同期
そろそろ2文字タイトルが思いつかなくなってきました…
声の主はアルバート様だった。
「でしたら、私が共に参りましょう」
そう言ってツァーリ様に騎士の礼をとるアルバート様。
ツァーリ様も少し驚いたように見ていたけれど、騎士が付くなら安全ですねとあっさり承諾してしまった。
アルバート様、休憩中なのでは?
仕事をサボるような人とは思っていないけど、前にも訓練の時間に送ってもらったことがあるから少し気が引ける。
前みたいに王宮に送ってもらうだけならともかく、今日私は市街やら市井やら回るつもりなので時間もかかるだろうし、そのために巡回や訓練を抜けないといけなくなってしまうのは申し訳ない。
どうしたものかとアルバート様を見上げると、視線に気づいたようでこちらを見て小さく笑った。
因みにツァーリ様は任せたと言わんばかりにすでにこの場を去っている。
「どうしました? 私ではご不満ですか?」
「いえ、あの、そうじゃなくて…」
「聖女様、コイツは今日非番なので気にしなくて良いですよ」
「え?」
お仕事は大丈夫なんですかと聞こうとしたら、アルバート様の後ろからアルター様がおどけたように笑っていた。
非番?
なら何で詰所にいたんだろう。
って、非番なら余計付き合わせるの悪いよね!?
お休みなのに仕事させちゃうようなものじゃない!
やっぱり断って王宮まで送ってもらうだけにしようと口を開いたが、アルバート様も市街に用があるからと言われて押し切られてしまった。
因みに、アルバート様は非番だけど用事があって詰所に来たら、ちょうどアルター様が休憩中で捕まっていただけらしい。
よく見れば隊服ではなくシンプルな濃紺のシャツにダークグレーのベスト、黒のスラックスという格好で、剣は下げているもののそれ以外余分な物は身につけていなかった。
うわぁ、改めて見ても私服もカッコイイ…
「アルバート様、青も似合いますね」
「そうですか? ありがとうございます」
普段の隊服の赤もいいけど、青も似合う。
イケメンは何着ても似合うんだろうけど、寒色系でまとめられていて大人の男って感じがすごい。
…もしかして私、この隣を歩くの?
不釣り合い感半端なくない?
「では、行きましょうか」
アルバート様は私の手を取り優雅にエスコートしてくれるけど、恥ずかしいので普通にして下さいと頼むと笑って腕を出してきた。
「え、っと…?」
「往来のエスコートが苦手なら、こちらはどうですか?」
差し出していない方の手でそっと私の手を取り、自分の腕に添えさせてくれる。
エスコート無しって訳にはいかないのかな?
それならこっちの方がさっきより全然いいんだけど…
ちょっと訴えてみたけどアルバート様が聞き入れてくれる気がないようだったので諦めることにした。
「どこか行きたい所はありますか?」
「あまり行ったことがないのでどこがいいとかわからないんです」
「そうでしたか」
騎士さん達にお邪魔しましたと声を掛けて大広間を出ると、アルター様が入口まで見送りに来てくれた。
他の騎士さんは相変わらずの大きな声で「またいつでも来てくださいねー!」「アルバート、羨ましいぞー!」「私も非番だったらなー!」と口々に笑っている。
「ちゃんと案内してやれよ」
「わかってるよ」
「聖女様、思う存分連れ回していいですからね。コイツ休みでもやることないからっていつも詰所にいるんですよ」
アルター様がからかうようにアルバート様を見て言うと、アルバート様はうるさいな、と顔を顰めて小さく睨む。
こんなアルバート様を見るのは初めてなので少し意外。
本当に仲良いんだなぁ。
いつも紳士なアルバート様が悪態をつく様子を見ていたら微笑ましくてつい笑ってしまった。
「ユーカ殿?」
「あ、すみません。お二人は仲が良いんだなって思って」
「ああ……まぁ、ディガーとは同期ですからね」
「アルバートの方がどんどん先を行っていたけどな」
「すぐに追いついてきたじゃないか」
「そりゃ同い年で同期の奴に負けてられないだろう」
なるほど、お二人は同期だったのね。
しかも同い年。
あ、今度お会いしたら年齢を聞いてみようと思って忘れてた。
今聞いてみても大丈夫かな?
