
うわぁ! うわぁ!
それは気になる!
着崩したアルバート様とか絶対カッコイイ!
途端にテンションが上がった私は、日本にいた時周りにいた男性がどんな服を着ていたか一生懸命思い出していた。
今の服装も遠くはないんだよね。
ただ、私の服装がかなりラフだからアルバート様にももう少し崩してもらいたいところ。
そんなことを思いながらマジマジとアルバート様を見つめてしまったものだから、ふと顔を上げたらものすごく微笑ましい目で見られていたことに気づいて私は秒で固まった。
ジロジロ見るなんて失礼なことをした上に、アルバート様をガン見してた事実が恥ずかしくて顔が見れない。
テンション上がると周り見えなくなるのどうにかならないかな、私!!
「やっと肩の力が抜けましたね」
赤くなっているであろう顔を両手で覆って俯いていると、隣からクスクスと笑う声が聞こえてきた。
肩の力?
「私の前では気を楽にしていいと言っているのに、貴女はなかなか素顔を見せて下さらない」
「わっ…!?」
「もっと自然体でいいのですよ」
「ああああアルバート様!?」
またしても優しく髪を梳くように撫でられ、優しい瞳で覗き込まれる。
色素の薄い青の瞳に吸い込まれてしまいそうになるけど、それよりも恥ずかしくて爆発しそう。
というか、何で急にこんなことに!?
「友人だと言ったはずですが、ユーカ殿は全然私を頼ってくれませんね?」
「そ、そんなことはないです!」
「では何故何も仰って下さらないのです?」
どこか拗ねた口調でいうアルバート様。
そんなつもりはなかったけど、確かに自分からアルバート様に何かを頼むことはしてこなかった。
お忙しい人だとわかってるし、大したことじゃないのに時間を取ってもらうのも悪くて。
でもお話できるのは嬉しいから、たまたまお会い出来た時には色々お話させてもらってた。
それで十分だったし。
けど、十分なのは私だけであってアルバート様は不満だったらしい。
もっと頼って、もっと要望をぶつけてほしいと言われてしまった。
要望、か……
無いわけじゃないけど、言っていいのかわからなくて言えなかったんだよなぁ…
でもそれをアルバート様が望んでくれるなら言うだけ言ってみてもいいのかもしれないと、頭に優しいぬくもりを感じながら小さく息を吐いた。
読んで下さってありがとうございます!
アルバートが思ったよりもグイグイ来るのでどうした!?って感じですが、彼は佑花に対しては本当に興味だけで動いています。好意的ではありますけどね。