「そういえばお二人っておいくつなんですか?」
「歳、ですか?」
「はい。あ、失礼だったらすみません!」
「そんなことはありませんよ。私とアルバートは次で二十四になりますね」
「お前はもうすぐだったな」
「ああ、そうだね」
今年で二十四歳、ってことは私より四つ上ってことだよね。
四歳違うだけでこんなに大人っぽいものなのか、それとも私が年相応でないのか。
「女性に御歳を伺うのは失礼ですが、ユーカ殿はおいくつなのですか?」
「私は今年で二十歳になります」
日本では成人の歳だけどこっちでは十六で成人で、それと同時に結婚するというのが主流なのだそうだ。
貴族は幼い内から婚約しているのが当たり前で、中でも家督を継ぐ長男は絶対だという。
ただ、次男以降の跡継ぎ問題に関わらない人はそれに限ったことではないため、婚約はしていても結婚していない人もそれなりにいるとか。
「私も幼少より婚約者はおりますが、まだ婚姻は結んでおりませんし」
「そうなんですね」
「アルバートに至っては婚約すらしていませんからね」
「放っておいてくれ」
疲れたようにアルバート様が溜め息を落とす。
「縁談はたくさん来るのですけどね」とアルター様が笑っている所を見ると、アルバート様自身が望んでいないようだ。
「大体、お前が女性をエスコートするなんていつ以来だ? 少なくとも私は見たことがないぞ」
「する機会がないのだから当然だろう」
「機会を無くしているだけだろうが」
「煩いぞ」
軽口を言い合うお二人を笑いながら眺めていたら、いつの間にか入口に到着していた。
結構距離があったはずなんだけどあっという間だったなぁ。
お二人のやり取りは見ているだけで楽しかったから少し残念。
楽しんできてと送り出してくれたアルター様に御礼を言い、私達は市街に向かって歩き出した。
「まったく、ディガーの奴…」
「いい人ですね、アルター様」
「そうなんですけどね…」
市街までの通りを歩きながらアルバート様は苦い顔をしていたけど、私が笑っているのを見てわざとらしく肩を竦める。
お二人はいつもこんな感じなんだって。
またお二人の話を聞かせて下さいねと言うと、アルバート様は苦笑しながらも頷いてくれた。
「ところで、せっかくのお休みだったのに良かったんですか?」
騎士さんのお休みがどれくらいあるのかわからないけど、行く度に詰所で顔を見たりマイキッチンにお手伝いに来てくれてたことを考えるとあまりないのではないかと思う。
その時は隊服や甲冑をつけていたからお仕事だったはずだし。
アルター様はアルバート様がお休みの日もいつも詰所にいるって言ってたけど、本当に良かったのかな?
「構いませんよ。先程も言ったでしょう? 市街に用があると」
「そうですが……そのご用事は? 優先して下さって大丈夫ですよ?」
「ありがとうございます。今優先されているので問題ないんですよ」
「え?」
それはつまり、今すでにアルバート様の用事の所に向かってるってこと?
いや、全然いいんですけどね!
その用事の間、私はどうしてたら良いのかしら…?
悩んでる内に気付けば市街……つまり、貴族街に入っていて、この時点でもう道があやふやな私はアルバート様のエスコートに着いていくだけ。
騎士団から市街へは少しだけ距離があるけど大した距離でもないし、曲がり角も多くない。
なのに覚えられないんだよね…何でなんだろう。
市街でもメインの大通りに入ると、途端に辺りが賑やかになる。
人通りも一気に増え、ドレスやアクセサリーのお店が建ち並んでいて何処も接待で忙しそうだ。
一角に見えるテラスではご令嬢達が楽しそうにお茶をしていた。
「さて、何か見たい物はありますか?」
「あれ? アルバート様のご用事ってまだですよね?」
振り返って聞いてくるアルバート様に、私は疑問符を飛ばすしかない。
さっき優先してるって言ったのに、まだ何処にも寄ってないですよね?
付き合ってもらってるのは私の方なのにもし気を遣わせてたら申し訳ないと慌てるが、そんな私を見てアルバート様は悪戯っぽく口角を上げて微笑んでいた。
「私の用事は貴女ですから」
「…………は?」
どういうことですか?
読んで下さってありがとうございます!
アルバートを弄るディガーを書くのが好きです。楽しい。
 




